撮影監督・中西康祐 ロングインタビュー!(アニメ・ゲームの“中の人”第15回)

2017年07月08日 09:000

厳しい条件でも前作を超えた「プリズマ☆イリヤ ドライ!!」


─「Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ」は、3期までは別のメディアで解説されているので、4期「ドライ!!」で新たに挑戦されたことをうかがえますでしょうか?


中西 4期はスケジュールが今までの半分しかなかったのですが、クオリティを保ちつつ、新しいことを組み込んでいくことができたという意味では、成功だったかなと思っています。


最初に画作りの地盤固めを行いました。4期では初めてフリーの方やほかの会社さんにもヘルプで来ていただきまして、うちのやり方をしらない方でも「イリヤ」の画作りをできるように、今まで以上にシーン参考とスクリプトを充実させました。まず僕が1カット作り、「撮影処理でこういうことをしてほしい」というのを書いて、わかりやすく参考にまとめたんです。細かい手順まで書きましたので、いろんな人が参加しても同じ処理ができるようになりました。


シーン参考を作った後の僕はCGエフェクトに専念しました。ただ、CGエフェクトのほうも今まで以上にボリュームがあり、こちらも分担作業になりました。たとえば「王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)」は3期で僕が作ったのですが、4期ではこれをデジタルアセットとして組み込んで、エフェクトチーム全員で作業できるようにしました。


─ハードウェア環境は変わりましたか?


中西 システム班と相談しまして、対応してもらいました。僕の作業PCは5台になり、こっちでシミュレーション、こっちでモデリング、こっちでレンダリングというように、5台すべてを並行して動かしていました。今は劇場版のためにほかのスタッフも巻き込んで、より多くのマシンで並行作業できるようにしています。


─画作りで注目すべき点は?


中西 アナモルフィック・レンズで撮ったような画とかをうまく混ぜて、今までにない画作りをしています。


─変身シーンもシリーズごとに変わっていますよね。どんどん豪華になっていて。


中西 変身シーンの背景は全部、撮影で作りました。1期目は大沼監督から「天使みたいな感じで」と言われましたので、黄金の光に包まれるような感じに仕上げました。2期は「海の底から上がっていく感じ」というオーダーがあり、3期は「宇宙」でした。「イリヤ」3期の変身シーンは、前述のノーラン監督の「インターステラー」を参考にさせていただきました。4期は監督が高橋賢さんに変わったのですが、「万華鏡をのぞいた時に見える格子状の光」といった、複雑で結構難しいオーダーでしたね。


─以前のシリーズでは浜辺の表現にもこだわっておられたとか。


中西 波打ち際というのはアニメだと止め絵とか作画が多いのですが、「イリヤ」に関しては波打ち際が多いので、Houdiniを使って、CGで作ってみようということになりました。「イリヤ」で初めて作ったのですが、作画の白波を波のCGとなじませるのは、実際やってみないとわからないんですよ。「イリヤ」ではCGの波の下に置いたほうがうまくいきましたね。浜辺のシーンでは雲やヨットの映り込みも撮影で足しています。


─「ドライ!!」第9話にはイリヤと美遊の特殊EDがあり、とても印象的でした。


中西 4期のエンディングアニメーションは、弊社の渡邉有正に一任しました。9話の場合は僕が最初に水彩調の参考を作り、それをベースに残りはすべてお願いしたという感じになります。


─劇場版「Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ 雪下の誓い」(2017年8月26日公開予定)の意気込みをお聞かせください。


中西 今回も大沼監督のオーダーがたくさん出ていますが、今までと同じく、監督の想像以上のものを出していくつもりです。ほかの撮影会社さんやフリーの方が参加してくださるので、力を合わせて頑張ります。

 

中西班での共同撮監とは?


─「学戦都市アスタリスク」(2015~16)では共同で撮影監督をされていますが、この時はどのような体制で作業されたのでしょうか?


中西 ダブル撮監といっても全然違ったことをしていまして、言ってしまえば「アスタリスク」でも、「のうりん」のテクニカルディレクターのようなことをやっていました。弊社の杉山大樹と上條智也には制作とのやり取りであったりとか、スタッフィングとかをやってもらい、僕はシーン参考やセル処理、CGエフェクトなどをやって、映像に集中させていただきました。


レンダリングが終わった後のチェックの主導権は撮影監督にあるのですが、その主導権は2人に譲りました。チェックに同席はしていましたが、僕が口をはさむのは自分で直したほうがいいものだけにしたんです。今後も僕の班でダブル撮監をする時には、同じような編成にしていく予定です。


─「虐殺器官」も同様のやり方で?


