絵コンテが最重要
─劇伴ではどのような資料を手がかりにして、作曲を始めるのでしょうか?
三澤 一番大事なのは、絵コンテです。そして声優さんの演技ですね。コンテにはタイムが書いてあるので、ストップウォッチを持って、声に出して読みながら、「このくらいのスピード感かな」などと確認して、イメージを練っていきます。
聴いている人をどんな気持ちにさせるのか、どんな雰囲気のシーンにするのか、というのが劇伴の役割だと思うんです。なので、結果的にメロディから作る時、結果的にコードから作る時というのはあるんですけども、僕の場合はコンテを読んで、どういう雰囲気を出したいのかを考えるところから始まります。
─三澤さんは長い間、太田雅彦監督とご一緒されていますが、作り方に違いや特徴はありますか?
三澤 監督と直接話をして、進めていく方法をしています。監督が音楽メニューも書かれますので、その相談も受けつつしつつといった感じでしょうか。なので、太田さんの作品に関しては、意思疎通ができている曲については、まるっきりNGというのはあまりないですね。
─太田監督と感性や好みが合致している、ということでしょうか?
三澤 それがそこまでフィットしてないんですよ(笑)。映画のサントラや演出の話で盛り上がることもあるんですが、お互い「違いますねぇ」と相容れないことも少なくないです(笑)。
─「干物妹!うまるちゃん」(2015、2017)には、キャラクターのテーマ曲がありました。三澤さんのツイートによると、海老名ちゃんの曲は、秋田の田園風景からイメージをふくらませて、ベートーヴェンの「田園」につながったとか。
三澤 シーンよりもキャラクターがフォーカスされている時、したいという要望がある時は、そうした作り方をすることもあります。「うまるちゃん」は、「4人それぞれの音楽で、キャラクターの個性をプッシュしたい」というお話がありました。
たとえば、シルフィンちゃんは元気がいいけれども、何かテンポがおかしいキャラなので、変拍子にしたり、変な構成にしたり。うまるちゃんは、「家うまる」、「外うまる」といった分け方がされていて、それぞれ作り方を変えています。「家うまる」のほうは音楽的に「どこまでダラダラできるか」を考え、その時ふと、昔やった「ドラゴンクエストI」のことを思い出しました(笑)。最後の竜王の城を1階1階降りていくと、メロディは一緒なんですけど、調とテンポがドンドン下がっていくんです。確か。その考え方をちょっと使わせていただきました。
─「ゆるゆり」(第1~2期、2011~12)の劇伴の特徴は?
三澤 「ゆるゆり」の劇伴全般としては、輪郭線を薄めにしてやわらかい印象にしたいというキャラデザのコンセプトをうかがったので、音像の輪郭もやわらかい感じに仕上げています。
「ヒナまつり」制作秘話
─絵コンテといえば、「ヒナまつり」(2018)は、及川啓監督が全話数、描かれていますね。
三澤 監督のやりたいことがコンテではっきりしているのは、ありがたいですね。「ヒナまつり」は3話くらいまで、ダビングにも参加させていただきました。
─「ヒナまつり」では、劇中歌「エンジェル~翼は砕けてもまた生える~」(第4話)も作曲されています。
三澤 この曲は原作の大武政夫先生から、「BOØWYみたいにしてほしい」とリクエストがあったんです。1話のダビングの時に先生にお会いしたんですが、「本当にBOØWYみたいになるとは思わなかった!」と喜んでくれて、よかったです(笑)。
ちなみに、この曲のアレンジャーは山崎真吾さんにお願いしました。「ガヴリールドロップアウト」(2017)のエンディング曲「ハレルヤ☆エッサイム」を作編曲した方です。「ハレルヤ☆エッサイム」、すごくかっこいいですよね。特にボトムが。山崎さんには昔、歌もののアレンジを人づての紹介でやっていただいたことがあったんですが、その時も「ボトムがかっこいいなぁ」と印象に残っていたんです。当時はリモートで作業していて、面識がありませんでした。なので、「ハレルヤ☆エッサイム」の山崎さんと同一人物か自信がなかったんです。「ガヴリール」の打ち上げの時にやっとお会いできて、やっぱり同一人物だったんですねと(笑)。そして、また何かご縁があれば、と話していたんです。
打ち込みと生音について
─生音の使用については、どのようにお考えですか?
三澤 「打ち込みより生のがよい」とよく言われる言葉から誤解しないでほしいんですけど、打ち込みより生のほうがすぐれている、上位のものであるということは全然ないです。生には生のよさがあるし、打ち込みには打ち込みのよさがある。別のものです。ただし、打ち込みで生音に近づけようとする場合は、それが達せられないので、「やっぱり生のほうがよいね」となるのだと思います。
なので、生音が録れる予算があっても、打ち込みのほうがいいと判断をすることもあります。音楽単体としては、より大きな編成で情感たっぷり、迫力万歳な音楽が、そうではないものよりも価値があると思われることもあると思いますが、劇伴音楽としては、映像や演出意図とのマッチングのほうが大事だと思います。
─「干物妹!うまるちゃん」の場合はいかがでしょうか?
