【犬も歩けばアニメに当たる。第10回】泣ける映画と思っていたら青春ミュージカル映画だった!「心が叫びたがってるんだ。」

アキバ総研 | 2015年09月26日 11:00
【犬も歩けばアニメに当たる。第10回】泣ける映画と思っていたら青春ミュージカル映画だった!「心が叫びたがってるんだ。」

心がワクワクするアニメ、明日元気になれるアニメ、ずっと好きと思えるアニメに、もっともっと出会いたい! 新作・長期人気作を問わず、その時々に話題のあるアニメを紹介していきます。


スタンダードナンバーのメロディが心にやさしいミュージカルアニメ


「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」(以下、あの花)のスタッフが集結した劇場版オリジナル作品として名高いけれど、「さあ、泣くぞ!」と意気込んで出かけるのはちょっと違う。

言ってしまえば地味な作品だった。とてもいい意味で。

クライマックスに画面いっぱいの派手なアクションがあるような映画っぽいけれん味はない。世界の滅亡の危機も、海が割れるような奇跡もない。アニメらしい目に鮮やかな髪の色も、人間離れしたキャラクターもない。唯一、ヒロインに語りかける「玉子」のみがファンタジーめいた雰囲気をただよわせるぐらいだ。

けれど、1本の作品を見た、というしっかりした充実感があった。

印象的だったのは、登場人物たちが口ずさむ歌。この話は、ひとつのクラスが「地域ふれあい交流会」(以下、ふれ交)なる地元のイベントに向けて、オリジナルのミュージカルを作り上げていく話でもある。

このミュージカルで歌われる楽曲はなんと、誰もが慣れ親しんだスタンダードナンバーや有名なクラシック曲のメロディに、登場人物たちが自分たちで歌詞をつけた〝歌〟なのだ。

映画「80日間世界一周」のテーマ「Around The World」、映画「オズの魔法使い」のテーマ「Over The Rainbow」、ベートーヴェンのピアノソナタ第8番「悲愴」などなど。たとえタイトルを知らなくともどこかで必ず聴いたことのある曲は、どれも心にやさしく、親しみやすく染みいってくる。

クライマックスは、ミュージカルのステージだ。リアルな描写と演出が、実際に高校生の出し物を見ているような気分にさせる。それぞれに得意技の違う、考えもバラバラのクラスの生徒たちが、それぞれの意志で舞台を成功させようと力を集める。決して一枚岩ではないところが、かえって現実っぽい。

落ち着いたこの映画の中で、登場人物が歌って踊るクライマックスのステージは、大きな見せ場になっている。とはいえ、このドラマの中心は、あくまで主人公たちの心の動きにある。


みんな、心が叫びたがっている


ヒロインは、小さい頃のトラウマが元で言葉が発せなくなり、無理にしゃべるとお腹が痛くなるという〝呪い〟にかけられた少女、成瀬順。そして王子様の役割をになうのが、本音をなかなか口にしない、音楽が好きな少年、坂上拓実。ここに、チアリーダー部の優等生、仁藤菜月と、怪我でやさぐれた元野球部のエース、田崎大樹が加わって、メインの4人となる。さらにクラス全員をまじえて、物語は群像劇として進む。

タイトルの「心が叫びたがってるんだ。」を体現しているのは、まちがいなくヒロインの順だろう。言葉を発することのできない順は、前半、拓実たちとの会話をすべてメールで行う。目の前の拓実と延々メールで会話するシーンは、順の奇妙さを浮かび上がらせるが、同時にSNSなどでつながりあう、昨今のコミュニケーション事情そのものもイメージさせる。

やがて、「叫びたい心」を順以外の3人も抱えていることが次第に見えてくる。拓実は、過去に思ったことを口にせず、行動に移さないことで後悔したことがあった。菜月は、中学時代に別れた拓実に対して、今も言葉にせず、ぐっと黙っていることがある。いつも大声で怒鳴っていて無口とは無縁に思われた大樹は、思わぬ現実に直面したことで、心の中に行き場のない思いがわだかまっていく。

言いたいことを言えない、本音を隠すといったことは、誰にでもあることだ。だからこうした4人を見ていると、誰かのどこかに自分の思いがチリチリと共鳴する。

劇中何度か、本音が叫びになって噴出し、見る者をドキッとさせるシーンがある。たとえば大樹に、後輩が今までの不満をぶちまけるところ。たとえば菜月と拓実の会話。そして、一番の山場で順が拓実に言葉を投げつけるところ……。

