撮影監督・岩井和也 ロングインタビュー!(アニメ・ゲームの“中の人” 第33回)

2019年06月15日 13:000
岩井和也さん

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「私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!」のオープニング映像は、今観ても衝撃的だ。薄暗い空間で激しいメタルサウンドに合わせて絶叫し、鎖を引き裂き、光を求め手を伸ばす、”喪女”の智子。モテへの執念もとい怨念が込められた凄みのあるオープニングであった。あの映像の空気感や情感を、照明や特殊効果を駆使して作り出した撮影監督が、株式会社スタジオシャムロック代表の岩井和也さんだ。「ワタモテ」のほか、「あさっての方向。」、「スカイガールズ」、「初恋限定。」、「バクマン。」、「今際の国のアリス」、「ゆるゆり なちゅやちゅみ!」、「ゆるゆり さん☆ハイ!」、「夢王国と眠れる100人の王子様」などにも参加しているが、いずれも技術力の高さがうかがえる名作ぞろいである。そんな岩井さんの映像センスは、老舗のアニメ制作会社J.C.STAFFで磨き上げられた。現在は撮影会社・スタジオシャムロックの代表として、次世代撮影マンの育成にも力を入れている。今回の独占インタビューではこれまでの歩み、独自の仕事術、今後の抱負について、岩井さんにたっぷりと語っていただいた。

 

全話数の空気感と感情を伝える仕事


─このたびはお忙しい中、ありがとうございます。まず初めに、岩井さんにとって撮影監督とは、どういうお仕事なのでしょうか? 


岩井和也(以下、岩井) 基本的には、各部署から来た素材をひとつにまとめる仕事なんですけども、いろんな部署を通ってくるので上がりが思っていたのと違っていたりとか、色味が想定していたものと違っていたりということがあるので、そういうところを調整していく仕事になります。空気感が重要だと思っていますし、感情的な部分も画面から伝わるように心がけています。


─色味を調整することがあるのですね。それ以外に調整する部分というのは?


岩井 セルの位置は合わないことが多かったりします。たとえば、桜美かつし監督はすごくレイアウトを見られる方なので、僕の席の横に来られて、「このキャラ、このぐらいずらして」とか、「ちょっと回転させて」とか説明を受けて、付きっきりで作業していました。


─実写の撮影監督は、映像のルックやスタイルに影響力を持っているという意味で、「監督の延長」と見られることもあるそうです。


岩井 アニメの撮影は素材ありきで、僕たちがゼロから作り出すわけではないので、実写とは違いますね。アニメーターさんや美術さんや仕上げさんがどういう意図を持って素材を上げてきているのか、というのをちゃんと汲み取ったうえで処理しないと、極端な言い方ですけど、台なしにしてしまうことだってあるんです。


─どんな時にやりがいを感じますか?


岩井 撮影は、現場でも一番早く「動いている画面」を観ることができます。あと、視聴者の方の感想ブログとかで力を入れたカットがほめられているのを見ると、「わかってるねぇ!」とうれしくなっちゃいます(笑)。


僕はもともと演出志望だったんです。でも、J.C.STAFFに入った時に先輩の大河内喜夫さんがやられているのを見て、「撮影って、すごいおもしろいんだな!」と感じました。大河内さんは、「藍より青し」(2002~03)、「ハチミツとクローバーII」(2006)、「監獄学園」(2015)の撮影監督です。演出だと担当するのが1話数だけという場合もあるんですけど、撮影監督は全話数を担当するので、そういう点でも撮影はおもしろいなと思います。


─創作活動にあたり一番影響を受けた作品は?


岩井 アニメをやろうと思ったきっかけというところでいくと、「カウボーイビバップ」(1998)です。中学のころは野球をやっていて、アニメもドラマも観てなかったんですけど、高校の時に「カウボーイビバップ」を観てハマってしまい、やりたいなと思うようになりました。

 

 

リアルよりもカッコよさ


─お得意なジャンルや表現方法はありますか? 


岩井 ギャグ的なところよりは空気感を出していったりとか、どういうところに光を置くかというところが、やっていても楽しいですし、撮影の腕の見せどころかなと思っています。


─「今際の国のアリス」(2015)はローキー照明を生かした画作りが印象的で、「ゆるゆり なちゅやちゅみ!」(2015)でも、力強い太陽光で夏感を存分に引き出しておられました。リアリスティックなライティングにこだわりがあるのでしょうか?


岩井 アニメなのでリアルかどうかというより、シーンの意味を考えてカッコよくなればいいと思っています。どういうふうに光が入っても、たとえばいきなり逆から光が入ったりしても、シーンに合っていればアリかなと思っています。


─「初恋限定。」(2009)第6話の窓いっぱいに点滅する円形ディフューズライトは、クリスマス前に楠田との関係が悪くなってしまった慧の恋の悩みを見事に表現していました。リアルに考えれば、光源が何か気になるところですが。


岩井 あのカットは、演出さんのほうからそういうお話で来ていたと思います。いっぽうで、「あさっての方向。」(2006)第1話の、尋が「子供扱いされるの、嫌がるんだよね」と椒子に話しながら、からだが夕日きらめく波打ち際ではしゃぐのを見つめるシーンは、自由にやらせていただきました。


─「初恋限定。」は、背景の周辺部に白くなっているところがありますね。これは撮影で行っている処理なのでしょうか?


