「劇場版 はいからさんが通る 後編 ~花の東京大ロマン~」アニメ完結編で、ノスタルジーにまみれたい!【犬も歩けばアニメに当たる。第43回】

2018年11月03日 12:000
(C) 大和和紀・講談社/劇場版「はいからさんが通る」製作委員会

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今回取り上げるのは、公開中の「劇場版 はいからさんが通る 後編 ~花の東京大ロマン~」です。

2017年11月に「劇場版 はいからさんが通る 前編 ~紅緒、花の17歳~」が公開されてから11か月。いよいよ、激動の展開と完結を描く「後編 ~花の東京大ロマン~」が公開されました。

原作コミックと、かつてTVシリーズで「はいからさんが通る」に親しみ、完結編を楽しみにしていた筆者が、世代を越えて親しまれる今作の魅力をご紹介します。

ついにたどりついた、アニメの「完結」


「劇場版 はいからさんが通る 後編 ~花の東京大ロマン~」が公開された。かつてのテレビアニメシリーズを知るファンとしては、感慨深い。今回の劇場版アニメは、この後編のためにこそ存在したといえるからだ。

1978年から1979年にかけて放送されたテレビアニメは、さまざまな事情で打ち切りになり、ファンにとっても、おそらく原作者の大和和紀にとっても、とても不本意なかたちで終わった。

関係者としても、名作をあのままにしてはおけないという思いは強かったのだろう。今回、かつての名作のリメイクが数多く制作される波にのって、「はいからさんが通る」は再びアニメ化され、平成の世によみがえった。

筆者は前編で、作品のみずみずしい、今も色褪せない魅力に触れて感動したが、ファンにとって待ちかねたのは、今作の後編といえるだろう。

「後編」では、かつてのテレビシリーズで描かれなかった「その後」が、最後までアニメ化されるのだから。


ハツラツとはじける前編に対し、後編で感じるのは「ノスタルジー」


「ノスタルジー」とは、手持ちの辞書によれば、「異国にいて離れた故郷を懐かしむ気持ち。郷愁。望郷心。ノスタルジア」だという。

さらに言うなら、昨今の映画やアニメを見たあとの、「どこか懐かしい気持ち」のこともそうだ。

この「ノスタルジー」のポイントは、必ずしも自分の経験とは直接関係がないことだ。直接経験したわけでもないのに「どこか懐かしく、慕わしく、心ひかれる」のが、映画やアニメを見て感じる「ノスタルジー」だ。

学園生活で、青春や友情に心が熱くなり、淡い想いや恋愛が胸をしめつけ、部活に一心に打ち込み、文化祭で盛り上がり、修学旅行で一度きりの思い出を作る。

もしくは、アナログな昭和の時代、人の心がゆたかだったときに、生活は質素だがあたたかさあふれる家族が、身を寄せ合いながら懸命に生きていく。

そこにはよろこびがあり、悲しみがあり、美しいもの、かけがえのないものがある。それらはいつか変わって失われていくものでもある。

だからこそ、ひとときの命の輝きが、あたたかく心を満たし、胸をしめつける。
そして同時に、切なさ、やるせなさも風のように吹きすぎる。

「ノスタルジー」とはそんな感情であり、昨今の映画やアニメで観客の心をつかむのに不可欠な要素とも言える。大ヒットした「君の名は。」をはじめ、あまたある日常もの、学園もの、昭和ものの多くが、懐かしい慕わしさに満ちている。


過去を想い、求める、切なくてあたたかい懐かしい感覚がいっぱい


今作は、三重の意味でこのノスタルジーに満ちている。

まず、観客がこの作品を見る視点だ。

原作の連載当時や、テレビアニメ化当時、阿部寛と南野陽子の映画で盛り上がった当時を知る人にとっては、この映画を見ること自体が、すでに懐かしさに満ちている。好きなシーンやセリフにふたたび触れることも、「私が思っていたのと違う〜!」と、愛ゆえに文句を言いたくなるのも、すべてタイムマシンに乗ったかのような刺激をくれる。

今回はじめて「はいからさんが通る」に触れる人も、「かつてのヒット作のリメイク」という前知識まったくなしに見ることは少ないだろう。「どんな話なの?」「今見てもおもしろいの?」「少尉はカッコいいの?」と、かつての人気作の魅力をのぞきこむようなかたちになるだろう。

