フィギュアメーカーが提案する“組み立てキット”の役割とは? 田中宏明(グッドスマイルカンパニー)、インタビュー【ホビー業界インサイド第32回】

2018年02月10日 12:000

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トイ文化の過渡期における“組み立てキット”の役割


── 「MODEROID(モデロイド)」ブランドの第1弾、マジンカイザーですが、最初はプラモデルと発表していなかったんですよね。

田中 はい、あえてプラモデル商品とは言いませんでした。なぜなら、マジンガーといえば合金トイか完成品というイメージが強いので、最初に「プラモデルです」と言ってしまうのが怖かったからです。僕も過去にマジンガーと名のつく完成品を手がけてきましたが、プラモデル商品は初めてです。だけど、いざ「実はプラモデルです」と発表したとき、予想よりはネガティブな意見が少なかった。これには、ちょっと驚きました。

── 顔面が塗装済みなんですね。シールという案はなかったのですか?

田中 いくつかシールを使う個所もあるのですが、顔のような複雑な部分に絞って塗装済みにしています。顔面にシールを貼るとどうしてもデコボコしてしまいますし、「本来は塗装すべきところを仕方なくシールで代替している」妥協した雰囲気が商品に出てしまいます。


── しかも、マジンカイザーは値段が安い(税込み4,900円)んですよね。

田中 プラモデルのコストはほとんどが金型代なので、「数が売れてほしい」という気持ちがあります。同時に、ソユーズでもマジンガーでも、どうすれば金型数を抑えてコストを下げられるかに、かなり労力を割いています。もっと高い値段を設定すればペイラインはクリアできますし、ユーザーも「まあこれぐらいの価格は仕方ないよね」と納得してもらえるでしょう。だけど、それって市場が広がらない典型的なパターンなんです。新しいブランドを立ち上げるからには、従来のコアなファンが満足して終わりではなく、ちょっと興味をもった新規のユーザーが「こんなに安いなら買ってみようか」と思えるぐらいハードルを下げないと、始めた意味がありません。

── では、新規ユーザーの獲得が目標ですか?

田中 僕がプラモデルの作法を知らない人間だからこそ言えるのですが、模型ファンを増やしたいとか、模型趣味を広めたいことが目標ではありません。それよりも、完成品トイを含めたモノづくりが、過渡期に来ていることを強く意識しています。これまで10年ほど続いてきた完成品トイのモノづくりが、これから先はかなり難しくなりそうなんです。完成品トイの価値と仕様のあり方が転換期に来ている中、“組み立てキット”は、ひとつの道筋になる気がしています。
わかりやすい話をすると、これまで1万円以上のフィギュアには手を出せなかった人も5千円以下の組み立てキットなら、手を出すかもしれない。安い分、自分の手で組み立ててもらうんだけど、組み立て終えたら、完成品フィギュアのように気軽に遊ぶことができる。そのいっぽうで、ユーザーが塗装したり改造したり、模型的なアプローチもできる。そういう新しい価値観をもった製品を出すべき時期に来ているんじゃないでしょうか。
たとえ話ですけど、80年代後半に「プラクション」という玩具をタカラが発売しました。テレビアニメ「魔神英雄伝ワタル」などに登場するロボットの組み立てキットなのですが、プラモデルともオモチャともつかない絶妙な立ち位置の商品でした。DX超合金などの高額玩具が売れなくなってきて、ガンプラに始まるリアルロボット系のプラモデルも停滞してきた時期に、安価な組み立てキットとして「プラクション」が現れて、ユーザーを刷新してくれました。今、そういう商品が必要だと思っています 。

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