【犬も歩けばアニメに当たる。第18回】「僕のヒーローアカデミア」葛藤と成長が愛おしいヒーローの卵たち

2016年06月05日 12:000
(C) 堀越耕平/集英社・僕のヒーローアカデミア製作委員会・MBS

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4月にスタートした「僕のヒーローアカデミア」は、「週刊少年ジャンプ」の連載コミックが原作の学園ヒーローアニメ。人間が「個性」と呼ばれる超常能力を獲得した世界で、力を悪用する者を取り締まるプロの「ヒーロー」に誰もが憧れている世界が舞台です。

 

「ヒーローがお仕事」+「異能者が学ぶ学園もの」という、ほかの作品でも見たことのあるモチーフですが、努力・友情・勝利の要素を抑えた王道作品であり、アニメ化が待たれた人気作品です。原作ファンの筆者が、今作アニメ1クールの内容を振り返ります。


泥臭く歯を食いしばる、泣き虫主人公


悔しさをかかえた主人公が、コンプレックスをバネに底辺から這い上がるといったパターンは、どこか懐かしい。そして、心に熱く火をつける。

 

アニメ「僕のヒーローアカデミア」の主人公、緑谷出久(みどりやいずく)、通称デクは、劇中の世界では珍しい「無個性」の中学生として登場する。

 

出久は、なかなか屈折した主人公だ。誰よりもヒーローに憧れていながら、4歳で無個性と判断され、以後落ちこぼれ扱いされて、「ヒーローになる夢はかなわない」と思い続けてきた。それでもなお、ヒーローについての知識を集め、研究せずにはいられないオタクでもある。

 

無個性だった出久は、「平和の象徴」として絶大な人気を誇るヒーロー、オールマイトから個性「ワン・フォー・オール」を譲渡されて、非常にイレギュラーな形で「個性」を持つことになる。

 

冒頭の4話はたっぷり時間をかけて、悩める出久がオールマイトに認められて個性を獲得し、試験を突破して憧れの雄英高校に入学するまでを描いた。

 

出久がヒーローのスタートラインにつくまでにかかった時間は、出久のコンプレックスの深さの現れともいえるだろう。そこをじっくり描くことなしに、この物語はスタートできなかった。

 

無個性の出久が、能力を手にするだけではダメだった。精神は肉体と不可分だ。自分が能力を受け取るのにふさわしい人間だったことを、出久は幾重にも行動で示さなければならなかった。

 

出久は、よく泣く。悔しいといっては泣き、よろこびの感動に泣く。

 

こんな出久が主人公なものだから、そのほかの登場人物も次第に感情をあらわにしてくる。優等生も、明るいあの子も、クールなあいつも、委員長も、複雑な思いや事情を抱えていることがわかってくる。その葛藤と成長の1つひとつが、どんどん愛おしくなってくるのが、「僕のヒーローアカデミア」の持ち味だ。

 

出久と同時に冒頭から出てきて強烈な印象を残すのが、「かっちゃん」こと、出久の幼なじみの爆豪勝己(ばくごうかつき)。「爆破」の個性を持ち、性格はプライドが高く攻撃的。無個性の出久を見下し、何かにつけてバカにしてきた。雄英高校でも、出久が「個性」を得て同じ土俵に上がってきたことが許せず、敵愾心をむき出しにして激しく対抗してくる。

 

性格の悪さは、出会ったばかりのクラスメイトたちの意見も一致するところ。しかし、折れない精神力や、すぐれた戦闘センスに身体能力、派手で戦闘向きの「個性」など、性格の悪さをおぎなってあまりある魅力もある。

 

いじめっ子で短気で乱暴者で理不尽きわまりないのだけれど、あまりにもそれがストレートなのが子どもらしくて、ある意味すがすがしいほどだ。ここまで憎まれ役に徹した彼が、今後どう変わっていくか(変わらないのか)が、ひとつの見どころでもある。



それぞれに悩みを背負う個性豊かな仲間たち


この作品の魅力のひとつは、オープニングにも登場する、個性豊かなヒーローの卵たちだ。出久と共に学び成長する、雄英高校1-Aの生徒たちで、出久を含めて20名がいる。

 

見始めたときは、思ったより話の展開がゆっくりだという気がしたが、その分、原作のコマのすみっこに描かれていて見落としそうな1人ひとりの反応をていねいにすくいあげているのがうれしい。これだけの人数のキャラクターの魅力を、限られた尺の中でバランスよく見せている。

 

おかげで、コミックを目で追って読むのに比べ、どんどん流れて記憶に止まりにくいアニメで、原作とほぼ同じペースで、多数の登場人物の把握ができている。中盤の5~9話では、ユニークなクラスメイトたちの能力と性格が、さまざまなエピソードを通して印象的に紹介された。

 

