メカニックデザイナー・常木志伸 ロングインタビュー!(アニメ・ゲームの“中の人”第13回)

2017年05月03日 10:000

─キャリア上転機になったお仕事は?


常木 やはり「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」が、一番転機になった仕事ですね。知名度が非常に高い作品だったので、正直「僕がやってもいいんだろうか」という思いもありました。


あとは、「ミクロマン」、「ボンバーマンジェッターズ」(2002~03)、「Get Ride! アムドライバー」(2004~05)も思い出深い作品です。丸っこいメカも好きなので、「ボンバーマンジェッターズ」のデザインは楽しかったですね。原作ゲームには出てこない宇宙船などは割と自由に作らせてもらいました。「アムドライバー」は、宮崎真一さんが変形パターンを考えて、僕がそれをアニメに落とし込んでいった感じです。もともと模型好きということもあり、すごく忙しかったですけど、デザインしたものがおもちゃになるということで、テンションが高かった記憶があります(笑)。

 

 

─常木さんのデザインはどのような流れで作られていくのでしょうか?


常木 作品はやっぱり監督のものなので、監督の要望に従うのが基本です。荒木哲郎監督、神山監督、塩谷直義監督は、毎度最初にイメージを持っておられますね。デザインって、最初に条件を与えられたほうがまとまりやすいんですよ。それでも「こっちとこっち、どっちが合ってるだろうと」と迷った時は、2つか3つ用意して、監督に選んでいただきます。


─常木メカの特徴をひと言で言うと?


常木 子供のころから模型が好きだったので、「これ、模型で欲しいな」というのが好きなデザインなんです。ロボットなら立たせた時にちゃんと立てるかとか、車ならちゃんと動けるか、ハンドルを握った時にミラーがちゃんと見えるかとか、鉄砲なら握った時に使いやすいかとか、そういったことが気になります。ライフルのスコープが変なところにあったり、薬莢排出口と弾倉の位置がずれていたりする設定を見ると、モヤモヤしてしまいます。だから、自分が描くものに対しては、それよりもっと優先すべきことがない限りは、なるべく実際に作って無理のないものにしたいなという考えはありますね。


─制作環境は作品ごとに違うのでしょうか?


常木 「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」の時はワンフロアに監督、演出、作画、デザイナー、仕上げ、3D、撮影、制作と全員おられて、結構スムーズにやり取りできて楽でした。本来はそれが一番なのでしょうが、なかなかそうはいかないですね(苦笑)。


─手描きと3DCGについてはいかがお考えでしょうか?


常木 流れ的には3Dに行くと思うのですが、手描きのよさはずっと残ると思います。たとえば3Dでは1回モデルを作ってしまうと、後で部分的に強調させたりするのは手間ですが、手描きだとそれができるんです。


─緻密なデザインが求められるお仕事は、昔に比べて増えていますか?


常木 増えていますね。最近はアニメ業界の外からイラストレーターさんを連れてきて、キャラ原案をしてもらったり、メカ原案をしてもらったりということが増えています。それもあって、僕のところにはそういった原案をアニメ用のデザインにする仕事がたくさん来ています。本当は原案をデザインした人にアニメ設定を作ってほしいのですが、契約だったり、テクニック的な問題だったりで、現場でやるしかないんでしょうね。


線が増えることが作品にとっていいことなら問題ないのですが、優先順位は作品によって変わってくるので、僕は作品に合わせたデザインラインにするのが大切だと考えています。この作品はこういう世界観でこういう技術レベルだから、ここまでのラインに収めよう、この作品はSFだから、ちょっと現実離れしたデザインラインでも大丈夫だ、とか。僕はそういったことを考えてデザインしていますが、その辺はデザイナーさんによって違ってきますね。どの作品でも確固たる信念を持って、全力投球されるデザイナーさんもいらっしゃいます。


─設定が細かくなればなるほど、作画は大変になりますね。


常木 今はTVアニメ1話分の原画マンが20人、30人が当たり前になっていて1人10カット、下手すると5カットしかできない人もいたりして、設定をちゃんと見て描いてもらえないケースが増えています。そうすると、作監さんにものすごい負担がかかり、間違い探しだけで時間を使ってしまって、もっときれいな絵にしよう、ちゃんとしたL/Oにしようというところまで行けない作品が多くなっているように感じます。

 

 

─メカニックデザイナーに求められる資質能力とは何でしょうか?


常木 何にでも興味を持つことですね。自分で資料を探してきちんと仕組みを理解しないと、描けないわけですから。あとはやっぱり監督の意向をくんで、作品に合ったものをちゃんと仕上げられるかですね。


―今後挑戦されたいことは?


常木 「アムドライバー」みたいな、模型になる仕事をまたやりたいですね。僕の根っこにはSFがあるので、SFに関われるのであれば、アニメ以外の仕事もやってみたいと思っています。


―最後に、アニメファンの皆さんにメッセージをお願いします!


