アニメ業界ウォッチング第31回：アニメの原画に触れられる“ササユリカフェ”オーナー、舘野仁美さんの語る動画人生

2017年03月25日 12:000

インタビュー

アニメ業界ウォッチング

企画記事

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アニメーターの現場と、アニメーター志望者の現在

── 展示方法を決めるとき、動画チェックを担当していた舘野さんなりの視点は入っていますか？

舘野　普通のギャラリーの場合、カラーになったセル画の1枚絵だとか、連続した原画でも、手元でパラパラめくれるような展示にはなっていませんよね。やっぱり原画は、自分の手でパラパラして見られて、なんぼだと思っています。また、タイムシートとレイアウトは、そのカットの設計図なので、なるべく原画とセットで展示したい。アニメがどう作られているのか、完成した映像ではなく、プロと同じ視点から手元で見てほしい。そこが、私なりのこだわりです。

── 原画だけでなく、動画の重要度を舘野さんなら熟知してらっしゃるでしょうね。

舘野　動画は原画と原画の間をつなぐ絵なのですが、あとから原画に修正が入った場合、「動画にだけ存在する動き」が生じます。そういう貴重な動画を残しておくと文化遺産になると思うんですが、なかなか会社でも個人でも収蔵は難しいです。

── 最終的に映像としてお客さんが見ているのは、すべてが動画であって、原画ではないわけですね。

舘野　そうなんです。動画マンが原画をクリンナップして、すべての線をきれいにそろえますから。だけど、「かぐや姫の物語」（2013年）だけは特殊で、原画もスキャンして使っています。原画も動画も、ぜんぶ使って動かした、珍しいパターンでした。普通のアニメの何倍もの枚数を使いましたね。
スタジオジブリに在籍していたころ、他社の動画を外注で請けていたんですけど、動画チェックの人がデジタル上で修正しているんです。最近は紙ではなく、モニターの中で最終的に動画を合わせることが増えているようです。

── 先ほど、スタジオジブリの中はガラパゴス的だとおっしゃっていましたが、動画に関してもそうなんですか？

舘野　そうです。ジブリでは細くてキリキリした線よりは、ゆったりした線で動画を描くようにしていました。そのほうが、原画の線に合わせられるからです。“Toonz”というソフトを使いつづけたのも、エンピツの線の勢いが出やすかったからです。ジブリでは、シャープペンシルは使用禁止でしたので。

── ベテランのアニメーターの方は、高齢になっても原画を描いたりしますよね。

舘野　そういう方は、ごく一部のトップクラスの方たちだけだろうと思います。私の知るかぎりでは、60代で原画を回してもらえなくなり、「動画だけでも描きたい」という方がいらっしゃいました。その年代になると、視力も落ちてきているし、なかなか現場で描き続けるのは難しい。そういう例も見てきましたので、いずれ自分も現場で使ってもらえなくなるんじゃないか……そういう危惧も、お店を開く動機になっていると思います。
ごくたまに、専門学校などで、若い人たちに動画を教えることもあります。教材として、許可を得たうえでジブリ作品を上映すると、「今日、初めてジブリ作品を見ました」という学生さんがいます。ジブリ作品をスルーして、プロのアニメーターを志す人がいるのだから、やはり時代が変わったんでしょうね。

── そういう若い人たちは、最近の深夜アニメなどを見て、アニメーターを志しているんでしょうね。

舘野　多分、そうだと思います。「君の名は。」を支えたのは、そういう世代かも知れません。

── だけど、「君の名は。」の作画監督は、ジブリ出身の安藤雅司さんじゃないですか。ジブリを見てないぐらいなら、それ以前の東映動画も……。

舘野　おそらく、見ていないんじゃないでしょうか。さかのぼって、過去の作品も見てほしいんですけどね。ジブリに新入社員として入ってくる中にも「カルピス劇場のアニメを見たことがない」という人がいたので、社内で先輩たちが上映会を開いたりもしました。ジブリに入ってくる人でさえ、何でも見ているわけではない。そういう時代に入っているんです。
過去の作品を見てないと、同じフォーマットで話せないので、「いい／悪い」の価値観が違ってきてしまいますね。今は絵が崩れると“作画崩壊”と言われてしまいますけど、アニメーションはぎりぎりの部分で絵を崩して、躍動感を表現したりもします。金田伊功さんの原画なんて、とてもカタルシスがありましたよね。今のアニメが“動く紙芝居”になっているとしたら、ちょっと寂しいですね。