――「ベイマックス」での体験は、国内の仕事に影響していますか?
それが、意外と影響していないんですよ。確かにディズニーで仕事したんですけど、意外にも平常心でいられたというか、プレッシャーは感じませんでした。むしろ「ベイマックス」の企画が完成するかどうかを、本気で心配していました。コミコンでドン監督と会ったときも、「大丈夫そう? がんばってね」という会話になってしまって(笑)。というのも、彼が3年前からずっとあたため続けた企画に、ちゃんと結実してほしい、という思いが強かったんですね。
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』(2006年~)に参加したときも、富野由悠季監督とのお仕事もそうなんですが、憧れていたスタッフといっしょに仕事ができるという喜びがあると同時に、仕事が始まったら大先輩たちとも“仕事仲間”として対等にならざるを得ない。そこはやはり、ファン心理ではいられません。スタン・リー(マーベル・コミック原作者)に会ったときも、周りの人は気を使っていたけど「面白いおじいちゃんだな、どんどん話しかけよう」と思ったし、富野監督と会ったときも「緊張して黙っているなんてもったいない、怒られてもいいから、とにかく話しかけてみよう」思ってましたし(笑)。僕は、いつもそんな感じなんです。ディズニーへ行っても、「まずはスタッフのみんなと話してみよう」です。
もちろん、ディズニーのスタッフたちは世界のトップスタジオのクリエイターたちですから、同じ「絵描き」という意味ではいっしょに仕事したことで刺激になったり、大きな糧になったりはしました。だけど、僕はベイマックスの一部分を作ったにすぎない。みんなで作ったキャラクターなんです。街にポスターが貼られていると、「やっぱりハリウッド作品はでかいんだなあ」と思うぐらいで、僕自身が大きく変わったということではないですね。
――逆に、周囲の扱いが変わったりはしませんでしたか?
日本のアニメ業界の方たちが、こういう形でハリウッドの作品に関わること自体が稀だとは思うので、「……なんで?」とは聞かれます(笑)。でも、「いっしょにご飯を食べる機会があって、意気投合したから」としか説明のしようがない。何しろ、ドン監督は僕の今までの仕事をいっさい知らなかったわけですから。出会った時ですら「『クマのプーさん』にやけに興味のある変な日本人」としか思われていなかったでしょう(笑)。だけど、僕の『HEROMAN』のデザインだけで認めてもらえた。そこは、素直にうれしかったですね。
――もし、「僕もディズニー作品でキャラクターをデザインしたい」という日本の若い人がいたら、どうアドバイスしますか?
デザインはデッサンの正確さよりも、伝えたい要素が絵にちゃんと出ているかどうかの方が重要だと思うので、ていねいにうまく描くことより、考えていることをどんどん出す。うまい絵を描こうと意識すると、逆に伝わりづらい気がしますね。
僕の場合は日本のアニメ業界で鍛えられたのですが、アニメーターさんは画力が勝負かもしれませんが、デザイナーはアイデア、発想がキモなんです。へたくそな絵を人に見せるのは絵描きとしてはカッコ悪いんですけど、それを恥ずかしがってはいけない。ディズニー・スタジオに行ったとき、僕がしゃべっていると、その場でメインスタッフたちがズラーっと並んでて、その場で絵を描き始めたりするんです。その描いてる絵を見たら、もう、めちゃくちゃうまいんですけど(笑)、そこでビビってはいけないんですよ。
だから、もし本当に興味があるなら、海外へ行ってみちゃうのがいいと思います。海外のコンベンションに行けば、有名なアーティストが来ていて、彼らは相手が誰だろうと関係なく絵を見てくれます。たとえ僕のことを知らなくても、「君はこういう絵を描いているのか」と見てくれる、そういう文化の土壌があるんです。「これはいい絵だ」「こっちはよくない」と話してくれます。言葉の壁はありますが、絵を見せれば一発で通じるんですよ。
(取材・文/廣田恵介)
【コヤマシゲト プロフィール】
デザイナー。東京都出身。
2004年、OVA「トップをねらえ2!」に参加したのをきっかけに、多数のアニメ作品にかかわる。
代表作として「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」「交響詩篇エウレカセブン」「HEROMAN」「キルラキル」「キャプテン・アース」など。現在、富野由悠季監督最新作「ガンダム Gのレコンギスタ」が放送中。
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