常木 ちょろっと出てくるメカでも、実は結構時間をかけて作っていますので、よければその辺りも注目してみてくださいね。


あと、よく作画崩壊、作画崩壊と言われちゃいますけど、昔は作監ごとに絵が違うのは当たり前でして、「この作監さんだと、この絵柄なんだ」、「この作監さんの絵が好きだ」という楽しみ方もありました。確かに、今は総作監制が多いので昔と事情は異なるのですが、そういう見方もあると知っていただければ嬉しいです。

 

 

 

●常木志伸 プロフィール
メカニックデザイナー、プロップデザイナー。代々木アニメーション学院卒業後、スタジオ夢民にアニメーターとして入社。スタジオたくらんけ時代にデザイナーに転向、現在はフリーとしてProduction I.Gに席を置く。SF世界観のデザインを得意とする。「小さな巨人ミクロマン」(1999)、「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」(2002~03)、「ボンバーマンジェッターズ」(2002~03)、「Get Ride! アムドライバー」(2004~05)、「ペルソナ〜トリニティ・ソウル〜」(2008)、「機動戦士ガンダムUC」(2010~14)、「ペルソナ4」(2011~12)、「ギルティクラウン」(2011~12)、「超速変形ジャイロゼッター」(2012~13)、「PSYCHO-PASS サイコパス」(2012~13、2014)、「とある科学の超電磁砲S」(2013)、「甲鉄城のカバネリ」(2016)、「ブレイブウィッチーズ」(2017)といった新旧数多の名作で、銃器・メカデザインを担当した。現在は「アトムザ・ビギニング」などで活躍中。

※TVアニメ「小さな巨人ミクロマン」 公式サイト
http://pierrot.jp/archives/tv_list_1995/tv_042.html

※TVアニメ「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」 公式サイト
http://www.ntv.co.jp/kokaku-s/

※TVアニメ「ボンバーマンジェッターズ」 公式サイト
http://www.happinet-p.com/jp3/special2/1512_bomberman/

※TVアニメ「Get Ride! アムドライバー」 公式サイト
http://www.tv-tokyo.co.jp/anime/amdriver/

※TVアニメ「ギルティクラウン」 公式サイト
http://guilty-crown.jp/

※TVアニメ「超速変形ジャイロゼッター」 公式サイト
http://www.tv-tokyo.co.jp/anime/gyrozetter/index2.html

※TVアニメ「PSYCHO-PASS サイコパス」 公式サイト
http://psycho-pass.com/

※TVアニメ「ブレイブウィッチーズ」 公式サイト
http://w-witch.jp

※TVアニメ「アトム ザ・ビギニング」 公式サイト
http://atom-tb.com/

※常木志伸 個人HP
http://www2p.biglobe.ne.jp/~s-hf/


(取材・文:crepuscular)

関連作品

攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX

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放送日: 2002年10月1日~2003年11月30日   制作会社: プロダクションI.G
キャスト: 田中敦子、阪脩、大塚明夫、山寺宏一、仲野裕、大川透、小野塚貴志、山口太郎、玉川砂記子
(C) 士郎正宗・Production I.G / 講談社・攻殻機動隊製作委員会

ボンバーマンジェッターズ

ボンバーマンジェッターズ

放送日: 2002年10月2日~2003年9月24日   制作会社: スタジオディーン
キャスト: 金田朋子、水野理紗、岩崎征実、柳原哲也、平井善之、七緒はるひ、緒方賢一、麻生かほ里、高橋広樹、麦人、石井康嗣、龍田直樹、原田博之
(C) HUDSON SOFT / 小学館・テレビ東京・NAS

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放送日: 2004年4月5日~2005年3月28日   制作会社: スタジオディーン
キャスト: 鯨井康介、松風雅也、水野理紗、遊佐浩二、小川輝晃、福山潤、高橋広樹、笠原弘子、鮭延未可、小林晃子、千葉一伸、豊永利行、鳥海浩輔、並木のり子、本多知恵子、西前忠久、林一夫、小嶋一成、myco、岩崎征実
(C) NAS/テレビ東京

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放送日: 2011年10月13日~2012年3月22日   制作会社: プロダクションI.G
キャスト: 梶裕貴、中村悠一、茅野愛衣、花澤香菜、竹達彩奈、嶋村侑、寿美菜子
(C) ギルティクラウン製作委員会

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放送日: 2012年10月2日~2013年9月24日   制作会社: A-1 Pictures
キャスト: 井上麻里奈、井口裕香、松岡禎丞、中田譲治、田中理恵、関智一、三宅健太、黒田崇矢、田村睦心、立花慎之介、藤田咲、近藤真彦
(C) スクウェアエニックス/ジャイロゼッター製作委員会・テレビ東京

PSYCHO-PASS(サイコパス)

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放送日: 2012年10月11日~2013年3月21日   制作会社: プロダクションI.G
キャスト: 関智一、花澤香菜、野島健児、有本欽隆、石田彰、伊藤静、沢城みゆき、櫻井孝宏、日髙のり子
(C) サイコパス製作委員会

ブレイブウィッチーズ

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放送日: 2016年10月5日~2016年12月28日   制作会社: SILVER LINK.
キャスト: 加隈亜衣、末柄里恵、村川梨衣、高森奈津美、石田嘉代、原由実、照井春佳、水谷麻鈴、五十嵐裕美、佐藤利奈
(C) 2016 島田フミカネ・KADOKAWA/第502統合戦闘航空団

アトム ザ・ビギニング

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放送日: 2017年4月15日~   制作会社: OLM/プロダクションI.G/Signal-MD
キャスト: 中村悠一、寺島拓篤、井上雄貴、櫻井孝宏、小松未可子、佐倉綾音、河西健吾、飛田展男、南條愛乃
(C) 手塚プロダクション・ゆうきまさみ・カサハラテツロー・HERO’S/アトム ザ・ビギニング製作委員会

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