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監督は作品をつくり、プロデューサーは納期を守る
──平尾隆之さんというと、「魔女っこ姉妹のヨヨとネネ」(2013年)の監督ですね。 松尾 平尾くんから、「ヨヨとネネ」を手伝ってほしいという話をされて、事情を聞くと「なるほど、それなら僕が力になれるかもしれない」という気持ちになれました。それで、2011年から2年ほどかけて「ヨヨとネネ」を完成させました。
──その頃には、すでに「この世界の片隅に」の企画が始まっていたのでは? 松尾 僕がマッドハウスにいた2010年から、企画自体はありました。僕が「ヨヨとネネ」に関わっていた2012年に、阿佐ヶ谷で丸山正雄さん(現MAPPA会長)とバッタリ出会ったんです。「新しいスタジオをつくったんだけど、見学してく?」と誘われて、行ってみたら、ここ(「この世界の片隅に」スタッフルーム)で、「この世界の片隅に」の準備が進んでいたんです。だけど、「資金集めがうまくいっていない」という話でした。それよりも僕は、まだ片渕監督があきらめていないことに驚きましたね。「持ち出しでも作りあげる」という姿勢。「これは本気だな」と。
その後、2013年に「ヨヨとネネ」が完成したので、映画完成の報告もかねて、スタジオまで片渕監督にご挨拶しに行きまして。その半年後に、丸山さんから「資金が集まって作品が本格的に動くので、現場のプロデューサーを引き受けてくれないか?」と誘われました。僕自身、また自分で人を集めて作品をつくれないかと思っていた時期でもあり、悩んだ末に引き受けました。……でも、入ってみたらクラウドファンディングを実施する前で、資金はまだ集まっていなくて。入ってからが、相当大変でした(笑)。
──プロデューサーに必要な資質とは、何でしょう? 松尾 人とのつながりは大事でしょうね。誰にでもいい顔はできませんが、完成した作品をきちんと評価してくれた方とはご縁ができて、また仕事を一緒にできたりします。なかにはいい関係になれなかった人もいますから、縁やつながりを意識しながら、しっかり仕事していくべきだろうと思います。
──仕事していて、プレッシャーは感じますか? 松尾 日々、プレッシャーですよ。納期に間に合わないとか、予算が足りないとか、また監督が無茶なこと言いはじめたとか(笑)。スタッフの仕事の流れを整理するのも仕事なのですが、スタッフそれぞれ、仕事のやり方が違ったりもします。そういうスタッフたちに、監督の意図を呑みこんでお仕事してもらうためには、どういう言い方でお伝えすればいいのか。できるだけ、納得した上で描いてもらいたいのですが……うまく行かないこともあります。
それと、「人を集めるのが好きだ」と言いながら、思うように人を集められないジレンマも抱えています。本来なら、スタッフがいい仕事をできる環境と入り口を整えて、スケジュールどおりにアウトしてもらうのがベストなんです。
また、最近は「後世に残る作品をつくりたい」意識が強くなってきました。「この世界の片隅に」は、「売れないかもしれないのに、どうしてつくるの?」とも言われましたけど、僕はやるべきだと思いました。やるからには、よい作品にしよう。ちゃんと宣伝もしよう。監督には、作品をつくることに集中してほしい。そのかわり、僕はスケジュールを守る。その責任感は、多くの経験を積み上げてきて、ようやく手に入ったような気がします。
──最近、テレビアニメの本数がとても多いですが、その点についてはどう思いますか? 松尾 最近のテレビアニメのように、ひたすら作りつづける世界からは距離をおきたいと思っているのですが……よく、業界の知り合いからは「時間がなさすぎる」と愚痴を聞きます。作品の数に対して人が足りてないとか、あちこちで問題が発生しているようです。僕は、出来ればじっくり取り組める作品に携わりたい。ですが、なかなかそういう仕事もないので、CLAPという会社をつくりました。今まで一緒に作品をつくってきた人たちと、また新たなフィールドを目指したいと思っています。
(取材・文/廣田恵介)