アニメーション監督/JAniCA代表理事・入江泰浩 ロングインタビュー!(アニメ・ゲームの“中の人”第6回)

2016年10月10日 09:000
入江泰浩監督

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アニメ・ゲーム業界の第一線で活躍するクリエイターたちにインタビューを行い、仕事の流儀や素顔に迫っていく本連載。第6回はアニメーション監督で、日本アニメーター・演出協会 (JAniCA)の代表理事でもある、入江泰浩さんにお話をうかがった。アニメーターとして「天空のエスカフローネ」、「機動戦士ガンダム 第08MS小隊」、「機動武闘伝Gガンダム」、「カウボーイビバップ」、「スプリガン」、「鉄コン筋クリート」、「ソウルイーター」といった数々の名作アニメに参加し、監督として「エイリアン9」、「KURAU Phantom Memory」、「鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST」、「CØDE:BREAKER」、「灼熱の卓球娘」などを制作してきた入江さん。これまでの歩み、監督作品、今後の目標、JAniCAの活動やアニメ業界について思うことなど、幅広く語っていただいた。



アニメは「作品をまたいで自分の色を出せる仕事」



─本日はお忙しいところありがとうございます。早速ですが、まずは入江さんの影響を受けた作品を教えていただけますか?


入江泰浩(以下、入江) アニメを仕事でやろうと思ったのは、中学1年のころに宮崎駿監督の「風の谷のナウシカ」(1984)を観てからですね。それ以前も「超電磁ロボ コン・バトラーV」(1976~77)や「超電磁マシーン ボルテスV」(1977~78)といったロボットもの、宮崎監督作品でいえば「未来少年コナン」(1978)を観ておりましたが、その時にはアニメを仕事にしようとは思っていませんでした。しかし、「コナン」の後に「ナウシカ」を観ると、両作品のキャラクターが同じ走り方をしていることや、同じ人が作っているということがわかってきたのです。このような形で作品をまたいで自分の色を出せる仕事があるということに気付いてからは、アニメーターという仕事に興味を持つようになりました。

 

─アニメ以外で影響を受けた作品はありますか?

入江 当時やっていたドラマはたくさん観ていました。私は「太陽にほえろ!」よりは「Gメン'75」のほうが好きですね(笑)。NHKの割とシビアめなドラマも観ておりまして、「銀河テレビ小説」と「ドラマ人間模様」は好きで観ていました。「続・事件 海辺の家族」「続・続事件 月の景色」や「夢千代日記」、杉本哲太さん主演の「まんだら屋の良太」が大好きでした。

 

―アニメーターの前は、どういったお仕事に興味がありましたか?

入江 「ナウシカ」を観る前は、陶芸家になりたかったんですよ。ろくろを回して皿や壺を作っていくのをTVで観たのがきっかけで、小学5~6年のころには近くの陶芸教室に通っていました。今思えば、「違う形のものが、日ごろ見慣れたものに変化していく」ことに強い興味を抱いたのだと思います。

 

─中学時代にはアニメ制作の練習をされていたのですか?


入江 アニメは作ってみたかったのですが、セルが入手できなかったので、近くのアニメショップで動画用紙を買って練習していました。




高校卒業後、中村プロダクションでアニメーターデビュー


─アニメーターになるまでの道のりをうかがえますか?専門学校などに通われたのですか?

入江 専門学校には通っていません。中学時代からなりたいと思っておりましたが、両親から「高校だけは出てほしい」と言われたため、高校卒業後に上京しました。山口県に住んでいたこともあり、最初はどうすればアニメーターになれるのかわからず苦労しました。高校を卒業するころには、求人広告を使って応募するというのがわかってきましたので、アニメージュに掲載されていた中村プロダクションの広告に手紙を出して、面接を受けるために上京しました。

 

─大学進学はお考えになりましたか?


入江 高校2~3年のころには、「王立宇宙軍 オネアミスの翼」(1987)などを制作していたガイナックスの方たちが、皆さん美術系の大学出身であったということもあり、デッサン教室などに通って、美術大学に行くための勉強をしていた時期もありました。しかし、アニメーターになるためにさらに4年間、大学で過ごすのはまどろっこしいと感じるようになり、大学進学は中止しました。当時、宮崎監督が「となりのトトロ」(1988)を発表され、続いて「魔女の宅急便」(1989)の制作にも取りかかっておられたので、そこにいつまで経っても参加できない自分に焦りがあったのだと思います。

 

─最初に面接を受けた、中村プロダクションさんに入社されたのですね。


入江 そうです。今思うと、ひどい絵を持ち込んだものですから、向こうも困惑していたと思います(笑)。上京して面接を受ける前日には、スタジオジブリにも見学に行きました。当時ジブリは吉祥寺にあったのですが、朝早くにスタジオを訪れ、制作の方にお願いして、描きたての美術背景や仮塗したセルなどを見せてもらいました。

 

─中村プロダクションさんでの最初のお仕事はいかがでしたか?


入江 動画として入ったのですが、きれいな線は引けないし、枚数も上がらないし、動画としての戦力にはなっていなかったと思います。第二原画をやらせてもらってからも、最初はどうやってキャラ表に合わせて描けばいいのかわからず、苦労しました。うまい人たちは二原から原画にサクサクと進んで行くのですが、自分は「思っていたように描けないのはなぜなんだろう」と考えていました。いっぽうで、「自分はもっとすごい仕事をするんだから、今はたまたまできないだけ」とか、「ゼロから描けば、もっとうまく描ける」とか、根拠のない自信があった時期でもあります。

 

─当時から監督志望で?


入江 「宮崎駿のように自分の思い描いた物語をアニメーションにしたい。そのためにアニメーターになったんだ」という一念はずっとありました。辛い時もそれを支えにしていたというのはありますね。

 

─最初の動画・二原のお仕事は何ですか?


入江 最初やった動画は「GO! レスラー軍団」(1989)ですね。当時は動画マンを全員エンドロールに載せるということはなく、制作会社でまとめたり、制作会社の数名を載せるという形でしたので、自分の名前が載ったという記憶はありません。最初の二原は「魔神英雄伝ワタル2」(1990~91)です。実は「ワタル2」は、二原より先にL/Oを1~2カットやらせてもらったのですが、うまく描けなかったため、二原からということになりました。

 

─中村プロさんでは、サンライズさんのお仕事をメインでされていたのでしょうか?


入江 二原になってからはそうですね。「ワタル2」の後は、「新世紀GPXサイバーフォーミュラ」(1991)と「太陽の勇者ファイバード」(1991~92)の二原をやりました。中村プロには2年半くらいお世話になり、「ファイバード」の途中までおりました。

 

─当時のご生活は大変でしたか?


入江 幸い親から仕送りをもらっていましたので、「一週間、120円で生活しなきゃいけない」なんてことはほとんどありませんでした(笑)。風呂なしのアパートに住んでおりましたが、当時は銭湯も安かったので、不便はなかったですね。


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