─キャリア上転機になったお仕事は?
常木 やはり「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」が、一番転機になった仕事ですね。知名度が非常に高い作品だったので、正直「僕がやってもいいんだろうか」という思いもありました。
あとは、「ミクロマン」、「ボンバーマンジェッターズ」(2002~03)、「Get Ride! アムドライバー」(2004~05)も思い出深い作品です。丸っこいメカも好きなので、「ボンバーマンジェッターズ」のデザインは楽しかったですね。原作ゲームには出てこない宇宙船などは割と自由に作らせてもらいました。「アムドライバー」は、宮崎真一さんが変形パターンを考えて、僕がそれをアニメに落とし込んでいった感じです。もともと模型好きということもあり、すごく忙しかったですけど、デザインしたものがおもちゃになるということで、テンションが高かった記憶があります(笑)。
─常木さんのデザインはどのような流れで作られていくのでしょうか?
常木 作品はやっぱり監督のものなので、監督の要望に従うのが基本です。荒木哲郎監督、神山監督、塩谷直義監督は、毎度最初にイメージを持っておられますね。デザインって、最初に条件を与えられたほうがまとまりやすいんですよ。それでも「こっちとこっち、どっちが合ってるだろうと」と迷った時は、2つか3つ用意して、監督に選んでいただきます。
─常木メカの特徴をひと言で言うと?
常木 子供のころから模型が好きだったので、「これ、模型で欲しいな」というのが好きなデザインなんです。ロボットなら立たせた時にちゃんと立てるかとか、車ならちゃんと動けるか、ハンドルを握った時にミラーがちゃんと見えるかとか、鉄砲なら握った時に使いやすいかとか、そういったことが気になります。ライフルのスコープが変なところにあったり、薬莢排出口と弾倉の位置がずれていたりする設定を見ると、モヤモヤしてしまいます。だから、自分が描くものに対しては、それよりもっと優先すべきことがない限りは、なるべく実際に作って無理のないものにしたいなという考えはありますね。
─制作環境は作品ごとに違うのでしょうか?
常木 「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」の時はワンフロアに監督、演出、作画、デザイナー、仕上げ、3D、撮影、制作と全員おられて、結構スムーズにやり取りできて楽でした。本来はそれが一番なのでしょうが、なかなかそうはいかないですね(苦笑)。
─手描きと3DCGについてはいかがお考えでしょうか?
常木 流れ的には3Dに行くと思うのですが、手描きのよさはずっと残ると思います。たとえば3Dでは1回モデルを作ってしまうと、後で部分的に強調させたりするのは手間ですが、手描きだとそれができるんです。
─緻密なデザインが求められるお仕事は、昔に比べて増えていますか?
常木 増えていますね。最近はアニメ業界の外からイラストレーターさんを連れてきて、キャラ原案をしてもらったり、メカ原案をしてもらったりということが増えています。それもあって、僕のところにはそういった原案をアニメ用のデザインにする仕事がたくさん来ています。本当は原案をデザインした人にアニメ設定を作ってほしいのですが、契約だったり、テクニック的な問題だったりで、現場でやるしかないんでしょうね。
線が増えることが作品にとっていいことなら問題ないのですが、優先順位は作品によって変わってくるので、僕は作品に合わせたデザインラインにするのが大切だと考えています。この作品はこういう世界観でこういう技術レベルだから、ここまでのラインに収めよう、この作品はSFだから、ちょっと現実離れしたデザインラインでも大丈夫だ、とか。僕はそういったことを考えてデザインしていますが、その辺はデザイナーさんによって違ってきますね。どの作品でも確固たる信念を持って、全力投球されるデザイナーさんもいらっしゃいます。
─設定が細かくなればなるほど、作画は大変になりますね。
常木 今はTVアニメ1話分の原画マンが20人、30人が当たり前になっていて1人10カット、下手すると5カットしかできない人もいたりして、設定をちゃんと見て描いてもらえないケースが増えています。そうすると、作監さんにものすごい負担がかかり、間違い探しだけで時間を使ってしまって、もっときれいな絵にしよう、ちゃんとしたL/Oにしようというところまで行けない作品が多くなっているように感じます。
─メカニックデザイナーに求められる資質能力とは何でしょうか?
常木 何にでも興味を持つことですね。自分で資料を探してきちんと仕組みを理解しないと、描けないわけですから。あとはやっぱり監督の意向をくんで、作品に合ったものをちゃんと仕上げられるかですね。
―今後挑戦されたいことは?
常木 「アムドライバー」みたいな、模型になる仕事をまたやりたいですね。僕の根っこにはSFがあるので、SFに関われるのであれば、アニメ以外の仕事もやってみたいと思っています。
―最後に、アニメファンの皆さんにメッセージをお願いします!
常木 ちょろっと出てくるメカでも、実は結構時間をかけて作っていますので、よければその辺りも注目してみてくださいね。
あと、よく作画崩壊、作画崩壊と言われちゃいますけど、昔は作監ごとに絵が違うのは当たり前でして、「この作監さんだと、この絵柄なんだ」、「この作監さんの絵が好きだ」という楽しみ方もありました。確かに、今は総作監制が多いので昔と事情は異なるのですが、そういう見方もあると知っていただければ嬉しいです。
●常木志伸 プロフィール
メカニックデザイナー、プロップデザイナー。代々木アニメーション学院卒業後、スタジオ夢民にアニメーターとして入社。スタジオたくらんけ時代にデザイナーに転向、現在はフリーとしてProduction I.Gに席を置く。SF世界観のデザインを得意とする。「小さな巨人ミクロマン」(1999)、「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」(2002~03)、「ボンバーマンジェッターズ」(2002~03)、「Get Ride! アムドライバー」(2004~05)、「ペルソナ〜トリニティ・ソウル〜」(2008)、「機動戦士ガンダムUC」(2010~14)、「ペルソナ4」(2011~12)、「ギルティクラウン」(2011~12)、「超速変形ジャイロゼッター」(2012~13)、「PSYCHO-PASS サイコパス」(2012~13、2014)、「とある科学の超電磁砲S」(2013)、「甲鉄城のカバネリ」(2016)、「ブレイブウィッチーズ」(2017)といった新旧数多の名作で、銃器・メカデザインを担当した。現在は「アトムザ・ビギニング」などで活躍中。
※TVアニメ「小さな巨人ミクロマン」 公式サイト
http://pierrot.jp/archives/tv_list_1995/tv_042.html
※TVアニメ「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」 公式サイト
http://www.ntv.co.jp/kokaku-s/
※TVアニメ「ボンバーマンジェッターズ」 公式サイト
http://www.happinet-p.com/jp3/special2/1512_bomberman/
※TVアニメ「Get Ride! アムドライバー」 公式サイト
http://www.tv-tokyo.co.jp/anime/amdriver/
※TVアニメ「ギルティクラウン」 公式サイト
http://guilty-crown.jp/
※TVアニメ「超速変形ジャイロゼッター」 公式サイト
http://www.tv-tokyo.co.jp/anime/gyrozetter/index2.html
※TVアニメ「PSYCHO-PASS サイコパス」 公式サイト
http://psycho-pass.com/
※TVアニメ「ブレイブウィッチーズ」 公式サイト
http://w-witch.jp
※TVアニメ「アトム ザ・ビギニング」 公式サイト
http://atom-tb.com/
※常木志伸 個人HP
http://www2p.biglobe.ne.jp/~s-hf/
(取材・文:crepuscular)