初公開! 「株式会社Marco(マルコ)」設立秘話
─キャリア上、転機になったお仕事は?
小川 タイトルで言うと、まず初めて3D監督をやった「Charlotte」、その次に「クロムクロ」ですね。
─「サクラクエスト」で、思い出に残っているお仕事はありますか?
小川 ひとつ、おもしろエピソードがありまして、モブのおじいさんが乗っている4輪バイクのモデリングを外部に発注したんですけど、その発注単価が、実際のバイクより高かったんですよ(笑)。
─えええっ!?
小川 3DCGはそういうことがあるからおもしろいですよね、本物を買ったほうが安いという。車とかだと、やっぱり本物のほうが高いんですけど。
─P.A.を離れた理由をうかがってもよろしいでしょうか?
小川 それまでは作画補助がメインだったんですけど、「クロムクロ」でオール3Dアニメをやって、「大変だけど、やっぱりおもしろいな」と思いました。その頃にはP.A.の3Dセクション全体を任されるようになっていたんですけど、P.A.はやっぱり作画中心のスタジオなので、オール3D作品をバンバンやるわけにもいかなかったんです。そういった社内事情と、もっといろんな挑戦をしてみたいという思いもあって、20代半ばでP.A.を退社しました。
─P.A.退社から起業までは何を?
小川 東京に戻った後は、マネジメント力を付けたいなと思い、ダンデライオンアニメーションスタジオに3D制作として入社しました。「あかねさす少女」という作品に関わっていたんですけど、入社2か月で作画スタジオに出向して、設定制作をやっていました(笑)。P.A.ではあくまで3D関連で他セクションとやり取りをしていたんですけど、「あかねさす少女」では3Dに限らず作品全体として、監督・演出・色彩・撮影とのやり取りさせていただき、とてもよい勉強になりました。
─2019年8月に「株式会社Marco(マルコ)」を設立した理由をお聞かせください。
小川 「あかねさす少女」の後は3か月くらい、フリーの3Dクリエイターをやっていました。でもフリーだと、生活がかかっているので目の前の仕事をひたすらこなしつつ、並行して新しい技術のキャッチアップ、というのが難しかったんですよね。作品への参加も、もっと深い部分から関わりたいなと思ってもいましたし。それで、やっぱりチームでやらないとダメだなと思い、起業を決意しました。
─社名「Marco」の由来は?
小川 これを言うと恥ずかしいんですけど、自分のP.A.時代のあだ名が「マルコメ」だったんですよ。ちっちゃくて坊主だったので、「マルコメ味噌のキャラクター」みたいだって(笑)。わかりやすいのは大事だなと思ったので、一番の理由はそこですね。あとは、「〇(マル)」という記号です。アニメっていろんなセクションで作られているんですけど、「セクションの輪を繋ぐ架け橋」になれたらいいな、という思いも込めています。
─フリー時代には、山本寛監督の「薄暮」(2019)にも参加していますね。
小川 知り合いの演出さんに紹介してもらって、3DCGをやっていました。山本さんは、「涼宮ハルヒの憂鬱」のシリーズ演出もやられていて憧れもあったので、お会いできてうれしかったです。「SHIROBAKO」監督の水島努さんもそうですけど、自分の作りたいものを真っ直ぐに作っている監督って、ご一緒して楽しいですよね。
Marcoならではの人材育成と事業展望
─アニメの3D監督に必要な資質能力とは何でしょうか?
小川 「新しいことに興味を持てるかどうか」だと思います。ソフトウェアもどんどん更新されていきますし、急に聞いたこともない新しいソフトが出てきたりもするので。
─アニメ制作でマストな3DCGソフトウェアは?
小川 「Maya(マヤ)」と「3ds Max(スリーディーエス・マックス)」ですね。2DアニメはMaxを使うことが多く、オール3DアニメをやりたいんだったらMaya、といった感じです。MarcoではMayaとMax、両方使っています。
─Marcoに入社するには、Mayaと3ds Maxの技術が必須でしょうか?
小川 そんなことはないですよ。本人にやる気と勉強する気があるのであれば、入社後でも大丈夫です。どこの会社さんも「即戦力がほしい」とおっしゃっているのですが、そんな人、すぐに見つかるわけないじゃないですか。そういうのを何年も見てきているので、「だったら、やり方をいちから教えたほうが早い」と思うようになりました。ちなみに、今はコロナ禍でリモートワークをやっているので、地方からの応募も大歓迎ですよ。
─現在のアニメ業界、特に3DCG部門について、何か思うことはありますか?