第2に、ストーリーの中で紅緒と少尉が求める「過去」への想いだ。

紅緒と少尉が出会い、想いを深めた前編を受けて、後編では、運命に引き裂かれた2人が、互いを求め合い、失った日々を取り戻そうとする。その狂おしさ、切なさ。

お転婆なはいからさんである紅緒の茶目っ気、二枚目の職業軍人でありながらほがらかで笑い上戸という少尉のギャップ萌え。明るさが際立った前編に対して、今回の後編は、求め合う2人の切実な想いが中心となり、シリアス味が増している。

時間を元に戻せたら。あのときあんなことにならなければ。

過去をふりかえってもどうしようもなく、それでも思わずにはいられない。見守る周囲もやるせない。幸せだった過去を思いながら、もう戻れないと前を向いて歩き出す紅緒と少尉それぞれの姿には、切なさがあふれる。


よこざわけい子のナレーションが味わい深い


そして第3に、後編を見終わったあとに残る余韻だ。

後編のラストでは、旧作のファンへのサービスのように、かつてのテレビシリーズで紅緒を演じたよこざわけい子が、ナレーションを担当する。

前編では、テレビシリーズの一部ファンから、「紅緒の声はよこざわけい子さんでないと!」という声もあがったようだ。しかし、王道の大河ロマンラブコメディを、当代の実力派人気声優である早見沙織と宮野真守が演じたことは、大成功だった。キャラクターの魅力を、今のアニメファンにも納得できるかたちでよみがえらせることに成功したのだから。

そして、ナレーションの仕掛けが、後編を最後まで見ると、大きく効いてくる。

ついにアニメで見ることができた、「はいからさんが通る」のラスト。そこにかぶってくるよこざわけい子のナレーションで、私たちは、紅緒と少尉が恋に落ちた前編を懐かしみ、波乱万丈を乗り越えた紅緒の娘時代を懐かしみ、そして、かつて「はいからさんが通る」を愛した昔の自分、王道ラブコメに心を焦がして楽しんだ過去の自分を懐かしむことになる。

前編に引き続いて、流れる主題歌は、竹内まりや作詞・作曲の「新しい朝(あした)」。主役を演じる早見沙織が歌う、さわやかで後味のいい主題歌だ。エンディングテロップは最後まで見て、原作の番外編を彷彿とさせる、登場人物たちの「その後」をしっかり見届けてほしい。

原作の番外編の中で、とくに北小路環と鬼島森吾のストーリーがツボだったのを思い出した。「お嬢様&ワイルド系」の組み合わせは、これまた古典中の古典、王道なのである。



王道ラブコメに気持ちよくひたりたい


シリアス色の強い後編だが、決して重すぎることはなく、ほどよくギャグをはさんでくるので、テンポよく軽快に見られる。

前編で「まあ、平成の今、アレはやらないよな……」と思っていた、ファンにはおなじみの昭和のオヤジギャグを、あんなにバッチリ、しかも2度もやってくれるとは!

顔に傷跡の入った牢名主や、ヨッパライの酒呑童子など、原作ファンにはおなじみのキャラクターもちょこちょこっと登場する。

原作で紅緒に起こったさまざまな苦難のエピソードを、構成にあたって整理しているため、原作をよく知るファンから見ると、若干ダイジェストっぽく見えないこともない。

しかしその分、枝葉がとれて、ストーリーの中心となる少尉と紅緒、そして青江冬星とラリサの4人に話がしぼられ、それぞれの複雑な想い、細やかな気持ちの揺れがしっかり描かれていた。

タイトルの知名度の高さや、たび重なるアニメ化・ドラマ化・舞台化のわりに、ラストがきちんと知られていなかった感のある「はいからさんが通る」。改めて、最後まできちんとアニメ化されたことが、ファンとしてもうれしい。この劇場版をきっかけに、新たな「はいからさんが通る」ファンが、若い世代に増えてくれればいいと心から思う。

大正時代を舞台に、さまざまな時代背景をとりこみながら、あくまで「17歳の普通の女学生のラブコメ」としてスタートした物語が、涙と笑いを織りこみつつ、大団円を迎えるまでを、懐かしい人も、ラストを知らない人も、平成最後の秋にぜひ味わってほしい。


(文・やまゆー)

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(C) 大和和紀/講談社・日本アニメーション

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