「艦これ」はシーン録り
─「艦隊これくしょん -艦これ-」(2015)では、声優さんがひとりで何役も担当し、たとえば佐倉綾音さんは8役(長門、陸奥、川内、神通、那珂、島風、球磨、多摩)もこなされました。収録も大変だったのでは?
亀山 声のチューニングが求められる作品でしたね。役者さんはゲームですでにやっていますけど、どの程度の音程でやっていたかを確認するために、役の前に自分の声を聞いてやってらっしゃいました。
アフレコは普通だったらAパートを一気に録って、Bパートを一気に録る、というやり方をしますが、「艦これ」は短く短くシーンを切る「シーン録り」を採用しました。たとえば、4役がからむシーンがあったとします。この場合、役者さんに「ひとりめは誰々」と決めて最後まで演じてもらい、そのシーンを4回繰り返して録るんです。自分のセリフに自分が応えるような形で録っていくわけです。どの役を先にやりたいかというのを、役者さんに確認しながらやっていましたね。
─アニメ版制作にあたり、配役変更は検討されましたか?
亀山 原作側から「どう思います?」と聞かれた時に、「変えたら、みんな怒るんじゃないですか?」、「時間をかければできます。そのほうがいいと思いますよ」と言っちゃったのは僕です(苦笑)。でもその後、「ですよね」と返ってきたので、皆さん同じ考えだったんだと思います。僕が「難しすぎます」と答えたら、別の方法もあったんでしょうけど、僕は「やりましょうよ!」と即答しました。
「つうかあ」では音ロケを敢行
─効果音作成では、どのようなことを意識されていますか?
亀山 音数が多いので、決まりの音だけ「こういう感じ」と効果さんに伝えて、お願いするケースが多いですね。一緒にできる方にお願いしているので、あまり間違いはないんです。「ここはもうちょっと川に近い」とか、「ここではベース音がどんどん抜けていく」とか、そういう演出になってくると、僕や監督から方向性を伝えます。
─作品によっては、音を先行させてシーンをつなぐこともありますよね。
亀山 悲鳴とかですね。あれはコンテで尺を取っておいてもらわないと、難しいんですよ。だから、できる時にはやりますが、「やらないほうがいいですよ」と言う時もあります。どういう時にそれをやっていいか、どういう時にそれをやると効果があるか、というのを助言する立場でもあると思います。
─音作りはリアル志向ですか?
亀山 観ている人の耳を誘導するために、あえてほかの音を消す場合もあります。たとえば、遠くで大切な演説をしている人がいて、近くではマントをはためかせて聞いている人がいるとします。忠実に再現すると、手前のマントがバサバサ鳴って、遠くの演説は小さい音量になるはずです。演説の内容が聞きたいのにそれは困る。そこで、マントの音を消し去って演説のほうを立たせる、すなわちマイクの想定位置をずらすことをしたりします。マントの音は、揺らめいているだけで音を感じることができるから、それは絵に任せたりするわけです。
─「つうかあ」(2017)のエンジン音には、とりわけこだわりを感じました。
亀山 サイドカーの音を録りに音ロケに行きました。僕と効果さん、音響制作のスタッフみんなでサーキットに行って、実際に走ってもらったんです。
─生音だったのですね。
亀山 しかも、走ってもらった方というのは、マン島のレースで決勝に残った日本人の方なんです。やっぱり速かったですよ(笑)。サイドカーにもまたがらせてもらったんですけど、「こんなに窮屈で、地面が近いものなんだ」といったアクションの大変さも、収録に生かせていると思います。
─第3話ではいずみとなぎさが夜にドリフトをして、火花を散らしていました。
亀山 エンジン音は生音ですが、火花のほうは「地面をこする金属の音」で想像できるので、効果さんに作ってもらいました。ベースノイズが作中の環境とは違う場合が多いので、音ロケで使える音っていうのは限られています。
─音ロケで採用される音とは?
