3D監督・小川耕平 ロングインタビュー!(アニメ・ゲームの“中の人” 第44回)

2020年11月14日 13:000
3D監督・小川耕平 ロングインタビュー!(アニメ・ゲームの“中の人” 第44回)

ライターcrepuscularが独自取材でお届けする、他メディアでは決して読めない長期連載。第44回は、株式会社Marco(マルコ)代表取締役で、3D監督の小川耕平さん。実力派スタジオとして知られるP.A.WORKS(ピーエーワークス)の3DCGスタッフとして頭角を現した小川さんは、「Charlotte(シャーロット)」で3D監督に抜擢され、3DCGを使った立体的な表現等で同作のクオリティアップに寄与。その後の「クロムクロ」ではチーフプロダクションマネージャーとして、マネジメントの才幹も認められた。「有頂天家族2」と「サクラクエスト」で3D監督を務めた後はP.A. WORKSを退社し、現在は20代の新鋭起業家として、アニメ業界に新風を吹き込もうとしている。記事ではそんな小川さんのキャリア、仕事術、作品制作エピソード、今後の挑戦等をたっぷりとお伝えしよう。3D監督がアニメ制作で果たすべき役割とは何か。小川さんがメインスタッフとして加わることで、各作品はどのように磨かれていったのか。“中の人”を知れば、アニメの新しい見方・楽しみ方がきっと見えてくる!

 

クリエイティブとマネジメントを両立させる3D監督


─連載初の3D監督インタビューとなります。まずは、アニメにおける「3D監督」の役割を確認させてください。一般的な教科書によれば、3DCG制作には、立体物を形成するモデリング、立体物に質感を与えるテクスチャ・マッピング、光源やカメラ・ポジションを決めるシーンレイアウト設定、画像・映像を描出するレンダリング、画像・映像を手直しするレタッチ、といった工程があるそうですね。小川さんの3DCG制作会社「Marco(マルコ)」のHPには「モデリング」、「アニメーション」、「3DLO/3DBG」の3項目があげられています。


小川耕平(以下、小川) アニメにおける3Dセクションの業務は、大体ご説明の通りです。ただ3D監督は、3Dスタッフに業務指示を出すだけではなくて、色彩、背景、作画、撮影といった、ほかのセクションがやりやすいやり方とかも考えつつ、彼らとうまくコミュニケーションを取ることも重要な仕事になってきます。アニメは分業が徹底しているので、監督とのやり取りだけでは不十分なんですよ。


─ゲーム等の3DCG制作とは、職務内容が違うということでしょうか?


小川 モデリング・アニメーション・コンポジットという点では、大きな違いはありませんが、アニメの3DCGの場合、特にワークフローがCGプロダクションが作るフローとは全然違うので、アニメ制作の経験がない会社はなかなか難しいと思います。CG側の都合を周りのセクションに押し付けちゃうとか、本当によくある話なので……。作画、背景、色彩、撮影、3D……それぞれのセクションがお互いに歩み寄り、作り方を模索していくのがアニメなので、業界特有のマネジメントが必要となります。


─アニメの3Dスタッフは、クレジット表記が多彩なのも特徴的で、小川さんも「3D監督」以外にさまざまなクレジットを与えられています。「SHIROBAKO」(2014)では、「3Dレイアウト」とクレジットされていました。


小川 P.A.WORKSで「3Dレイアウト」と表記されたのは、僕が初めてだと思います。「SHIROBAKO」以前は、「3Dレイアウト」専門のスタッフは入れていなかったんですよ。「SHIROBAKO」は社内でのやり取りが多い作品だったので、専任で立てようということになり、別クレジットで載せてもらいました。


僕が担当した「3Dレイアウト」というのは、絵コンテの各カットで指定された舞台と登場人物を、3Dのカメラを使って実際に撮る作業のことです。「SHIROBAKO」だと、武蔵野アニメーションとかですね。そういった場所の各部屋をラフの3Dモデルとして作って、人物を配置して、3Dカメラで実際に撮る。それをもとにアニメーターさんが作画をするんです。そうすると、作画のパースがズレることはないんです。


─1話あたり、どの程度3Dレイアウトにしたのですか?


