アニメーター・藤本さとる ロングインタビュー!(アニメ・ゲームの“中の人”第14回)

2017年06月18日 11:000

優秀なスタッフに恵まれ、進化する「シンフォギア」


─「シンフォギア」シリーズは「G」以降、藤本さんがキャラデザを担当されています。


藤本 原案の吉井ダンさんが線をまとめてくださったので、ほとんどそのまま使わせていただきました。あと、吉井さんはバックしても結構教えてくれる方なので、僕はおんぶにだっこでやっている感じです。


─藤本さんのツイッターには、切歌の誕生日お祝いイラストがアップされていました。お気に入りキャラなのですか?


藤本 そうですね。初めて吉井さんの原案を見た時、「これは人気が出る!」と思いました(笑)。


─「シンフォギア」は、今やサテライトの看板アニメのひとつだと思います。


藤本 多大な貢献をしてくれたのは、アクションディレクターの光田史亮さんです。シンフォギアの現場を支えているのは、光田さんだと言ってもいいと思います。


よく光田さんと話をするのですが、1期の時は認知度も低くて、やってくれるアニメーターさんも少なく、「誰か原画をやってください・・・」とマッチ売りの少女状態でした(笑)。でも、「G」になってからは知名度のおかげで集まるようになり、「GX」にもなると、進んで「やりたい」と言ってくれる人までいました。本当にうれしいですね。


─「シンフォギア」で注目されている若手アニメーターは?


藤本 式地幸喜くん、今西亨くん、ハニューくん、大久保義之くんは若手期待の星なので、ぜひ注目してほしいです。


─「GX」には椛島洋介さんも総作監として参加されていますね。


藤本 椛島さんは雲の上の人なので、運がよかったなという感じです。同い年ですが、キャリアは4年先輩です。出世も早い方で僕が原画を始めたころには、すでにアクション作監をされていました。


─「シンフォギア」の総作監ではどのような作業を?


藤本 完全に分業制でして、僕は顔を整えていく作業に集中しているんです。よく言うんですけど、実写のメイクです。大道具、小道具、アクション、演出家・・・いろいろいますけど、アニメーターは全部できるのですよ。でも、総作監は最終メイクの仕事なので、そこに集中させてもらえるのはありがたいことですね。


やはり光田さんが動きを直してくれるおかげです。監督や原作の方が出されるイメージを具体的な形にしてくれます。絵も似せられる人なので、彼の仕事に関しては僕はやることはないですね。おかげで、僕の命が少し助かっているくらいです。


─「GX」では4体の個性的なオートスコアラーが登場しますが、彼女たちの多種多様な表情も、藤本さんが最終的な調整を?


藤本 僕も調整していますが、いろいろな方が力をくれているのです。ガリィの悪い表情は椛島さんが描かれていますし、レイアの奇抜なポーズは小野勝巳監督の発案です。


─翼のバイクシーンも印象的でした。


藤本 バイクって結構作画が大変なので、敬遠されていたのですが、メカニックデザインの大河広行さんに、お願いして作監をやってもらいました。本来僕がやるべきなんですけど、メカはダメなんです(哀)。


─必殺技をカッコよく見せる工夫として、止め絵も多用しておられますね。


藤本 必殺技カットインは動きの途中で止まるので、絵が崩れていると、バレちゃうんですよ。そういった時は「TVPaint Animation」というソフトウェアで修正して、撮影さんに撮り直してもらっています。


TVPaintは僕が「MAJOR メジャー」6期(2010)の作監をしている時に、大久保くんから教えてもらいました。これまであきらめていたところも、このソフトで直せるようになったので、「これは危険なものが入ってきたな」と思いましたね(笑)。


─「GX」第5話のクレジットを見ると、原画もされているようですが・・・


藤本 いえ、僕は「シンフォギア」では1期のED以外で原画をやっていません。たぶん、「載せないと失礼なので、載せておこう」といった忖度(そんたく)があったんじゃないでしょうか。


─「シンフォギア」で思い出深いお仕事は?


藤本 「G」の調が初めて歌うシーンで、今じゃ絶対難しい「上下タップ」を使ったことですね。パンアップ中にタップが変わるという、普段絶対やっちゃいけない行為があるのですが、そのカットはどうしてもやらなきゃいけなかったんです。でも、C2Cのアニメーターさんがうまく対応してくれて、リテイクも出なかったので、本当に感動しました。


─新シリーズ「AXZ」の意気込みと、作画上のポイントをお聞かせください。


藤本 原作者の上松範康さんと金子彰史さん、クリエイターの皆さんが新しいアイデアをいろいろ出してくださったので、今回もおもしろい作品に仕上がっていると思います。「シンフォギア」には必殺技会議というのがありまして、今回はキャラ原案の吉井さんも会議に出席されています。


作画に関しては杉江敏治さんに、光田さんと共同でアクションディレクターをしていただいています。あとは、「GX」で若いアニメーターが増えたのですが、今回はさらに若い世代が「シンフォギアをやりたい!」と入ってきてくれたので、そういった若い力にも期待してもらえればと思います。

 

 

体力と健康が一番大事


─キャリア上、転機になったお仕事は何でしょうか?


