「仕事」としてアニメーターという人生を生きる――ベテラン原画マンの横山健次に、「無理せずマイペースで長く働けるコツ」を聞く【アニメ業界ウォッチング第94回】

2022年11月13日 09:000

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セルの乾く時間まで考慮せねばならないアナログ環境で、30分の原画をひとりで描く


── 横山さんが初期に参加した作品はユニークで、「FUTURE WAR 198X年」(1982年)という近未来を舞台にしたアニメでも原画を描いていますね。

横山 「FUTURE WAR 198X年」は、「走れメロス」と同じ勝間田具治さんが監督していて、今度はディスコのシーンを頼まれたんです。6分ぐらい、ガチで長い踊りのシーンを作画したのですが、実写畑の舛田利雄さんがもうひとりの監督で、「このシーンいらないな」と(笑)。描いた側としては「何だと?」と思いましたけど、最終的には会話しながら踊るシーンになって、がんばって作画した成果が残っていると思います。

── その翌年、日本サンライズ(当時)の「銀河漂流バイファム」(1983年)にも参加しているんですよね。

横山 東映の「ストップ!! ひばりくん!」(1983年)で作画監督をやっている最中、「バイファム」のプロデューサーの植田益朗さんが家まで来て、かなり粘ってお願いしてきました。僕も若かったので渋々という感じで引き受けましたが、いざ描いてみると面白かったです。

── 同じ年に、「宇宙戦艦ヤマト 完結編」に作画監督補として参加していますね。

横山 その頃になると、東映が劇場アニメをつくるときには、だいたい声がかかるようになっていました。まだ20代だったせいもあり、自分から「このシーンをやりたい」などと進言することはなくて、制作側から指示されたシーンを何でも描いていました。

── それから10年後の「SLAM DUNK」(1993年)では、ひとつのエピソードの原画をひとりだけで描くようになりますね。

横山 さっき言った「走れメロス」の踊りのような華やかなシーンは、滅多に回ってきません。演出さんが、そういう失敗しそうなシーンは避けてしまうんです……実際、失敗する場合が多いんです(笑)。「SLAM DUNK」はバスケットボールの動きをアニメで描くわけで、これは面白そうだと思いました。実際のバスケットの動きを研究して、かなり本気で挑みました。やっぱり、自分の場合はキャラクターよりも動きに興味があります。

── しかし、30分の原画をすべてひとりで描くとなると、いろいろ大変そうですが……。

横山 当時はまだセルでしたから、セルの裏から絵の具を塗って、乾くのを待つのに時間がかかりました。それと、30分あたりの枚数制限もついてまわります。今のアニメだと30分で6,000~1万枚ぐらいの動画枚数ですが、当時は3,500枚程度しか使えませんでした。なので、少ない枚数の中、印象的に見せるために背景をガラリと変えてみたり、ストップモーションで美術さんに絵画的な塗り方をしてもらったり(ハーモニー処理)、動いていなくても動いて見えるように、いかに面白く見せるかをあれこれ工夫していました。


──  ひとり原画の場合も、演出の人はほかにいたわけですよね?

横山 ええ、でき上がった絵コンテを前にして「このカットはどうしようか」と、演出と2人で相談して進めていきます。動きのつけ方はある程度まで任せてもらえるので、僕の裁量は半分。もう半分は演出が中心に立って「ここの処理はこうしたい」と、各パートに采配していくわけです。僕が担当するのは原画と作画監督までで、動画は別のところへ外注します。ひとり原画ではあるけど、アニメーションはひとりでつくっているわけではないんですね。

── 最近でもひとり原画はあるようですが、その話数だけは個性的でもいいように過去のエピソードだったりします。

横山 昔は、ひとり原画というつくり方は割と多かったんです。僕の知っている方で、2本も同時にひとり原画をやっていた人もいました。昔のテレビアニメは話数ごとに絵柄が違っていても、問題にされなかったということもあったからでしょうか。最近は絵柄の統一に厳しいから、ひとりで丸ごと原画を描くのは難しいでしょうね。僕の場合は自分の個性はなるべく出さずにキャラ表に従って描き、その中でさらによく見えるように多少アレンジするという描き方で生き残ってきました。当時のアニメとしては、「SLAM DUNK」は線の多いほうでした。僕は「ONE PIECE」(1999年)でもひとり原画をしていましたが、今ではもうできません。「ONE PIECE」の場合、TV局や少年ジャンプの編集部が高いクオリティを要求するようになってきて、たとえばufotableさんがテレビアニメでもすごいハイレベルの作品をつくっていますが、「ああいうものにしてほしい」と言われるわけです(笑)。制作費を多く出してもらっても、そう簡単にはできないんだけど……とは思うのですが、おかげで「ONE PIECE」のアニメはかなり密度が上がりましたね。

── 横山さんはシリーズ全体のことを考えて原画を描いていると思いますが、逆に強烈な個性で勝負する芸術家タイプのアニメーターもいるでしょう?

横山 はい、けっこう多いです。僕の兄を通してそういうタイプのアニメーターの暮らしぶりを多く見てきたせいか、大学時代の僕はアニメーターを仕事の選択肢からむしろ外していたんです。そういう人たちの多くは朝帰りが多くて、その割に仕事がはかどらない……という働き方をしていたからです。僕は早い時期に結婚して子どもを育てて、家も買ったので、いやでも生活を考えざるを得ませんでした。最初からアニメーションを仕事として、生活の糧として考え、長く続けていくことに重きを置いてきました。この業界では、昼間は遊んでいて夜どおし仕事をする人も多いのですが、ひとりで原画と作画監督をやるなら、遅くとも昼には仕事を始めて一定時間やったら終える。それを毎日コツコツと積み重ねてやっとできる……という感じです。「最低限、1日にこれぐらい」とペースを決めないと、後でしわ寄せが来るからです。僕は昼前にスタジオに来て、夜の10~11時には帰るようにしていますが、朝9時前に来て夕方に帰る人もいます。フリーランスなので仕事のペースは人それぞれでいいんだけど、「今日はなんだか気分がのらないなあ」なんて言いはじめるとダメなんです(笑)。才能のある人ほど、なかなか仕事を上げてこなかったりする印象ですね。

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