「青春ものをリアルチックに表現する」のが得意
─どういった時にお仕事のやりがいを感じますか?
小川 「Charlotte」で試みた3DCGのように、今までやったことのない表現が成功した時とか、自分が考えたワークフローがうまくいった時には、やっぱりやりがいを感じますね。
─創作活動上、一番影響を受けた作品は?
小川 僕はもともとアニメが好きで、最初は「涼宮ハルヒの憂鬱」(2006)を観て、アニメを作りたいなと思いました。それで、アニメーターと制作進行を考えたんですが、どちらも僕には向いてないなと断念しました。その後、「銀魂」(2006~10)で3DCGという表現があることを知り、僕もアニメのCGをやってみたいと思ったのが、「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」(2002~03)のタチコマでした。実際に「六角大王Super」というソフトウェアを使って、タチコマを作ったりしていました。今でもアニメの3DCGは硬い表現が多いんですけど、タチコマはキャラクターがすごく生き生きしているんですよね。
─お得意な表現やジャンルはありますか?
小川 青春ものをリアルチックに表現するのが得意ですね。先ほどお話した3DBGで貼り込む表現などがそうですね。
─MarcoのHPには、スペースコロニー内部を移動しているような3Dアニメーションがあります。SFやロボットものにも自信がおありでは?
小川 何かあれば、ぜひぜひやってみたいなと思いますね!
モブ、車両、小道具のさり気ない使い方で、作画を効果的に補助
─小川さんが3D監督をされた作品は、モブの使い方も自然で見事でした。たとえば「サクラクエスト」では、モブの人数や容姿の違いなどで、間野山の過疎ぶりやチュパカブラ王国建国祭のにぎわいを表現していました。あのモブの配置や動きも、小川さんのほうで決めていたのでしょうか?
小川 そうですね。P.A.作品では作画の補助として3DCGを使うことが多いので、モブは「サクラクエスト」以前の作品でもよく作っていました。
─車両を使った雰囲気づくりもすばらしかったです。第5話の早苗が駅前ベンチに座って、初めて間野山に来た時の不安や寂しさを打ち明けるシーンでは、早苗の会話のテンポに合わせて、乗用車や軽トラが静かに走り去っていました。
小川 夜に軽トラが1台走っていると、どこか田舎感がありますよね。
─第2話のチュパカブラ饅頭、第9話の歩くポットも3Dですか?
小川 そうです。数カットしか使わないものも3Dでやっていまして、実は1カットしか出てこないアメンボなんかも、3Dで作っているんですよ。今の僕の立場だと、「1カットのためにモデリングして、アニメーションも付ける」というのは難しいんですけど、P.A.にいた時はプロデューサーに挑戦させてもらえたので、本当にありがたかったですね。
─「有頂天家族2」にはユニークな乗り物が、数多く登場しました。第5話の金閣銀閣の納涼船、第6話の地獄で登場した電車と汽車が合体した乗り物、第7話以降重要な役割を果たすことになる、寿老人の3階建て電車など。作画のタッチにもよくなじんだ3Dでしたね。
小川 「有頂天家族2」は、設定通りに3Dを作ってもうまくいかなかったんですよね。「どう作ったら、立体的でカッコいい表現ができるかな?」と考えながら作っていた記憶があります。
─矢三郎の祖母の白い毛玉も、3D表現なのでしょうか? 絶妙なフワフワ感でしたね。
小川 3Dで表現していますね。実はこの毛玉は僕ではなくて、1期の3D監督をされた菅生和也さんに、丸投げしてしまいました(笑)。
─「Charlotte」では、初めてZHIENDの曲を聴いた有宇の心の中に現れた草原(第5話)や、有宇が「病人扱いするな」と蹴り飛ばしたカップ麵の容器(第7話)も、3Dで作られていました。こうした主人公の心理描写に関わる部分でも、小川さんの3Dは大活躍しています。
小川 実際にカップ麺を買って食べて、参考写真を撮ってやっていましたね。自分でやった後に、東京のスタジオからカップ麺が箱で送れられてくる、みたいなこともありました(笑)。
富山と東京を経験して感じること
─そのほかに小川さんがこだわっておられること、お仕事上のルールなどはありますか?
小川 コロナ禍の前までは、「対面でのコミュニケーション」にこだわっていたんですけど、リモートでやってみても問題がなかったので、今はそれほどこだわっていることはないですね。会社もできたばかりなので、何かに固執せずにその都度、ゆっくりと決めて行こうかなと思っています。
─「Charlotte」、「クロムクロ」、「有頂天家族2」、「サクラクエスト」は、それぞれ3DCGの外注先が異なっています。外部協力会社の選定も、小川さんがされていたのでしょうか?
小川 P.A.では外注会社の選定はやっていません。それはCGプロデューサーやアニメーションプロデューサーの仕事です。選定以降のやり取りは、僕のほうでやっていました。
─P.A.は本社が富山県ですが、小川さんの会社Marcoは東京都にあります。富山と東京で、環境や文化の違いを感じますか?
小川 東京に出てきて3年目なんですけどそういうのは感じていて、富山のほうが仕事に集中できる感じはありますね。スタジオの周りは自然でいっぱいですし、僕は青森の田舎出身なので、自然が大好きなんですよ。P.A.本社は広い空間に制作、作画、演出、3Dが全部ひとまとまりになっていて、作品ごとに全セクションが一丸となり動いているのが当たり前でしたけど、外に出てみると、「やっぱりいい環境だったんだな」と思いました。いっぽう、東京にはいろいろなスタジオがあって、活気があるのがいいと思います。
─小川さんは3DCG作業をするうえで、ロケハンには行かれるのでしょうか?
