「ペンギン・ハイウェイ」少年とお姉さんと世界の謎がキラキラ【犬も歩けばアニメに当たる。第42回】

2018年09月02日 18:150
「ペンギン・ハイウェイ」少年とお姉さんと世界の謎がキラキラ【犬も歩けばアニメに当たる。第42回】

心がワクワクするアニメ、明日元気になれるアニメ、ずっと好きと思えるアニメに、もっともっと出会いたい! 新作・長期人気作を問わず、その時々に話題のあるアニメを、アニメライターが紹介していきます。

今回取り上げるのは、公開中の「ペンギン・ハイウェイ」です。

住宅地にたたずむペンギンと向かい合う少年。街にあふれかえるペンギン・パレード。かわいらしさと不可思議なできごとが、楽しげな映像になってはじけたあとには、切なさとさわやかさが残ります。

「森見登美彦」作品のアニメ化と聞いて楽しみにしていた筆者が、昔小学生だった大人の心にこそ響く、ファンタジックな夏の冒険譚の魅力をご紹介します。

清涼感あふれる、少年の「ひと夏の冒険譚」


その夏、探究心の強い小学4年生のアオヤマ君の周りでは、ふしぎなできごとが続いていた。海のない町に、出現しては消えるペンギンたち。歯科医院のお姉さんが投げたコーラの缶が、目の前でなぜかペンギンに変わる。そして草原に浮かんだふしぎな球体〈海〉。アオヤマ君は、研究を進めるうちに、それらに関連があることに気づいていく。

森見登美彦の小説が原作の「ペンギン・ハイウェイ」は、小学4年生の主人公「アオヤマ君」を通して描かれる、「ひと夏の冒険譚」だ。ただし、現在小学生の子どものためのエンターテインメントとはひと味違うので、ご注意を。

森見登美彦作品は、アニメと相性がいい。ノイタミナ枠で放送された「四畳半神話大系」(2010年)をはじめ、2度にわたりTVアニメ化された「有頂天家族」(2013年・2017年)、そして映画「夜は短し歩けよ乙女」(2017年)は、いずれもひとクセもふたクセもあるユニークな作品として、原作ファンとアニメファンに愛された。

文語体を多用する独特の文体とムード、奇妙奇天烈なキャラクターと世界観、想像力を刺激しイメージゆたかにつづられるふしぎな出来事。それらをいかにアニメに落とし込むかが、ひとつのハードルであり、各作品のスタッフの腕の見せどころともなる。

現実と非現実が、ごくあたりまえに遊び心たっぷりに入りみだれる世界観は、アニメというメディアにぴったりなのではないかとも感じられる。

とにかく、「森見登美彦」作品がまたひとつアニメ化されると聞いて楽しみにしていた。キービジュアルを見てピンときた人にはおすすめしたい、清涼感あふれる良作だ。

よちよち走り回るペンギンと、飛び散る水しぶき、そして緑深い森と草原の映像が、目に涼しい。クライマックスは心地よい浮遊感と疾走感がある。見たあとにはさわやかな余韻が残る。

残暑や夏疲れでぐったりしているときや、行く夏を惜しみたい気分の季節には、特におすすめしたい作品だ。


「いつかちゃんと大人になる」子ども、アオヤマ君


主人公が小学4年生なので、観客は、自分が子どもの頃の喜怒哀楽をたっぷりと思い出したり体感したりできる。昔自分が同じことを体験したわけでもないのに、どこか懐かしい感覚が引き起こされる。そんな「ノスタルジー」をたっぷり味わえる。

主人公のアオヤマ君は、とても魅力的だ。

頭がよく几帳面で研究熱心。やりたいことに対してはひたむきで愚直で、自分でも言っているように頑固でもある。研究や探求に一直線で、屈折したところがない。周囲も、アオヤマ君の探究心を個性として認めている。

同時に、人に共感するやさしさを持ち、お姉さんに対しての気づかいができる小さな「紳士」でもある。

アオヤマ君は、常人とかけはなれた「風変わりな天才少年」として描くことも可能だろう。

けれど、いろんな「ふしぎ」に目をキラキラさせ、好きなものに貼りついたらてこでも動かないところは、誰もが自分の中に持っている「内なる子ども」に近い。

「オトナげないことを言ってしまいました」としょんぼりするまぎれもない「子ども」の姿は、なんともいえずかわいく、愛おしい。

なによりアオヤマ君が正しく「子ども」だと感じるのは、彼が未来を語るときだ。何事も客観的にとらえるアオヤマ君は、自分が大人になるまでの日数を正確にカウントダウンしている。そして、自分がそれまでにどれだけ勉強や経験を積んで、「えらい」大人になっているかを予測する。

