「苺ましまろ」でキャラソン、「咲-Saki-」でキャラテーマの感性を磨く
─「To LOVEる -とらぶる- ダークネス2nd」以外で、転機になったお仕事は?
渡辺 「この醜くも美しい世界」、「苺ましまろ」は転機で、特に「苺ましまろ」はキャラクターソングも全部僕が作ったので、アニメ音楽としてキャラクターに歌わせるというのはどういうことか、すごく勉強になりました。
美羽役の折笠富美子さんとは、その後も一緒にバンドをやっていたりするんですが、主人公5人の声優さんたちは皆さんすごく個性的で、すばらしい方々です。その方々にどう歌っていただくか、と考えるのはためにもなりましたし、遊ばせてももらいました。
─「乃木坂春香の秘密」(2008~09)につきましては撮影監督の中西康祐さんが、演出家の高橋亨さんとご一緒に、オープニングテーマに合わせて「手前のものは速く、後ろのものは遅く動く、複雑なカメラワーク」を実現されています。「とまどいビターチューン」の作曲者である渡辺さんは映像をご覧になって、どのような感想を持ちましたか? (編注:https://akiba-souken.com/article/30650/?page=2)
渡辺 当時もすごいと思っていたんですが、中西さんの記事を読んで改めてオープニングを観たたら、やっぱりいいじゃん! 今でも全然古くないな!と思いました。エンディングの「ひとさしゆびクワイエット!」も僕が作曲しているんですが、「乃木坂春香の秘密」のオープニングとエンディングの映像は今観ても、本当にすごいなと思います。
マイナー調の曲が好きなので、「とまどいビターチューン」は、曲としてもすごく気に入っています。歌ってくださった生天目仁美さんは、「苺ましまろ」の伸恵をやっていた時から歌がうまいのを知っていたので、ものすごく高い音出してやろうと思い、「離さな~い~で~」のフレーズを作ったんですが、すばらしいパフォーマンスを見せてくれました。
─「咲-Saki-」シリーズ(2009~)も、渡辺さんの代表的な作品だと思います。
渡辺 「咲-Saki-」はキャラと音楽をどう結びつけるか、というのをすごく考えましたね。最初はそこまで気にしていなかったんですけど、「阿知賀編」から「全国編」になるにつれて出てくる高校が増えてどんどん個性的になって、オーダーもそれぞれの高校の曲が中心になりました。
─「全国編」の各高校の音楽イメージはすべて、小野学監督の中で決まっていたのでしょうか?
渡辺 大阪の姫松などは「ロカビリーでいこう」と決まっていたんですけど、それ以外の高校は「どうしましょうか?」と一緒に考えました。
─「全国編」から、お気に入りの曲を選ぶとすれば?
渡辺 岩手の高校をイメージした「宮守女子」や、回想シーンで流れたピアノソロ「家路」は、すごく気に入っています。
─個人的には1期から流れていた、透華のテーマ「お嬢様というものは-」もすばらしいと思います。「乃木坂春香の秘密」でも、お嬢様をイメージさせる楽曲がありました。
渡辺 バイオリンを使った室内楽的なものをよく作っていますけど、自分の中に昔クラシックをかじっていた何かがあるんでしょうね。
─サントラの曲名は渡辺さんが?
渡辺 はい。全部、自分で付けています。
─「全国編」のCDでは、渡辺さんご自身がライナーノーツを描かれています。それだけ思い入れの強い劇伴だったのですね。
渡辺 ええ、楽しかったですね。自分で言うのもなんですけど、この「全国編」は割といい曲をそろえられたかなと思っています。アニメの続き、やってくれないかな(笑)。
死ぬまで音楽を作り続けたい
─アニメの作曲家に必要な資質能力とは何でしょうか?
渡辺 俯瞰できること、どれだけ俯瞰して見られるかがやっぱり大事なのかな、と思います。あと、これは自分にとっても課題なんですけど、「こんな感じの音楽」と提案されたのを、どう噛み砕いて表現するかというのも、結構能力として必要でしょうね。
たとえば、パロディものならそのままやっちゃうのも手なんですが、そのままやると訴えられます(笑)。パロディでも似ているようで、ちゃんと違う曲にしないと。つい最近、「魔法少女 俺」(2018)で「『キューティーハニー』(1973~74)のような曲」と言われて、「ハチミツフラッシュ-変わるわね-」を作りました。どう聴いても曲のイメージは「キューティーハニー」なんですけど、メロディとコードは全然違うんですよ。
─楽曲提出後、川崎逸朗監督からはどのような反応が?
渡辺 オーダーのやり取りだけで直接お会いしてないんですけど、ものすごく気に入ってくださったらしく、1話でワンコーラス使っていただきました。それもテロップ付きで(笑)。うれしいお言葉をいただけたので、すごく満足しています。
─今後挑戦したいことは?
渡辺 映画はやったことがないので、ぜひやりたいです。あとはストリングスを録って、ブラスを録って、結果的にオーケストラチックになった、ということはあるんですけど、オーケストラそのものをやったことはないので、それも早くやりたいですね。とはいえ、こういうのしかやりたくない!というのではなくて、音楽を作り続けたい!というのが正直な気持ちです。人生そんなに長くないんで、作品を残せるだけ残したいんです。
─最後に、ファンの皆さんにメッセージをお願いいたします!
渡辺 これからも音楽を作り続けます。なので、どこかで僕の名前を見かけた時には、ぜひ期待して聴いてみてください!
●渡辺剛 プロフィール
作曲家、編曲家、キーボーディスト。栃木県宇都宮市出身。ミュージックブレインズ所属。20歳のころからキーボーディストとして活動を始め、「この醜くも美しい世界」(2004)以降は本格的にアニメ音楽の世界へ。音のひずみを巧みにコントロールした、表情豊かな音作りを得意とする。代表作は「苺ましまろ」(2005)、「陰からマモル!」(2006)、「もえたん」(2007)、「To LOVEる -とらぶる-」(2008~15)、「乃木坂春香の秘密」(2008~09)、「咲-Saki-」(2009~15)、「ロウきゅーぶ!」(2011、13)、「少女たちは荒野を目指す」(2016)など多数。2018年は「魔法少女 俺」や「鹿楓堂よついろ日和」で秀抜な楽曲を提供し、ファンを湧かせている。劇伴からキャラクターソングまで、ジャンルを問わず作曲し、キーボーディストとしてみずから演奏も行う、オールマイティな音楽家である。
※TVアニメ「ToLOVEる-とらぶる-ダークネス」 公式サイト
http://www.j-toloveru.com/
※TVアニメ「咲-Saki-」 シリーズスペシャルサイト
http://www.saki-anime.com/
※TVアニメ「鹿楓堂よついろ日和」 公式サイト
http://rokuhoudou-anime.jp/
※TVアニメ「魔法少女 俺」 公式サイト
http://magicalgirl-ore.com/
※渡辺剛 ツイッター
https://twitter.com/votom_watanabe
(取材・文:crepuscular)