小川 「SHIROBAKO」だと、150~200カットぐらいありました。


─「SHIROBAKO」の作画クオリティが高いのは、原画マンや作画監督の方々だけの力によるものではなかったのですね。


小川 部屋は作画でなかなか描けないですし、時間もかかります。3Dだったらモデルとしては完成していて、僕は1日で100~150カットぐらい組んでいたんです。作画よりも速くて、間違いも起きません。机周りの情報量とかもしっかりしていたと思いますよ。


─第6話のイデポン展の展示品は作画でしたね。


小川 作画なんですけど、ラフの3Dモデルはありました。たとえば、イデポンの腕なんかも、ボックス状のモデルがあって、それを使って3Dレイアウトを組みました。ラフのモデルでも、作画よりはしっかりパースが取れるんですよ。「SHIROBAKO」は、「3Dレイアウトを出せるものは、とりあえず出そう」という方針でした。


─「クロムクロ」(2016)では、「デジタルアーティスト」とクレジットされています。


小川 「デジタルアーティスト」というのは、P.A.でよく使っている「3DCG」や「3D CGI」と同じ意味です。この作品は外注をたくさん使ってやっていたので、クレジット表記もほかの会社さんに合わせて、「デジタルアーティスト」にしていたと思います。作業としては、ロボットのモデルを作ったり、動きを付けたりしていました。エフィドルグの量産型ジオフレーム・カクタスとかです。モブや車両も作りましたね。


─ほかのロボットもの作品を観ると、ロボットを3Dで作ったとしても破壊や汚れは後に、作画で描き足したりしているようですね。


小川 止め1枚でやるなら作画で破壊を描くほうが圧倒的に楽なんですけど、「クロムクロ」はボロボロになりながら戦っていく感じだったので、破壊や汚れは、3Dのテクスチャやモデルを壊すなりして作っています。


─「クロムクロ」は、「チーフプロダクションマネージャー」としても活躍されています。同作の「3D監督」は春田幸祐さんですが、職務内容はどう違うのでしょうか?


小川 簡単に言えば、3Dの制作です。3Dカットが各話50~100カット、多い話数だと200カットぐらいあって、スケジュールもなかったので、13社ぐらいの外注会社さんにお手伝いいただきました。その13社と社内をまとめる仕事を、僕がやっていました。春田さんがクリエイティブなところを、僕は制作的なやり取りをしていた、という感じです。


─第13話の立高祭で展示されていたクロムクロのハリボテ人形は、3Dでしょうか、作画でしょうか?


小川 あそこは3Dレイアウトでアタリを置いて、背景さんのほうでレタッチをしていただきました。

 

 

「Charlotte」でP.A.初の試みとなった3D背景、「サクラクエスト」で応用


─先ほどから背景の3Dモデルの話が出ていますが、拙連載でお話をうかがった美術設定の須江信人さんによると、美術セクションが3D背景の制作を行うこともあるそうです(編注:https://akiba-souken.com/article/33750/?page=3)。


小川 須江さんとはP.A.の頃から時々お仕事をしていて、僕がダンデライオンアニメーションスタジオに移った後も、「あかねさす少女」(2018)でご一緒しました。今はちょっとわからないんですけど、以前の草薙さんの3DCGの使い方は、美術設定ををもとに3Dモデルで起こして、そこに背景をテクスチャとして貼り付け、カメラを決め込んだらそれをレンダリングする、というものでした。やっていること自体は僕らとそんなに変わらないんですけど、セクションは全然違います。


─なるほど。技術的には美術でも3Dでもできるので、作品ごとにどちらが担当すべきか、役割分担の打ち合わせをするわけですね。


小川 そうです。たとえば、僕が3D監督をした「サクラクエスト」(2017)だと、その作業を3D側でやっていました。背景さんに美術ボードを描いてもらって、それに合わせて3D側でモデルとテクスチャを作っていきました。以前はこのやり方が主流だったと思いますが、徐々に背景会社さんが自社内で3Dスタッフを雇って、テクスチャ込みの3Dモデルも作っていく、というのが増えてきた印象です。


─どういった背景が3Dで作られていたのでしょうか?


