「めっちゃ○○」は楽しい
─キャリア上、転機になったお仕事は?
川田 ありがたいことに、どの作品も凝った作品をやらせてもらえるので、どの作品も思い出に残っています。1本1本、どれも勉強になりましたし、テクニック的な資産にもなりました。何をやってもそうですけど、「全力に振った作品」、「ぶっちゃけた作品」はおもしろいですよね。めっちゃロボットバトル、めっちゃカワイイ、めっちゃ弾けてる、めっちゃ嗜虐的……そういうやり切っている作品をやるのは楽しいです。
─「めっちゃロボットバトル」と言えば、「銀河機攻隊 マジェスティックプリンス」(2013、16)ですね。
川田 その前に、「電脳冒険記ウェブダイバー」(2001~02)というロボットものもやっているんですが、「モダンなロボットもの」という意味では、「マジェプリ」が最初ですね。
─「マジェプリ」を振り返ってみて、いかがですか?
川田 いや~、楽しかったですね! バトルシーンは全部CGだったので、ほとんどの話数で完全に画が入った状態で作業させていただきました。ロボットに関してはちゃんとしたものがついていたし、爆発の感じもちゃんとわかる画が入っていたので、イメージしやすかったです。実は、1話冒頭のバトルシーン(編注:ウルガルがウンディーナ基地を攻撃する約1分4秒)って、最初はえびなさんが音楽をつけていたんですけど、自分がめっちゃ気合入れて音をつけたら、「音楽はやめよっか」と言ってくださって、GDFの通信が始まるところまで音楽なしの構成にしてくれたんです。
─ロボットアニメは過去にたくさんの名作がありますが、「マジェプリ」の音作りはそれらを参考にしたりしましたか?
川田 ここまでスピーディーで、ここまで激しいバトルのロボットものなんて、見たことがなかったので、参考にはしませんでした。あれこれ考えず、自分の感性でつけていきたかったんです。オレンジさんって、CGのよさとアニメのよさのギリギリのところを狙っていて、アニメーション映えするCGが多いんですよ。画作りがめちゃくちゃカッコいいので、やっぱりこっちも気合が入りますよね。
─「めっちゃカワイイ」ところで「エロマンガ先生」(2017)は、竹下良平さんの初監督作品でした。ご感想は?
川田 竹下監督の目指しているものがはっきりしていたので、それに乗っかる形でやらせてもらいました。画なりドラマがちゃんとしていると、やっぱり音もちゃんとするんですよね。
─ヒロインの紗霧が引きこもりということもあり、心理描写をせりふではなく、効果音で行うシーンがいくつかありました。ドアの開閉音、床を踏み鳴らす音、クッションの音といった音がそうだと思います。
川田 家の中のシーンが多かったので、レコーダーとマイクを傍に置いておいてやっていました。クッションの音は、布団っぽいものを寝室でバフバフやっていたのですが足らないので、音を足したりしています。床を蹴る音は、床だとダメだったので、真夜中に壁をバンバン叩いて作りました(笑)。作中の東武線や五反野駅付近や荒川などの風景音も録りに行きましたね。
鉄道橋付近での音ロケ
─「私に天使が舞い降りた!」も「めっちゃカワイイ」作品で、音づくりもすばらしかったです!
川田 小さな女の子たちがキャッキャするコミカル系の作品は、実は「わたてん」が初めてなんです。特に「わたてん」はめちゃくちゃ線の細い作品だったので、音を乱雑につけると「痛い音」になるなと思って、とにかく「痛い音」を全部避けました。ほかの作品だと、ザッとかバッとかバーンとかつけるところを、ピロリンとかめちゃくちゃ線を細くして、作品に寄せていく意識をかなり持ってやっていました。やっぱり作品がよくできていると、自然にそうなっていくんですよね。
─「めっちゃカワイイ」と言うべきか、「めっちゃ変態」と言うべきかわかりませんが、「可愛ければ変態でも好きになってくれますか?」(2019)の慧輝がシンデレラのパンツをひっぱる音も、コミカルでいい感じに仕上がっていましたね。
川田 あの音は、いまざきいつき監督のリクエストでした。自分は全体的にコミカル音をつけないようにしていたんですけど、肝心なところとかは監督のリクエストでつけています。
─2013年にフリーになられた理由をうかがえますか?
川田 ひとりでやりたい、というのが大きかったですね。あとは、自分が組織で人を育てるのは無理だと思いました。
AIに日本アニメの「ゆらぎ」が真似できるか?
─音響効果技師に必要な資質能力とは?