藤本 アニメーターは制作に雇われているわけですが、「うまくなったんだな」というのを、絵を見て理解できる制作は少ないんですよね。制作がアニメーターを認める瞬間というのは、第三者の評価、自分より上の立場のクライアントやプロデューサー、メインスタッフだったりするのです。


僕は版権仕事の評価がよかったことがあって、それから仕事が来るようになった気がします。いつ誰が自分の仕事を評価するかわからないので、1枚1枚手は抜けないですね。


─最近のアニメーターの事情について、藤本さんのお考えをお聞かせください。


藤本 アニメーターの採用条件が各社よくなってきていると感じます。サテライトも条件は上がっています。なので、僕のころに比べて入りやすくなっていると思います。


─昔に比べ、原画から作監に上がる期間も短くなっています。


藤本 原画をいっぱいやってから作画監督をやるというのが昔の流れでしたが、今は上手ければすぐやらせますから、スピードとか原画の経験がないと苦労するでしょうね。


─アニメーター志望者の数も減っているのでしょうか?


藤本 学校の企業説明会などにも行っていますが、生徒が全然いないです。美大に行く人が増えたからかもしれません。


─そのほかにお感じになることは?


藤本 社員になったり、最初からまとまった給料をもらえたり、状況は変わっているので、アニメーターが貧乏じゃなくなる時代も来るかもしれませんよ。その代わり、窓口は狭くなりそうな気がしています。お金を払う以上、最初から描けないといけないので、学生時代にどれだけ頑張れるかが重要になってきますね。


─アニメーターに必要な資質能力とは何でしょうか?


藤本 今、アニメーターを志す人がいたら、「運動しなさい」って言いますね。絵を描くのも大事ですけど、体力と健康が一番大事です。先輩でも後輩でも、体を壊して辞めていく人をたくさん見てきましたから。


うまくて結果を残しているアニメーターは、ちゃんと人間ドックに行っているんですよ。このことはもっと広めたほうがいいと思いますね。


─今後挑戦されたいことは?


藤本 漫画も描きたいし、イラストも描きたいし、いろいろやりたいことはあります。そのうちアニメは3Dになっていくと思うので、3Dの勉強もしています。アニメの企画なんかもやってみたいです。やりたいことに対して、人生は短すぎますね。


今一番やりたいのは、アウトドア関係です。某監督さんは「経験こそがすべて」みたいなことをおっしゃっていて、海外に一人旅にいったり、スキューバダイビングをしたり、バンジージャンプをしたりと、いろいろなことをされているそうです。僕も去年、今西くんに誘われてスキューバダイビングを始めたんですけど、アニメ以外に何か経験を得ていかないと、尻すぼみになっちゃうんじゃないかと思っています。


―最後に、アニメファンの皆さんにメッセージをお願いします!


藤本 もしアニメ業界に行こうか迷っている人がいたら、「この仕事はおもしろすぎて、一度やったらやめられないくらい楽しいですよ!」と伝えたいですね。僕はアニメーターになって、会社に行くのが嫌だと思ったことは一度もありません。アニメ業界は「早く会社に行きたい!」と思える、そういうところなんですよ。

 

 

●藤本さとる プロフィール

アニメーター、作画監督、総作画監督、キャラクターデザイナー、演出家。静岡県浜松市出身。静岡県立浜北西高校、水産大学校、代々木アニメーション学院を卒業後、じゃんぐるじむに入社。A.P.P.P. 、ハルフィルムを経て、サテライトに移籍。サテライトでは同社初の社員アニメーターになる。美少女の作画を好み、「スケッチブック~full color's~」(2007)、「ARIA THE ORIGINATION」(2008)、「たまゆら~hitotose~」(2011)、「異国迷路のクロワーゼ」(2011)、「ガールズ&パンツァー 劇場版」(2015)で作画監督、「しゅごキャラ!! どきっ」(2008~09)で総作画監督、「しゅごキャラ!!」、「たまゆら」、「クロワーゼ」では演出も担当した。「WHITE ALBUM2」(2013)と「戦姫絶唱シンフォギア」シリーズ(2012~)では総作画監督とキャラクターデザインを務め上げ、現在は「シンフォギア」の新シリーズ「AXZ」を鋭意制作中である。


※TVアニメ「しゅごキャラ!!どきっ」 公式サイト
http://www.tv-tokyo.co.jp/anime/shugo-chara-doki/

※TVアニメ「WHITE ALBUM2」 公式サイト
http://whitealbum2.jp/

※TVアニメ「戦姫絶唱シンフォギア」 公式サイト
http://www.symphogear.com/

※TVアニメ「戦姫絶唱シンフォギアG」 公式サイト
http://www.symphogear-g.com/

※TVアニメ「戦姫絶唱シンフォギアGX」 公式サイト
http://www.symphogear-gx.com/

※TVアニメ「戦姫絶唱シンフォギアAXZ」 公式サイト
http://www.symphogear-axz.com/

※藤本さとる ツイッター
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(取材・文:crepuscular)

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