作曲家・三澤康広 ロングインタビュー!(アニメ・ゲームの“中の人” 第25回)

2018年08月04日 08:000
三澤康広さん

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「アニメ・ゲームの“中の人”」第25回は、作曲家の三澤康広さん。ゲーム制作会社・コーエーの出身で、独立後はアニメや実写ドラマの劇伴作曲家として活躍している。アニメファンなら「みなみけ」、「みつどもえ」、「ゆるゆり」、「恋愛ラボ」、「さばげぶっ!」、「干物妹!うまるちゃん」、「ガヴリールドロップアウト」などの太田雅彦監督作品で、三澤さんの音楽を耳にしたことがあるはずだ。いわゆる日常コメディ系の作曲家として紹介されることの多い三澤さんだが、「がくえんゆーとぴあ まなびストレート!」、「ココロコネクト」、「琴浦さん」といったドラマ性の高い作品でも秀抜な楽曲を提供している。2018年は及川啓監督の「ヒナまつり」において、各シーンに見事にマッチした音楽を聴かせてくれた。当記事ではそんな三澤さんの影響を受けた作品、劇伴作曲のこだわり、転機になった仕事、今後の目標などをじっくり語っていただいた。

 

制作段階でおもしろさが違う劇伴


─このたびはお忙しい中、まことにありがとうございます。最初は恒例ですが、三澤さんがアニメーションの劇伴作曲にやりがいを感じるのは、どんな時ですか?


三澤康広(以下、三澤) 制作段階でいろいろ違うんですが、打ち合わせしている時に、「このシーンはこういった感じの音楽にしたいね」と合致するところがあったら、それは感性を共有できたことになるので、誰でもうれしいと思うんですよね。もし違った場合でも、自分の考えにないものに触れることができて、「なるほど、こういった考えやとらえ方があるんだ!」と新しい見方ができたら、それもおもしろいです。


曲作りに入ると、その世界にどんどん没頭していくので、集中して何かに浸っていられるというのはやっぱり楽しいですね。時には、書いたけど何だかちょっと違くない? みたいに想定通りいかないこともあって、「ああ違う、ああ違う」とトライ・アンド・エラーを繰り返しながら、「ああ! こういうことか!」というのが見えてくるのも、うれしいところです。なかなか納得できる方法がみつからない時とか、「もうどっちでもいいや」といった気持ちになる瞬間もあるんですが、それでも考えていれば、必ずよい解決方法が見つかるものだと思います。そして、結果的にはいい形に収まるので、振り返ってみれば、「いろいろあったけど、楽しかったね」と思えるんです。


劇伴音楽なので、曲が完成したらそれが作品の完成形というわけではなく、作品そのものをお客さんによろこんでもらわないと、意味がないと思います。なので、たくさんの人に「音楽がよかった」と言われることは、必ずしも必要ではないと思います。劇伴音楽は作品の魅力や、監督の「この作品のこういうおもしろさを伝えたい」という考えがありきだと思います。なので、作品の魅力がきちんと伝えられて、それをよろこんでもらうことが目的ですし、それができればとても嬉しいです。もちろん、その作品が「よい音楽だと思われる音楽」を必要としていて、その結果そのように感じてもらえれば、それはすばらしいことだと思います。

クラシック、映画、アニメ・ゲーム……多様な音楽を吸収した少年時代


─影響を受けた作品は?


三澤 子供のころ、夜、父親がよくテレビで映画を観ていたんですよ。それを僕も一緒に観ていて、ジェームズ・ホーナーとか、ジョン・ウィリアムズとか、そういう人たちの音楽がなんとなくいいなと思っていて、とても影響を受けていると思います。具体的な作品としては、有名どころだと「ジュラシックパーク」にはすごく印象的なシーンがありまして、恐竜の島に行って広い景色がぱぁっと見える瞬間の曲の気持ちよさは、今でも忘れられないんですよ(編注:音楽はジョン・ウィリアムズ)。


クラシックピアノを習っていて触れる機会が多かったこともあり、ベートーヴェンとか、機能美、構造美のあるクラシックも好きです。それから高校のころ好きで観ていた、「料理の鉄人」というテレビ番組がありまして、そこで流れていた音楽がすごくかっこよくて。後に映画「バックドラフト」の曲だと知ることになるのですが、料理対決番組がハンス・ジマーが好きになったきっかけでしたね(笑)。ハンス・ジマーといえば、「ザ・ロック」もすごく好きで影響を受けました。


─アニメやゲームではいかがでしょうか?


三澤 ゲームはドラクエとかファイナルファンタジーは当然として、あえて言えば、ファミコンの「ドラえもん」(1986)です。今も結構フレーズを覚えているくらいなんですけど、アニメ主題歌のモチーフをゲームの中で上手に使っていて、それが子供心にすごくいいなと思ったんです。


アニメは「天空の城ラピュタ」(1986)ですね。とにかくいろいろ衝撃で、ストーリーに沿って新しいモチーフがどんどん出てくるんですが、作品を通して統一感があって、それらがいいシーンでいい感じに効いてきて。それに、音楽が映像に合わせて書かれているんだと頭でちゃんと理解できたのは、このアニメが最初だったかもしれません。作品そのものも大好きになりました。いとこにアニメ好きがいて、レーザーディスク特典だったのかな? それの録音台本をくれたんですよ。それをめちゃくちゃ読み込んでセリフを覚えて、一緒に流れている音楽も全部覚えました。友達から譜面をもらって、ピアノで弾いたりもしていました。


─今は月にどのくらい曲を聴かれますか?