岩井 山川吉樹監督の意向で、「画面内に真っ白なところがあってもいいじゃないか」的な感じでやられていたかと思います。美術さんからも、「白いところは何も描かない」という形で上がってきていました。


─第9話の連城先輩が描いた名央の油絵も、桜の花びらと相まって、ファンから好評のようです。


岩井 桜の花びらは撮影でやっていますが、あの話数も演出さんがよかったんだと思います。この話数はパレットの上の絵の具の表現なんかは、こだわってやっていましたね。セルで上がってくるとやっぱりベッタリしているので、特効処理で絵の具のかすれた感じを出しています。


─雪のシーン作りについてはいかがでしょうか? 「初恋限定。」第6話のホワイトクリスマスと「夢王国と眠れる100人の王子様」(2018)第6話のスノウフィリアの吹雪は、どちらもドラマを盛り上げていましたが、雪の質感もライティングも全く異なっていました。


岩井 雪は作品に合わせて作っています。単純に丸い雪がいいのか、リアルなほうがいいのか。実際に綿を撮影しておいて、それをアニメで散らしたり、ということもありますよ。でも、そこまで指定してくる監督や演出さんはあまりいないので、僕のほうから提案することが多いですね。


─「夢100」第10話にはしゃべる大樹が登場します。不気味な感じがよく出ていました。


岩井 そういうところは美術さんもがんばってこられるところなので、僕はそれにちょっと足して雰囲気を出す、味付け程度でしたね。


─「バクマン。」は2期まで(2010~12)撮影監督を務められていて、なかでも高橋優さんの「現実という名の怪物と戦う者たち」が流れるエンディングは、ファンからも高い評価を得ています。Gペンで引かれた線が段々とキャラクターを形作っていく表現というのは、絵コンテであらかじめ指定されていたのでしょうか?


岩井 コンテではなめ出し(編注:ワイプ出しのこと)のオーダーだったんですけど、ラインアニメーションでやらせていただきました。以前に撮影出身の演出家、武山篤さんとお仕事をしたことがあって、武山さんがエンディングでラインアニメーションをやられていたのを見て、「いつか自分もやってみたいな」と思っていたところに、たまたまお話をいただいたんです。作品内容的にも悪くないのかなと考えて、提案させていただきました。

 

 

「ワタモテ」映像美のヒミツ


─「私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!」(2013)の映像は本当にすばらしく、アニメの撮影技術を総動員して作っている印象もあります。


岩井 「ワタモテ」は、僕が独立して、スタジオシャムロックを立ち上げて初めての仕事になります。会社を作った直後で人もそんなにいない中、がむしゃらにやっていました。


─「ワタモテ」の画面を観てまず気づくのが、大きいレンズゴーストです。さりげなくというより、むしろ見せていく、存在感あるのが特徴ですよね。


岩井 大沼心監督から「光が見えるような形で、何かいい表現方法はないかな」といったオーダーがあり、ああいった表現になりました。


─撮影的に「ワタモテ」で力を入れたところは?


岩井 フレアやパラの入れ方です(編注:「フレア」は光のグラデーション、「パラ」は影のグラデーション)。


─第10話の席替えからのオープニングへの流れも、神がかっていると絶賛されています。オープニングの映像も若干変わっていましたね。


岩井 演出さんがすばらしかったですね。オープニングの追加部分は別に撮影して、V編で大沼監督が調整しています。


─個人的には、第3話の公園での雨宿りのシーンで、智子が偶然居合わせた男子から話しかけられてあっぷあっぷになるところも、彼女の性格や心情をアニメ的に表した、いい描写だと思いました。


岩井 「智子に水が溜まっていく」というのはコンテにありまして、じゃあその水をどう表現しようか、というところは撮影で考えて、実際の水の映像を使うことにしました。


─3DCGではなく、実際の水をアニメに使っておられるのですね! オープニングでも、ビルや人ごみの写真が使われていました。


岩井 僕は3Dがアリなら実写もアリでしょう、と思っているので。オープニングの写真は大沼監督が持ってこられて、見えちゃいけないところは全部潰して使いました。


─第6話で智子が花火に行く相手を探すため、本棚の隙間からぐるっと図書館を見回すシーンも記憶に残っています。実写だとカメラを回転させるだけですが、アニメだと大変だったのではないでしょうか?


岩井 あれはうちの社員だった、3D監督の濱村敏郎が3Dを組んでやっています。

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  • 岩井和也さん

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