アニメーター・藤本さとる ロングインタビュー!(アニメ・ゲームの“中の人”第14回)

2017年06月18日 11:000
藤本さとるさん

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アニメ・ゲーム業界の生の声をお届けする本連載。第14回はアニメーターの藤本さとるさん。藤本さんは「しゅごキャラ!! どきっ」で総作画監督、「WHITE ALBUM2」や「戦姫絶唱シンフォギア」シリーズでは総作画監督とキャラクターデザインを務めた、ベテランアニメーターだ。「スケッチブック~full color's~」、「ARIA THE ORIGINATION」、「たまゆら~hitotose~」、「異国迷路のクロワーゼ」、「ガールズ&パンツァー 劇場版」などにも作画監督で参加しており、美少女アニメの分野で数多くの実績を残している。当インタビューでは影響を受けた作品、経歴、仕事に対するこだわり、アニメーターに求められる資質能力、今後の目標などについて語っていただいた。


「セーラームーン」で作監、演出に興味を持つ


─本日はどうぞよろしくお願いいたします。最初に、藤本さんが影響を受けた作品は何でしょうか?


藤本さとる(以下、藤本) 再放送ですけど、子供のころは「宇宙戦艦ヤマト」(1974~75)や「機動戦士ガンダム」(1979~80)といった王道アニメばかり観ていました。出身が静岡であまりアニメの放送がなく、当時は深夜向けというのもなかったんですよ。再放送でやっていた「ヤマト」に心酔していました。


─「ヤマト」を観て、アニメーターに憧れを持たれたのですか?


藤本 いえ、最初は漫画家本人がアニメを描いていると思っていたんです。なので、僕も中学までは漫画家になりたくて、ずっと漫画を描いていました。


ある雑誌でアニメーターがアニメを描いていると知った時には、「こんなに似せて描ける人がいるのか!」と驚きました。当時、TVでアニメーター特集が放送されて、学校でよくドラえもんを描いていた僕は、放送の次の日にクラス中から「お前よりはるかに上手かったぞ」と言われて、すごく落ち込みました(笑)。


「ハイスクール!奇面組」(1985)を観たあたりから、アニメーターにハマっていきました。話数やシーンで絵が違っていたり、特徴ある絵があったりして、作画担当によってかなり違いがあることに気がつきました。


高校1、2年になると、もう立派な作画オタクに育っていました。「美少女戦士セーラームーン」(1992~93)の放送日には、「今日は伊藤郁子さんの作監回だから、早く帰んなきゃ!」と、ダッシュで家に帰っていましたよ。

 

 

高校は柔道部、大学は水産系


─高校で夢が漫画家からアニメーターに変わったのですか?


藤本 それがですね・・・高校時代はほとんど絵を描いていないんです。強くなりたくて、すごく強い柔道部に入ってしまったんです。朝は6時から、夜も22時まで練習して、部活以外のことはしませんでした。帰宅した後は、深夜までアニメを観ていましたが(笑)。


─体育会系の高校生だったのですね。ご卒業後はどういった進路を?


藤本 さらに飛躍した話なんですけど、山口県の水産大学校に入りました。大学に行ってほしいという言う親の希望もあり、漫画家をやってみたいという気持ちをどこかに残しつつも、学費の安い国立の大学を探して行ったんです。そこで船乗りになるための勉強をしていました。


大学では乗船実習というのがありまして、船に乗っている間は何もやることがないんです。ネットもない時代に、新聞も雑誌もないところに閉じ込められて、あるのは先輩が残してくれたアニメのビデオだけ。ほかにやることもなくて、船の中ではずっとアニメを観て、絵を描き続けていました。


親には申し訳ないのですが、親の仕送りとバイトで稼いだお金もあったので、アニメのサークルを作ったりもしました。大学4年間、同級生とアニメを観て意見を交換したり、雑誌に投稿したり、そういうのをずっとしていたんです。


─専攻は違えど、大学時代もアニメ漬けだったのですね。


藤本 大学からアニメは演出や監督で観るようになりました。「セーラームーン」で面白い回はいつも同じ名前の人が演出していることに気がつきました。それで演出家って何をしているんだろうと、佐藤順一さん、幾原邦彦さんに注目していました。

あと気がついたのは、自分の好きなアニメはすべて東映アニメーションの作品だったんです。サテライトにいる僕が言うのも何ですけど(笑)。そこから東映に対する憧れが募り、アニメーターというものになってみたいと思うようになりました。

 

 

入社試験日に実務


─船乗りをあきらめた後は、どのような就活を?