小川 作品によって違うんですけど、「Another」(2012)や「有頂天家族2」の時は行っていました。ロケってプリプロ段階で行ったりする場合が多いので、早い段階でモデリングを誰がするとか、3Dの作業者が決まっていれば、行きますね。「Charlotte」のアーケードゲーム画面を作る時には、3Dスタッフで金沢のゲームセンターに取材に行ったりもしましたね。「サクラクエスト」の時は、ロケというほどでもなくて、普段の日常生活を参考にしていた感じです。高見沢が運転していた路線バスも、富山に実際にあるバスをモデルにしています。
e-Sportsイベントに行くほどのゲーム好き
─息抜きでしていることは? 小川さんのツイッターには、ゲームの話題が度々出てきています。
小川 ゲームは5年くらい前から、PS4の「オーバーウォッチ」にハマっています。「オーバーウォッチ」は国内でe-Sportsイベントをやっているんですけど、学生さんと一緒に1度、そのボランティアにも行きましたよ(笑)。その際、プロゲーマーのTEN選手とお会いできたのはよい思い出です。それと最近は子供が生まれたので、子供と一緒にいる時間もすごく楽しいです。
─小川さんご自身も、e-Sportsに参加することがあるのでしょうか?
小川 いえ、「オーバーウォッチ」の大会は自分が知る限りPC版だけなんですよ。コンシューマー機版でe-Sportsはなかなかないので……。
─プレイしているゲームの3Dを、仕事の参考にすることもありますか?
小川 テクスチャ・モデリングやアニメーションの参考にしています。最近はシネマティックトレーラーを作っているゲームもあるので、それはすごく勉強になりますね。
P.A. WORKSの新人3DCGクリエイターとして、文化庁プロジェクトに参加
─キャリアについて改めてうかがいます。青森県のご出身で、最初からアニメ業界をご志望だったとのことですが、専門学校等で学ばれたのでしょうか?
小川 日本工学院八王子専門学校に通っていました。
─青森から東京に出てきて、就職は富山のP.A.WORKS、ということですか?
小川 そうなんです。で、P.A.退職後はまた東京に戻ってきて、今は八王子で3D制作会社をやっています(笑)。
─P.A.WORKSが第一志望だったのでしょうか?
小川 「涼宮ハルヒの憂鬱」が好きだったので第一志望は京都アニメーションだったのですが、当時P.A.の募集がすごく早くて、ポートフォリオを送ったら合格をいただけて、田舎でやりたいというのもあったので、京アニに応募することなく、P.A.に行きました。
─どういった作品をポートフォリオに?
小川 「けいおん!」(2009~10)のキャラみたいな、セルルックなCGを送りましたね。あとは、ゴキブリがゴキブリホイホイから脱出するアニメーションを(笑)。「とにかく何でもいいからインパクトのあるものを作ろう!」と迷走していた時期で、ゴキブリを作りました。
─社員採用ですか? 最初のお仕事は覚えていますか?
小川 社員です。初めての仕事は、「万能野菜 ニンニンマン」(2011)です。文化庁の「若手アニメーター育成プロジェクト(現:あにめたまご)」の作品で、早めに合格をいただいたので、まだ2年生だった2010年9月には富山のスタジオに入って、「ニンニンマン」を作っていました。年明けの4月頃からは、テレビシリーズの「花咲くいろは」(2011)をやっていましたね。「ニンニンマン」は完成時に、P.A.近くの映画館でスタッフと一緒に観たんですけど、自分のクレジットを初めて見た時には、「僕がアニメを作ってるんだ!」と実感できてちょっと泣きました。
─「ニンニンマン」以後、どのようなキャリアパスを歩まれたのでしょうか?
小川 最初は「花咲くいろは」や「Another」などで3DCGスタッフとして経験を積み、「Charlotte」や「有頂天家族2」などで3D監督を務め、社内スタッフをどうマネジメントしたらクオリティを上げられるかについて学び、「クロムクロ」で外部とのやり取りを学ばせてもらった、という感じです。
─「花咲くいろは」や「Another」ではどういったお仕事を?
小川 作画の補助的な3Dを作っていました。3Dレイアウト用の空間のモデリング、モブや車両、あとは一部のエフェクトですね。
─「SHIROBAKO」の美沙は、自動車のホイールばかり作っているとボヤいていましたが……。
小川 アニメの3Dは、一部だけひたすら作っていることはあまりないんですよ。「SHIROBAKO」で扱われていたような3DCGの分業制って、大きなゲーム会社とかならあるもしれません。
─師匠的な方はおられますか?
小川 「クリエイターとして、ひとつひとつの作品にどうアプローチしていけばいいのか」や「レイアウトの取り方」などは、当時P.A.で作画部長をやられていた吉原正行さんに教えていただきました。
─吉原流3Dレイアウトの極意とは?
小川 広角レンズの使い方ですね。望遠で撮ると、いろんなセクションが楽になるんですけど、画の迫力としては弱くなっちゃうんです。広角は、P.A.みたいに作画スタッフの内製化がきちんとしているところじゃないと描けないんですけど、説得力があって見栄えのいい画になるんですよ。もちろん、ケースバイケースなので、望遠レンズで被写体にフォーカスを絞るのもいい画だと思います。
─当時から独立を視野に入れて、キャリアを積まれていたのでしょうか?
小川 それは全く考えていませんでした。ただ僕は、「いい絵を効率よく作ったほうが絶対いいですよ」と言っちゃうタイプなので、「じゃあ、やってみる?」という感じで任されたのが、「Charlotte」でした。「クロムクロ」に関しては、最初、僕はいち3Dクリエイターとして入っていたんですけど、このまま行ったらスケジュール内に終わらないことがわかってきたので、「自分に仕切らせてください!」と言って、制作に回してもらったんです。なので、独立なんかは全く考えず、ただ作品をよくすることだけ考えていました。