でもそれは、「心の叫び」ではない。声に出せたら終わりなのではない。むしろ、言葉にしたから崩れはじめるものもあるのだ。順が心を閉ざすきっかけになった過去の出来事のように。

本当に心が求める叫びは、より切なる願いであり、届いて通じ合って初めて完結する。その願いは、ミュージカルのステージを成功させることによって昇華され、4人を未来の次のステージへ動かしていく。それぞれの小さくて大きな一歩が心地よい。

田中将賀(キャラクターデザイン・総作画監督)の手によるキャラクターが実にいい。派手さを抑えた繊細な表情を描き出すいっぽうで、「あの花」でも多用された漫画っぽいコミカルな表情や、ふにゃっとした表情変化が、いいアクセントとなっている。


文化祭的なグダグダの何もかもが皆懐かしい


パンフレットの監督インタビューによれば、この作品は当初「文化祭もの」として企画されたという。だが、メインキャラクター以外の生徒たちについてもしっかり描くために、舞台の仕掛けをこじんまりさせたそうだ。

確かに、「ふれ交」当日のクラスの1人ひとりの生徒たちには、それぞれにいいセリフがあって印象深い。最初はミュージカルにあまり協力的でなかったクラスメイトたちも、それぞれの得意技を生かして参加するうちに、「この舞台を成功させたい」という思いでまとまっていく。

そもそも、「ミュージカルをやろう」と決める最初の相談からしてもうグダグダだ。誰もが部活や勉強に忙しく、クラスの出しものなんてものに余計な時間を取られたくはない。適当なものでお茶をにごそうとしているうちに、誰かが意見を言って、なんだかよくわからないままにそっちのほうへ話が流れていく。

あまり美化されず、決してクラスが一致団結しているわけではない展開に、「そういえば文化祭ってこんなものだった」というリアリティを感じる。

さて、この映画をおすすめしたいのはどんな人だろうか?

「あの花」が好きだった人は、恐らくすでに注目しているだろう。「あの花」はそれほどハマらなかった、もしくは見ていないという人も、青春ものや繊細な心情を描いたアニメが好みという人なら見て損はないだろう。全体に「あの花」よりも実写ドラマ寄りの雰囲気がある。

「本当に言いたいことこそ、なかなか口には出せない」と言われて、「まったくだよ」と思う人なら、感じるところがあるだろう。「むしろ言えないことばかりだよ」という人なら、心にグサグサ刺さりまくるでのはないだろうか。

あと、ミュージカルが好きな人にも注目してほしい。往年のミュージカルの名曲が登場するし、「ミュージカルを上演する高校生」を描いているという意味でも興味深い。

さて、気持ちよく世界観にひたったら、聖地巡礼に出かけてみるのもいいだろう。

舞台となっているのは、「あの花」と同じ埼玉県秩父市。風景には必ず山々が映りこむ、起伏に富んだ美しい風景を持つ土地だ。

劇中には秩父札所10番の大慈寺、西武秩父線の横瀬駅など、実在する場所が登場する。また、順たちが通う高校は、栃木県立足利南高等学校がモデルになっている。冒頭に登場するラブホテルにもモデルがあるらしい!?

アニメは、舞台も描写もリアルがよいのかというと、そういうわけではない。現実を突き破ってこそのフィクションであり、あんまりリアルリアルばかり言っていると「じゃあ、実写でやれば?」ということになる。

でも、アニメはどこまで行っても実写ではなく、透徹した演出とキレイな絵の集合体だ。そこに共感を呼ぶリアルな感覚を追加しようと思えば、背景や心情描写の現実感に加え、ちょっとした仕掛けも必要になる。

考えてみればこの「感動青春群像劇」が、ラブホテルで始まり、クライマックスのシーンもラブホテル、というのは、なんとも俗で悪趣味ともいえる。そのアンバランスさが、ちょっとした毒とナマっぽさとして、スパイスのように利いている。

涙を流してスッキリ、というのとはちょっと違うけれど、見終わってしばらくしても、日常のすきまでふと、ワンシーンやセリフ、順たちの必死な表情がよみがえってくる。そして、あたたかくて懐かしい曲を口ずさんでみたくなる。そんなふうにじわじわと、心のすきまに染み入ってくる作品だ。




(文・やまゆー)

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