撮影監督・岩井和也 ロングインタビュー!(アニメ・ゲームの“中の人” 第33回)

2019年06月15日 13:000

独立後初の「ワタモテ」


─キャリア上、転機になったお仕事は?


岩井 撮影監督というところでいくと、やっぱり「私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!」になりますね。撮影会社を作ろうかという話になっていた時に、たまたま知り合いの方から紹介していただきました。よく任せてくれたなと思います。


─「スカイガールズ」や「バクマン。」も長く関わっておられたので、愛着があるのでは?


岩井 どの作品でも、やってればおもしろくなってくるので、制作期間は関係ないですね。


─「スカイガールズ」で印象に残っているお仕事は?


岩井 ターミナルデバイスの映像は撮影で全部置いていたので、大変でしたね(笑)。


─「バクマン。」はいかがでしょうか?


岩井 エンディングは自分でもよくできたなと思っていて、あとは雑誌に載っているマンガの印刷具合の表現も、こだわって作りました。


─「ゆるゆり」のルックを決めるにあたり、太田雅彦監督の前作(2011~12)は意識されましたか


岩井 それはなかったですね。スタッフは皆さん入れ替わっていましたし、畑監督の意向に沿って進めていました。


─なもりさんの原作はどの程度参考にされたのでしょうか?


岩井 作品の雰囲気そのものを変えちゃうと、おかしなことになってしまうので、そういうところでは原作も参考にしています。ただやっぱり、撮影でできることって多いようで限られていまして、アニメーターさんからの作画、美術さんからの背景、色彩さんからの色があって、そこをどう調整するかというところなので、どちらかというと監督の意向のほうが大きいですね。


─「なちゅやちゅみ!+」ではエンディングテーマ「おひるねゆにばーす」の映像、登場人物たちのペープサート(編注:割り箸状の棒を使った紙人形劇)もかわいかったです。


岩井 実際の紙と割り箸を使ったわけではなく、パソコン上でですけど、自分で音楽を聴きながらぴょこぴょこやっていましたね(笑)。

 

 

三位一体の守護者、「スタジオシャムロック」


─岩井さんは2013年2月、アニメの撮影会社、「スタジオシャムロック」を設立されました。まずは社名の由来をうかがえますか?


岩井 「シャムロック」というのは「三つ葉」という意味なんですが、もともとディレクターが3人いたので、「三位一体」、「皆で一緒にやっていこう!」という思いで名付けました。ロゴの「クローバー模様」には守護的な意味もありまして、「最後のところは守ります!」という意思表示にもなっています。


─設立のご経緯は?


岩井 実は僕は、J.C.STAFFを退職した後、一度ゲーム・遊技機のほうに行っているんです。J.C.さんが嫌で辞めたというよりは、結婚して子供も生まれたので、家庭の時間を確保するために……というのが理由です。でもやっぱり、TVアニメ作りの楽しさが忘れられなくて、戻りたいなと思うようになったので、濱村たちと相談して、「どうせアニメに戻るなら、自分たちでやってみよう!」と会社を立ち上げました。


─御社のセールスポイントは?


岩井 特殊効果はひとつの武器かなと思っています。うちは特効マンがいまして、単純に上がってきたものに特殊効果を入れるだけではなく、動いたものにも入れることができるので、そういうところは結構得意かなと思います。たとえば、「異世界食堂」(2017)の料理は動きますが、その処理も全部うちでやっています。


あとは、限られた時間の中できちんとした画作りをする、絶対に間に合わせる、といったところですね。芸術作品を作っているのとは違って仕事なので、間に合わなきゃ意味がないんです。


─現在のアニメ業界、特に撮影部門に関して何か思うことはありますか?


岩井 自分が入ったころというのはまだやることが少なかったんですけど、今はセル処理が増えてきて、撮影で担当することがどんどん増えていっているんですよね。僕は増えていくのに合わせて、階段を上っていく感じでキャリアを積んでいったんですけど、今から入ってくる人たちは、すごく大変だろうなと思いますね。やんなきゃいけないことが多くてそれを理解する時間もないまま、どんどん投入されていくので、そういうところは辛いんじゃないかと。


─新人でも、「After Effects」等のソフトウェアの技術がないと厳しいですか? 現場でやりながら覚える、というのは現実的ではないのでしょうか?


岩井 会社によると思います。1社で合わないというのであれば、違う会社に移動して、というのも僕はアリだと思います。ソフトウェアの使い方よりも、どういう画作りができるか、というほうが重要だと思っているので。


─近年、フル3DCGアニメが増えています。3DCGの場合は撮影処理も、アニメーター側である程度行って上がってくるそうですね。


岩井 2Dアニメの撮影だけをやっていると、フル3Dの仕事も同じふうに入ってくるのかな、という思いはあります。でも正直、この先どうなるのか、本当にわかりません。


─「Vコンテ」(ビジュアルコンテ)や「PreViz(プリビズ)」(プリビジュアライゼーション)を使用する現場も出てきています。そこで撮影監督が専門的知見を提供することはないのでしょうか?


