作曲家・渡辺剛 ロングインタビュー!(アニメ・ゲームの“中の人” 第28回)

2018年10月20日 16:000

「この醜くも美しい世界」で本格的なアニメ作曲


─ここからキャリアの質問となります。アニメ業界に入られたきっかけは?


渡辺 今もお世話になっている、ミュージックブレインズ社長の二宮直樹です、きっかけは。事務所立ち上げ時からカラオケの仕事とかいろいろ手伝っていたんですけど、パイオニアLDC(編注:現在のNBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン)と仕事を始めたころに、アニソンをパラパラにする仕事を振っていただいて。その時に何を勘違いしたのか「こいつは使える」と思ったらしく、佐伯昭志監督に推薦してくださり、「この醜くも美しい世界」(2004)で本格的にアニメに関わることになりました。


─「この醜くも美しい世界」では劇伴だけではなく、エンディングテーマの「夏色のカケラ」と「キミニアエテ」も作曲されています。当初から歌ものも任されていたのですね。


渡辺 「この醜くも美しい世界」のころはまだ全然よくわからなくて、え? やらせてもらえるんですか!?という状態で(苦笑)。やると決まった時にはいろいろアニメを観込んで、無我夢中でやっていました。


─師匠と呼べる方はいますか?


渡辺 師匠というか、メンターになるような方はいます。アニメからは離れるんですけど、昔、「パール兄弟」というロックバンドをやっている窪田晴男さんの下働きでマニピュレーターをやっていたことがあって、窪田さんからは制作方法とか、いろいろ教えてもらいました。その後、ジャズサックスのMALTAさんのバンドに入って、その人からもジャズのエチケットをいろいろ叩き込まれました。


余談ですけど、窪田さんは当時、元「ピチカート・ファイヴ」の小西康陽さんと桜井鉄太郎さんの3人で、FM横浜で毎週日曜日の夜8時から「GIRL GIRL GIRL」というラジオ番組をやっていて、そこで毎週1時間、1人につき20分、新曲だけで埋めるというのをやっていたんですよ。その番組の時に僕は、窪田さんの弟子みたいな感じで付いて、毎週徹夜で新曲作りのサポートをしていました。


─アニメキャリア初期の作品でいえば、「BALDR FORCE EXE RESOLUTION」(2006~07)の音楽もかっこいいですね。シュミクラムの戦闘シーンとか、萌えアニメではめったに聴けない渡辺サウンドを堪能することができます。


渡辺 音作りとしては試行錯誤していた時期なので盛りすぎていて、今になったらこんなに音を入れなくてもいいじゃん!と思うんですけど。ただ、最後のシーンのために作ったピアノ曲が自分でもすごく好きでして。苦もなく曲が浮かんできたので、感傷的なピアノの曲というのが得意なんでしょうね。


─「もえたん」(2007)は一風変わった魔法少女もので、かわいらしい曲でいっぱいです。変身曲などもありました。


渡辺 「もえたん」は組曲的なものを作った最初の作品で、たくさんのコミカル曲をどうやって作ったらいいんだろう?と悩んでいたのも「もえたん」です。いんく、すみ、ありすの変身曲についても、当時出ていた変身曲をいろいろ聴きまくって、無我夢中でやっていた感じですね。この作品は「苺ましまろ」の後、突然決まって、打ち合わせで脚本を渡されて、絵コンテがほとんどない状態でスタートしました。曲数も多くて、50曲くらい作った記憶があります。


─「ロウきゅーぶ!」(2011、13)はバスケの試合シーンで使用されていた、アップテンポで透明感あるシンセが印象的でした。


渡辺 ちょうどEDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)が流行り始めたころで、草川啓造監督と話をしてシンセで行くのは決まっていたんですが、最初のほうは「小学生がバスケをする」というのをどうとらえるか、結構悩んだんですよ。メニュー表には「対戦してこう着状態になって、どうしよう……みたいなシーンの曲」というのがあって、作って提示したら、「戦闘ものじゃないんで」と言われ、軽くしてみたら、軽くなりすぎちゃったりして(苦笑)。見た目の年齢感と実際の年齢感をどうコントロールするか、すごく悩んで、いろいろやり取りした中でテンポ感とスピード感が大切なんだな、というのがようやくわかってきて、苦労したあげくにできたのが1作目の劇伴なんです。

 

 

ウィーンで開眼、「To LOVEる -とらぶる- ダークネス2nd」で新境地


─まさに生みの苦しみですね。そういう作品は、完成した時の喜びもひとしおでしょう。


渡辺 実は、本当に楽しい!と思い始めたのはここ5~6年なんです。正直、こんなにたくさん作ったら、何作ったらいいかわからない、何も出てこない……というような時期もあったんですけど、「ロウきゅーぶ!」や「咲-Saki-」の「阿知賀編 episode of side-A」(2012)あたりからようやく、真の喜びがわかってきたんです。


2014年にすごく忘れられない経験がありまして、ヨーロッパで一人旅をしたんです。僕は変態的なクラブミュージックやテクノが好きなので、一番の目的はベルリンのクラブに行くことだったんですが、せっかくヨーロッパに行くんだからクラシックも聴いてみたいと思って、プラハとウィーンにも行きました。


ベルリンでイェ~っ!と夜通し踊ってきて、そのあとプラハとウィーンでオーケストラを鑑賞しました。特に記憶に残っているのが、ウィーンに着いた初日の夜です。ウィーン楽友協会ホール、いわゆるウィーンフィルの総本山ですけど、そこのホールの音を聴いたその時、2004年から劇伴をやってきたすべてのことが一気にリンクして、作曲家としての方向性が見えたんです! 劇伴のおもしろさはわかったけど、自分には何かが足りない、何が足りないんだろう?と思っていた時にその瞬間が訪れたので、心が震えました。それくらい、あそこで聴いた音というのはすごかったですね。


─なるほど。とすれば、渡辺さんの音楽は2014年以降、作品的には「To LOVEる -とらぶる- ダークネス2nd」(2015)あたりから、さらなる飛躍を遂げたわけですね。


渡辺 大分違うと思います。「ダークネス」のサントラが出ていないのが、すごく惜しいです(苦笑)。

 

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  • 渡辺剛さん

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