アニメーター・小松原聖 ロングインタビュー!(アニメ・ゲームの“中の人”第10回)

2017年02月21日 17:000

「まよチキ!」で作監デビュー、「シャナIII」ではアイキャッチも


―初めての作画監督作品は?


小松原 「まよチキ!」(2011)です。エー・ラインさんが請けていた、4話の半パート作監が初でしたね。何度かお仕事を振っていただいていた同社の制作さんから、「そろそろどうですか?」とお話をいただいたので、「やらせてもらえるなら」とお引き受けしました。


原画を始めてから6年ぐらいでオファーをいただきました。個人的には「30歳までに作監をやれなかったら、やめたほうがいいのかな」と思っていたので、29歳の時にお声がけいただいたのは嬉しかったですね。


―初めての作監のご感想は?


小松原 どこがよくてどこが悪かったのか、わからなかったというのが正直なところです。「まよチキ!」では総作監制が敷かれていた中での作監としての仕事だったため、総作監とのやりとりは制作さんを通してのみというのもあったからなのか、ことごとく直されたのもあったのですが、そのまま通ったのもありました。


―元請会社での最初の作監作品は?


小松原 「灼眼のシャナIII-FINAL-」(2011~12)ですね。J.C.STAFFさんに机を用意してもらい、ローテーションで作監に入らせていただき、同じ部屋で主要スタッフさんと一緒に作業していました。


―作監作業ではどういった点に気を付けて、作業されるのでしょうか?


小松原 まずキャラクターの頭身が第一で、次にできるだけ設定に寄せる。加えて、画面の構成や芝居なども意識してます。作監をやって、どういう原画が困るのか、どういうL/Oが困るのか、といったことは認識できるようになりました。


―「シャナIII」では担当話数のアイキャッチも描かれていますね。監督やJ.C.STAFFさんからはどのようなオーダーがあったのでしょうか?


小松原 具体的な指示はなかったので、自分でその話数内でありそうなことや出てくるキャラを描くようにしていました。いくつか描いてみて、キャラクターデザインの大塚舞さんに見ていただいて、OKが出たものを清書していました。


―第8話のアイキャッチはセクシーですね。


小松原 実はこの話数の時は、L/O(レイアウト)作監を抜けたあたりでウィルス性腸炎にかかって、1週間ほど入院してたんですよ(笑)。なので、これはラフだけ描いて、清書は別の方にお願いしました。この時は原画作監もお任せしてしまったので、すごくご迷惑をおかけしたと思います。


―小松原さんにとって思い出深いアイキャッチは?


小松原 教授(第22話)ですね。本当にノリだけで描いてみたんですけど、そのまま通っちゃいまして。原作でも眼鏡を外した教授の姿は、描かれてなかったんじゃないでしょうか。放送時にはファンの方にも「教授、こんなきれいな目をしてるのか」と話題にしてもらいましたが、よかったのかどうなのか(笑)。

 

「超電磁砲」で手に入れた大きなチャンス


―キャリア上転機になったお仕事や、とりわけ印象的なお仕事は何でしょうか?


小松原 「まよチキ!」や「シャナIII」もそうですが、「とある科学の超電磁砲S」(2013)と劇場版「とある魔術の禁書目録-エンデュミオンの奇蹟-」(2013)に関わらせてもらったのも転機だったと思います。ずっとローテで作監をやらせてもらい、劇場版や特典話数のほうにも関わらせてもらい、たくさんチャンスをいただきました。「超電磁砲S」の特典アニメでは原画と作監をやりましたが、上条さんの頭に乗った小さい御坂妹なんかも描かせてもらいました。


苦労したお仕事で言えば、サンライズさんの劇場版アニメ「いばらの王」(2010)でワンシーン原画をやらせていただいたんですが、約40カット中30カット近くに約100人のモブが映り込む「モブ祭り」があって、あの時は地獄だなと思いました(笑)。モブキャラの私服のデザインも全部1人でやったので、ファッション誌なんかも買ったりして、デザインだけで1か月くらいかかってしまいました。

 

 

「落第」のキャラデ、総作監のポイントとは?


―小松原さんは「リトルバスターズ!」(2012~13)第20話で総作監補佐をされ、「落第騎士の英雄譚」(2015)でキャラクターデザインと総作画監督をされています。まずは「落第」に関わることになったご経緯をうかがえますか?


小松原 アニメーションプロデューサーの中川二郎さんから、「キャラデに興味があるなら、今度うちでコンペをやるんでどうですか?」とお話をいただいたのが最初です。個人的には「これは多分ダメだろう」と思っていたのですが、後日採用の連絡をいただき、驚きました(笑)。


─原作は読まれましたか?


