アニメーション監督・橋本裕之 ロングインタビュー!(アニメ・ゲームの“中の人” 第39回)

2020年01月12日 12:000

板垣伸さんと出会い、アニメーターから演出家へ


─キャリアについてうかがいます。代々木アニメーション学院大阪校卒業後、アニメ制作会社の中村プロダクションに入社されたとのことですが、もともとアニメーター志望だったのでしょうか?


橋本 最初はゲームのほうに進もうかとも思っていたんですけど、ゲームはクリアしないと名前が出てこないじゃないですか。アニメだと30分経ったら名前が出るので、「アニメのほうが得だな」って当時は思いました(笑)。


当時はネットもなく情報もあまりなかったので、アニメの仕事に就くにはアニメーターになるしか思いつきませんでした。「ガンダム」が好きだったんですけど自分の実力ではサンライズには入れないだろうと思っていて、下請けの会社を探していたら中村プロがエンディングによく出ていて、作画もすごくうまかったので、「中村プロに行こう!」と決めました。自分は1社しか受けていないので、落ちたらやめようとも思っていました。


─中村プロにはどのくらいおられたのですか?


橋本 6年くらいです。自分がいた頃は本当にうまい人が多くて、すごくありがたかったですね。当時は「舞-HiME」(2004~05)の久行宏和さんや、「交響詩篇エウレカセブン」(2005~06)や「コードギアス 反逆のルルーシュ」(2006~08)の中田栄治さんもいらっしゃったので、ああいう人たちと間近に話せて刺激を受けられたのは、大きかったかなと思いますね。


─作画から演出へ進もうと思った理由は何でしょうか?


橋本 原画をずっとやっていたんですが、絵を描くのがあまり得意じゃないんですよね。「コードギアス」を1話から最終回までメイン班でやるという経験をさせてもらったんですが、「コードギアス」の作監の人たちは、現在ほぼキャラデザになっていて、うまい方が多かったんです。その時に「ここのメンツと一緒にやっていくには、自分は画力が足りなさ過ぎる」と痛感して、演出を考え始めました。


でも自分の中では「作画も作監もキャラデもしっかりできなきゃ、演出にはなれないかも……」と思い込んでいて、悩んでいました。その時にその話を後輩の石田可奈さんにしたら、「やってみたらいいじゃないですか。原画も普通に描けるんだし、ダメだったら原画をまた描けばいいじゃないですか」と言われて、難しく考え過ぎていたことに気づかされたんです。それで思い切って板垣伸さんに連絡して、「バスカッシュ!」で演出デビューをさせてもらいました。


─板垣さんとはどういうご関係だったのでしょうか? 


橋本 中村プロの同期の宮下雄二君が東京デザイナー学院時代に板垣さんと同級生だったので、紹介してもらいました。板垣さんは、「逃げないんだったらいいよ」という条件で受け入れてくれました。一番よかったのは最初から絵コンテを描かせてもらったことです。1回でもコンテを描いていれば、ほかの会社でもコンテを振ってもらえる可能性があるので、コンテと演出を一緒にやらせてもらえたのは本当にありがたかったですね。


─演出面の師匠はいらっしゃいますか? フィルモグラフィを拝見すると、橋本さんは助監督をされていないようですが。


橋本 師匠はいないんですよね。「バスカッシュ!」は残念なことに監督が降板になってしまったので、全部独学でやっていました。自分は作画出身なので作打ちはわかるけど、色背打ちも撮打ちも編集も全然わからない。なので、撮影さんや編集さんととにかく仲良くなって、「撮影打ちでは何を話せばいいんですか?」とか、「どういうことをやればいい編集になるんですか?」とか自分で聞いて、ちょっとずつ勉強していきました。

 

先輩監督と「当たる作品」から学ぶ


─キャリア上、転機になったお仕事は? 初監督作品の「ご注文はうさぎですか?」は大ヒットしましたね。


橋本 「コードギアス」、「Angel Beats!」、「TIGER & BUNNY」(2011)はやっぱり大きかったと思いますね。これらの作品に関われていなかったら、今の自分はなかったと思います。


自分が運がいいなと思うのは、当たる作品に関われていたことです。「コードギアス」の谷口悟朗さん、「TIGER & BUNNY」のさとうけいいちさん、「Angel Beats!」の岸誠二さんからものづくりの大切さや監督としての生き方、自分なりの戦い方などをすごく学びましたね。


─「ようこそ実力至上主義の教室へ」での岸さんとの共同監督はいかがでしたか?


橋本 いやぁ、びっくりしましたね(笑)。アニメーションプロデューサーの比嘉勇二さんから誘っていただいたんですが、最初は「共同って? どこまで共同?」と手探りでやっていました。でも岸さんとは意見が合うので、アイデア出しも「わかるわかる、そっちのほうがいいよ!」、「いいねいいね、流石だね!」という感じだったし、作業分担も「俺がこっちやっとくから、そっちやっといて」みたいな感じでした。分担する部分は特に決まってなくて、やれる時は一緒にやっていました。すごくやりやすくて、本当の意味で「共同」だったと思いますよ。

 

 

アニメ監督は「常に作品を100%愛せる人」


─アニメーション監督に必要な資質能力とは何でしょうか?


