プロデューサー・大澤信博 ロングインタビュー!(アニメ・ゲームの“中の人” 第40回)

2020年02月08日 10:000

同じタイトルでも、シリーズ内容によってスタッフを変える


─「ソードアート・オンライン」は、「アリシゼーション」(2018~)から監督が小野学さんに代わっています。プロデュースもジェンコからEGG FIRMとストレートエッジになっていますが、このことは何か関係があるのでしょうか?


大澤 関係ないですね。監督交代は最初から決まっていました。伊藤監督ご本人も劇場版「オーディナル・スケール」(2017)までとおっしゃっていましたし、僕たちもそのつもりで「アリシゼーション」の監督探しを始めていました。しかも、「アリシゼーション」編は長丁場になることがわかっていたので、若手でスピード感があるだけではダメで、長いマラソンを走り切ることができるランナーを求めていました。


─「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか」シリーズも、監督が交代していますね。


大澤 「ダンまち」の監督は、J.C.STAFFの松倉友二さんと僕のほうで話し合いながら、内容に合わせて決めていきました。1期は山川吉樹さん、「ソード・オラトリア」(2017)は鈴木洋平さん、劇場版「オリオンの矢」(2019)は桜美かつしさん、2期は橘秀樹さんにお願いしました。

 

声優の「知名度」とキャスティング


─キャストも、新人を積極起用されるのでしょうか? 


大澤 声優さんに関して僕は、昔から新人を推薦することが多いですよ。ジェンコの時ですけど、古くは「七人のナナ」(2002)で、水樹奈々さんを主役にしましたが、水樹さんは初主演だったと思います。「ハチミツとクローバー」(2005~06)のはぐみ役を当時高校生だった工藤晴香さんにお願いしたこともありましたね。あとは「アクセル・ワールド」(2012、2016)黒雪姫役の三澤紗千香さん、「ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン」(2018)香蓮役の楠木ともりさんも、新人からの抜擢でした。新人であっても、キャラクター性と声質がシンクロした時は、僕はそこを重視して提案することが多いですね。もちろん監督、音響監督、ビジネス・宣伝サイドともしっかり話し合って、最終的にジャッジしています。


─キャストの知名度を計算に入れることはありますか?


大澤 知名度を重視するかはタイトルによって違いますね。「えんどろ~!」みたいなタイトルは、もしかしたら知名度のある声優さんを使ったほうがいいのかもしれないですけど、かおりさんとも「若いタイトルなので、あえて知名度にこだわらずに若い声優さんを使おう」と、合致していました。逆のパターンで言えば、「斉木楠雄のΨ難」楠雄役の神谷浩史さんはオーディションなしでオファーしましたし、「監獄学園」(2015)の主役5人も簡単なオーディションはやりましたが、知名度のある声優さんにお願いしました。

 

「最後までやる」こと、「設計図をきちんと見る」ことの大切さ


─そのほかにお仕事でこだわっていることはありますか?


大澤 2つあります。ひとつは「始めた以上、最後までやる」。そのぐらいの気概を持ってコンテンツを作り始めないといけないと思っています。自主映画とは違うので、どなたかのお金や時間や労力を投入するということは、責任があると思うんですよね。1年とか2年、ヘタしたら3年とかかかるんですよ。プロデューサーは「作品の経営者」ですから、関わる人たちの何年間かの生活をその作品で何とかしなければいけないわけで、そのためには「ヒットしてやる!」、「当ててやる!」といった気概とか、「多くの人に見てもらおう」、「楽しんでもらおう」、「あわよくば5年、10年と続けていきたい」という意識がないと、付いてくる人がかわいそうですよね。安易な意識で始めて「成功しませんでした」じゃ、報われないじゃないですか。


あとひとつは、脚本、キャラクターデザイン、絵コンテといった設計図まではきちんと見ること。僕たちプロデューサーが口を出せるのは設計図まで。あとはプロダクションの作画力や演出力に頼るしかないので、設計図までは僕自身もちゃんと見ています。どんな優秀な人でも設計図がガタガタだと、どうにもならないと思うんですよ。家づくりと一緒で、どんなに技術を持った職人さんがいたとしても、設計段階でガタが来ていたら、崩れてしまうことだってあるんです。


─息抜きはどうされていますか?


大澤 家族と過ごす時間を大切にしています。あと、プロデューサーって人と話す仕事じゃないですか。何だかんだ人といる時間が多いので、しゃべらないでいたいというか、ひとりでいる時が本当の息抜きになっているかもしれないですね。ひとりで映画館やジムに行って、頭や体をリフレッシュさせています。

 

 

「自主映画製作」と「年300本の映画鑑賞」を経て、東北新社に


─キャリアについてうかがいます。大澤さんは早稲田大学第一文学部(現:文学部)を卒業された後、東北新社に入社されたとのことですが、映像業界が第一志望だったのでしょうか? 


