音響監督・亀山俊樹 ロングインタビュー!(アニメ・ゲームの“中の人”第19回)

2017年12月03日 08:000

舞台演出を経て、アニメ業界に


─ご経歴についてうかがいます。なぜオムニバスプロモーションに入社されたのでしょうか?


亀山 それまで舞台の演出をやっていましたので、演出という仕事に高いハードルは感じませんでした。ただ、こんなに短い期間で作るものだとは思っていませんでしたが(苦笑)。


─なぜアニメを?


亀山 外画でもよかったのですが、オムニバスでのお仕事がアニメ中心になっちゃったんです。Wikiにはあまり載りませんけど、実はものすごい数のドラマCDも作っているんですよ。最初のうちは、アニメーションよりもドラマCDのほうを多くやっていました。


─最初のアニメのお仕事は?


亀山 演出ではなく制作アシスタントとしてですが、千葉さんが音響監督をされた「クマのプー太郎」(1995)です。当時のオムニバスでは制作業務と演出の仕事を両方、やらなければいけなかったんです。グルーヴ(編注:亀山さんの会社)は、制作と演出を別々に立てています。


─その後わずか1年で、「ハーメルンのバイオリン弾き」の音響監督(編注:クレジットは「録音演出」)に抜てきされました。


亀山 僕は39歳でオムニバスに入ったので、早いとは言えないんです。最初から「うちに来たら、演出をやってくれるよね」と言い渡されていました。


─斯波さんの指導を受けながらですか?


亀山 アフレコのテスト1発目だけ後ろにいました。それから2度と、現場にはついてくれませんでしたけど(笑)。最初は音楽をつけて斯波にも見せて、コメントをもらいました。それから、若林和弘氏にも見せました。若林氏は年下ですが、僕は彼の後輩に当たるんです(編注:若林さんは「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」(1995)や「千と千尋の神隠し」(2001)などの音響監督)。


2人から「ここの曲の入り、唐突じゃない?」と言われたんですが、「じゃあ、せっかくだから唐突のまま、この作品を仕上げてやれ!」と結局直しませんでした。奇をてらってやってみたかったんです。


─デビュー時から攻めの演出をされていたんですね。


亀山 今でもそうした気持ちは生きていて、「あまりやったことないな」、「こんなこと思いついちゃった!」と思ったら、うずうずやりたくなるタチではります(笑)。

 

息の長い役者を育てたい


─亀山さんは2010年に独立し、一般社団法人グルーヴを設立されました。なぜ株式会社ではなく、一般社団法人だったのでしょうか?


亀山 設立が割と簡単で、普通の会社のように利益を出してもよかったので、最初は一般社団法人にしました。ところが、「『一般社団法人』って何ですか?」と、普通の企業だと思われなくなっちゃったんで、社名を「一般社団法人グルーヴ・ホールディングス」に変えて、「株式会社グルーヴ」と「アプトプロ株式会社」という子会社を作りました。


─アプトプロは声優育成も行っています。音響制作会社以外に、養成所も立ち上げた理由は?


亀山 最初は、「いい役者が自分のところにいたら、楽だよな」というところから入ったんですが、「せっかく入ってくれるんだったら、息の長い役者を育てたい!」と思うようになりました。男性は息の長い方も多いですけど、女性でももっと息の長い人を育てたいなと思って。

 

転機は新房昭之作品


─転機になったお仕事は?


亀山 新房監督とのお仕事は転機でしたね。「とらいあんぐるハート ~Sweet Songs Forever~」(2003)でご一緒させていただいたのが最初で、それから次の「魔法少女リリカルなのは」につながっていきました。


─2017年には劇場アニメ「魔法少女リリカルなのは Reflection」が発表されました。


亀山 今回の「なのは」は、新しい時代の話なんですよね。前やったことをやるのではないという意味では、「なのは」はずっと新しいことをやらせてもらっているので、楽しいですね。


─新房監督とのお仕事で、印象に残っていることは?


亀山 新房監督は変なことをすると喜んでくれますね。演出ということではなくて、ただのアイデアものですけども、「ひだまりスケッチ」1期の特別編で、ゆのがそうめんを茹でてびっくり水を入れる直前に、「ビックリー!!」という吹き出し文字があったので、役者さんたちにも鼻をつまんで、セリフを入れてもらったんです。そうしたら、監督も「これはおもしろい!」と、作品内で多用してくださるようになって(笑)。


その伝統は今も生きていて、「3月のライオン」でも、監督から「亀山さん、今回はあれをやろうよ」とお話があって、文字に言葉をあてるというのをやっています。


─そのほかに何かございますか?


