「田中くん」はどのキャラにも愛着が湧いた作品
―「田中くんはいつもけだるげ」(2016)では第7話から最終話まで総作監をされています。ご経緯をうかがえますか?
小松原 「落第」本編が終わったころに、お話をいただきました。初めはDVD・BDの特典話数の作監を1本やって、その後関わるかどうか判断しようと思っていましたが、飯塚晴子さんには「リトルバスターズ!」でご一緒させていただいて以来、とてもお世話になっていますので、少しでもお力添えできればと参加させてもらいました。
―本作の総作監はどのような形でされていたのでしょうか?
小松原 総作監を2人立てて、全話数2人で見るというのは、最近の作品では珍しいと思います。飯塚さんの絵と自分の絵が同じ話数で出てくるので、どうしても差が出るなと感じていました。途中参加ということもあって、初めのほうは「これで大丈夫かな」とヒヤヒヤしながら、探り探りやっていたのは覚えていますね。
―本作で思い出深いお仕事は?
小松原 個人的にUnlimited toneさんの音楽が大好きなので、「OPの原画はぜひやらせてほしい」とアピールして、冒頭の田中を担いで太田が歩いているカットをやらせてもらいました。どうしても揺れている田中が描きたくて(笑)。最初は不安もありましたが、関わっていく間にどのキャラにも愛着が湧いて、とても楽しくやらせてもらいました。
作監や撮影の負担が増えている
―近年、アニメに求められるクオリティが上がり、アニメーターの負担も増えたと言われます。小松原さんの実感はいかがでしょうか?
小松原 イラストレーターさんの絵をそのまま動かすという流れもあり、アニメの線が増えているというのは、実際そうだと思います。ただ、「落第」では原作サイドがこちらの要望も受け入れてくださったので、大変恵まれていました。
画面的な意味で言えば、撮影さんの負担が増えたんじゃないかなと思います。最終的な画面作りというか、「盛り加減」というのは、撮影さんで対応してもらうことが多いんですよ。時間のない中多くのことを要求されるので、撮影さんのほうがすごく大変だと思います。
最近のアニメを例にあげれば、「甲鉄城のカバネリ」(2016)は素晴らしい作品なのですが、TVアニメとしては異例のクオリティだと思います。「あの感じを、ほかの作品で求められても困るよね」というのが正直なところです。
―作監、総作監として最近の原画に思うことはございますか?
小松原 アニメの本数が増え、アニメーターの皆さんもかけ持ちされていることが多いので、上りが雑になってしまうのも理解できなくはないんですが、それにしても投げやりなものが増えてきているなと感じています。
時間がなくて雑になったとしても、これまで見てきた方々には自分なりのこだわりがあったり、「ここはちゃんとやりたいんだな」というのが見える人が多かったんですけど、最近は流し仕事になっている印象が強いですね。
そのこともあって、作監さんの負担が大きくなりすぎている感じがします。L/Oチェックからラッシュ時のリテイクまで、作監さんのフォローする分量が多すぎるんです。今の相場では生活もできないし、その辺りがもう少し改善されないかなとは思いますね。
―作監についてはどうお考えですか?小松原さんは約6年で作監になられましたが、最近はより短い期間で作監になられる方もいらっしゃいます。
小松原 早い段階で作監になるのはあまりいいことではないと思うんですけど、今は作品数も増えているので、ポジティブに考えればその分チャンスが増えたとも言えるわけで、実力のある人は挑戦しやすくなってはいるかなと。
それよりも問題は、作監の選び方にあると思います。最近はちょっとキャラが描ければ、制作さんが「作監お願いします」と飛びついちゃう印象があるんです。キャラは描けるけど、L/Oは見れませんという人もいますので、アニメーターなり、演出さんなり、監督なりと情報共有して相談した上で、その辺りの見極めをしたほうがいいんじゃないかと思います。
キャラデとしてもう一歩先に踏み出したい
―今後はどんなことに挑戦されたいですか?イラストレーターにご興味は?
小松原 今はもう全然ですね(笑)。「これは自分には無理だな」とあきらめがついている部分もあるので。
キャラクターデザインに関しては、「落第」の時には設定をすべて出し切れず、やりきれなかった部分も結構あったので、その辺りは次の機会があればやりたいなと思っています。「落第」では監督と密に相談してデザインの方向性を決めていくことができ、大変ありがたく勉強になりました。今後はそこからもう一歩先に踏み出せるような何かができればいいなと思います。
機会があれば、オリジナルアニメのキャラクターデザインもやってみたいです。あくまで機会があればですけどね(笑)。ただ、普段オリジナルで絵を描くことがあまりないので、何も手がかりがないオリジナルはハードルが高い印象です。お話やキャラの感じがわかれば、描けないことはないと思うんですけど。
監督は・・・無理ですね(笑)。「落第」のキャラデをやるにあたり、ほかの方がどんなことをやっておられるのか知るために参加できる会議は全部参加したんですが、大沼監督が美術監督さんや撮影監督さんとやり取りをしているのを見て、「自分には無理だな」と思いました。自分がやる範囲で「こういうふうにしたい」というのはできるんですけど、作品・話数を通して「こういう方向性にしたい」と明確なビジョンを伝えるのは、ちゃんと勉強してからでないとできません。
―最後に、アニメファンの皆さんにメッセージをお願いします!
小松原 インタビューしてもらっておいて言うことでもないんですけど、作品を楽しむ時は誰が作ってるとか、そういうのはできるだけ頭から外して楽しんでもらえればと思います(笑)。楽しんだ後に興味が湧いたら調べてみようくらいがちょうどいいのではないかなと。
これからも皆さんがアニメを楽しんでくれたら、作っているほうは草葉の陰で喜んでると思いますので、ぜひ楽しんでくださいませ。ありがとうございました。
●小松原聖 プロフィール
アニメーター、作画監督、総作画監督、キャラクターデザイナー。日本工学院を卒業後、ヴェネットに入社し、23歳でフリーとなる。「鋼の錬金術師」(2003~04)、「エルフェンリート」(2004~05)、「テイルズオブシンフォニア」(2007~12)、「いばらの王」(2010)、「Fate/Zero」(2011~12)、「Fate/stay night [Unlimited Blade Works]」(2014~15)などに原画として参加し、「まよチキ!」(2011)、「灼眼のシャナIII-FINAL-」(2011~12)、「とある科学の超電磁砲S」(2013)では作画監督を務めた。「落第騎士の英雄譚」(2015)ではキャラクターデザインと総作画監督、「田中くんはいつもけだるげ」(2016)では総作画監督に抜擢され、現在も主要スタッフとして新作アニメの制作に取り組んでいる。
※TVアニメ「まよチキ!」 公式サイト
http://www.tbs.co.jp/anime/mayochiki/
※TVアニメ「灼眼のシャナIII-FINAL-」 公式サイト
http://www.shakugan.com/index2.html
※TVアニメ「とある科学の超電磁砲S」 公式サイト
http://www.project-railgun.net/
※TVアニメ「落第騎士の英雄譚」 公式サイト
http://www.ittoshura.com/
※TVアニメ「田中くんはいつもけだるげ」 公式サイト
http://tanakakun.tv/
※小松原聖 ツイッター
https://twitter.com/sey__
(取材・文:crepuscular)