【犬も歩けばアニメに当たる。第36回】「劇場版 はいからさんが通る 前編 紅緒、花の17歳」輝く太陽! ヒロインの魅力全開

2017年12月02日 18:000
(C) 大和和紀・講談社/劇場版「はいからさんが通る」製作委員会

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今回とりあげるのは、公開中の「劇場版 はいからさんが通る 前編 紅緒、花の17歳」です。

原作コミックと、かつてTVシリーズで「はいからさんが通る」に親しんだ筆者が、初めての人はもちろん、原作ファンも見るべき新作の魅力をご紹介します。


みずみずしい魅力をたたえよみがえった往年の名作


原作は大和和紀の代表作で、1975~1977年に「週刊少女フレンド」(講談社)で連載されたラブコメだ。劇場版、前後編での公開が予定されている。

1978年にTVシリーズとしてアニメ化(全42話)されたものの、残念なことに打ち切りとなり、原作の最後までは描かれなかった。子ども時代に、最終話を見てぽかーんとしたときの気持ちは、今でも覚えている。

それが、約40年後の今になって、劇場版前後編でアニメ化されるとは! ファンなら見ずにはいられない。制作が発表されてから、公開を楽しみにしていた。

大正時代の女学生の花村紅緒は、自由闊達なじゃじゃ馬娘で、開明的な考え方を持つ「はいからさん」。親が決めた許嫁の伊集院忍との結婚話に反発して、破談にしようと騒動を引き起こすが、忍に次第に心惹かれていく。物語は大正デモクラシーの時代から、シベリア出兵、関東大震災までにわたり、後半はシリアス味が強くなる。

今回の劇場版では、王道のラブコメが2017年の劇場版としてブラッシュアップされたことにより、何度もドラマ化・映画化された原作の魅力を、いきいきとよみがえらせることに成功している。

紅緒を演じる声優・早見沙織が歌う、竹内まりや作詞・作曲の主題歌「夢の果てまで」は、主題歌としてこの作品の魅力を象徴する。どこか懐かしく、あたたかい。それでいて、みずみずしく、澄んだ力強さがある。


連載当時のネタを盛り込んだ原作のパワフルなギャグが、今作ではカットされているため、初めて見る人にも昭和の作品っぽさを感じさせない。いっぽうで、手塚治虫のヒョウタンツギなどにあたる、にぎやかしの「おひきずりさん」「酒呑童子」などはきちんとちりばめられていて、原作ファンをにやりとさせる。

また、後半でかつてのTVアニメのオープニング主題歌「はいからさんが通る」のインスト曲が流れるのもうれしい。かつての視聴者への粋なプレゼントだ。


キャラクターの原作との絵の違いは気にならない


公開前に、原作ファンを不安にさせたひとつの要因が、「キャラクターの絵の違い」だ。原作コミックを熱心に読み込んだファンにとっては、「あの絵でないとイヤ!」という感覚がどうしてもあるのだろう。

しかし、公式パンフレットにもあるが、もともと、今回の劇場版で絵柄が変わったのは、原作者の大和和紀先生の希望もあってのことだったという。

2017年の今、アニメにするのなら、今の時代にあったものであるべき──というのがその理由だ。

確かに、原作通りのデザインでは、どうしても70年代少女漫画の時代感が出る。原作の大和和紀の絵柄自体、現在に至るまで年を追うごとに変わってきている。

レトロさを前面に出した作品もまた楽しいものだが(そしてそうした作りのアニメも、今は多々あるが)、「はいからさんが通る」はそちらを選ばなかった。オールドファンが懐かしむだけでなく、新たな世代のファンをとりこみたいと考えたのだろう。

結果、今のアニメを見慣れたアニメファンが受け入れやすい、魅力的なキャラクターに仕上がった。


〝はいからさん〟紅緒の魅力炸裂!


この作品の魅力は、なによりもまず、主人公の花村紅緒がかわいく、凛々しく、カッコいいことだ。

際立つ美人ではないが、明るく、因習にとらわれず、常に新しい道を切り開いていく紅緒。17歳らしい無鉄砲さ、若さ、かわいらしさ、強さが、いきいきと描出されていく。

声も、思いの外、思い出の中の紅緒のしゃべりとイメージが近くて、いい意味で予想外だった。ハリがあって、強気で、はずむようで、愛嬌がある。はじめてこの劇場版で紅緒に接する人も、きっと十中八九紅緒が好きになるだろう。

「原始、女性は太陽であった!」

劇中にも登場する「青鞜」発刊時の平塚らいてうの名言だが、紅緒はまさに太陽のように、等身大の高校生(の年代の女性)として、そして、唯一無二の主人公としてヒロインとして、強く輝いている。