藤本 最初は卒業したら漫画を描くか、漫画の編集か、アニメ雑誌の編集になろうと思っていたんです。大学3年生でゲームの大会に出た時、東京のある出版社に見学に行きまして、そこの編集さんに「漫画業界に入りたい!」とアピールしたこともあるんですが、「3年後に会社があるかわからないから、やめたほうがいい」と言われました(笑)。大学4年時にはアニメーターに絞って決めていました。マンガの投稿でも結果が出ず、あきらめてしまっていたので・・・今思えば大して努力してなかったので当然ですが。


─そして、東映のアニメーターに?


藤本 いえ、全然違います。当時は東映に専門学校(編注:東映アニメーション研究所、2011年3月に閉所)があるのを知らなかったので、とりあえずアニメーターになるにはどうしたらいいか雑誌で調べて、代々木アニメーション学院に入学したんです。そこの先生に「なんで東映の学校に行かなかったの?」と言われた時、「しまった!」と思いましたね(笑)。


─最初に入社されたスタジオは?


藤本 親にも迷惑をかけたので固定給のところを探して、じゃんぐるじむに入社しました。固定給75,000円なので給料の心配はしなくてよかったのですが、仕事量は厳密に決められていました。「クレヨンしんちゃん」(1992~)だと1日動画を80枚、「こちら葛飾区亀有公園前派出所」(1996~2004)だと1日50枚、描くように言われました。1日50枚だと1か月で1,200~1,300枚は行くので、そこでスピードを鍛えられたのが一番よかったですね。


─初めてのお仕事は?


藤本 「THE ビッグオー」(1999~2000、2003)の動画です。就職ツアーの初日にじゃんぐるじむを受けたんですが、面接の時に「今日からうちで働くんだったら、採ってやる」と言われ、いきなり実践をすることになりました。それから3日間、9時から18時までずっと仕事をさせてもらって、「やったぞ、俺はついにアニメの仕事をしたんだ!」と感動に打ち震えていたのを覚えています。その時の仕事がノーギャラだったと気づいたのは10年後のことですが(笑)。

 

大田和寛さんの指導を受け、原画マンに


─原画にはいつ上がられたのですか?


藤本 じゃんぐるじむで1年くらい働いたころ、同期の友人から「A.P.P.P.に来たら、原画をやれるぞ」という話がありました。当時、9時から18時までじゃんぐるじむ、19時から23時までA.P.P.P.で仕事するという二重生活をしていました。体力が限界に近づき、原画試験も始まるということだったので、じゃんぐるじむを辞めて、A.P.P.P.に移ったんです。だけど結局、原画試験は行われず、1年半くらいはそこでまた動画をやっていました。


最初は偉い人に僕のL/O(レイアウト)を持って行っても、相手にしてくれませんでした。でも、僕がしゅんとしていたら、先輩の大田和寛さんが「じゃあ、俺が見てやる」と言って、一から教えてくださったんです。それから原画にも無事に上がることができて、2年くらいはA.P.P.P.で原画をしていました。


─大田さんが藤本さんの師匠というわけですね。


藤本 大田さんのおかげで、一人前とは言えないですけど、ギリギリ生活していけるようになったと思っています。


─最初の原画の作品名は?


藤本 いろいろ同時にやっていたので、どれが最初か思い出せないですけど・・・「あぃまぃみぃ!ストロベリー・エッグ」(2001)だったと思います。

 

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