中西 ちょっと特殊なケースでした。チェックの主導権は山田さんにあり、シーン参考などの画作りは僕のほうでやる形ではあったのですが、「ここの一連のシーンは山田さん」というような分担もありました。山田さんとは昔から組んでやっていたので、どういう画作りが好きなのか、お互いによくわかっているんです。

 

 

撮影監督に必要なのは高いコミュニケーション能力


─キャリア上、転機になったお仕事は?


中西 どれも印象的なのですが、「バスカッシュ!」(2009)で各セクションの方から自分の画作りをほめていただけたのは、すごく嬉しかったですね。同業者の方からの反響も大きくて、これまでお付き合いのなかった撮影会社の方にも話題にしていただきました。


あと最近、アメリカのスタジオにおじゃましまして、作業環境やワークフローを見て衝撃を受けました。ディズニーさん、ピクサーさん、ドリームワークスさんといったところを見学したのですが、環境から何から全部違うんです。帰国してからは「やってやるぞ!」とやる気に満ちあふれています(笑)。いい経験をさせていただいたなと思います。

─ 撮影監督に求められる資質能力とは何でしょうか?


中西 監督に対して自分の意見をうまく伝えられること、つまり高いコミュニケーション能力が何より大切だと思います。僕の場合はうまく伝えられないこともあるので、事前に映像を用意して、その映像をもとに説明することが多いですね。


画を見る力も必要ですが、「画作りがうまいから、撮影監督に向いている」とは言えません。画作りが下手な人でも、それを補える人をスタッフとして呼べればいいんです。その意味で、スタッフィング能力も結構重要になってくると思います。


技術に関しては、うちの班でも全然違いますよ。僕はHoudiniとか、3ds Maxとかを使っているのですが、「機動戦士ガンダム サンダーボルト」(2016)や「ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-」(2017)で撮監をしていた脇顯太朗は、CINEMA 4Dを使っています。それぞれが自分の武器になるものを持っている感じですね。

 

実写のVFXやアニメの助監督にも挑戦したい


─ 今後挑戦されたいことは?


中西 アニメもそうなのですが、実写のVFXやコンポジットをやってみたいですね。


─中西さんは2012年に、「およげ!たいやきくん」(AGC 38 feat. 東京ブラススタイル)のミュージックビデオの監督をされています。監督にも興味がおありなのでは?


中西 音楽に合わせ映像を作るのが好きなので、ミュージックビデオの監督には興味がありますが、シリーズを通してとなりますと、助監督として映像に対するアイデアとかアドバイスをするほうが向いているのかなと思います。僕は本を読むのが苦手でして(苦笑)、映像で表現するほうがいいですね。


―最後に、アニメファンの皆さんにメッセージをお願いします!


中西 アニメは素直な気持ちで、楽しんで観ていただきたいですね。アニメ業界に入られる方に対しては、「とにかく楽しんでやってね!」と言いたいです。


日本ではアニメの撮影というのがまだまだ浸透していないので、業界全体でもっとオープンにしていかなければと思っています。アメリカでは子供たちが細かいところまでアニメの工程を理解していて、「差をつけられているなぁ」と感じるんです。僕は今後も積極的にセミナーやリクルートをやっていくつもりなので、興味のある方は期待していてくださいね!

 

 

 

●中西康祐 プロフィール

撮影監督、アートディレクター。東京造形大学卒業後、2年のDTPデザイナーを経て、旭プロダクション入社。木船徳光ゼミ出身。魔法、フォトリアル、自然物などの表現を得意とし、ミュージックビデオの制作にも定評がある。撮影監督として「乃木坂春香の秘密」(2008~09)、「バスカッシュ!」(2009)、「バカとテストと召喚獣」(2010~11)、「学戦都市アスタリスク」(2015~16)、「虐殺器官」(2017)などの話題作に参加。「Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ」シリーズでも従来の枠にとらわれない柔軟な発想と実行力で、アニメ表現の新たな可能性を追求した。現在は、2017年8月26日公開予定の劇場アニメ「Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ 雪下の誓い」の制作に取り組んでいる。

 

※TVアニメ「乃木坂春香の秘密」 公式サイト
http://www.ytv.co.jp/nogizaka/

※TVアニメ「バスカッシュ!」 公式サイト
http://basquash.com/animation/

※TVアニメ「バカとテストと召喚獣」 公式サイト
http://www.tv-tokyo.co.jp/anime/bakatest/

※TVアニメ「のうりん」 公式サイト
http://no-rin.tv/

※TVアニメ「学戦都市アスタリスク」 公式サイト
http://asterisk-war.com/

※劇場アニメ「虐殺器官」 公式サイト
http://project-itoh.com/

※TVアニメ「Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ」 公式サイト
http://anime.prisma-illya.jp/1st/

※劇場アニメ「Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ 雪下の誓い」 公式サイト
http://anime.prisma-illya.jp/movie/sekka/

※中西康祐 ツイッター
https://twitter.com/q_pon_5

 

(取材・文:crepuscular)

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