少尉のプリンスっぷりが無敵


「はいからさん」

からかうように、少尉が紅緒に甘く呼びかける声。紅緒の運命にハラハラしながら、少尉にうっとりするのがある意味正しい楽しみ方だろうが、この前編は、少尉から紅緒へのラブレターのようでもある。

〝少尉〟こと伊集院忍は、華族である伊集院伯爵家の跡継ぎであり、陸軍少尉。日本人の父とドイツ人の母親の間に生まれたハーフでもある。美男子で男気があり、文武両道、家族思い。聡明で進歩的で、力あるものにおもねらず、部下や使用人への気遣いもある。しかも、笑い上戸というチャーミングな一面も兼ね備えている。ちょっと絶句するぐらいの、無敵の正統派王子様キャラだ。

その王子様が、なぜ紅緒を愛するのか? 前編は、原作を知る人がびっくりするほどテンポよく進むが、それが功を奏して、忍の気持ちの変化が見えやすくなっている。

最初は、大切なお祖母さまがよろこぶならと、親が決めた縁談を疑わなかった忍。それが、紅緒と会い、そのおてんば・じゃじゃ馬っぷりをおもしろがり、やがて、新しい風を運んでくるような紅緒の魅力に触れて、心を動かされていく。

この流れがしっくりきて、忍のキャラクターに厚みが出る。そして、シベリアの戦場で「愛する紅緒のもとへ帰りたい」という忍の願いが、よりせつせつと胸にせまってくることになるのだ。


名作少女漫画の魅力たっぷり!後編に期待


少女漫画としての原作を楽しんでいるときには意識しなかったことが、大人になった今、改めてアニメで見るといろいろ見えてくる。

たとえば、時代背景がしっかりしていることにも、改めて感じ入る。歴史とからめた時代感が大河ドラマ風で、スケールが大きい。

忍のお祖母さまは公家の姫君で、花村家の祖父は幕府方の旗本。ふたりは相思相愛だった。忍の祖父の伊集院伯爵はもと薩摩藩藩士で、明治維新の頃、倒幕派として戦った維新志士だった。幕府型の士族の子孫の紅緒を、最初は目の敵にするが、「もうそんな時代ではない」とたしなめられる。

紅緒をキラ星のようなイケメンがとりまくスタイルは、今日の乙女ゲーム的でもある。

正統派王子様で軍人で運命の許嫁の伊集院忍。長髪の美形で働く女性の理解者、青江冬星。幼なじみで女装が似合う(歌舞伎の女形役者)、犬っころのように一途な藤枝蘭丸。ワイルドな魅力の鬼島森吾軍曹。頼れる子分、男気あふれる車屋の牛五郎(も、ちょっと見た目がスッキリしている!)。

いっぽうで、いわゆる乙女ゲームと異なるのは、主人公である紅緒のブレなさ、キャラクターの強さだ。紅緒はその言動で、伊集院家の人々を始め、出会う人たちを変えていく。

ドタバタが楽しいラブコメは、忍に訪れる悲劇から一転、シリアスな展開になっていく。はつらつとした怖いもの知らずの紅緒が、忍を愛し、失い、運命に立ち向かっていく。それでも紅緒は、明るい強さを失わない。

いろんなエンターテインメントの要素をふんだんに盛り込んだ、今見ても魅力的な作品、魅力的なキャラクターたちだ。

価値観が多様化した現在のエンターテインメントにおいて、ヒーローもヒロインも、ひとりでは作品がなかなかもたなくなった。「どうぞどれでも召し上がれ」とお皿に並べるように、いろんなタイプが用意されて、好みによって選べるようになっているのが、今の多くのアニメ作品やゲーム作品だ。

たったひとりの主人公が、たったひとりの男性と惹かれ合う物語は、今風ではないかもしれない。けれどその分、とても強く、引きつけられる。

前編は、明るく希望を感じるところで終わっている。

後編では、古典的で王道の、すれちがいのドラマ、紅緒の苦しみ、決断など、ここまでとは違うハラハラドキドキが待っている。そしてそれこそ、これまで原作の中で描かれてこなかった「完結編」の楽しみであるはずだ。後編を楽しみに待ちたい。


(文・やまゆー)

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上映開始日: 2017年11月11日   制作会社: 日本アニメーション
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はいからさんが通る

はいからさんが通る

放送日: 1978年6月3日~1979年3月31日   制作会社: 日本アニメーション
キャスト: よこざわけい子、森功至、杉山佳寿子、増岡弘、峰あつ子、永井一郎、肝付兼太、鈴木れい子、山田礼子、宮内幸平、井上真樹夫、安原義人
(C) 大和和紀/講談社・日本アニメーション

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