音響効果技師・川田清貴 ロングインタビュー!(アニメ・ゲームの“中の人” 第35回)

2019年10月12日 12:000

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ライターcrepuscularの連載第35回は、音響効果技師の川田清貴さん。せりふと音楽に並ぶ「アニメの音」、それが効果音であり、その効果音を作るのが音響効果技師である。川田さんは株式会社スワラ・プロ出身で、これまであらゆるジャンルのドラマの音を生み出してきた。「メジャー」の吾郎の大気を震わせるジャイロボール音、「蟲師」の美しい自然環境音、「惡の華」の不気味な開花音、「リトルウィッチアカデミア」の夢いっぱいの魔法音、「銀河機攻隊 マジェスティックプリンス」の緊迫感のあるロボバトル音、「衛宮さんちの今日のごはん」の垂涎の料理音……アニメファンならすぐに映像と一緒に思い浮かぶことだろう。近年は、「魔法少女サイト」、「私に天使が舞い降りた!」、「可愛ければ変態でも好きになってくれますか?」、「この世の果てで恋を唄う少女YU-NO」などで、見事な音づくりを披露している。今回の単独インタビューではそんな川田さんにキャリアや創作論、名作の音が生まれた背景などを尋ね、ほかのメディアではめったに触れられない、効果音の世界と魅力をたっぷりと教えていただいた。

 

「せりふと音楽以外の音」を作るプロフェッショナル


─お忙しい中ありがとうございます。連載では初めて、音響効果技師の方にお話をうかがうことになるのですが、まずは川田さんのお仕事について簡単にご説明いただけますか?


川田清貴(以下、川田) せりふと音楽以外の映像の音を作るのが、自分の仕事です。具体的には足音、衣擦れ音、食器の音といった日常生活音、鳥やセミの鳴き声、風音や波音といった環境音、パンチ、斬撃、魔法につけるアクション音、アニメーションにはほかにコミカルな動作音、眉や目の動きに合わせてつける表情音、などもあります。


─表情音などは、実写ではめったに聴けない、アニメならではの音という感じがします。


川田 業界では「タッチ」と呼んでいるんですが、実写でもバラエティ番組とか、コミカルなドラマでは結構つけたりしていますよ。


─やりがいを感じるのはどんな時ですか?


川田 画に音がハマった時、画の目指したアクションに音がついていけた時というのは、やっぱり楽しいですね。


─創作活動にあたり影響を受けた作品は?


川田 自分は割と後天的なアニメファンで、「子供の頃、この作品に衝撃を受けた!」というのは実はありません。「機動戦士ガンダム」(1979~80)や「超時空要塞マクロス」(1982~83)をテレビで観ていたわけでもないんです。中学や高校になってからアニメに興味を持ち始めて、最初の頃は、ビデオ屋のアニメコーナーでちょっと古めのOVAを借りて観ていました。「メガゾーン23」(1985)、「バブルガムクライシス」(1987~91)、「トップをねらえ!」(1988)とか。「魔界都市〈新宿〉」(1988)など、菊地秀行先生原作のアニメも好きで観ていましたね。自分は大分の田舎出身なので、ビデオ屋にも最新のものがあまりありませんでした。アニメが好きになってからはテレビシリーズも観るようになって、業界に入る前は、「ふしぎの海のナディア」(1990~91)や「新世紀エヴァンゲリオン」(1995~96)も観ていました。

 

どんなジャンルも「できなきゃいけない」


─作品参加の基準はありますか?


川田 何でもやりますよ。何でもできなきゃいけないんじゃないですかね、効果って。あくまで自分らはものすごい根っこを作っているわけではなくて、木でいえば、真ん中の幹よりはもうちょっと枝葉に近い部分なんです。木の幹とか根っこを作っている人たちは多分、「絶対これでなきゃ!」というのがあると思うんですけど、ある程度根っこができて幹ができた時に、自分らが枝葉として作るのに「この木は無理だな」なんて言い出したら、仕事が回らないですよね。


─エログロなど、いわゆる年齢制限作品でも問題ないと?


川田 全力でやりますよ。方向性がはっきりしているものは、音で作品を引き立てられるので楽しいです。逆にジャンル関係なく、「音がついてれば何でもいいや」と言われるのが一番辛いです。


─作品参加が決まるタイミングというのは、声優や作曲家と同じなのでしょうか?


