【犬も歩けばアニメに当たる。第16回】3か月めのさらにその先へ! 「KING OF PRISM by PrettyRhythm」

2016年04月02日 11:000
(C) T-ARTS/syn Sophia/キングオブプリズム製作委員会

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女児向けのアイドルアニメ「プリティーリズム・レインボーライブ」のスピンオフ作品として誕生した、劇場版アニメ「KING OF PRISM by PrettyRhythm」、通称「キンプリ」は、当初14館で3週間の上映を予定していました。

 

ところが、振り切れた内容と、サイリウムを振ったり声を出したりしてもいい「応援上映」が受けて、クチコミで話題が広がり、上映館が続々と増え、3月下旬現在、公式サイトには当初の4倍以上の62館が上映館として名を連ねています。4月以降の上映館も、全国に広がっています。

 

何がそんなにスゴイのか? 公開3か月目を迎え、まだまだ勢いのある「キンプリ」の魅力を、初めて見た入門者との視点から考えます。


公開3か月目に入っても熱い! 応援上映とクチコミ


劇場で公開される「KING OF PRISM by PrettyRhythm」という作品は、まったくチェックしていなかった。唯一覚えているのが、「男性キャラ5人が全裸の、5枚組前売り券が発売されるらしい」というニュースを目にして「は?」と思ったことだ。

 

その「キンプリ」が、予想外のヒット作になっているという。応援上映が熱く盛り上がり、見た人の感想レポートが意味不明となって崩壊し、誰もが表現する言葉を失い「キンプリはいいぞ……」とつぶやくという、カオスな状態になっている。

 

いったい何が起こっているのか? 2016年1月9日から上映を続け、上映3か月目に入った東京・新宿バルト9に足を運んだ。

 

予約システムを見て驚いた。通常の上映と「応援上映」の回があるが、両方合わせて、朝から深夜まで1日に8回もの上映を行っている。特に人気なのが、「応援上映」の夜20時ごろからの回。平日夜のその回が、1日前には満席となっている。

 

まず、通常の上映を鑑賞する。ぶっとんだ内容、勢いのある歌とダンスシーン。やたらと赤面する主人公(男子)!

 

劇中で男子プリズムスタァが展開するプリズムショーは、フィギュアスケートと歌とダンスを足して、そこにバトルもの要素を追加したようなパフォーマンスだ。必殺技にあたる「プリズムジャンプ」が特にすごい。

 

アイドルが無限に分身して観客1人ひとりに抱きつく「無限ハグ」。おしりからハチミツが出る「はちみつキッス」。ドラゴンがうねり、天空から大剣が降臨し、腹筋が輝く。感動すると、あるいはダメージを受けると服がはじけるように脱げていく。

 

ジャンプするプリズムスタァの心象風景と、ミュージックビデオのようなイメージ風景と、必殺技のパワーを模した幻覚のようなもの、そしてリアルなステージが、渾然一体となって展開される。これがシームレスにつながっちゃうところがアニメのすごいところだ。とんでもない力技なのである。笑いをこらえつつ、見終わった。

 

次に、応援上映を鑑賞することに。会場に入って、「これは……!」と思った。開始前から、場内に熱気がある。暑い。通常上映のときとは、明らかに体感温度が違う。

 

本編前の予告映像が始まると、場内はわっと盛り上がって、サイリウムの波が揺れた。え、いや、ちょっと待って。これ、他作品の予告だから! みんな、「キンプリ」を見にきたんだよね!?

 

自分が何を見ているのかよくわからないままに、「キンプリ」がスタートする。オープニングの企業ロゴに、「タカラトミーアーツ! ありがとうー!」といちいち感謝の声がかかり、そのテンションのまま本編が始まった。

 

本編の「応援」コールは、実にさまざまなパターンがあった。画面で起こる出来事、行動、セリフの1つひとつに反応を返すのだ。それはまるで、作品と「対話」しているかのよう。驚きの細かさなのだ。

 

「そうだ、そうだ!」というあいづちに、「いい返事!」「かわいいね!」「おいしそう!」というほめ言葉、「そんなことないよー!」というフォローに、「大丈夫ー?」という心配の声も。劇中でフリがあれば「どうしてー?」と素直に反応し、「うしろ、うしろー!」とツッコミも忘れない。ダンスバトルシーンになれば、「ヒューヒュー!」「Hooooo!」と展開とともにテンションアップ。サイリウムを振ってノリノリに盛り上げる。

 

そうかと思えば、劇中の観客になりきって、オバレ解散の知らせに「そんなあ……」と悲痛な声をあげ、サイリウムを消灯する。シーンが変われば、シュワルツローズのメンバーになりきり、「グロリアスシュワルツ!」と猛々しく声をそろえる。撮影現場のADよろしく、「回想入りまーす」「後半入りまーす」といった注意をうながす合いの手まで入り、忙しいったらない。

