日本のラノベ、ネット小説は時代遅れだと中国で言われるのはなぜか 中国オタク事情新年編【中国オタクのアニメ事情】

2020年01月01日 12:000

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逆に中国の作品を日本に持って来たら……?


また逆に、中国のネット小説系の作品を日本に持って来るのにも少々難しいところがあるようです。
中国のオタク界隈では、自分たちの知っている中国で大人気のネット小説作品を日本のオタク界隈に持っていけば大人気になる、覇権作品になるという話がそれなりの頻度で出てきますが、実際のところ日本に入った中国のネット小説系作品やネット小説原作アニメの状況を見ると、なかなか簡単にはいかないようです。

これに関してはイロイロな理由が考えられますが、個人的に大きいと思われるものが2つほど思い付きます。
ひとつは中国のネット小説作品の背景知識やお約束が日本ではあまり知られていないこと。もうひとつは、中国のネット小説が中国で勝ち残るために築き上げられた「攻略法」による作品構成が、日本では通用しがたいということです。

ネット小説は、読者との距離が近く、読者からの要求や人気要素が反映されるペースが速いことから、国や文化ごとの嗜好が強く出て特定の方面に特化される傾向がありますが、中国のネット小説でも人気作品は中国の読者の間で共有されている知識や感覚が前提となっているものがほとんどだそうで、たとえば上述の「玄幻」や「盗墓」、「軍人」などの人気ジャンルは、どれも中国の歴史や社会背景関連の要素が強く出ています。
また作中の登場人物の嗜好や動機、ほかのキャラや社会に対する感覚なども日本とは微妙に異なるものがあるそうですし、日本人の一般的な知識や感覚では引いてしまったり、笑うところがわかりづらいといったケースも多々あるようです。

それから中国のネット小説の「攻略法」についてですが、上述の通り、中国のネット小説は文字数が多ければ多いほど作者は稼げて、読者もお得感があってうれしいといった事情があるので、その作品で主人公が大活躍できる手段やノウハウ、世界観説明などあの手この手で文字数や話数を増やすのが常套手段となっているそうですが、これが日本ではあまり歓迎されないという問題があります。
もちろん日本のネット小説でも、初動から量で新規をつかむのが基本で、定期更新を守っている作品が強いとされていますが、あまりに長くなると今度はファンが離れていくうえに、完結を不安視されることになります。

この中国の攻略法や、日中の読者の受け取り方の違いに関して詳しい方と話したことがあるのですが、

「日本のネット小説は、課金がない分、読者は時間をリソースとして投入することになっているので、文字数稼ぎ的なことが中国よりも嫌われやすい傾向がある」

「中国ではひとつのコンテンツに入れ込む傾向が強いので、量がそのまま有効なアピールになるが、日本の読者は複数の作品を追いかける、別ジャンルの趣味も並行して楽しんでいることがほとんどなので、水増し要素だと否定的に受け止められてしまうこともある」

「新しい要素、流行が中国では評価されるし、古いというだけで微妙な評価になりがちだが、日本ではマンネリな要素が即座に否定されるわけではなく、むしろ安定した需要につながっているところもある。さらに日本では、定番のお約束ネタをパロディにしたり掘り下げたりといった作品が出て評価されることもあるので、中国の攻略法で作られたコンテンツがそのまま日本に刺さるとは限らない」
などといった指摘が出てきました。

ちなみに、日本に作品を持って来ることを考えなくても、現在の中国のネット小説に関してはイロイロと難しい段階に来ているそうで、なかでも「中国のネット小説市場に特化し過ぎた作品」が増えているというのが頭の痛い問題となっているのだとか。

中国のネット小説は単体で収益が出ることもあり、まずその場所で勝ち抜くことを重視してきた結果、ある種の恐竜的進化をしてしまい、その文章量の多さや流行の移り変わりの速さが他のメディアで活用する、原作としての使い勝手を難しくしているといった話があるそうです。

特に「量」に関しては、他のメディアの原作として活用する際に編集構成の手間がかかることから、比較的予算や人員が豊富な実写ドラマではまだしも、予算や人員の不足しがちなアニメでは使い勝手が悪いといった認識も出てきているようです。
そして流行の移り変わりの速さに関しては、実写やアニメの企画が動き、制作完了して配信される頃にはネタが陳腐化してしまうという悲劇も生み出されるようになっているそうです。

それに加えて、近年は中国でも若い世代はネット小説を読むよりも動画を楽しむほうに進んでいて、ネット小説の「量」が新規にとっての壁になることや、稼ぐためにテンプレ展開を繰り返すことによる量の水増しに対する視線も厳しくなってきているそうです。

また中国特有の事情として、中国社会で大きな存在感を示すことになってきたネット小説に対する政府関係など上のほうからの規制がどんどん強くなっていることに加えて、読者からの直接的な要求も強烈になってきており、上下の圧力が強くなっています。そこに、商業的なスタンスで稼げる作品に注力する作家が主流になってきていることから、いよいよ作品の幅が狭くなるなど、中国のネット小説は現在さまざまな意味での曲がり角に来ているようにも見えてしまうそうです。


日本のラノベやネット小説の「軽小説」と中国のネット小説の区別を前提に


以上長々と書いてしまいましたが、日本のラノベやネット小説の「軽小説」と、中国のネット小説には評価の前提となる部分ですでにさまざまな違いが出ているかと思われます。
現在は日中どちらもコンテンツの方向や環境が独自のものとなってきていますし、その両方を詳しく知る人からは
「大まかなジャンルとして見た場合『小説』以外には重ならないのでは?」
という話も出てきたりします。

この辺りに関してはなまじ初期の頃に共有されていた認識の差が小さかったことから、その後の日中双方の独自の変化というものがなかなか意識されない、他国のコンテンツを自国のコンテンツの感覚で判断しがちな状況になっているようです。
特にネット小説は、今後のオタク向けのコンテンツでも重要な位置に来るかと思われますが、その際に日本と中国の「ネット小説」を同じカテゴリーで扱うのはイロイロと混乱を生むことにつながりかねません。

作品を通じた交流や、日本の作品を中国に持っていく、あるいはその逆の流れの中で、双方のネット小説系コンテンツを区別することや、現地の「ネット小説ファン」がどのようなものを楽しんでいるのかといった事情を把握しておくことなどを意識していけば、失敗を減らすこともできるでしょうし、さらに面白いことにもできるのではないでしょうか。


(文/百元籠羊)

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