作曲家・渡辺剛 ロングインタビュー!(アニメ・ゲームの“中の人” 第28回)

2018年10月20日 16:000
渡辺剛さん

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アニメ音楽というのは実に奥が深い。どのようなメロディを、どのような楽器で、どのように演奏すれば、作品の世界観やドラマを的確に表現することができるのか。キャラクターのイメージにぴったり合った歌とは何か。音楽は間違いなく、作品の成功を左右する。本連載第28回は、このような問いに見事に答え、アニメ史に残る音楽を創出し続ける作曲家、渡辺剛さん。クラシックの素養があり、キーボーディストとしての経験も豊富な渡辺さんの楽曲は、萌えアニメの金字塔として知られる「苺ましまろ」、「To LOVEる -とらぶる-」、「乃木坂春香の秘密」、「咲-Saki-」、「ロウきゅーぶ!」といった作品にすばらしい音の彩りを与え、ファンからも大絶賛された。また近年は、「少女たちは荒野を目指す」、「魔法少女 俺」、「鹿楓堂よついろ日和」など、萌え以外のジャンルでも才腕を振るっている。だが、そんな渡辺さんにもいわゆるスランプがあったようだ。追いつめられた渡辺さんを救ったのは、ウィーンフィルの総本山で聴いた壮大なオーケストラであった。今回のインタビューではアニメ音楽の魅力、影響を受けた作品、作曲のこだわり、キャリア、今後の挑戦といった角度から質問を投げかけ、渡辺さんの実像に迫ってみようと思う。

 

アニメは音楽の幅に制限なし


─お忙しい中、「アキバ総研」インタビューに時間を割いてくださり、まことにありがとうございます。最初の質問ですが、渡辺さんにとってアニメ音楽の魅力は何だと思いますか?


渡辺 剛(以下、渡辺) アニメの場合、日常系からファンタジーまで、シチュエーションがすごく多岐に渡るじゃないですか。作品としての制限はあるんですけど音楽の幅に制限がない、いろんなことにチャレンジができるというのが一番の魅力ですね。


たとえば、アニメじゃなければ使わなかった楽器が使えたりします。監督から「こんな感じで」と提案されて「わかりました」と笑って答えつつ、内心は「使ったことないんだけど、どうしよう……」という瞬間があったりするんですけど、自分から求めなくても新しいものに触れられる、それがすごく楽しいんです。


自分の曲が画とひとつになって生きていた時にも、やっぱり達成感を感じますね。音楽だけじゃなくて環境音もそうだし、効果もそうだし、いろんな音が入ってきて、それがすべて相まって自分の狙った通りいった時、達成感を感じますね。


─「アニメじゃなければ使わなかった楽器」というのは?


渡辺 僕の場合、もともと劇伴作曲家ではなくて、ポップアーティストのツアーサポーターやジャズをやっていたりしたので、和楽器というのはあまり縁がなかったんです。それが「陰からマモル!」(2006)や「咲-Saki- 全国編」(2014)の劇伴をやることになって、三味線、琴、横笛などを使うことができました。


─ハリウッド映画では作曲家・ジェリー・ゴールドスミスが「猿の惑星」で、料理用のステンレスボウルをスプーンで叩き、新しい音を作り出したとか。映像世界では楽器以外のものでも、楽器にできるチャンスがあるみたいですね。


渡辺 自分から探せば、どんどん使えるんでしょうね。自分に制限をつけちゃいけないなと思っています。そういえば、2017年の映画「すばらしき映画音楽たち」でハンス・ジマーが、同じようなことを話していました。

 

原点は「スター・ウォーズ」、一番の影響は「セブン」


─影響を受けた作品を教えていただけますか?


渡辺 全部言うと際限ないので、作曲家として旗を揚げる前に影響を受けた作品をいくつか言いますね。アニメとしては子供のころ、「宇宙戦艦ヤマト」(1974~75)、「銀河鉄道999」(1978~81)といった松本零士作品や、「機動戦士ガンダム」(1979~80)を観ていました。その時は無意識で聴いていたんですけど、今でも宮川泰先生の「ヤマト」のテーマはすぐ出てくるので、やっぱりアニメと音楽の密接な感じというのは影響を受けていると思います。


その時は全然思っていなかったんですけど、今やっている仕事の原点だな、と思ったのは、「スター・ウォーズ」です。自分の金で初めて買ったLPが、ジョン・ウィリアムズのサントラでした。僕はマジメじゃなかったんですけどクラシックを習っていて、子供のころからベートーヴェンとかも聴いていたんですが、「スター・ウォーズ」の最初に流れるあのテーマを聴いた時に、なんだこれは!?と衝撃を受けました。「スター・ウォーズ」、「スーパーマン」、「E.T.」といった辺りのジョン・ウィリアムズの音楽には影響を受けていますね。


