撮影監督・中西康祐 ロングインタビュー!(アニメ・ゲームの“中の人”第15回)

2017年07月08日 09:000

DTPデザイナーを経て、旭プロダクション入社


─ここからはキャリアについてうかがいます。大学卒業後、アニメ業界に?


中西 大学を卒業して2年間は研究生として残り、DTPデザイナーをやりながら作品を作っていました。その後、進路相談で木船先生から「君はアニメの撮影に向いているんじゃないか?」と言われまして、自分でもいろいろ調べて、「サムライチャンプルー」の撮影が旭プロダクションだったので、旭に入社しました。ほかの会社は受けていません。


ちなみに、DTPの経験はアニメ業界でも生かすことができまして、「バカテス」や「C3 -シーキューブ-」(2011)ではタイトルロゴのデザインもやらせてもらいました。


─当時のご生活は大変でしたか?


中西 撮影はアニメーターさんのようにカット数単価ではなく固定給でしたし、祖父の家から会社に通っていたので、生活に困るということはなかったですね。給料は一般のサラリーマンの方より低かったのですが、好きな仕事を延々とやれていたので、気にはなりませんでした。


─師匠的な方はいらっしゃいますか?


中西 入ったころは「After Effects」もアニメの撮影もよくわからなかったので、当時の旭プロダクションにいたスタッフ全員が師匠です。入った当初は「シティーハンター3」(1989~90)の撮影監督だった長谷川洋一さんから、撮影とは何かをみっちり教わりました。長谷川さんは旭で唯一、アナログ時代を知っている方です。


─最初のお仕事は?


中西 「機動戦士ガンダムSEED DESTINY」(2004~05)32話で、ステラが死ぬシーンをやらせてもらいました。会社の棚に一番大きなカット袋があって、これをやってみようと手に取ってみたら、一番重要なカットだったんです(笑)。「ペーペーがこんなカットをやっちゃってもいいのか?」という気持ちもありましたが、弊社には映像をスタッフ全員でチェックする環境があり、悪い部分は撮影監督の葛山剛士さんから修正指示をもらっていました。


─当時の撮影現場は完全にデジタルだったのですか?


中西 コンポジット(編注:セルとBGの合成)はデジタルでしたが、美術さんは移行時期だったので、アナログで描いている背景会社も多くありました。なので、生のBGをいただいて、それを美術の撮影台で撮る仕事をしていました。カーテンに包まれた真っ暗な部屋で何十カットも続けて作業するので、時間の感覚がなくなるんです。気づいたら太陽が沈んでいることもざらで、スタッフからは「精神と時の部屋」なんて呼ばれていましたね(笑)。さすがに今はその撮影台はありません。


─中西さんは「ふしぎ星の☆ふたご姫」で撮影監督補佐に抜擢されています。


中西 37話で撮影監督が和田尚之さんに代わった時、僕は入社して5か月しか経ってなかったのですが、ほかにできる人もいなかったので、補佐になるというミラクルが起きました。和田さんとは年も近くて、やりやすかったですね。


─才能が抜きん出ていたのですね!


中西 僕以外の新人は専門学校から入ってきていたので、年が離れていたんです。なので、「入社時点ですでに差をつけられているんだから、追いつかなくては!」と、無我夢中で勉強していました。

 

 

20代で撮影監督に


─撮影監督デビューは「乃木坂春香の秘密」でしょうか?


中西 世に出た作品としては「乃木坂」が最初ですが、デビュー自体は2007年にしています。お蔵入りになってしまったので詳しくは言えませんが、完全オリジナル作品でした。すごいメンツが集まっていたので、やりながらいろいろ勉強になりました。


─約3年で撮影監督は、早いほうなのでは?


中西 ほかの会社さんのことはわからないので何とも言えないのですが、旭としては比較的早いほうだと思います。デジタルになって間もなかったので、僕が入った当初のデジタル撮影の平均年齢は23、4歳でした。ベテランの長谷川さんも、現場からは離れておられました。


─「乃木坂」撮影監督としてのこだわりをお聞かせください。


中西 この当時から「セルに対して撮影で何か処理を足す」ことを意識していました。たとえば、キャラの髪の毛には常にハイライトの光沢処理を加えています。スクリプトを使って、すべてのカットに入るようにしました。


あとは、オープニングアニメーションですね。1期も2期も高橋亨さんが絵コンテ・演出されていて、タイトルのアニメーションやパソコン画面の作成、疑似3D的な表現などを挑戦させていただきました。「メロディラインに合わせて手前のものは速く、後ろのものは遅く動く、複雑なカメラワークを」というオーダーがあり、テストして出したところすごく気に入っていただきまして、2期でもその演出を取り入れてもらえました。ワンカット処理でやっているので、カッティング(編注:コンテ順にカットを組み、尺の調整を行うこと)もうちでやらせていただいた形になります。高橋さんとは付きっきりで作業していましたね。

 

「バカテス」のパロディの裏に隠された苦労


─「バカとテストと召喚獣」のOPでも、メロディラインに合わせた見事な演出がなされていますね。


中西 「音楽に合わせて作る映像」というのがすごく好きなので、OPやEDのコンテ・演出のオファーをいただくこともあります。


─「バカテス」ではパロディ表現が数多くございました。


中西 ワンオフ(編注:1回限りの表現)が多かったのですごく大変でしたけど、楽しくやらせてもらいました。「新世紀エヴァンゲリオン」(1995~96)のモニターは、1日がかりで作っていましたね(笑)。


「北斗の拳」(1984~7)はOPのパロディでしたが、アナログで撮っていたので、それをデジタルで表現するのに工夫が必要でした。アナログ撮影だと、カメラがちょっとずれているような感じに映るんですよ。黒色の部分もフィルムに焼いているので、RGB数値で000にはなりません。ノイズも入っていて、同じノイズ感を出すために当時使っていたフィルムを調べました。ケンシロウが北斗神拳の構えで腕を回す時にストロボ(編注:残像のついた動き)が使われているのですが、これも完璧なストロボにはなっていなくて、そういったところも忠実に再現しています。


─そのほかに「バカテス」で挑戦されたことは?


中西 大沼監督から挑戦的なオーダーがたくさんありまして、今までにないことを結構がっつりやらせていただいた印象がありますね。影やモブにドットのトーンを貼り、フレームのデザインなどもやらせていただきました。


「バカテス」は影のつけ方にしてもフレアにしても、すべて記号的なんですよね。スパンコールのようなキラキラしたエフェクトも、各キャラクターごとにテーマがあって、秀吉なら二重丸、瑞希ならハートになっています。ハレーションもスミアとか普通のものではなくて、ウサギや星にしちゃっています。


ゲームでもやっているように、止め絵をアニメ的に動かすことにも挑戦しました。After Effectsのパペットツールを使って、どうやったら髪の毛のなびきや胸の揺れが自然にできるかを研究しました。


─もし「バカテス」の続編があるとしたら、参加されたいですか?


中西 今の自分だったらもっと違うアプローチができると思うので、ぜひやってみたいですね。

 

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