三澤 生も必要だったので結構録っているんですけども、その生々しさが出過ぎないよう、シンセと合わせたりしています。マリンバなんかは打ち込みでやっていますね。マリンバを生でやると、音楽性は高くなりますが、作品的にはどうしてもトゥーマッチな感じになるだろう、と僕は感じました。なので、あえてちょっとだけ機械的な感じにしています。その機械的な感じをベースにして、そこに歌いすぎない生オケを重ね、響きは豊かで表情もちゃんとついているけども、ピシッとしたシェイプになるようにしています。
─「うまるちゃん」には管楽器曲もありますね。
三澤 フルート、リコーダーの方とはご縁が長いんですけども、最初はすごく普通に上手に吹いてくれたんですよ。上手な方なので当然なんですが。でも、ちょっと違うかなと思うところがあって、「下手に吹いてください」というのは適切ではなかったし、「子供みたいに吹いてください」とかも幅が広すぎて。「ちょっと朴訥(ぼくとつ)と吹いてください」という表現が、もっともいい結果に繋がりました(笑)。シンセだと、ピッチがピシッとし過ぎですし、わざと貧相な音で鳴ってくれるリコーダー音源もあるんですが、なかなかちょうどよい朴訥さ加減を音源で出すのは難しいです。この辺は、まだ当面は生演奏のほうがすぐれていると思います。
─「さばげぶっ!」(2014)第7話「しゅりょうぶっ!」には、渋い尺八曲がありました。
三澤 尺八は生音です。やはり必要だと判断したので、この1曲のためにわざわざ尺八奏者の方に来てもらいました。確か20分くらいで、「ありがとうございました! 以上で終了です!」と(笑)。
─「さばげぶっ!」には映画のオマージュ曲もありましたね。
三澤 太田監督がサントラマニアなんですよ(笑)。全部、監督のアイデアです。ただ、何から何まで原曲に寄せたりはしていません。あくまで「さばげぶっ!」という作品の中でのオマージュですので、ほかの曲との流れがおかしくならないよう、同じような音色感やサイズ感に収まるようにしています。
劇伴で声優の演技を引き立たせる
─声優さんの演技も参考にするとのことですが、これについて詳しくうかがえますか?
三澤 書き始める前に、声優さんがそのキャラとして演技しているオーディションの時の声のデータを手配してもらうんです。同じセリフでも演技の仕方、どういう声色で、どういう速さでしゃべり、どういうテンションで話すのかによって、キャラクターの色づけが違ってくるわけじゃないですか。演技を引き立たせるとか、その演技が正しく伝わるようにすることも劇伴の重要な役割だと思うので、それを聞きながら音楽のテンポ感とか、音のアンサンブルとか、声に当たるような楽器にしないとか、バランスや相性を考えて書いています。
どんな曲でもサウンドトラックに
─そのほかに、プロとして気をつけていることは?
三澤 半分笑い話ですが、なるべく耳掃除をしないようにしています。昔はよかれと思ってよくやっていたんですが、ある時、耳から血が出てきて、あわててお医者さんに行ったら、「耳掃除しすぎだよ」、「耳は一切掃除しなくていい」って言われたんです。
─作品で使用された曲は、どんな曲でもサウンドトラックに入れるそうですね。
三澤 僕自身、聴きたい曲がサントラに入っていなくて、切ない気持ちになった経験が何度もありまして……。中にはものすごく地味な曲もあると思うんですが、せっかくお金を出して買ってくれる方が、全部聴きたいと思っていたら? と思って、なるべく全部入れられるようお願いしています。
─愛用の楽器は?
三澤 マスター鍵盤として使っているYAMAHAの「P-80」です。奥行の狭いシンプルな電子ピアノなんですが、タッチとサイズがすごくよくて、ずっと使っています。もう15年くらいは愛用していますね。高いキーボードっていろんな機能があるんですが、奥側にいろんなツマミや液晶があるためモニターとの距離が遠くなっちゃって、僕にとっては使い勝手が悪いんです。今まで何度か修理しています。鍵盤も消耗品のようで、たくさん弾いていると、弾いた鍵盤がゆっくり戻ってくるようになります(笑)。そろそろ部品在庫がなくなって修理もできなくなりそうなので買い替えたいんですけど、適切なものが見つからなくて困っています(苦笑)。
─2014年時点では音源用に3台、シーケンサー用に1台、Protools用に1台、パソコンを所持していたとのこと。現在もこれらで作曲を?
三澤 今はちょっと減りましたね。パソコンの性能が上がっていることと、シーケンサーと音源との親和性がすごく高くなっていることが理由です。昔は音源を立ち上げて、それを外部から命令を出して、ただ音を鳴らすだけというサンプラー的な役割だったんですが、今はもっと複雑な制御ができるようになったり、ソフトの仕様としてシーケンサーと同じパソコンで動かすことが求められたりしているからです。できることなら1台ですませちゃったほうがスッキリもしていいと思うんですけど、それだとスペックが足りないので、3~4台くらいでやっています。
─作品参加の基準はありますか?
三澤 作品を選ぶことはないですね。「やってください」と言われれば、「やらせてください」と答えます。ただ、スケジュールの問題だったり、その他諸々の事情で、役割を十分に果たせないなと思った時は、まれにお断りすることもあります。
─息抜きでしていることは?
三澤 ゲームをちょいちょいします。ここ1~2年だと、「Minecraft(マインクラフト)」を一番よくやりました。音楽もすごくよくて。あとは、PCで「信長の野望・大志」、「PUBG」(PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS)、アプリで「実況パワフルプロ野球」、などもやっていましたね。