亀山 今までにやったことのない曲や音のつけ方をしこたまやったのは、「さよなら絶望先生」(2007~09)ですね。あれは本当に過激で、「始まったら2秒で切れる曲」とか、変なことばかりやっていました(笑)。「何が新しいか?」ということを常に考えていて、そういうおもしろさがありました。


─亀山さんは、2015年に惜しくも他界された声優の松来未祐さんと、「ひだまりスケッチ」でご一緒されています。


亀山 オーディションに原作者の蒼樹うめ先生がいらしてたんですが、松来さんの声を聴かれて、「あ~!吉野屋先生がいた~!」とおっしゃったんですよ。それほどの方なので、代えようのない方ですね。「もう二度と、『ひだまりスケッチ』はないんだな……」と思っちゃいますね。


最後にご一緒したのは入院される1か月前くらいで、「幸福グラフィティ」の特典ドラマCDの収録でした。お元気そうだとお見受けしていたんですが、あまり世に知られていない病気を抱えて、本当に残念だったと思います。「三十路祭」ライブも、観に行ったりしていました。

 

川面真也監督の壮絶な間のとり方


─近年は「のんのんびより」(2013、2015)、「田中くんはいつもけだるげ」(2016)、「ステラのまほう」(2016)、「サクラダリセット」(2017)など、川面真也監督とご一緒される機会も多いですね。


亀山 川面監督から指名してくださっていると思うんですが、大変ありがたいことです。瞬間の判断より、じっくりと考えられる方なので、僕はダビングより先にセリフと音楽を編集したものを渡すようにしているんです。監督はそれを何回も聴いて、「このままでいいです」とか、「ここをもうちょっと余韻伸ばしたいです」とか、判断されています。シーンによっては2案くらい用意して、「どっちの方向でやりたいですか?」とお聞きすることもあります。新房監督は「全部観ないとわからない」という方なので、前もって観ないで、ダビング時の判断になりますね。


─新房監督と川面監督、お2人とも唯一無二の才能を持つ監督ですね。


亀山 川面監督は間の取り方が独特なんですよね。壮絶な間を作るんです。「のんのんびより」第4話は、れんげが都会から来たほのかと仲良くなって、翌朝も一緒に遊ぼうと思ったら、お父さんの仕事の都合で帰っちゃうお話なんですが、ほのかのおばあちゃんが「ごめんなさいね」と言ってドアを閉めてから54秒間くらい、れんげが黙って立ったまんまで、風の音しか聞こえないシーンがあるんです。普通だったら間が持たないと思って曲をかけちゃうんですが、川面監督は「かけないでいいです」とおっしゃったんです。大胆で新しい演出をしたいと思っている監督とご一緒させていただくのは、すごくうれしいですね。


─「のんのんびより」、「ヤングブラック・ジャック」(2015)、「あんハピ♪」(2016)の3作品は、企画から参加されています。これはどういった理由によるものでしょうか?


亀山 製作委員会方式での出資のお誘いをいただいたということです。といっても、音響会社のパーセンテージは少ないですし、立ち上げ時に大きく何かに寄与するということは、あまりないんです。通常通りで、僕らが本読み(編注:脚本会議)に参加することはなくて、オーディションから参加しています。

 

 

「音楽の素養」、「表現に対する視野の広さ」、「コミュニケーション能力」が必要


─息抜きでされていることは?


亀山 料理と犬の散歩ですかね。料理は今、コンフィや犬用おやつを作っています。犬は僕が台所に立つと、「自分の料理を作ってくれているんだ!」と寄ってくるんです。そのくらい犬の料理の頻度のほうが高いです(笑)。


─ご自慢の料理を、声優さんやアニメ制作者の方に振るまったりは?


亀山 ハウスウォーミングパーティーと称してやっていました。その時は、燻製をやっていましたね。


─お酒は飲まれますか?


亀山 ワインが好きで、夫婦2人で年に400本くらいは飲みますよ(笑)。


─音響監督に必要な資質能力とは?