数あるクラスメイトの中で特に注目すべきなのが、「半冷半燃」の個性を持つ轟焦凍(とどろきしょうと)だ。推薦入学者のひとりという優等生で、白と赤の頭髪に象徴されるように、右手で凍らせ、左手で燃やすことができる。

 

非常に優秀で戦闘能力はクラスでも1、2を争うが、家庭の問題で父親との間に確執がある。2期があれば、ドラマの縦糸のひとつになるであろう存在だ。1期では、ポイントポイントで見せる圧倒的な強さやクールな存在感を覚えておきたい。

 

雄英高校で、出久の最初の友達になった、「エンジン」の個性を持つ飯田天哉(いいだてんや)と、「無重力」の個性を持つほんわか少女、麗日お茶子(うららかおちゃこ)も、いい味を出している。

 

飯田は、兄が有名な現役ヒーローという、ヒーロー一家の出身。頭の固い優等生だが、育ちのよい坊ちゃんらしさには愛嬌もあり、生真面目さが笑いを誘う。

 

彼もまた、話が進むと、ヒーローへの思いの根源に関わるエピソードが待っているので、ぜひアニメで見たいものだ。

 

お茶子は、この作品のヒロインといっていいだろう。明るい性格で、出久に好意的。爆豪が出久につけた蔑称である「デク」を「デクって『頑張れ』って感じで、なんか好きだ、私」と、自信をもたせてくれた。出るたびに、場をなごませてくれる。

 

触れたものを無重力にするという、かなりのスゴ技を使用するが、能力を使いすぎると「酔ってしまう」のがご愛嬌。うららか女子に見えて、実は意志が強くシビアな負けず嫌いでもある。そのギャップがまた魅力だ。

 

いつも冷静であっけらかんとした「蛙」の個性を持つカエル少女の蛙吹梅雨(あすいつゆ)や、スケベ担当で「もぎもぎ」の個性の持ち主、峰田実(みねたみのる)など、おもしろ系のキャラも揃っている。

 

雄英高校で出会うヒーローを目指すクラスメイトたちは、人間離れした容姿の子もいてマンガっぽく楽しい。ヒーローの卵たちが切磋琢磨しながら成長していく様子は、学園ものならではだ。青春っていいね!



敵(ヴィラン)の恐怖に立ち向かえ!


個性的な1-Aの生徒たちの能力や性格を、より視聴者に刻みつけることになりそうなのが、10話以降の1クール終盤の大きなドラマだ。

 

オールマイトたちプロのヒーローは、超常能力の「個性」を悪用する犯罪者たちと戦っている。「敵(ヴィラン)」と呼ばれる彼らは、出久たちが将来戦うことになるであろう相手だったが、その機会が予想外に早くやってくる。

 

雄英高校の授業中に、「敵(ヴィラン)連合」となのる侵入者が押し寄せ、出久たち1-Aの生徒たちは危機に陥るのだ。敵の目的は、現在雄英高校で教師をしている「平和の象徴」オールマイトの殺害だ。冷徹な悪意と対峙して、生徒たちは戦慄する。

 

凶悪な悪意ある大人の犯罪者を前に、出久は、クラスメイトたちは、どうやって自分の身を守り、生き抜くのか。今までにない危機が訪れる。

 

ここまで、心理ドラマ・成長ドラマが多かった「僕のヒーローアカデミア」のクライマックスは、やはり超常能力アクションだ。重力感のあるアクション作画を得意とするボンズが描く、緊迫感あるバトルに期待したい。

 

この作品では、ヒーローのかっこよさは「人を救うこと」にあるとされている。原作でも、「たすける」という言葉は「救ける」と表記される。

 

現実に、災害や戦争でつらく大変な思いをしている人のニュースを見て心を痛め、「自分が力になれたら」「救うことができたなら」という思いを感じる機会は誰しもあるだろう。必要とされているのは、絶対無敵の世界にただ1人のヒーローではなく、危機を見逃すことなく手を差し伸べてくれる、やさしくて強い、同じ町にいるヒーローだ。

 

よく泣き、よく考え込み、懸命に勇気をふるい、人の危機に身体が動く出久は、そんないまの時代の気分をくんだ等身大のヒーローなのかもしれない。

 

出久は第2話のモノローグで、「これは僕が最高のヒーローになるまでの物語だ」と言っている。今シリーズは13話で終了するが、ヒーローの卵たちの物語はまだまだ始まったばかり。この続きをぜひともアニメで早く見たいものだ。

 

 

(文・やまゆー)




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僕のヒーローアカデミア

僕のヒーローアカデミア

放送日: 2016年4月3日~2016年6月26日   制作会社: ボンズ
キャスト: 山下大輝、三宅健太、梶裕貴、岡本信彦、佐倉綾音、石川界人、広橋涼、井上麻里奈、細谷佳正、増田俊樹、畠中祐、悠木碧
(C) 堀越耕平/集英社・僕のヒーローアカデミア製作委員会

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