「ニンジャバットマン」アメコミ×戦国時代劇=大人のまんが祭り!【犬も歩けばアニメに当たる。第41回】

2018年06月30日 15:000
BATMAN and all related characters and elements (C) & TM DC Comics. (C) 2018 Warner Bros. Entertainment All rights reserved.

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今回取り上げるのは、公開中の「ニンジャバットマン」です。

TVアニメ「ジョジョの奇妙な冒険」第1部〜第3部のオープニング映像などで注目を集めたアニメーションスタジオ「神風動画」が、アメコミのヒーロー「バットマン」を長編アニメ映画に仕立てました。

さまざまなかたちで作品が世に出てきた「バットマン」と、あらゆることをやりつくした感のある「戦国時代」「忍者」という人気ジャンルを、本気でかけ合わせたらこうなった! 「バットマン」に関してはシロートの筆者が、その楽しさをご紹介します。

アメリカの人気ヒーロー×神風動画の注目作品


「バットマン」といえば、言わずと知れたアメリカンコミックス(アメコミ)生まれの人気キャラクターだ。

コウモリを模した黒い衣装に身を包む、正義のヒーロー。アメリカ合衆国の架空の都市ゴッサム・シティをホームグラウンドとして、個性的なスーパーヴィラン(ヒーローに対する悪役、犯罪者)たちの企てをあばき、悪事を阻止するべく追い詰める。

DCコミックスの出版するアメリカンコミックスから生まれたキャラクターで、その活躍は、テレビシリーズや実写映画で、さまざまに描かれてきた。2019年には、生誕80周年を迎える。

今回、「DCの作品とキャラクターを」「日本でアニメ化」というところからスタートして、〝和風バットマン〟は誕生したという。

アニメ好きとしては、アニメーションスタジオ「神風動画」が制作する長編アニメーション映画というところで注目していた。

神風動画は、TVアニメ「ジョジョの奇妙な冒険」第1部〜第3部('12〜'14年)で、原作コミックのファンを一気にアニメに引き込む、スタイリッシュなオープニング映像を制作している。

また、オリジナル中編映画として、「COCOLORS(コカラス)」('17年)を制作。サイレントの映像にリアルタイムで声優とミュージシャンが音をつけるというかたちでイベント上映を行った。

昨年はテレビシリーズで、4コママンガが原作の「ポプテピピック」('18年)を制作。全話すべて異なる主演声優、「再放送」として前後でほぼ同じ内容をキャストを変えて放送するなど、常識を超えた〝クソアニメ〟っぷりが話題を呼んだ。

神風動画の作品といえば、従来の手法にとらわれずCGアニメを大胆に使って強い印象を残し、作品ごとに話題性があるというイメージだ。

その意味で、アメコミヒーロー、バットマンとの相性はとてもいいのでは?と想像していた。

結論からいうと、予想していたとおり、いやそれ以上だった。これは、ここにしかないノリと勢いを愛でる、大人のための素敵な〝まんが祭り〟だ。


バットマンが戦国時代にやってきた!


ジョーカーたち現代のゴッサム・シティのスーパーヴィランが、日本の戦国時代にタイムトリップして、戦国大名と入れ替わった。バットマンと仲間たちも同様にタイムトリップするが、頼みの現代のテクノロジーもいつものようには使えない。

このままでは日本はもちろん、世界の歴史が変わってしまう。バットマンと仲間たちは、いかにして戦うのか……?

この設定自体が、子どもがマンガやアニメを見ながら想像する「もし……だったら?」という空想のようで楽しい。「タイムスリップ? よくある設定だよねえ」と斜に構える大人ごころが、進むにつれて吹き飛ばされる。

ストーリーは実にシンプル。それゆえに、観客は難しいことは考えず、個性豊かなキャラクターのおもしろさや、細かく散りばめられた小物設定のユニークさ、大迫力のアクション描写を楽しむことができる。

登場人物たちは、バットマンの仲間もヴィランも、ファンならおなじみのメンツだろう。また、ユニークな外観と、ベテラン声優たちのハマリ役の演技で、初めて見る人にもつかみやすい。

今風な「萌え」は皆無で、「燃え」と「勢い」が全開。深いテーマやシビアさ、暗さを求める人にはおすすめしない。時代劇にマジメさを求める人にも不向きといえそうだ。だが、そこがイイのである。


ありえない「戦国大名」と「ニンジャ軍団」が地味にスゴイ


アニメやゲームの世界では、あらゆるクロスオーバーやパロディをやりつくしているので、「アメコミ」×「戦国時代」×「タイムトリップ」といっても、さほど驚きはないかもしれない。

しかしこれを大人が本気のクオリティでやるとこうなるというのは、なかなか見られるものではない。アメコミ要素と和風の要素が、見事に一体化している。

まず、ニンジャ化したバットマンと仲間たち、そして戦国大名と化した悪党たちのビジュアルが、日本の戦国時代に意外にもなじんで、サマになっている。本当にカッコいい!