小松原 初めにお話をいただいた時に出ていた4、5巻くらいを全部読んでからお引き受けしました。その後は、出版社からいただく前に自分で買って読むようになり、今ではすっかり「落第」のファンになりました。


―大沼心監督とは以前からお知り合いで?


小松原 いえ。この時が初めてだったので、採用していただいたのは本当にありがたかったですね。


―キャラクターデザインではどのような点にこだわられましたか


小松原 学園の制服で戦うのであまり細かいデザインを盛り込むと、事故にしかならないというのがわかっていました。そこで、一番初めに原作サイドにお願いしたのが、「制服から校章を外させてほしい」ということでした。腰の部分の細かい刺繍も省略させていただきました。ありがたいことに「落第」は、こちらの要望を多々飲み込んでいただけたので、とても助かりました。


あと、珠雫のデザインに関しては、イラストレーターのをんさんからいただいた設定では「この世界で一番胸が小さい」ということだったので、ほかの子と並べた時にしっかり個性を出せるよう、原作より小さく提案させてもらいました。


―オリジナルキャラもデザインされていますね。


小松原 赤座はわかりやすいヘイトをためるキャラで、すごくねちっこいキャラでもあるので、油ギッシュな感じも出しつつデザインしました。主人公のおじいさんの黒鉄龍馬も海空りく先生の原作にはビジュアルが出ていないので、こちらで描かせていただきました。


あとは、生徒会長の師匠である南郷寅次郎と最終回に出てきた葉暮桔梗・牡丹姉妹も、原作に登場済みですがビジュアルはまだなかったので、原作サイドからイメージをいただいてデザインしました。これらのデザインはコミカライズ版の方でも使っていただけているようで、嬉しいですね。


─総作監としては、どのようなところに力を入れて取り組まれましたか?


小松原 キャラの表情や芝居を中心に作業しました。「落第」をやるまではお色気の方向の絵を描くことがあまりなかったんですけど、「落第」はそこが1つのポイントにもなっているので、いろいろと勉強しましたね。特に胸の表現は非常に重要だったんですけど、個人的にはそっちよりもお腹のほうに興味が行ってしまいました(笑)。


―野田康行さんとよちさんも、総作監をされていますね。


小松原 「落第」はSILVER LINK.さんとNexusさんの共同制作だったので、半分ずつ作るという形を取っていました。野田さんとよちさんはNexus側で立てていただいた方々です。Nexus担当話数はそのお2人に総作監をやっていただいたのですが、初登場キャラが出ている部分などは、自分のほうで監修させてもらいました。なので、Nexus側の話数の時は、自分は最大でも20カットくらいしか見ていないですね。


―どのように話数を分担されたのでしょうか?


小松原 基本的に奇数がSILVER、偶数がNexusと分けていたんですけど、それだとアクション話数が連続してしまうので、綾辻絢瀬戦の7話と天衣無縫の8話はSILVERのほうで受け持って、会長戦はNexusさんにお願いしました。


なので、最終回はNexusさんがメインだったんですけど、一刀羅刹のラストバトルと表彰式は自分のほうで総作監をやらせてもらいました。ラストバトルは演出面でも力が入っていて、大沼監督がご自身でされています。ラストバトルのために全ての話数を積み上げていったので、完成した時はいろいろとこみ上げるものがありました。


―確かにラストバトルは圧巻でしたね。アクションの作画にもこだわりを感じました。


小松原 ラストバトルはNexus側のアクション作監として立っていただいていた中西和也さんに原画を担当してもらっていたので、自分は安心してキャラに集中させてもらいました。


アクション全般に関してはアクション作監の高瀬健一さんを始め、アクションディレクターの大平剛生さん、前述の中西さんと盤石の布陣でしたので全面的にお任せしていました。


─作品としてはラストバトルに一番力が入っているとのことでしたが、小松原さんが個人的に印象に残っているシーンやお話はございますか?


小松原 絢瀬の話ですね。この作品では絢瀬が一番、感情をむき出しにしていたと思います。感情を振り切っているような表情付けなどは、すごく力を入れました。あと、7話の最後で泣きながら一輝の手を取るシーンは、個人的にも大変気に入っています。


―ファンの皆さんからは、2期を期待する声も少なくないと思います。


小松原 個人的にはぜひ2期をやってほしいと思いますが、全国大会編は長く、2クールでは収まりそうにないので、どこで切るかの判断は難しいでしょうね(笑)。

 

 

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