橋本 「皆の意見をまとめて形にする」というのがアニメーションの監督としては一番重要かな。いろんな人たちに発注して、いろんな人たちのアイデアを借りつつ、それをひとつの作品として見せなきゃいけない。それをくっつけるだけじゃひとつにはならないので、くっつけて、こねて、形にしなきゃいけないんです。


あとこれは自分だけかもしれませんが、「常に作品を100%愛せる人」、「アニメファンから愛される人」のほうがいいなと感じますね。自分もそうですけどアニメを観ていて、作っている監督も作品のことを大好きだったら、やっぱりうれしいですよね。


─現在のアニメ業界について、何かお感じになることはありますか?


橋本 デジタル作画については早く業界統一したほうがいいと思います。ソフトもバラバラ、フォルダ階層などやり方も人によってバラバラで、今統一しておかないと、今後デジタル作画がメインになった時にそれをチェックする演出の人たちに混乱が起きてミスが多発してしまうと思います。


あとは最近、若手の人が勉強できる機会が本当に少なくなっているな、と感じます。自分も師匠はいないんですけど、それでも原画の時はマンツーマンで教えてくれる人がいました。今の人は入った瞬間から急にプロとしてぶっつけ本番で全部やらされていることがあるので、かわいそうだなと思いました。アニメって業界が特殊過ぎるので、昨日まで絵だけ描いていた人が急にアニメーターをうまくできるとは限らないんですよ。アニメーターにはアニメーターのルールがある、でも誰も教えてくれない。本にもネットにも情報がない。専門学校もそこまで踏み込めない。そんな特殊なものを「目で見ただけでわかれよ」と言うのは酷ですよね。

 

ゲームも舞台もイベントもやってみたい


─今後挑戦したいことは? 


橋本 これからもいろんなアニメを作っていきたいですね。あと自分は何でもやってみたい人なので、アニメだけじゃなく、作品全体をプロデュースしてみたいです。ゲームも作ってみたいし、イベントも企画してみたいし、舞台も演出してみたい。どっちかというと、「プロデューサーに近い監督」なんじゃないかなって思いますね。自分が会ってきた監督たちも、プロデューサー目線をお持ちの方が多かったですね。作品だけを作るというのではなく、「作品を観ている人たちはどういう人たちなのか?」、「どういうものが求められているのか?」というのを常に考えているんです。


─ハリウッドの監督だと、プロデューサーを兼務していることもありますね。たとえばスティーヴン・スピルバーグ監督は、監督作品よりもプロデュース作品が多いことで有名です。


橋本 日本もそういうのがあればいいなと思いますけど、日本にはプロデューサー専業の方もいらっしゃいますし、アニメは特殊なところもあるので難しいかもしれないですね。でも、メーカーのプロデューサーさんと話をするのは結構好きなので、「次はどんなことやるんですか?」とか、「それはどこまで参加できるんですか?」とか、積極的にアピールするようにはしています。


─最後に、ファンの皆さんにメッセージをお願いします!


橋本 アニメ監督としての自分のインタビューが本当におもしろいものなのかわからないんですけど、自分は死ぬまでアニメを作っていくつもりなので、これからも応援してもらえればありがたく思います!

 

 


●橋本裕之 プロフィール
アニメーション監督、演出家。京都府出身。代々木アニメーション学院大阪校卒業後、アニメーターとして有限会社中村プロダクションに入社。独立後、「バスカッシュ!」(2009)で演出デビュー、「Angel Beats!」(2010)、「バクマン。」(2010~13)、「TIGER & BUNNY」(2011)、「DEVIL SURVIVOR 2 the ANIMATION」(2013)、「蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-」(2013)、「そにアニ -SUPER SONICO THE ANIMATION-」(2014)などにも参加。初監督作品「ご注文はうさぎですか?」(2014)は大ヒットし、日常系アニメの記念碑的存在となった。プロデューサーマインドを持つ監督として、作品をトータルコーディネートするよう心がけている。「ご注文はうさぎですか??」(2015)、「魔法少女育成計画」(2016)、「ようこそ実力至上主義の教室へ」(2017、ただし岸誠二さんと共同)、「スロウスタート」(2018)、「LAIDBACKERS-レイドバッカーズ-」(2019)とバラエティに富んだ監督作品があり、「ご注文はうさぎですか?」シリーズは第3期制作も発表されている。2020年代も間違いなく日本アニメを盛り上げてくれる、創造性とショーマンシップを兼ね備えたクリエイターである。


※TVアニメ「ご注文はうさぎですか?」 公式サイト
https://gochiusa.com/

※TVアニメ「魔法少女育成計画」 公式サイト
http://mahoiku.jp/

※TVアニメ「ようこそ実力至上主義の教室へ」 公式サイト
http://you-zitsu.com/

※TVアニメ「スロウスタート」 公式サイト
https://slow-start.com/

※劇場アニメ「LAIDBACKERS-レイドバッカーズ-」 公式サイト
http://laidbackers.com/

※橋本裕之 ツイッター
https://twitter.com/lainnet01

(取材・文:crepuscular)

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