――では、日本のロボットらしい意匠をコヤマさんの方から提案していったわけですね?
今回はそういう役目ということで、ほかにも、翼のギミックなども提案しました。「日本的な要素が欲しい」とのことだったので、フィン状のスリット群が、まるで扇子のようにガシャッと開く! ……というようなアイデアも考えていたのですが、これはオミットされてしまいました。
実は、日本のアニメ文化にやけに詳しいスタッフがいて、監督たちが取材を終えて帰国した後に、彼だけ日本に残っていたんです。「東京中のフィギュア・ショップに連れてってくれ」と言われて、中野ブロードウェイに付き合わされたりしたんですけど(笑)、彼は「「マジンガーZ」のジェットスクランダーみたいな翼でロボットが飛ぶのはクールだよね」という話をしていました。言われてみれば、最近の日本では、ジェットスクランダーのようなシンプルな形の翼で飛ぶロボットは、なくなってしまいましたよね。結果的に、ちょっとだけ折りたたみますけど、シンプルな翼になりました。
――そういうギミックを考えているとき、オモチャとして世界市場で売ることは意識しましたか? 普段、日本国内でロボットをデザインするときは、プラモデルやフィギュアなどの商品になったときのポイントは、当然考えます。だけど、今回の『ベイマックス』では考えませんでした。今回だけは、商品としてどう売れるかとか、そういう打算を働かせてはいかんような気がして(笑)。ドン監督が心に抱いているイメージを、素直に描いたほうがいいだろうと思いました。また、僕の描いているのは“コンセプト・デザイン”ですから、映像では完全に同じデザインにはならないだろう、ということも予想していました。
最終的なルックスはメイン・スタッフが作るので、「こことここだけ押さえておいてくれたら、カッコよくなるよ」という部分だけ、しっかり伝えることに力を尽くしました。キーとなるポイントは、“目元とツノ”なんです。フォルムは日本人とアメリカ人では好き嫌いや思想の差が激しいから、最終的には、おそらくアメリカ人好みの体型になる。「それでも、“目元とツノ”さえ外さなければ、ちゃんとカッコよくなるんだよ!」と力説しました。
――日本で日本人向けにロボットを描く場合は、やはり複雑になってしまうものなんですか?僕はメカもキャラクターだと思っているんですけど、ベイマックスのようなシンプルなデザインは、今の日本のアニメ業界ではなかなか許してもらえないんです。アメリカの中でも一番大きなディズニーというアニメメーション・スタジオが、普通に飛んで普通に戦うベタでシンプルなロボットの映画をつくってくれた、というのはうれしい半面、うらやましくもある。ちゃんと、キャラクター・ロボットになっているんですよね。
――そうした作品づくりの姿勢に、日米の差を感じますか?当然、アメリカにも日本のアニメ業界の中にも、「もっとシンプルに作りたい」という欲求はあると思います。ただ、複雑にしておいたほうがコントロールしやすいし、ごまかしが利くというのも事実なんです。手描きの作画でもシンプルな線だと、上手・下手がバレてしまうじゃありませんか。
ところが、ピクサーやディズニーだと、シンプルなフォルムでも十分に説得力を持たせられる。そこが今の日米の差として大きな部分かもしれません。これには憧れますね。日本では、現場のスタッフがやりたくても、まず、クライアントが許してくれない気がします。
――アメリカのSFX映画でも複雑なメカが流行っているのに、日本人がこんなシンプルなロボットを描いたことが面白いですね。だけど、『ベイマックス』はCGでありながら、ほどほどに嘘をついてますよね。腕がロケットパンチになったり、足からジェットを噴射したりしますけど、「どこにロケットやジェットの燃料が入っているのか」は、おそらく、あえて考えていない(笑)。そういう意味でも日本のアニメの思想が、ちゃんと息づいている。今の実写系のハリウッド映画だと、ディテールで説得力を持たせてしまうところで、デザインが複雑化してますよね。だから、最終的な、いまの『ベイマックス』のフィルムを見たときは「よくわかってるなあ」「やられたなあ」という気持ちでした。
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