亀山 まずは「音楽の素養」。音楽にどんな力があって、世の中にどんな曲があるのか、知っておいたほうがいいと思います。


次に、「表現に対する視野の広さ」。どんな芝居がありうるのか、メディアはテレビだけじゃなくて、舞台も、落語も、舞踏もあります。表現にどれだけ多様性があるかというのを、知っておいたほうがいいですね。「こんな表現は観たことないからダメ」と言わない感覚がとても大切で、自分に対する警告の意味でも言っています(笑)。


人に頼んでやってもらう仕事ですから、「コミュニケーション能力」もないといけません。でも、単なる伝達屋ではありません。「自分がどうしたいか」というのをしっかり伝える必要があります。自分の感性をうまく伝え、それがおもしろいものになって返ってくれば、達成感にもつながると思います。

 

舞台がやりたい


─今後挑戦されたいことは?


亀山 舞台がやりたいです。稽古場があるし、やれる環境が整ってきたので。でも、まだ先の話ですよ。「社長が何道楽やってんだ!」と怒られそうですけど(苦笑)。


─亀山さんのグルーヴは、設立7周年を迎えました。


亀山 急成長していまして、僕の知らない仕事も増えています。もはや亀山だけのグルーヴではないんです。郷文裕貴という音響監督がいまして、そいつが僕より忙しいんですよ。それにもうひとり、演出が育ちつつありまして、どんなステップを踏んで世に出ていくか考えながら、楽しんでやっています。


─「のんのんびより」の新作制作が、発表されました。今回も参加を?


亀山 そのつもりでいます。


─アニメファンの皆さんにメッセージをお願いいたします!


亀山 「つうかあ」は、効果さんがひぃひぃ言いながら作っています。音楽とセリフと効果のバランスをとるのは大変なんですけど、エンジン音がパァーンと山にこだまする音とかは生音でやっていますので、音ロケの威力を感じてもらえればうれしいですね。


「3月のライオン」のほうは、原作者の羽海野チカ先生が緻密に作り上げた作品を、新房監督が「全部そのままやるんだ!」と宣言されて、心のひだを1枚1枚めくるようにていねいに作っておられます。


2018年1月には、「ミイラの飼い方」も始まります。「新しい映像だからこそ、新しい音をつけていく」感覚で、これからも定番じゃないものをやっていきたいと思います。


僕は生ぬるい目で観ていただくのも希望ですが、厳しい目で観ていただくのもアリだと思っています。アニメファンの皆さんで、もしこの仕事に携わってみたいと思う方がおられるなら、「こうすればいいのに!」というのを大事にしてほしいですね。僕はそういった批評精神が、日本のアニメ界を育ててきたと思っています。

 

 

 

●亀山俊樹 プロフィール
音響監督。広告代理店勤務、舞台演出を経て、39歳でオムニバスプロモーションに入社。同社では斯波重治さんと千葉繁さんに師事。1996年、「ハーメルンのバイオリン弾き」で音響監督デビューを果たす。2010年に独立し、音響制作の株式会社グルーヴと芸能プロダクションのアプトプロ株式会社を設立する。参加作品は「サイレントメビウス」(1998)、「魔法少女リリカルなのは」(2004)、「奏光のストレイン」(2006)、「さよなら絶望先生」(2007)、「ひだまりスケッチ」(2007)、「まりあ†ほりっく」(2009)、「バカとテストと召喚獣」(2010)、「それでも町は廻っている」(2010)、「電波女と青春男」(2011)、「黄昏乙女×アムネジア」(2012)、「のんのんびより」(2013)、「ニセコイ」(2014~15)、「艦隊これくしょん -艦これ-」(2015)、「幸腹グラフィティ」(2015)、「あんハピ♪」(2016)、「3月のライオン」(2016~17)、「BanG Dream!」(2017)、「つうかあ」(2017)など多数。2018年1月には「ミイラの飼い方」が放送開始、「のんのんびより」新作にも参加予定となっている。


※TVアニメ「のんのんびより りぴーと」 公式サイト
http://nonnontv.com/

※劇場アニメ「魔法少女リリカルなのは Reflection」 公式サイト
http://www.nanoha.com/

※TVアニメ「つうかあ」 公式サイト
http://twocartv.jp/

TVアニメ「3月のライオン」 公式サイト
http://3lion-anime.com/

TVアニメ「ミイラの飼い方」 公式サイト
http://www.tbs.co.jp/anime/miira/

※株式会社グルーヴ 公式HP
http://grooove.org/

※アプトプロ株式会社 公式HP
http://aptepro.jp/

 

(取材・文:crepuscular)

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