アオヤマ君は、「いつかちゃんと大人になるつもり」の前向きな子どもなのだ。それがとても新鮮だった。

屈折したり、葛藤したり、ここではないどこかに夢を求めたりはしない。机の上に並んだ、たくさんのテーマの研究ノートこそが、アオヤマ君の夢であり、進むべき道なのだ。それはなんて素敵なことだろう!


一番の「謎」は、人を「好き」と思う心?


なにもかもが「謎」に満ちて、キラキラと好奇心を引きつける。それは子どもの特権だ。

アオヤマ君の探求心の対象として、冒頭に登場するのが、アオヤマ君が通っている歯科医院の「お姉さん」だ。

少年はなによりお姉さんの「おっぱい」にふしぎを感じている。それは、母親のそれに似ているようで違う、と感じている。つまり、異性として意識している。「お姉さん」の観察と研究は、きわめて生真面目なものだけれど、ときには詩的にも感じられる。

観察、つまり「毎日見つめる」ことに、「人を好きになる」ことの本質はあるのではないか? 公式パンフレットに掲載されているアオヤマ君の膨大な「研究ノート」の絵と図表と言葉を見ていると、あふれる思いの強さと熱量に圧倒される。

お姉さんは、あっけらかんとしてチャーミングだが、アオヤマ君の視点で話が進むので、同時にミステリアスな存在でもある。少年が憧れる大人の女性だ。

お姉さんはアオヤマ君の大人びた態度を愛しみ、頭のよさに感心し、研究の同志として信頼する。そしてアオヤマ君を「少年」と呼ぶ。そこに、ふたりの距離感と特別な関係の象徴がある。

アオヤマ君とお姉さんの間に強固につながる引力を、なんと呼べばいいのだろう? 「絆」「信頼」「愛」そんな月並みな言葉では表現したくない、繊細で強いつながりが、2人の間にはある。それが観客の心を切なく甘酸っぱくさせるのだろう。

多少の困難があっても、アオヤマ君は信念を曲げない。自分の考えをしっかりと持っていて、状況に応じて、「やるべきことを選択・決断する」思い切りと行動力も持っている。

そんなアオヤマ君が、涙を流すシーンが何度かある。くやしい涙、悲しみの涙……。

いつも冷静で、怒るという無駄なエネルギーの発露をしないアオヤマ君の、感情があふれるシーンは、静かなクライマックスだ。深く心に残る。


主役2人の声の演技のみずみずしさ


プロの声優ではない、主役の2人の声の演技が素晴らしい。

アオヤマ君の声を演じたのは、アニメーション映画への声の出演は初めての北香那。オーディションで今回の役を射止めたという。

また、お姉さんの声を演じるのは、演技派女優であり、「鉄コン筋クリート」(2006年)、「キャプテンハーロック -SPACE PIRATE CAPTAIN HARLOCK-」(2013年)、「花とアリス 殺人事件」(2015年)で、声の演技も高く評価されている蒼井優。

常識や思い込みから自由な、互いを信頼しあう2人がとても魅力的なのは、この2人の声あってといえる。心の機微や揺れる感情、まっすぐな思いを、魅力的にゆたかに表現している。2人を支えるベテラン声優陣の安定感は言わずもがなだ。

ラストシーンが、とても素敵だ。
最後に語られるアオヤマ君のモノローグは、しんみりせずにいられないが、同時に未来への風を感じるようなさわやかさを感じる。
「世界の謎」への探求心を失わない限り、未来には希望も可能性もある。
そう思えるのは、子どもだけの特権ではないかもしれない。

キービジュアルにあるペンギンたちのパレードに、楽しさと「謎」を感じたら、その答えを劇場に探しにいくのが正解だろう。


(文・やまゆー)


(C) 2018 森見登美彦・KADOKAWA/「ペンギン・ハイウェイ」製作委員会

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(C) 2018 森見登美彦・KADOKAWA/「ペンギン・ハイウェイ」製作委員会

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(C) 森見登美彦・幻冬舎/「有頂天家族」製作委員会

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(C) 森見登美彦・幻冬舎/「有頂天家族2」製作委員会

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