三澤 何か作業をしていたり、構想を練ったりしている時には、まず聴かないですね。何となく世界が作られてきて、こういう感じでいこうかなと思っている時に全然違うのを聴いて、「あ、こういうのもいいかな」なんて思うと、いろいろ迷いが出てきちゃうので。コンビニに行く時も耳をふさいで、「何も聴かないぞ!」みたいな感じです(笑)。


そうじゃない時は、今は「Netflix」や「Hulu」があるので、映像と一緒に新しい音楽に触れることが多いです。観る時は1日10時間以上、観ることもありますね。集中するタイプなのですが、そんなに暇なのかと言われそうですね(笑)。たとえば、「ゲーム・オブ・スローンズ」はすごく好きで、最新話まで2周しました(笑)。音楽が伝統的な劇伴の作りをしていて、各勢力にそれぞれのテーマがあって、勢力Aと勢力Bが合わさる時にはその2つのモチーフがいい感じに混ざったりするんです。その瞬間に流れるフレーズに意味があるんです。使い古された手法かもしれないけど、僕は本当に好きです。


昔は中古のサントラを買いあさっていろいろ聴いたりしたんですけど、映像を想像するだけで実際にどうなっているのかわからないので、もやもやしちゃうんです。だから、映像と一緒に聴くほうが圧倒的に腑に落ちる感じもするし、あとは、観ながら「ここ、すごいいい感じで音楽鳴っているな」と思ったら少し戻して、どこからどういう意図で音楽が付いているんだろうと確認できるのもいいんですよね。


Spotifyなどのサービスは、人並みには使っていると思います。特に移動中なんか本当に便利です。気分によって、古いのも新しいのも聴きます。

 

新しい手法を追求し続けるハンス・ジマーを尊敬


─尊敬する方は?


三澤 新しい手法を確立し、それが世間に受け入れられているという点において、ハンス・ジマーはすごくすばらしいなと思います。彼より前の作曲家には、たとえば、あんなに重たいパーカッションをあんなにドンドコ鳴らして、しかもあんなに全面に出してくるやり方って、まずなかったと思うんですよね。そして今では、少しでも映画音楽に興味がある人だったら「ハンス・ジマーのスタイル? ああ、ああいう感じだよね。」とみんな頭に浮かぶ。これは本当にすごいことだと思います。


さらにすごいところは、確立したからそれで終了ではなくて、ここ最近の作品はそこからだいぶ離れたテイストも強く出ていて、より新しいアプローチに向かっていると思います。譜面的にはシンプルになってきているのかもしれません。


映像の演出や編集も、時代によってどんどん変わっていくじゃないですか。だから、ただ音楽が変わっていくということじゃなくて、その時代時代の映像に則した音楽のアプローチで新しいことを試して、しかもそれを高い完成度にしているところが、すばらしいと思うんです。

 

 

リズム重視の曲づくり


─お得意なジャンルはありますか?


三澤 特にないんですよね……。「こういう作品があって、監督がこういうふうにやりたい」がありきで、「それなら、どういうアプローチができるかな?」という考え方をしますから。


ただ、たくさん書いていれば誰だって経験値は溜まっていくので、日常コメディ系が得意かと言われたら、得意なのではないでしょうか(笑)。作品と向き合って、世界を構築して、曲を仕上げるといったことをやっていると、できあがったものに対して満足できたり、不満に思ったりするところが出てくるので、「次はこうしてみよう!」とチャレンジ精神がどんどん沸いてくるんです。


─「がくえんゆーとぴあ まなびストレート!」(2007)の「intermission」は手拍子が大変印象的で、そのほかの楽曲でもリズムにこだわりを感じました。

三澤 「intermission」は、クライアントさんから「手拍子系のこんな曲で」という要望があったんですが、その印象を変えないまま、リズムにはこだわりました。リズムにはこだわりがあります、明確に。僕は音楽を考える時、メロディやコード進行からというよりも、雰囲気とかノリとかから考えるんです。そうすると、自然とリズムとかノリといった要素にも重きが置かれるのではと思います。


─アニメとゲームで作曲のポイントは変わってきますか?


三澤 ゲームのジャンルにもよると思うんですけど、ゲーム音楽のほうがよりポピュラリティが強く、よりわかりやすい音楽が求められる、そういった違いがあるかもしれません。


あと、一般的なゲームだと、演出として音楽を止めることはあっても、音が流れていないことはあまりないと思いますが、アニメの場合は、音楽のないシーンもあって普通じゃないですか。そこは違うところなのではと思います。

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