 

その姿は、まさに作品を支え、作品と並走する「サポーター」。それが新鮮に思えた。


今という瞬間に没頭し、自分を投げ出す楽しみ


終わって帰る人たちは笑顔で、同行者と口々に感想を語り合っている。「元気出た!」という声があちこちで聞こえる。週1、週2で通ってきているファンもいるようだ。

 

ものすごい空間だったけれど、同時に、不思議に統制のとれた盛り上がり方だった。

 

「聖闘士星矢」の昔から、女性ファンが多い作品の劇場版で、ファンがキャーキャー声をあげるのはよくある光景だった。ただし、声を上げればセリフが聞き取れないことも多いし、女性ファンといえども、好きな作品は落ち着いて鑑賞したい人も当然いる。「本来の作品ターゲットである小さい子どもが、怖がって引く」と、眉をひそめる向きも多い。声を上げるのは鑑賞マナーとして、決して歓迎されてはいなかった。

 

近年では、「絶叫上映会」「絶叫ナイト」「最叫上映」といったかたちで、「画面を見ながら思いっきり叫んでいいよ」という場が設定され、叫びたいファンは思う存分叫んでいた。

 

それがここにいたって、なんだか、女子の叫びもひとつの「型」を得るにいたったようだ。

 

「型」があると、それは舞台を盛り上げるひとつの装置になる。歌舞伎の「国立屋!」という大向こうからの掛け声しかり、歌劇の終劇のあとの「ブラボーーー!」しかり。

 

いろいろ驚かされたが、「キンプリ」の応援上映の空間に、排他的な雰囲気はなかった。えてしてファンというものは閉鎖的になりがちな一面を持つものだが、「キンプリ」は開かれている。声援を送っているファンは、黙って見ているファンを否定しないし、目を丸くしていた初心者も、場内の空気とともに応援のコールを楽しんでいる。

 

観客の中には男性も見受けられた。まわりが叫ぶ女性ばかりで居心地は悪かったかもしれないが、場内には、「キンプリを楽しみに来た人なら誰でもOK」な熱気があった。



アイドルはファンの声援で輝く


そして、「アイドルはファンの声援で輝く」とつくづく思った。

 

ステージで声援を受け取る生身のアイドルはもちろんだが、びっくりしたことに、映像上のアイドルでもそう感じる。1度目より2度目のほうが、静かに見ているより熱い声援の中で見ているほうが、おもしろさや楽しさは倍増し、キャラクターも魅力的に感じる。

 

今という瞬間に没頭する楽しみ。自分を投げ出す楽しみ。映像と、大好きなあの作品と一体になって、声を上げて自分を解放して、リズムに身を任せて。

 

アニメを見るのは、音楽を聴くのに似ているかもしれない。

 

たぶん、「キンプリ」の応援上映は、ライブの楽しみ方に似ている。同じ者を好きな人たちが集まって、同じ時間を共有する。一緒に盛り上がる。そして映画だからこそ同じ「ステージ」を何度も楽しめる。ライブから、熱狂する楽しみを切り出すことに、ファンは成功したのだ。そこに生身のイケメンがいなくても、問題ない。

 

見終わったときには、サイリウムを持ってきていなかったことがちょっぴり残念に思えていた。だって、たとえド素人でもサッカーの試合を見にいく時は、ユニフォームを着てフェイスペインティングをして声を上げた方が、盛り上がって楽しめるよね?

 

アニメファンがそういうことをやってもいいはずだ。要は楽しんだもの勝ちなのだ。

 

もともと「キンプリ」は、潤沢な予算のある恵まれた作品というわけではなかったという。それを、ファンが応援して支えて、クチコミでヒットにつながった。こういう泥臭さも好ましい。

 

願わくは、ノリノリで作られた最後の予告のその先を、やはり新作で見たいものだと、いつの間にか思っていた。

 

今から見にいこうという人は、ぜひサイリウムを持って、応援上映に行くことをお勧めする。それが正しいこの作品の体験のしかただと思う。

 

……「キンプリ」はいいぞ。

 

 

(文・やまゆー)




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上映開始日: 2016年1月9日   制作会社: タツノコプロ
キャスト: 柿原徹也、前野智昭、増田俊樹、寺島惇太、斉藤壮馬、畠中祐、八代拓、五十嵐雅、永塚拓馬、内田雄馬、浪川大輔、蒼井翔太、武内駿輔、関俊彦、森久保祥太郎、三木眞一郎
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放送日: 2013年4月6日~2014年3月29日   制作会社: タツノコプロ/同友アニメーション
キャスト: 加藤英美里、小松未可子、芹澤優、佐倉綾音、戸松遥、後藤沙緒里、内田真礼
(C)T-ARTS/syn Sophia/テレビ東京/PRR製作委員会

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