「仕事」としてアニメーターという人生を生きる――ベテラン原画マンの横山健次に、「無理せずマイペースで長く働けるコツ」を聞く【アニメ業界ウォッチング第94回】

2022年11月13日 09:000

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専業アニメーターになることだけがアニメの道ではない、自分の「好き」を利用しよう


── よく、作画監督レベルになるとかなりの金額を稼げると耳にするのですが、実際はどうなのでしょう?

横山 そこそこ、という感じです。アメリカでアニメーションの仕事をしていた人は「年収3千万円ぐらいもらってるんでしょ?」と軽く言うのですが、日本では無理ですね。それに、お金の保証をされる人とされない人との差がはっきりしています。作画監督になると、人材不足の中、「逃げられないように」という意味でもお金を多く出してくれます。しかし、動画や第二原画の人たちには、なかなか十分な金額が出ません。特別なカットの単価を上げてもらっても、そういうカットは大変なので3~4日かかってしまう。時給に換算すると、微々たる金額です。

── 「現場に人がいない、描ける人が集まらない」とも聞くのですが?

横山 制作サイドが絵の要求レベルをどんどん上げていくから、動画の人アニメーターはついていかれなくなるんです。「こっちのカットもやってくれ」「いや、まだこっちのカットをやっているから」という具合に、大勢集めたとしてもたくさんのカットをさばききれない。ある程度まで拘束して、一定の保証額をもらえる形にしないと、動画や原画では食べていかれない可能性があります。「もっと早く描いてよ」と言われても、昨日まで描けなかった人が今日から早く描けるわけではありませんよね? 急いで描くと絵が荒れてしまって、荒れると文句を言われる。ですから、新人のうちはなるべく順を追って動画から始めて、腕を上げたら原画へと進み、原画でも苦しければ会社に雇ってもらうか、がんばって作画監督になって一定額を保証してもらうか……。だけど、僕は僕のやり方で収入源を築いてきただけなので、もっと効率よく稼いでいる人がいるのかもしれません。


── ところで、横山さんはオンラインコミュニティを開催しているそうですね。アニメーター養成講座のようなものでしょうか?

横山 いいえ、講座ではないんです。アニメをつくった経験のない人に「簡単なものでいいから、アニメをやってみませんか?」と呼びかけて、作りたい人の背中を後押しする程度のものです。ボールが跳ねるとか人が歩いてくるとか、簡単なお題を決めて描き方のチュートリアルをつくっておいて、それを参考に短いアニメをつくってもらうものです。とりあえず簡単な動画を1本つくるところから始めるサークルで、ざっくりとした目標しか決めていません。すると、「絵は描けるけどアニメはつくったことがない」人ですとか、思ったより希望者が集まってきました。今はiPhoneでスキャンのような作業ができますから、スマホだけでがんばってアニメをつくる人もいますし、なかには動くLINEスタンプをつくっている人もいます。それがすぐに売れるかどうかは別として、もしかするとそこを起点にして新しい仕事に発展するかもしれません。
何がなんでも専業アニメーターになることだけが、アニメーションの道ではないと思うんです。今はYouTubeでもTikTokでも短い動画をアップロードできますから、アニメーションの可能性を狭く限定する必要はありませんよね。いま集まっている会員たちはデジタルツールに詳しくて、会員同士で情報交換しています。むしろ、僕が教えてほしいぐらい(笑)。

── アニメーションを長く続けるコツって、何ですか?

横山 必死になりすぎてはいけないんでしょうね。自分が面白いと思ったら、夢中になって続けられるんです。僕は漫画家になることには挫折しましたが、自分でアニメーターとして動かすんだと意識して読むと、漫画を読むことに没頭できます。「SLAM DUNK」でも「ONE PIECE」でも、「このキャラクターなら次はこう動くな、こういう表情をするよな」と想像がふくらみます。その漫画を、より好きになれば、アニメの作画にも生きるんですね。最近、アニメーターをしていて「つらい」と漏らす新人がいるのですが、今は学校で専門知識を教えすぎて、自由さがなくなっているのかもしれません。

── 「美少女キャラさえ描ければ幸せ」というアニメーターもいるみたいですね。

横山 僕自身にはそういう嗜好はないんですけど、たとえ好みが偏っていたとしても、自分の「好き」に特化して利用すれば、仕事に前向きになれると思います。 僕の家は中野にあったので、子どものころはよく練馬周辺のスタジオへ遊びに行っていたことを、アニメーターになってから思い出しました。当時はハンドトレスの時代ですから、お姉さんたちが手際よく線を引く様を「すごいなあ」と眺めていました。「僕、どこから来たの?」と話しかけられたりして(笑)。ほかにも「動画技術研究所」という場所に行ってみると、後に「宇宙戦艦ヤマト」を監督する石黒昇さんが出てきました。「君たちも絵を描いたら、ここに持ってきなさい」と言ってもらえて、僕が業界に入ってからも「あのとき、どうして持ってこなかったの?」と覚えていてくれました。ですから、子どものころから興味はあったのですけど、仕事として向き合うことで初めて自分の居場所が見つかった……という感じなんです。

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(C) 井上雄彦・アイティープランニング・東映アニメーション

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放送日: 1999年10月20日~   制作会社: 東映アニメーション
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