亀山 エンジン音というのは、自然界の音にくらべてケタ外れに大きいので使えるんですが、小さい音だと、遠くでサワサワしている木々の音なんかも一緒に拾っちゃうんです。だから、ロケで録っておいて、どういう印象の音になるのか、効果さんに把握してもらうのが、音ロケのメインになるケースが多いです。
作画との関係で、生音を使わないケースもあります。「つうかあ」にはカウル(編注:空気抵抗を減らすためのエンジンカバー)をはめるアクションがあるんですが、実際にはめるのとは違う手順で作画されていたので、まったく同じものは使えず、同種の音を使いました。
演奏や歌声で成長を描く「BanG Dream!」
─「BanG Dream!」(2017)には、ギターやバンド関係の音がたくさん出てきました。
亀山 ギターのできる効果の神保大介さんに、やってもらいました。バンドの練習段階の音は別素材としてもらって、いろいろ組み合わせて作りました。演奏シーンというのは、「この程度のうまさ」というのが微妙でして……。プロデューサーから「こんなにへたなのは嫌だ!」と言われるかもしれないし、でも、だんだんと成長が見られないと嫌だし……。本当に大変でした(苦笑)。
歌は大槻敦史監督たっての希望で、録音スタジオで録らず、アフレコスタジオで録りました。ライブハウスの緊張感をイメージしてもらいたかったんです。それも、テイク2くらいで収めちゃいました。役者さんたちはライブもやっておられるので、ある程度できちゃうんですけど、「ここは初めてのライブだから、うわずっちゃいましょう」と、その時の香澄たちのメンタリティもろとも歌ってもらうようお願いしました。
─「幸腹グラフィティ」(2015)にはたくさんの料理が登場し、おいしそうな音が食欲を誘いました。
亀山 生音と人工音を使っていて、野菜を切る音なんかは生音です。作った音に関しては、「汁気の大小」がダビングごとに話題になりましたね。みずみずしい音でも、あまりみずみずしくやっちゃうと、汚い音になっちゃうんです。「もうちょっと汁気を抑えよう」とか、そこら辺はダビング時に苦労しました。
─「ひだまりスケッチ」(2007)では、背後でいろいろなテレビ番組が流れていました。
亀山 それぞれのシーンでどういうものを流すか、原稿は僕が書いたこともありました(笑)。
人の心を無意識に誘導する音楽
─劇伴に対するこだわりをお聞かせください。
亀山 オムニバス出身者というのは、自分で音楽の編集をするんです。師匠の斯波が自分で音楽ラインを引いて、編集までしていたんですよ。そういうこともありまして、僕は今でも全作品、自分で音楽編集して、ダビングに臨むやり方をしています。
ふっと心が明るくなったり、暗くなったりするところに、曲のいいところを持ってくれば、人の心を無意識のうちに誘導することができるんです。そういうところに、おもしろみがありますね。
─作曲家の選定もご自身でされるのでしょうか?
亀山 それはまれですね。「どなたがいいですか?」と選ばせてくれることもありますが、大体は音楽プロデューサーの方が「この人でいきましょう」と言われることが多いので、その方に向けてメニューを書いています。
─作品のテイストは当然だと思いますが、監督によっても、メニューの内容は変わってくるものなのでしょうか?
亀山 河村智之監督はクラブ系が好きな監督さんで、「対魔導学園35試験小隊」(2015)でもその方向性でした。販売されている曲というのは、聴きやすいようにマスタリングされているんですが、アニメ制作で使うものは、それよりも1段階前と言ってもいいくらい生の状態で、音の低いところから高いところまで、ダイナミックレンジが広いものが普通なんです。でも、クラブ系は強弱があまりないので、合わせるのにすごく苦労しました(苦笑)。
─「黄昏乙女×アムネジア」(2002)はホラー要素が感じられる画作りになっていましたが、音楽面ではいかがでしょうか?
亀山 デリケートな作品でした。基本的には「みんな幸せになってほしいな」と思いながら観る作品なので、ほかの作品と大きく違うわけではないんですが、「ミステリアスさ」についてはちょっと独特な感じが欲しかったんです。ミステリアスさを一番主張できるのは音楽なので、音楽に特色が欲しかった作品でした。
─1曲まるまる使用されるケースは?
亀山 「ここからここまでは、1曲でやりましょう」という、フィルムスコアリングのケースもありますよ。「3月のライオン」では、3分くらい将棋指しが打っているシーンで曲をかけようということになって、ショパンの「革命のエチュード」みたいなピアノ曲を作っていただきました。
「ここは1発!」という時には、ほかの音を全部止めて、音楽シーンにすることもあります。声が聞こえたり、音がしたりしている感覚を持ちうる画になっていれば、観ている人はそのまま観ていけちゃうんですよね。
─「3月のライオン」の劇伴は、本企画でも以前お話をうかがった橋本由香利さんの作曲ですね(編注:https://akiba-souken.com/article/31452/)。
亀山 橋本さんには最初、「歌えるような曲」とお願いしてしまい、明るすぎて使いづらい曲がありました。1期はそういった誤解もありましたが、2期からは「この程度の暗さで」とお伝えして、しっかりと意思疎通を取りました。
作曲家との意思疎通はとても大切ですね。デモが上がってきて、直しがきく時間だったらいいんですけど、そのまま録音に突入されてしまったら、おしまいなんです。