憧れの佐藤順一監督と「ふしぎ星の☆ふたご姫」で一緒に
─目標とされる方は?
藤本 業界に入る前からすごいなと思っていて、実際にお会いしてからもすごいなと思ったのは、佐藤順一さんですね。
「ふしぎ星の☆ふたご姫」(2005~06)で佐藤さんが2つ隣の席に座られた時は、すごく緊張しました(編注:佐藤さんは本作の総監督)。いいところを見せようと思って、「佐藤さんより先に帰らない!」と頑張ったのですが、24時間経っても帰宅されないんですよ。その時、「佐藤さんにはとてもかなわない、こういう人が時代を作っているのだな」と思いました。
─2期の「ふしぎ星の☆ふたご姫 Gyu!」(2006~07)第49話で作監デビューを?
藤本 そうですね。
─佐藤監督から指導を受けられたのですか?
藤本 いえ、神様、雲の上の人ですから。打ち上げでお話させていただいたくらいです。
─「ふたご姫」シリーズはハルフィルムメーカー制作ですが、いつ移られたのでしょうか?
藤本 伊藤郁子さんと佐藤さんがタッグを組んで「プリンセスチュチュ」(2002~03)というアニメをやると聞いた時、すぐにハルフィルムに電話して、「やらせてください!」とお願いしました。
─移籍のきっかけも、佐藤監督作品だったのですね。
藤本 ハルフィルムでは席を置いているだけだったので、GONZO制作の「カレイドスター」(2003)もやりました。佐藤さんがやっているのを探して行くみたいな、ストーカー的な仕事をしていましたね(笑)。
「自分の本当の絵」を描くため、限界まで自分を追い込む
─藤本さんの得意な作画を教えていただけますか?
藤本 得意というか、女の子キャラを描くのは好きです。好きなら頑張れるので、それがすごく大切だと思っています。よく若い人から「どうやって描くのですか?」、「どう考えて描いているのですか?」と聞かれるのですが、限界まで自分を追い込んで、すべての力が抜けて死にかけた時に描くのが、一番自分の本当の絵だなって思うんですよ。うまく描こうと思って描いた絵じゃなく、脳みそからっぽで、今までの蓄積みたいなのが出ている時の絵が一番いいかなって。
─「自分の本当の絵」が描けたと思う作品は?
藤本 一番体力を削っていたのは、「しゅごキャラ!! どきっ」(2008~09)の総作監です。僕の身に余る仕事で、描いても描いても終わらない。極限状態でやっていました。
─本作が初の総作監ですよね?
藤本 そうですね。それまでは「スケッチブック~full color's~」(2007)や「ARIA THE ORIGINATION」(2008)の作監をしていました。
─「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」(2010)第2話では、作中作「星くず☆うぃっちメルル」の作画監督もされています。
藤本 これはほとんど追崎史敏さんがやられたお仕事のおかげでして、キャラデが絵コンテ・演出もされているので、僕は絵を乗っけていくだけの楽しい仕事でした。
─「しゅごキャラ!! どきっ」のEDアニメーションでは、作監以外に絵コンテと演出もされていますね。
藤本 安田賢司監督にお願いして、やらせてもらいました。初めてコンテを描き、人集めも自分でしたのです。自転車で走り回って、過去に知り合った人たちに声をかけまくりました。
このころは「演出になるぞ!」と言って、いろんな人のカッティングやアフレコに行って勉強していました。「たまゆら~hitotose~」(2011)5話や「異国迷路のクロワーゼ」(2011)の映像特典の演出もやらせてもらいました。
サテライト初の社員アニメーター
─サテライトにはいつ移られたのですか?
藤本 「しゅごキャラ!!」の2008年ですね。
─最初から社員で?
藤本 いえ、最初はいわゆる「拘束」という契約形態です。
─社員アニメーターになられた理由は何でしょうか?