小川 数カットしか出てこない場所やチュパカブラ王国は、3DBG(編注:3D背景のこと)化していないんですけど、由乃たちが暮らしていたログハウスとか、間野山観光協会の事務所とかは、3Dでやっていました。特にログハウスはガッツリ作っていて、1階から2階の吹き抜けまで全部3Dです。「SHIROBAKO」でも武蔵野アニメーション等の3Dモデルを作って、ドアを開けたら別の部屋に繋がっているとか細かく作っておいたんですけど、テクスチャまで貼れなくて、3DBG化はできなかったんですよ。でもその後、「Charlotte(シャーロット)」(2015)で3DBGの経験を積むことができたので、「サクラクエスト」でそれを応用する形で、ログハウスを丸ごと3DBG化しました。


─それだけ作り込んでいたのであれば、アニメだけじゃもったいないというか、ゲーム等でも活用できたかもしれませんね。


小川 VRでも使えたと思いますし、企画の方がそういったお話をされていた気がします(笑)。


─「Charlotte」と言えば、小川さんの初3D監督作品ですね。同作は、3D背景の使い方が斬新でした。第2話で有宇が初めて生徒会室に入室するシーン、第3話で友利が路地を曲がった直後に男に殴られるシーン、第12話で有宇が病室に戻ると奈緒がロッキーを食べながら待っているシーンなどで3D背景が使用され、立体的なカメラワークになっていましたね。


小川 美術監督の東地和生さんといろいろ相談しながら3Dモデルを作って、テクスチャも全部貼り込みました。生徒会室入室シーンが初めての試みで、P.A.的にもやったことのない試みだったので、「こういうことできるんだ!」みたいな反応がもらえて、やっていておもしろかったですね。


─高城が瞬間移動能力を使うシーンも3D背景ですか? 第1話では高速で道路を突き抜け、土手の階段を上る有宇に向かっていくシーンがありました。


小川 全部3D背景でやっています。こういうカットは、背景さんとのやり取りがすごく重要になってきます。カメラがすごい距離寄っていくので、背景さんには解像度の高いテクスチャを何枚も描いていただきました。


─第2話で高城がカツサンドをゲットするシーンでは、食堂のテーブルやモブ学生たちが吹き飛んでいましたが、あれも3Dでしたよね。背景だけではなく、小道具やモブも3Dセクションが担当することで、高城の能力描写に統一感が生まれていました。


小川 ありがとうございます。なつかしいですね(笑)。

 

撮影セクションとの役割分担


─火、水、雪、花びら、光などは、いかがでしょうか? 撮影セクションの仕事であったり、アニメーターの仕事であったりすることもあるようです。余談ですが、「SHIROBAKO」の第5話には3D監督の下柳と作画監督の遠藤が、爆発のエフェクトを作画でやるのか3Dでやるのか、もめているシーンがありました。


小川 実はどこのセクションも使っているソフトウェアは似ていたりするので、やろうと思えば、どのセクションでもできるんです。でも、持っているスキルはそれぞれ違うので、そこは監督と相談しつつ決めることになりますね。


─「サクラクエスト」第11話は、凛々子が歌う龍の唄に合わせて周囲を飛び交う、蛍の群れが美しかったです。「有頂天家族2」(2017)第4話でも、矢一郎と玉瀾が将棋を指すシーンで蛍が舞っていました。


小川 蛍はどちらも3Dでやっていましたね。


─「Charlotte」には高城だけではなく、数多くの能力者が登場しました。たとえば、有宇は他人の身体を乗っ取る能力を使うと両目が黄色く発光しますし、友利は不可視能力で透明になり、美砂は炎を操っていました。こうした表現はどこで担当されていたのでしょうか?


小川 有宇と友利の能力は、撮影さんですね。美砂の炎は作画でやって、撮影さんで盛っていたと記憶しています。


─第13話では有宇が銃弾をバリアで防いだり、吹き消したりするシーンがありました。これらも全て、撮影セクションの仕事なのでしょうか?


小川 バリアは撮影さんですけど、吹き消すのは3Dでやりました。


─やはりお聞きしないと、観ただけではなかなかわかりませんね。


小川 「Charlotte」は、僕が初めて3D監督をやらせてもらった作品なんですけど、監督の浅井義之さんには本当に自由にやらせていただきました。浅井さんは、「やってくれるんだったら、任せます」というタイプの監督だったので、すごくやりやすかったですし、楽しかったです。基本的に3Dを使う時って、ほかの話数でもいっぱい出てくるようなものを3Dにするんですけど、僕はそういうのをあまり気にせずにやりたかったので、「この表現は、3Dで表現したらおもしろいですよ!」みたいな感じでやらせていただきました。


─第5話の高城と柚咲がプレイしていた携帯ゲーム、第7話の有宇がみたらし団子を食べながらプレイしていたアーケードゲーム「SILENT OF THE DEAD」も、わずか数秒のカットにも関わらず、作り込まれていて驚きました。


小川 P.A.にいた時は予算とかあまり気にせずにやっていたので、浅井監督に「ここは3Dにお任せでどうですか?」と提案していました。

 

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