川田 以前の効果は、音響のセクションの中でも選んでもらえる順位が割と後ろのほうでした。アフレコとダビングは、テレビレギュラーだと週に1本がパターンなんですけど、午前にアフレコをやって、午後にダビングをやる、たとえば3話のアフレコをやった午後に1話のダビングをやる、というような段取りで、アフレコとダビングがズレながら作業していることが多いんです。そうなると当然、役者さんを決めた後に効果を、となることが多くて、役者さんの人数も多いので、「この曜日この時間帯で空いてるなら」というオファーを受けるか、会社に依頼する形で「社内で予定の合う方」ということが多かったんです。それが、ここしばらく状況が変わってきていて、効果マンの人数が少ないため、「ここでしかやれない」というオファーのかけ方をすると、誰もつかまらなかったりすることがあるため、早めにお声がけをいただけるようになりました。


─やはり準備の時間も必要ですよね。


川田 自分の場合は、原作があれば原作のテイストを見てみたいし、音ロケが必要かどうかも検討したいので、できるだけ早くお話をいただいて勉強する時間が欲しい、という話をしています。原作に触れて、「これは専門の音ロケをしないと、作品にならない」といった状況になったら、直前のオファーだと間に合わないこともあるんですよね。

 

お台場での音ロケ


─監督や音響監督から直接オファーのあった作品は? 監督の元永慶太郎さんと音響監督のえびなやすのりさんの作品にはよく参加されていますね。


川田 お2人とは、「あまえないでよっ!!」(2005~06)をやらせていただいたのが最初です。その時に気に入っていただけたみたいで、今もお話をいただいています。


─菱田正和監督の「プリティーリズム」シリーズにもずっと参加されていますね。


川田 自分は2作目「プリティーリズム・ディアマイフューチャー」(2012~13)からで、その次の「レインボーライブ」(2013~14)の頃にはスワラ・プロを退社していたんですが、このシリーズには「プリズムジャンプ」という固定音があって、作品の世界観を把握しているのも自分しかいなかったため、「KING OF PRISM」シリーズ(2016~)も引き続きやらせてもらっています。


─「メジャー」シリーズ(2004~10)も長く関わっておられました。吾郎のジャイロボール音は迫力満点でカッコよかったです!


川田 6年もあったので、インフレしないように気をつけて作っていました。物語の最初に吾郎の実父であるおとさんが出ていて、あの段階でプロ最大級の投球音というのがすでに根っこにあって、徐々に物語がそこに近づいていくんですよね。メジャーと日本のトップの全力対戦シーンがまずあって、その後どんどん盛り上がっていくことになるので、「アレより上の何かを求めなきゃいけないんだよな……」という葛藤がありました。


─「テイルズ オブ ゼスティリア ザ クロス」(2016~17)、「活撃 刀剣乱舞」(2017)、「衛宮さんちの今日のごはん」(2018~19)など、ufotable(ユーフォーテーブル)制作作品でもご活躍されています。


川田 「テイルズ オブ ゼスティリア」はまだスワラにいた頃、ゲームのアニメーション「導師の夜明け」(2014)のお話をいただいたのが最初で、それからつながっていった感じです。「衛宮ごはん」は業界でも観てくれた人がいるみたいで、「ちょっと料理関連のシーンがあって」ということでオファーを受けることもありました。やっぱり仕事が名刺代わりになる部分が大きくて、認められるとうれしいですね。

 

「構造オタク」を生かして音に幅をつける


─お得意な音作りがあれば、教えてください。


川田 得意というより、自分は割と作品に影響されるので、がんばっている作品だと効果音は自然に乗っていきますね。やっぱり画やドラマに力が入っていると、「なんとかしてやろう!」ってなりますよ。


─川田さんの作る音は、人工音でも生音でも深みがあるというか、とことん作り込まれている感じがします。


川田 自分は構造オタクなので、ものの構造をちゃんと理解してから音を作ることが多いですね。たとえば、「肉が裂ける音」とかを録音する時は、生肉よりも鶏ガラのほうがいいんですよ。生肉みたいに途中に引っかかるものとか構造的な複雑さがないと、ダッと鳴るだけで終わっちゃうので、後でダクシャとか、メチャとか、パキャみたいな音を足す必要があったりするんです。鶏ガラは小骨が入っているので、刺すとコシのある、いい音がするんですよ。


─剣同士がぶつかる音や銃の発砲音なども、構造的な違いを意識して作られるのでしょうか?


川田 やっぱり日本刀と洋刀は音を変えますね。割と洋刀は、キィ~ンと響く感じをさせることが多くて、カチッと当たった部分と、その後ろの余韻の音とかは、別個に録って加工したものだったりするんです。それこそ「ゼスティリア」と「刀剣乱舞」は、だいぶ意識して変えています。演出上求められる時は例外ですけど、銃に関しては構造的なものより、ケレン味のほうに寄せることが多いですね。たとえば、陸奥守の銃はリボルバーですけど、音はショットガンの音を使っています。


─「魔法少女サイト」(2018)のにじみんが爪を噛み砕く音も、印象的でした。あれは生音ですか?


川田 プラスチックを割る音をベースに作っています。


─パンやズームといったカメラワークにも音がつくことがありますね。「私に天使が舞い降りた!」(2019)第1話では、みや姉が花ちゃんを始めて見た時のズームや、母千鶴の視点でひなたやみや姉を見る時のパンなどに、それぞれ異なる音がついていました。


川田 画に合わせて音をつけています。逆に、音をつけて変な意味がついてしまうようであれば、つけません。驚いて振り向く時のパンであれば音をつける意味があると思いますが、ただ振り向くだけのパンに音をつけると、間違ったメッセージを伝えてしまうかもしれません。効果って、つけ方を間違えるとミスリードすることがあるので、それはやらないようにしています。

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