藤本 体調面の不安が一番の理由です。僕が社員になった時、周りで社員のアニメーターなんて聞いたことなかったです。サテライトでは僕が初めて社員を希望したアニメーターのようでした。
しかも、僕が面接を受けたのが東日本大震災の日(編注:2011年3月11日)で、地震対応で中断してしまったので、話が流れてしまわないか、すごくドキドキしましたね。
─今のサテライトには、藤本さん以外にも社員アニメーターさんがいらっしゃるのですか?
藤本 5、6人います。やっぱり生活が安定するので、結婚する人も増えました。いいことですね。
─アニメーターの社員化は、業界でも難しい課題のひとつとうかがっています。
藤本 何をもって「仕事ができている」と言えるのか、雇う側は絵を描かない人ですので、判断が難しいですよね。先輩方から「年を取ると、どんどん描けなくなる」と聞きますので、そうなった時の収入の不安を減らす意味でも、社員という選択肢があるのは大切だと思います。
「WHITE ALBUM2」と「シンフォギア」を同時進行
─藤本さんは2013年に「WHITE ALBUM2」と「戦姫絶唱シンフォギアG」で、キャラクターデザインと総作監をされています。キャラデはどちらが最初でしょうか?
藤本 キャラクターデザインは以前からゲームとかでやっていたのですが、アニメで最初に話が来たのは「WHITE ALBUM2」です。総作監作業もこちらが先に始まりました(編注:放送は「シンフォギアG」が7月、「WHITE ALBUM2」が10月の開始となっている)。
─どのように作業されたのでしょうか?
藤本 「WHITE ALBUM2」の作業に取りかかる時、アニメーターが本読み(編注:脚本会議のこと)に出ることはあまりないんですけど、先輩が「本読みに出て監督、脚本家、原作者がどんな話し合いをしているのかを知ると、総作監作業が楽になる」、「キャラクターの性格や行動を知っていれば、筆も速い」みたいなことをおっしゃっていたので、僕も本読みに出たんです。
そして、原作の方の前で描いてみて、「これでいいですか?」、「それならこれでどうですか?」とおうかがいを立てながら作業をしたんです。昔から悩めば悩むほどダメになっていくのはわかっていたので、このスタイルがいいんじゃないかと思ったんです。今でも同じやり方でやっています。
─原作のデザインを細かいところまで再現されていますね。制服のエンブレムなども手描きなのでしょうか?
藤本 エンブレムは貼り込みで、描いてないんですよ。輪郭だけ描いて、撮影さんが一生懸命貼ってくださったんです。
─こういった部分でも撮影さんとの連携が。
藤本 今のアニメは貼り込みが多いですよ。話は戻りますが、「異国迷路のクロワーゼ」は服に貼り込むという点では、これ以上ない作品でした。撮影さんが手で1枚1枚貼って、血反吐を吐いて頑張っておられました。ただ、このころはアニメの本数が少なかったこともあり、スタッフが充実していました。なので、すごい仕上がりになっています。
─「WHITE ALBUM2」は、「シンフォギアG」と同時進行だったと思いますが・・・
藤本 「WHITE ALBUM2」と「シンフォギアG」の制作が決定してから最終話の納品が終わるまで並行作業だったのと、初めてのキャラクターデザインが重なり、死ぬかと思いました。
─「WHITE ALBUM2」の第1、9、12話はお1人で総作監をされていますね。
藤本 2、7話以外、全部参加しています。やっていないのにやっていることになっていたり、アニメのクレジットって結構適当なんですよ(苦笑)。
─最近のアニメの総作監を単独でされるのは、かなり大変だとうかがっています。
藤本 1週間で作る時は5、6人になっちゃいますけど、2、3か月かければ1人でもちゃんと満足いくフィルムにはなりますよ。
─総作監として、どういった点に注意して作業されましたか?
藤本 絵のかわいさもそうなのですが、この作品は人間ドラマなので、表情芝居に力を入れました。