1980年代になると、YMOの坂本龍一さんの音楽、「戦場のメリークリスマス」や「ラストエンペラー」をかなり聴きました。このころから僕はジャズ・フュージョンを真剣にやろうといろいろやっていたんですけど、なかでもパット・メセニーというジャズギタリストに夢中になって、「シークレット・ストーリー」という有名なアルバムをすり減るくらい聴きこみました。ジャズギタリストのアルバムだからジャズっぽいのかなと思っていたら、ものすごい映像音楽だったんですよ。


─一番好きな映像音楽は?


渡辺 映像音楽として一番影響受けたのは、「セブン」です。ああいうダークな感じなものが好きなんですよ。いまだに周りには「セブン」みたいな作品をやりたい!と言っているんですけど、なかなか……。


ピクサーのアニメだと、マイケル・ジアッキーノの「カールじいさんの空飛ぶ家」(2009)のサントラがものすごくよくて、ああいう音楽が書ければいいだろうな、といつも思っています。奇をてらったわけではなくすごくオーソドックスで、最初のほうのシーンの音楽がもうすばらしすぎて! あ、今話しただけで涙が……(笑)。そのくらいあの映画は大好きです!


─ツイッターでは、宮崎駿監督の「風立ちぬ」(2013)を絶賛されていました。


渡辺 このころはもうアニメの仕事をしているんですが、久石譲さんの「旅路(夢中飛行)」のマンドリンがすごい印象に残っていて、こういうふうに展開していくんだ!と改めて思いました。あと、主人公の堀越二郎は庵野秀明監督が演じておられるんですが、あの朴訥(ぼくとつ)とした感じもよくて。


久石さんの音楽は、「かぐや姫の物語」(2013)のほうが感動しましたね。画と合っているのは当たり前なんですが、風のような音楽なんです。最後の月からの使者が来るところのサンバっぽい音楽のギャップがすごくて、どうして最後にこの曲を持ってきたんだろう? と驚きました。


─目標とする方は?


渡辺 こういう音楽を作りたいというような目標は実はなくて、こういう活動ができればいいだろうなと思うのは、やっぱりハンス・ジマーですね。自由に制限なく、いろんな発想で取り組んでいる姿勢は、ものすごくあこがれますね。


─15年ぶりにエルメート・パスコアールのコンサートを観に行った、とのツイートもありました。


渡辺 ブラジルのショーロ音楽でちょっとプログレが入っているんですけど、この人、豚を楽器だと言ってステージに持ち込もうとして断られた、すごいおじいちゃんなんですよ(笑)。発想がそれこそ制限ないんです。15年前にも、よみうりランドEASTで見たんですけど、その時もぶっとんでいて。ブラジル音楽も知り合いのミュージシャンとやっていたりするので、そんなに詳しくないですけど、好きですね。


─パスコアールは82歳を迎えたとか。


渡辺 15年前と全然変わらず弾きまくり、踊りまくっていましたね。ある意味、僕もああなったら楽しそうだな(笑)。

 

アルバムはどのフォーマットで買うべきか


─流行やランキングはチェックしますか?


渡辺 よく読んでいる「サウンド&レコーディング・マガジン」に載っているものは、一応チェックしています。あとは、SNSで話題になったものを聴いてみたり。うちはテレビがないので、ランキングはわからないですね。


─現在、気になっている音楽は?


渡辺 作っているとあまり聴けないんですが、最近はケンドリック・ラマーに代表されるヒップホップから来たジャズとか、ミクスチャー・ロックとかを聴きます。あとはAmazonプライム・ビデオで映画をずっと流しながら、曲を作ったりしていますね。


3、4年前はジェイムズ・ブレイクとか好きでCDも買っていたんですけど、最近はアルバムをどうやって買おうか悩んでいるんです。CDはそろそろフォーマットとして古いし、物があふれるのも嫌だし、かといってiTunesは僕が思うようなクオリティのフォーマットで売ってないし。もうハイレゾで買おうかなとも思ったんですけど、日本のハイレゾはe-onkyoが一番曲数多いんですが、e-onkyoの曲をiTunesでかけるには変換しないといけないので、それが面倒で。OTOTOYなら変換しなくていいんですけど、あまり聴きたい曲がなくて……。


というわけで、今は新しく曲を買うのを止めてストリーミングで聴くだけなので、気になる曲を見つけても、今の誰だっけ? というのが多いんです(苦笑)。

 

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