作曲家・櫻井美希 ロングインタビュー!(アニメ・ゲームの“中の人” 第42回)

2020年07月24日 10:000
作曲家・櫻井美希 ロングインタビュー!(アニメ・ゲームの“中の人” 第42回)

ライターcrepuscularの連載第42回は、アニメ音楽の新時代を担う若き俊英、作曲家の櫻井美希さん。劇伴を初めて単独担当した「まちカドまぞく」 が大ヒットを遂げ、一躍注目を集めることになった櫻井さんのサウンドトラック。日常系ゆるふわ曲からエスニック・フレーバーの曲まで、才気あふれる楽曲の数々を惜しみなく作品に提供し、「まちカドまぞく」を音楽面から大いに盛り上げてくれた。現在放送中の「放課後ていぼう日誌」も、新型コロナウイルスという思わぬハプニングがあったものの、夏向きのアニメを夏真っ盛りの時期に観ることができるからか、かえって上々のようである。同作では爽やかなアコースティック・スコアが、海沿いの町並みの風光明媚さや釣りに勤しむ少女たちの多感な心模様を見事に表現している。そのほかにも共同作曲ながら、「五等分の花嫁」や「乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…」において、繊細な乙女心を表象するフルート曲や本格的なクラシック曲を披露、作品に音的な輝きを与えている。当記事ではそんな櫻井さんの作曲論やバックグラウンド、各作品で使用された楽曲の解説等を取り上げ、櫻井音楽の魅力をたっぷりとお届けしたい。

作品や世界観で無限の可能性を示すアニメ音楽


─本日はどうぞよろしくお願いいたします。まずは各セクションの方に最初にお聞きしている質問、櫻井さんにとってアニメ作曲家の魅力とは何でしょうか? 


櫻井美希(以下、櫻井) 私はもともといろいろ考えるのが好きなのですが、アニメの作曲は、いろんな要素をつなぎ合わせてひとつの情緒の中に落とし込んでいく作業がすごく楽しいですね。同じ「コミカル曲」であっても、作品や世界観によって曲が違ってきますし、キャラクターによってどう印象付けていくかとか、セリフとの兼ね合いをどうするかとか、いろいろ考えながら作曲をしています。原作や脚本を読み終わる頃には、キャラクターに対しての愛しさみたいなものもあるので、そうした愛情を持ちながら1~2か月かけて曲を作れるというのも、すごく幸せなことだなって思います。


─創作活動にあたり、一番影響を受けた作品は?


櫻井 ひとつを決めるって難しいんですけど、私はアイリッシュ音楽や民族音楽が好きです。そうした音楽を好きになったきっかけは、映画「タイタニック」で流れたジェームズ・ホーナーの曲でした。初めて聴いたのは、小学校3年生だったと思います。


─ホーナーは、主題歌「マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン」も作曲していますね。


櫻井 私は主題歌よりも劇伴の「マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン」のほうが好きで、劇中のスケッチシーンで流れたピアノ曲がすごく素敵なんですよ。


─ジェームズ・キャメロン監督は、演奏家を使わないで、ホーナー自身にスケッチシーンのピアノを弾いてほしい、とお願いしたとか。


櫻井 うまい下手とかじゃなくて、あのシーンは、本人にしか表現できなかったと思いますね。

 

 

新しい音楽を聴き、「フレーバー=自分らしさ」を更新


─日々お忙しいでしょうが、現在も新しい音楽を聴いていますか?


櫻井 そうですね。仕事用に参考で聴くことはもちろん、それ以外にもいろいろ聴いています。iTunesやSpotifyの曲を適当に流していって、その中で好きなものがあったら、自分で作った「好きフォルダ」にポンポン入れていっています。あとサントラを聴く時には、「これはコミカルだな」とか「こっちはサスペンスかな」とか「俯瞰(ふかん)に合いそう」とかイメージしながら、フォルダに入れたりしています。時によって、いろんな聴き方をしているんです。


─映像音楽も、音楽単体で聴くのですか?


櫻井 アニメも映画も観るので映像から入ることもあるし、サントラから入ることもあります。たとえば「メイドインアビス」(2017)は最初、ケビン・ペンキンさんのサントラしか聴いていなくて、「なんかスゴイ!」と思ってアニメを観たらハマった感じです。


─大学時代に香取良彦さんに師事されていますが、ジャズもお詳しいのですか?