小川 これは3Dに限った話ではないのですが、最近SNSなどで「作画アニメーターの給料が安すぎる」とよく言われていると思います。そこにはアニメ制作会社だけじゃ解決できない問題がいっぱいあるんですよね。そういうところを3DCGを使って少しずつでも改善できないかな、と思っています。たとえば、作画アニメーターが担当カットのレイアウトを、作画から3Dに切り替えるとか。そうすれば、1日数カットしか上がらないものが数十カットになるので、その分、人件費も浮きますよね。もちろん、切り替えることで弊害も必ず生まれるので、それは調整が必要です。
─Marcoは設立1周年を迎えました。差し障りのない範囲で、今後の事業展望をお聞かせいただけますか?
小川 あっという間でしたね……。いろんな人に助けられて、偶然の出会いの積み重ねで、つぶれない程度に経営してきました。これまではCGのパート請けがメインだったんですけど、今後は3D監督として参加させていただけるタイトルもあるので、頑張っていきたいと思います。あとは、どこまで実現できるかわからないですけど、「一緒にアニメ制作会社を作ろう」というお話もいただいているので、そういうところからもアプローチしていければいいなと思っています。
─近年、「BEASTARS」(2019~)や「アイドルマスター ミリオンライブ!」(未定)など、テレビシリーズでもクオリティの高い、セルルックアニメが増えてきているようです。
小川 アニメの3Dって、今まで僕がやってきたような「作画の補助としての3D」と、サンジゲンさんやオレンジさんなどがやっているような「オール3D」と、2つに分かれていると思うんです。作画補助の3Dは得意なところで、何だかんだ言っても僕は作画アニメが大好きなので、これからもずっとやっていきたいです。もちろん、その次のステップとしてオール3Dも考えていますし、技術的には後者のほうがすごくレベルが高いので、スタッフの育成も必須になるかと思います。
─Marcoは、「キズナアイ」のライブ演出協力もされています。アニメ以外の3DCG制作にもご興味が?
小川 もちろんありますよ。アニメだけにこだわるつもりは全然なくて、経験できるのであれば、いろんなメディア・ジャンルをやりたいなと思っています。ゲームもやってみたいですね。
─最後に、ファンの皆さんにメッセージをお願いいたします!
小川 Marcoは3DCG会社としてはまだまだ新参者で無名ですが、これからどんどん作品を通じて情報を発信していきますので、ご覧いただけたらと思います!
●小川耕平 プロフィール
3D監督。株式会社Marco(マルコ)代表取締役。青森県出身。日本工学院八王子専門学校卒業後、株式会社ピーエーワークス(P.A.WORKS)に入社。3DCGスタッフとして若手アニメーター育成プロジェクト(現:あにめたまご)作品「万能野菜 ニンニンマン」(2011)に参加、その後は「花咲くいろは」(2011)、「Another」(2012)、「TARI TARI」(2012)、「有頂天家族」(2013)、「凪のあすから」(2013)、「グラスリップ」(2014)、「SHIROBAKO」(2014)などで経験を積み、「Charlotte」(2015)で3D監督デビューを果たす。そのほかの3D監督作品には、「有頂天家族2」(2017) と「サクラクエスト」(2017)がある。「クロムクロ」(2016)ではチーフプロダクションマネージャー、「あかねさす少女」(2018)では設定制作も務めた。青春ものをリアルチックに表現することを得意とし、クリエイティブ能力とマネジメント能力をバランスよく兼ね備えた、前途有為の映像作家である。
●株式会社Marco(マルコ) プロフィール
小川さんが2019年8月に設立した3DCG制作会社。モデリング、アニメーション、3Dレイアウト、3D背景といった各種業務はもちろん、既存のワークフローの見直しなど、さまざまなセクションの架け橋となることで、作品全体の品質や効率を上げることを強みとしている。アニメの実績では、「神田川JET GIRLS」(2019~20)、「アズールレーン」(2019~20)、「痛いのは嫌なので防御力に極振りしたいと思います。」(2020)、「劇場版 SHIROBAKO」(2020)、「A3!(エースリー) 」(2020)、「富豪刑事 Balance:UNLIMITED」(2020)、「ハイキュー!! TO THE TOP」(2020)、「いわかける! -Climbing Girls-」(2020)等があり、アニメ以外では「キズナアイ MeltyWorld×Hallowee」や「キズナアイ INNOVATION WORLD FESTA 2019」のライブ演出制作協力などがある。
※TVアニメ「Charlotte(シャーロット)」 公式サイト
https://charlotte-anime.jp/
※TVアニメ「クロムクロ」 公式サイト
http://kuromukuro.com/
※TVアニメ「サクラクエスト」 公式サイト
http://sakura-quest.com/
※TVアニメ「有頂天家族2」 公式サイト
http://uchoten2-anime.com/
※株式会社Marco 公式HP
http://marco-cg.com/
※小川耕平 ツイッター
https://twitter.com/ogawa_kohei
(取材・文:crepuscular)