「お絵かき掲示板」でスカウト
─キャリアについてうかがいます。アニメ業界に入ったきっかけは?
伊部 インターネットのお絵かき掲示板が流行った時期がありますよね。あそこで昔のアニメのイラストを描いて、投稿していたんですよ。そしたら、それをうちの師匠の友達の人が偶然見かけて、私がお絵かきの資料がない!とか言っていたら、「資料を持っている知り合いがいますよ」と連絡をくださったんです。
しばらく警戒していたんですけど、ほかの人も含めてオフ会的に会ってみようかという話になって。「資料持っている人を連れてきますから、同人誌ください」と言われたんですが、その時はアニメの同人誌は描いてなかったので、「アンジェリーク」や「遙かなる時空の中で」といったネオロマンスゲームの同人誌と、「ビックリマン」の同人誌を代わりに持っていきました。
オフ会の時は、資料と連絡先の交換だけだったんですけど、一緒にいた山本さんが私の同人誌を見て、「このSDキャラは使える」と思ったらしいんです。山本さんはちょうどその時、円谷プロダクションさんでシールものの「仰天人間バトシーラー」(2001~02)の作監を3週間に1本ずつやっていて(編注:「山本郷」名義)、「人手不足だし、描いてみない?」と誘ってくれました。
最初はプロは大変そうだし……と断っていたんですが、その時勤めていた某大型電気店を辞めようかなとも思っていたので、1年ぐらいやってみてダメだったら諦めますね、といった感じで参加することにしました。原画で名前が出ているんですけど、実際は山本さんが描いたもののトレスから始めています。
─「遙かなる時空の中で」は、拙連載でもお話をうかがった三澤康広さんが音楽スタッフとして参加されています(編注:https://akiba-souken.com/article/35387/)。
伊部 そうなんですね! ガチプレイしましたよ~。アニメーターは作曲家の方とあまり会う機会がないので、「『遙かなる時空の中で』の音楽は、口ずさめるくらい大好きです!」ということだけ、伝えてください(笑)。
─アニメ業界に入る前は、電気店で働いておられたのですね。
伊部 短大卒業前に知り合いのゲーム作家さんの会社が「うちに来ないか?」と言ってくださって、書類も送ったんですけど、3月30日になって「やっぱりごめん」というハガキが来て……。そこから、就職活動し直すことになっちゃったんです。
最初は地元の滋賀県の写真屋さんの工房でプリント業務をしていて、しばらくしてから上京し、大型電気店で写真の仕分けをしていました。週末には勝田声優学院(編注:2015年3月に閉校)にも通っていました。
─声優学校にも通われていたのですね! 確かに素敵な声をされています。
伊部 周りから特徴のある声だと言われていたので、学校ぐらいは出てやろうと(笑)。でも、私は貧血持ちなので体調の悪い時に腹式呼吸すると、倒れてしまうんですよ。だから、学校は出ていますけど、そっちに行くつもりはないです。
山本天志監督との運命的出会い、約17年の師弟関係
─円谷プロには社員として入社を?
伊部 いえ、外注です。席だけお借りしていました。
─動画はされていないんですね。
伊部 やらせてくれって頼んだんですけど、「もう原画の絵になってきているから、今さら動画の絵に戻られても困る」って言われて、やらせてもらえなかったんですよ。だから、中割りのやり方とかわからないことがあったら、「アニメーションの本―動く絵を描く基礎知識と作画の実際」という本を読んだり、師匠に教えてもらったことを片っ端からメモったり、簡易FLASHで動かしてみたりして、勉強していました。今でも動画未経験を生かして、私基準でぱっと見簡単に中割りができなさそうな絵には、先にラフ入れるようにしています。
─足りないと思ったところは、自発的に学んでおられたのですね。
伊部 ある程度まで描けるようになるまでには、2~3年は勉強が必要です。絵が描けるからといっていきなり作監をやられても、絵だけじゃダメなわけですよ。コンテをどこまで理解してどうやって反映させるか、アニメ業界に入って経験で学ばないといけないことがすごく多いんです。
─円谷プロは「鍵姫物語 永久アリス輪舞曲」(2006)の制作協力をしていますが、作画監督もそこで?
伊部 はい。「永久アリス」は作監として入って初めて、この絵ならやっていけるかも、と感じた作品ですね。初めて作監をやらせていただいた「冒険遊記プラスターワールド」(2003~04)もがんばって描いていましたけど、「永久アリス」は男の子も女の子っぽいので描きやすくて。
─円谷プロを出てからはどちらに?
伊部 ゼクシズです。
─ゼクシズには社員で?
伊部 師匠の山本さんが社員になったので、その時に一緒に。
─どのくらいゼクシズに?
伊部 「ジュエルペット てぃんくる☆」の前なので、3年くらいですね。「ななついろ★ドロップス」の時はまだゼクシズ社員で、スタジオバルセロナ(現・ディオメディア)さんに席を借りて、やっていました。
─差支えなければ、辞められた理由も教えていただけますか?
伊部 社員になっていると、ほかの人ができなかった仕事がガンガンきちゃうじゃないですか。私は体力がないので、できれば休みたいんです。休むつもりでフリーランスになったんですけど、人手不足なので、今もあまり休めてないですね(苦笑)。
─山本天志監督とは業界に入って以来、ずっとお付き合いがあるみたいですね。
伊部 本当に長い付き合いで、もう17年になりますね。山本さんのご家族の方とも仲良くさせていただいていて。ジャムとかいただいたり。本当ありがとうございます。今は2人とも違う作品で偶然ぴえろプラスにいるんですが、時々近況報告がてら、ご飯を食べに行ったりしていますね。
─山本監督作品とそれ以外の作品で、取り組み方に違いはありますか?
伊部 基本的に全部全力でやっていますけど、山本さん監督作品は、コンテの段階から私に回すところはアップを多めにしてくるんですよね。それと、山本さんが演出で、私が作監をやっている時は、ほかの作監さんに入れる修正よりも、あからさまに少ないんですよ。で、「まかせた!」と言って、ほかのコンテを描いている(苦笑)。腹立たしいんですけど、信用はされているんだと思います。
─「さばげぶっ!」(2014)には、第9話以降、総作画監督として参加されています。
伊部 みんな生き生きしていて、描いていて楽しかったですね。モモカちゃんの声は大橋彩香さんで、「魔法少女 俺」のさきちゃんと同じなんですよね。人気アイドルのヤミーちゃんがケーキ食べすぎて太っちゃうお話(第10話)もはっちゃけていておもしろかったです。DVD用の特典映像のデザインもやっていまして、死神とか衣装の設定とか描きました。
─「魔法少女 俺」に参加することになったご経緯は?
伊部 川崎逸郎監督はゼクシズにいた時、近くの席だったので、もともと面識はあったんです。「ツキウタ。 THE ANIMATION」(2016)でぴえろプラスにいらっしゃって、私はその前から「鬼斬」でいたので、久しぶりにお会いしました。「魔法少女 俺」は、小澤一由Pから個別に声をかけていた感じです。
─参加されたご感想は?
伊部 原作サイドからしたら、「もうちょっとしっかり筋肉を!」と思われているでしょうが、私は資料と首っ引きで、あれが限界でした(苦笑)。
でも頑張ってできる限りは原作再現したつもりですし、かっこいいキャラもかわいいキャラもいて、歌もたくさんでLOVEパゥワーMAXの楽しい作品だから見てほしいです!