櫻井 特定のジャンルに縛られないで聴き漁るタイプなので、すごくジャズに詳しいという訳ではありません。作曲する際も、何かひとつのジャンルをそのまま……というよりは、ジャズならジャズに「自分の好きなフレーバー」を足していく作り方を常々心がけているんです。その「フレーバー」、いわば自分らしさみたいなところに何を付け足すのかというところは、いつも音楽を聴き漁りながら、「こういうのもいいかもな」という感じで更新していっています。


─目標とする方は?


櫻井 武満徹さんや湯浅譲二さんといった実験工房の方だったり、一柳慧さんといった作曲家の方が実践していた、「映画音楽の中で常に新しいことをしようとする姿勢」、「新しい手法を開拓していこうとする姿勢」は、私も見習いたいなと思います。私は大学院時代に、「1960年代の日本の実験映像と音楽」について研究する機会があって、そういった方々の音楽にも触れていました。


─実験音楽となると、効果音、つまりは音響効果技師との役割分担をどうするのか、ということも問題になってきますね。これまで関わってきた作品で、実際に挑戦されたことはありますか?


櫻井 今はメニューに沿った作曲をして、それを選曲家さんが調整をして映像に当ててくださっているので、効果音との兼ね合いを気にした作り方というのはまだやったことがありません。実写作品も同様です。


─「セリフとの兼ね合い」というお話がありましたが、声と音楽の関係性も、本来的な意味での「サウンドトラック」を考えるうえで重要ですね。


櫻井 「まちカドまぞく」(2019)の時なんですけど、ちょっと中低域に寄った曲が多かったんですよね。その時に桜井弘明監督から、「セリフとの兼ね合いで音楽のボリュームを小さくしないといけなくなるので、もう少しレンジの広い曲だったり、もう少しレンジが低い曲だったり、そういう曲もあっていいですよ」とおっしゃっていただいて。なるほどなと思って、それ以降はセリフとの兼ね合いも気にして作るようになりました。

 

「メインテーマ」作曲から始まった「まちカドまぞく」


─櫻井さんが初めて単独で劇伴を手がけた「まちカドまぞく」は、どのように参加が決まったのでしょうか?


櫻井 「まちカドまぞく」については、テーマのコンペがありました。「原作を読んで、自由にテーマを作ってみてください」というお話がまずあって、そこで私の「まちカドまぞく-メインテーマ-」が採用されて、その後、劇伴全篇も作らせていただいた流れです。


─最新作「放課後ていぼう日誌」(2020)はいかがですか?


櫻井 フライングドッグの制作担当の方から「アコースティックなテイストが得意な作家さんを探している」とのお話があり、所属事務所の日音を通じて私のポートフォリオを送ってもらったところ、お誘いをいただきました。


─アニメ作品の中には過激な表現のものもありますが、そういった作品の参加にも抵抗はありませんか?


櫻井 全然大丈夫ですよ。やり始めてまだ年月も経っていないので、お話をいただけたら何でもやってみたいですね。

 

「放課後ていぼう日誌」の魚ヒット曲は、3段階もある!


─お得意な音づくりを教えていただけますか? 先ほど民族音楽というお話がありましたが、「まちカドまぞく」にも、清子がシャミ子の先祖返りを指摘する1話で使用された楽曲「一族の秘密」など、エスニックを感じさせるスコアがいくつかあります。


櫻井 民族音楽といってもアイルランド、スコットランド、北欧、中東、アメリカのカントリー……いろいろあるんですよ。そうしたルーツミュージックだったり、エスニックなフレーバーが入った曲を作るのが一番好きですね。


─「放課後ていぼう日誌」では魚がヒットした際に、高らかなティン・ホイッスルが鳴り響いていました。


櫻井 ド頭に少し入っていますね。アイリッシュ・ブズーキも入っています。この曲は、「魚がヒットした時に当てます」と具体的なオーダーがありました。原作と脚本を照らし合わせて、「これぐらいのテンポ感かな」と目星を付けて、終わりも「やった~釣れた!」という一定の終止感というのを意識して、コーダ的な作り方をしています。あと実は「魚のヒット曲」は、ノーマルな状態、大きな魚がヒットした時、もっと大変な時、と3段階用意しているんです。ティン・ホイッスルから始まる曲はノーマルな状態の曲なので、ほかの段階の曲もぜひ聴いてみてくださいね。