大澤 違うんですよ……。学生時代は自主映画サークルをやっていて、年間300本、映画を観たりもしていたので、映像業界に興味はありましたよ。でも志望動機はもっといい加減で、「ネクタイをしない業界がいいな」と思い、映像業界と出版業界だけを受けたんです。学生時代に家庭教師や塾講師でネクタイをさせられたんですが、ネクタイをしていると気分が悪くなっちゃって……。


あと僕らの時期はちょうどバブルの頃で、就職がすごく簡単だったんです。当時、会社四季報には会社案内を請求するハガキが付いていたんですけど、ある会社にハガキを出したら、合格通知が返ってきたんですよ(笑)。会社案内を請求しただけで応募もしていないのに。それぐらい、むちゃくちゃ売り手市場だったんです。


─「動機はいい加減」とおっしゃいましたが、学生時代に自主映画サークルをされていて、映画も年300本観られていたのはやはりすごいです!


大澤 当時から作るより人に見せるのが好きで、僕はサークルメンバーが作ったのを上映する側でした。「自主映画でも観てもらわなきゃ、意味ないじゃん」と思って企画していましたね。映画はほぼ毎日観ていました。当時は3本立ての映画館もいっぱいあったから。でも今の仕事に生かされているかといえば……どうだろう?


─大学では映像の勉強をされていたのでしょうか? 


大澤 当時の早稲田には映像を扱うところが第一文学部の演劇専修の中にしかなくて、そこを志望したんですけど、セルゲイ・エイゼンシュテイン監督のモンタージュとか理論しかやっていなかったのであまり講義に行っていなくて、結局、日芸(編注:日本大学芸術学部)の江古田キャンパスで、映像の実践的な講義をしてくれる教授の研究室のほうに入り浸っていました。

 

「機動警察パトレイバー」で感じた「アニメのおもしろさ」


─最初のお仕事は「機動警察パトレイバー」のAPとのことでしたが、当時の東北新社はアニメ製作が多かったのでしょうか?


大澤 上司の真木太郎さんが「パトレイバー」をやっていたので、僕はたまたまアニメ担当になりましたけど、東北新社全体では実写のほうが多かったですよ。洋画の買い付けやテレビやCM制作も分け隔てなくやっていて、僕も洋画の買い付けをしましたし。ただ「パトレイバー」の経験だけは、実写より強烈に残っていて、「アニメっておもしろいな!」とは思いました。


─「機動警察パトレイバー」では、どういったお仕事を?


大澤 新入社員ですから、お手伝いぐらいしかできませんでした。たとえば、神田川のロケハンの時のスタッフの弁当の手配とか、版権イラストの受け渡し、あと当時はフィルムだったので場面カットの切り出しとかですね。


─東北新社の洋画配給といえば、マイク・ニコルズ監督、ダスティン・ホフマン主演の「卒業」などがありますね。


大澤 「卒業」のパッケージ担当は僕です。当時はLD(レーザーディスク)でしたね。「駅馬車」や「スーパーマン」もそうです。あと劇場未公開で買い付けた洋画には、必ず担当が邦題タイトルを考えなきゃいけなかったので大変でしたね。たとえば、「悪魔の毒々モンスター」や「恋のパッコンNo.1ガール」とか……。

 

真木太郎さんにヘッドハンティングされ、ジェンコPに


─大澤さんの師匠は、やはり真木太郎さんでしょうか? 真木さんから学ばれたプロデュース論や仕事術はありますか?


大澤 何だろう……、真木さんは真木さんでしかないからなぁ(笑)。真木さん、当時バンダイビジュアル・プロデューサーだった鵜之澤伸さん、それに当時キングレコード・プロデューサーだった大月俊倫さんの世代が、「製作委員会方式」というのを立ち上げた世代なんですが、実際にあの人たちのやり方をプロデュース論や仕事術といったシステムとして置き換えることなんてできないと思います。僕らより上の世代は、「これやっとけ!」みたいな感じでとにかく乱暴な人が多いものだから、ていねいに教えてくれる先輩もいなくて、こっちがしっかりするしかないっていう、ある種の「反面教師」、「反面システム」でしたね(苦笑)。


─東北新社からジェンコに移られたご経緯をうかがってもよろしいでしょうか? 真木さんから直接のお誘いがあったのでしょうか?


大澤 その通りです。ジェンコって1998年当時、真木さんと僕しかいなかったんですよ。実は僕は東北新社を辞めて、無職で1年ぐらい遊んでいた時期があるんです。1か月くらい会社に泊まったこともあるし、くたびれちゃって……。その無職の時に、当時ジェンコを立ち上げた真木さんからお声がけいただいて。


─プロデューサーデビュー作の「スーパードール☆リカちゃん」(1998~99)は女児向けのアニメですが、お仕事を引き受けるにあたり、迷われたりしましたか?


大澤 いえ、まったく。当時マッドハウスの社長だった丸山正雄さんや監督の杉井ギサブローさんといったベテランの大御所と仕事ができるだけで、僕のテンションは上がっていました。しかも初プロデュースで、タカラ(現:タカラトミー)の著名キャラクターのリカちゃんを題材に扱えるということで、実際舞い上がっていたと思います。


─初プロデュースの時点ですでに、おもちゃ展開やメディアミックスをしておられたんですね。


大澤 「商品化のためのアニメーション」というのを学ばせてもらった感じですね。おもちゃとの整合性を取らないといけなかったので、「この話数にこういったものを出してくれ」とか、「キャラクターデザインにこういったものを加えてくれ」とか。東北新社の時はそういったことはやっていませんでした。

 

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