川田 結果的に自分はそれができたからよかったんだろうなと思うのは、「構造オタク」という部分ですね。ただ芸術的センスというのは……自分はないよなぁ(苦笑)。割と自分は物理的なものに目を奪われがちで、演出方面のダイナミクスはちょっと足りないなと思いますね。
─現在のアニメ業界、特に音響部門に関して何かお感じになることは? 最近は「AIによるアニメ制作」という話も出ています。
川田 日本のアニメがアニメたりえているのって、完璧じゃない部分やゆらぎがあるからだと思うんですよね。AIはそのうち、完璧なオーケストラの曲とかを作るようになると思うんですよ。でも、それは完璧だからできるのであって、どこまで不完全なゆらぎを盛り込められるのか、ここが多分、自分らの仕事がAIに取って代わられるギリギリのラインでしょうね。文法的に間違いのない完璧な文章は書けても、イキッた中学生の文章が書けるのか、というところです。
音づくりでいえば、革靴で道路を歩く音にしても、カッツ、カッツ、カッツ、カッツときれいに鳴るわけじゃなくて、実際はカッツ、ッカ、ッカ、カッツって不規則に鳴るんです。そのゆらぎが真似されなければ、AIに日本のアニメはできないと思っています。不完全のダイナミクスや演出上の尖った部分がドラマに与えている影響というのは、日本のアニメはめちゃくちゃ大きいんですよ。
─作品によっては、オープニングに「音響効果」が表記されないことがあります。これについていかがでしょうか?
川田 オープニングで名前を出していただけるのは、目立つのでもちろんありがたいですよ。でも、名前が出ないからといって別に軽視されているわけでもないし、作品のHPにも名前が載ることと載らないことがありますし、気にしてないですね。
─今後挑戦したいことは?
川田 アニメが好きなので新しい作品は何でも楽しいですよ。やったことのない分野の作品もやってみたいですね。
─3DCGはいかがですか?
川田 以前に「やさいのようせい N.Y.SALAD」(2007~08)をやらせてもらいましたけど、楽しかったですね。VRムービーとかがあればやってみたいかなと思いますけど、なかなかないかなぁ。
─最後に、ファンの皆さんにメッセージをお願いします!
川田 自分の効果音はあくまで作品の一部で、音楽のように世界観ができているわけでもありません。作品がよくできていれば、効果音は自然とカッコよくなるので、まずは普通に作品を楽しんでほしいですね。その延長上で、もし機会があれば、効果音も意識して聴いていただけるとうれしいなと思います。
●川田清貴 プロフィール
音響効果技師。大分県出身。専門学校卒業後、株式会社スワラ・プロ入社。2013年にフリーとなる。構造についての深い知識を生かして、あらゆるジャンルで幅のある効果音を作り上げる。参加作品は、「メダロット」(1999~01、ただし今野康之さんと共同)、「電脳冒険記ウェブダイバー」(2001~02)、「まほろまてぃっく」(2001~03、2009)、「ヤミと帽子と本の旅人」(2003~04)、「この醜くも美しい世界」(2004)、「メジャー」(2004~10)、「School Days」(2007)、「薄桜鬼」(2010~2014)、「プリティーリズム・ディアマイフューチャー」(2012~13)、「閃乱カグラ」(2013)、「惡の華」(2013)、「プリティーリズム・レインボーライブ」(2013~14)、「銀河機攻隊 マジェスティックプリンス」(2013、16)、「デート・ア・ライブ」(2013~19)、「蟲師」(2014)、「うたわれるもの 偽りの仮面」(2015~16)、「KING OF PRISM」(2016~19)、「テイルズ オブ ゼスティリア ザ クロス」(2016~17)、「リトルウィッチアカデミア」(2017)、「活撃 刀剣乱舞」(2017)、「エロマンガ先生」(2017)、「衛宮さんちの今日のごはん」(2018~19)、「魔法少女サイト」(2018)、「私に天使が舞い降りた!」(2019)、「賢者の孫」(2019)、「可愛ければ変態でも好きになってくれますか?」(2019)、「この世の果てで恋を唄う少女YU-NO」(2019~)など多数。
※TVアニメ「この世の果てで恋を唄う少女YU-NO」 公式サイト
http://yuno-anime.com/
※TVアニメ「可愛ければ変態でも好きになってくれますか?」 公式サイト
https://hensuki.com/
※TVアニメ「私に天使が舞い降りた!」 公式サイト
http://watatentv.com/
※TVアニメ「KING OF PRISM -Shiny Seven Stars-」 公式サイト
https://kinpri.com/
※TVアニメ「魔法少女サイト」 公式サイト
https://mahoushoujyo-anime.com/
※川田清貴 ツイッター
https://twitter.com/kksoundeffect
(取材・文:crepuscular)