 

日常系の音楽も好き、「はめふら」では本格クラシックも


─「まちカドまぞく」は日常系アニメの一面があるので、ふわふわ感というか、ほのぼのした感じの楽曲もありましたね。たとえば1話。シャミ子が生えた角を鏡で確認するシーンや、ドアに挟まれている邪神像のシーンで使用されていた「とほほ。」は、まさに「ザ・日常系」といった感じの楽曲でした。


櫻井 日常系を作るのも好きですね。「とほほ。」はメニューに「とほほ」と書いてあったので、「本当に『とほほな曲』を作ろう!」と思って、ちょっと下に下がる感じのメロディにして、生の口笛で脱力感も出しています。


─櫻井さんの口笛なのですか?


櫻井 違います(笑)。口笛は、身近に世界チャンピオンを取った後輩がいるので、その方にいつもお願いしています。


─「まさかちぎっては投げられる!?」という曲は、さまざまなシチュエーションで使われていたのが興味深かったです。具体的には、1話のシャミ子が桃からパンチのやり方を教えられるシーン、5話のシャミ子が桃のパソコンを壊さないようにさまざまな障害物を避けながら家まで運ぶシーン。どういった経緯で生まれたスコアなのでしょうか?


櫻井 原作コミックスに、「まさかちぎっては投げられる!?」というセリフのシーンがあるんですよ。この曲は導入部分が15秒くらいあるんですけど、そこに関しては原作を参考にして、「アニメだと、大体これくらいの尺があるんだろうな」と、自分の頭の中でイメージして作っていきました。


─4話のシャミ子のバイトシーンでは、櫻井さんの音楽「シャミコミカル-Up-」と、「ウィンナーを売って」、「ウィンナーをもらって」と繰り返すシャミ子のセリフ、素早いシャミ子の動き、そして短いカットの積み重ねが相まって、シーンが加速していく錯覚に陥りました。この曲も特定シーンを想定したオーダーだったのでしょうか?


櫻井 いえ、この曲は「シャミ子用のコミカル、アップテンポ」とだけメニューに書いてありました。シャミ子と桃で曲調というか、メロディの作り方やコード感を分けて作っていたんですけど、それを踏襲しつつ、フィドルとかバンジョーでブルーグラス・フレーバーを取り入れて、かつジャンルに寄りすぎないようにシロフォン、ベル系、アコーディオンも少し入れて、作品に合わせてデフォルメしました。私自身は1話の、邪神像が階段から転げ落ちていくシーンをイメージして作ったんですが、実際に選曲家さんがそこにも当ててくださっていたので、すごくうれしかったです。


─「乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…」(2020)の1話では、カタリナが4人の攻略対象を紹介していく場面で、気品漂う「Rise of the Curtain」が流れていました。クラシック曲もすばらしいですね!


櫻井 ありがとうございます。「はめふら」は、そもそも「クラシカルなもので劇伴を作っていこう」という方針がありまして、「Rise of the Curtain」は「乙女ゲームのオープニング曲みたいなイメージ」というオーダーだったので、実際にアプリをいくつかプレイして作りました。


─「五等分の花嫁」(2019)では乙女心を表現するシーンで、櫻井さんの楽曲が多用されていました。フルート曲「揺れる心」は、倉庫で風太郎が一花を肩車する9話、かまくらで三玖と2人きりになる11話、リフトで風太郎が五月の変装を見破る12話で使用されていました。特に9話の音楽の使い方は、一花の心臓音と混ざり合い、まさに「揺れる心」になっていたのでとても印象に残っています。


櫻井 「揺れる心」は、楽器編成の規模感で苦労した記憶があります。最初は大きめの規模感で作ったんですけど、「多分これだと、トゥーマッチ過ぎるかもね」と思ったので、最初のピアノフレーズとかもそうですけど、「もう少し繊細に、小さめの規模感で作ってみよう」とあの形になりました。

 

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