さらに、日本で作っているから当たり前かもしれないが、全編にわたって戦国時代や戦国大名についての設定が、実に細かく、遊び心が効いている。これがなによりの見どころであり、お楽しみといえるだろう。

スーパーヴィランたちがそれぞれ、どの戦国大名と入れ替わったのか? 劇中では説明されないが、ある程度戦国時代の知識がある人なら、必ずわかる流れになっている。なぜその戦国大名なのかも察せられる(それぞれの共通項が関係している)。

そして、わかるからこそ、コスプレ的なヴィランの衣装や鎧兜、小道具に、その戦国大名のモチーフがきちんと使われていることが、楽しくてしょうがないのだ。「家紋」も、ヴィランそれぞれのアレンジがされている(これがまたクールだ!)。

「ニンジャバットマン」が世界中で楽しまれるとしても、このおもしろさを劇場で理解できるのは、やはり日本の観客が一番では?と思ってしまう。

細かいところでは、実際の戦国時代に「忍者」という呼称はなく、「伊賀衆」「甲賀衆」という呼び方をされていたが、劇中での「ニンジャ」の呼称も、この呼び方にならっているようだ。

こうした小ネタが、一度見ただけでは拾いきれないほど散りばめられている。

「バットマン」の世界観に通じたファンであれば、そちらサイドの小ネタや、キャラクターたちの戦国時代へのなじみっぷりも楽しいだろう。

キャラクターのおもしろさでひとりあげるなら、今回最大の敵役であるジョーカーの熱量がすごかった! 途中で見せた意外な姿も含めて、快楽主義のしたたかなトリックスターの存在感をたっぷり見せた。憎々しさで押し通し、とことんまでへらず口をたたく姿には、もうほめるしかない強さを感じた。

暴れまわるヴィランたちの個性的な姿に、「バットマン」という作品の魅力が実感でき、改めて実写映画も見たくなるというオマケがついてくる。


自由闊達な「エンターテインメントのごった煮」に爽快感


大胆に改変し、同時に絶妙に細かく設定された戦国時代を背景に、口がぽかんとあくほど動きまくる大迫力のアクションが、全編展開されて、息つくひまがない。

絵づくりのうえでも、観客がときによろこび、ときに見ほれ、ときにあっけにとられるような、さまざまなトーンのイメージが詰め込まれている。

それは、元ネタを知らないと意味がわからないパロディというよりも、時代を超えて日本で制作されてきたあらゆるエンターテインメントのごった煮のようでもある。

黒澤明の時代劇映画のような、
浮世絵のような、
巨大ロボアニメのような、
実験的アートアニメのような、
怪獣映画のような、
特撮のような、
歌舞伎のような……

こんな形容があてはまる映像それぞれが、ひとつの作品の中に盛り込まれている。そしてなぜかちぐはぐではない。「なるほど、そうきたか!」「これもアリ」と感じさせられる。

「今のアニメはこうでなきゃいけないって、誰が決めたの?」そんな勢いが、スクリーンから伝わってくる。

アメコミが時代劇という袋に入れられたのか、時代劇がアメコミの皮をかぶっているのか、どちらとも言えない。「おもしろければどっちでもいいよ!」とでも言わんばかりの垣根をとっぱらった爽快感を感じた。

入場者特典にもなった宣伝用ポスターは、「戦国バットマン」を中心に善悪のスターが勢ぞろいし、古めかしく仰々しい文字と、モノクロに彩色したような独特の色合いで、時代劇映画が大衆の娯楽だった昭和30年代の邦画ポスターのスタイルをとっている。これもまたごった煮のイチ要素だ。

そういえば、この映画を最初に「観たい」と思ったのは、最初に公開されたキービジュアルを見たときだった。

闇夜に浮かぶ金色の満月を背に、アクションポーズをとるバットマン。衣装には鎧っぽいパーツが見え、両手には日本刀とクナイが握られている。

それでもその姿はまぎれもなく「バットマン」だった。シルエットはデフォルメが効いていて美しく、スッキリとカッコいい。墨で描かれた浮世絵版画に通じる美があった。

思えばこのキービジュアルに、すべてのメッセージが込められていたと思う。

少しでも気になっている人には、「劇場で見ておかないと損だよ!」と伝えたい。


(文・やまゆー)

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