岩井 僕は、演出面と画作りというのは違うと思っています。「絵コンテの状態から最終画面を想像する力」というのは育っていると思うんですけど、芝居や動きをつけるとかはアニメーターさんにはかなわないと思っています。

 

「説明できる」撮影監督


─撮影監督に必要な資質能力とは?


岩井 キレイな画作りができるのは当然として、撮影監督は説明ができないとダメだと思います。「どうしてこういうふうにしたの?」と聞かれた時に、「こういう考えがあってやりました」と説明できないと、難しいと思いますね。


─実際にカメラで撮影することも大切でしょうか?


岩井 撮影監督というより撮影の仕事をするうえで、カメラを持って外へ出て、いっぱい撮ってくるというのは、すごく重要です。夕立がどういうふうに水溜りを作るのかとか、切れそうな蛍光灯がどういうタイミングで明滅するのかとか、桜の花びらはどういうふうに舞っているのかとか、実際に自分で撮って確認することですね。


─作品もたくさん観ておいたほうがいいですか?


岩井 今の技術とか、今はどういうのが流行っているのかを知るのは必要かなと思います。オーダーとして「あの作品のああいうふうに」と言われたりもするので、共通言語として必要だと思います。


─今後挑戦したいことは? 


岩井 いろんなやり方を知りたいと思っているので、いろんな現場へ行ってちょっとずつやる、というのも楽しそうだなと思っています。


─アニメの撮影には、JAniCA(日本アニメーター・演出協会)のような職能団体はないのでしょうか? 


岩井 ないですね。ただ、ここ何年かはTROYCAの津田涼介さんが主体になって、「撮影新年会」をやってくださっているので、交流がないわけではないんです。


─劇場版への参加にご興味は?


岩井 ディレクションという意味ではやってないですけど、僕も参加はしていますよ。川面真也監督の「のんのんびより ばけーしょん」(2018)はうちの佐藤敦が撮影監督をしていますし、新海誠監督の「君の名は。」(2016)でもお手伝いさせていただきました。自分で劇場作品の撮影監督をやるとなると……、大変そうだな(苦笑)。


─ジャンル的に参加してみたい作品はありますか?


岩井 子ども向けをやってみたいなと思います。単純に子どもがいるからなんですが(笑)。


─スタジオシャムロックは創立6周年を迎えられました。御社の今後の抱負は?


岩井 今うちがやらなきゃいけないのは、撮影監督を育てることです。今は僕か佐藤のどちらかが担当しているので、そろそろ若い人を育てないと!とは思っています。


─最後に、ファンの皆さんにメッセージをお願いします!


岩井 アニメを観ていて「ちょっと雰囲気いいね」と思ったら、撮影さんががんばっているのかもしれません。でも、視聴者の方は撮影なんか気にしないで、楽しんで観ていただけければと思います。


撮影の仕事に興味のある方は、お気軽にどんどんご連絡ください。面接をしますし、事前にご相談いただければ、スタジオ見学もできますよ。

 


●岩井和也 プロフィール
撮影監督。株式会社スタジオシャムロック代表取締役社長。愛知県出身。専門学校を卒業後、J.C.STAFF入社。大河内喜夫さんに師事し、「あさっての方向。」(2006)で撮影監督デビューを果たす。そのほかの撮影監督作品には「スカイガールズ」(2007)、「初恋限定。」(2009)、「裏切りは僕の名前を知っている」(2010)、「バクマン。」(2010~12)、「私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!」(2013)、「今際の国のアリス」(2015)、「ゆるゆり なちゅやちゅみ!」(2015)、「ゆるゆり さん☆ハイ!」(2015)、「夢王国と眠れる100人の王子様」(2018)などがある。リアリティよりもカッコよさを重視し、シーンから空気感や情感を最大限に引き出すことを得意としている。


●株式会社スタジオシャムロック プロフィール
岩井さんが2013年に設立した、アニメの撮影会社。ロゴのクローバーには「三位一体」、「守護者」という思いが込められている。限られた時間の中できちんとした画作りをすることをモットーに、特殊効果にも力を入れている。初参加作品の「私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!」で驚きの映像美を提供し、「異世界食堂」(2017)、「三ツ星カラーズ」(2018)、「デスマーチからはじまる異世界狂想曲」(2018)、「のんのんびより ばけーしょん」(2018)、「賢者の孫」(2019)などでも耳目を集めている。


※TVアニメ「私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!」 公式サイト
http://watamote.jp/

※TVアニメ「ゆるゆり さん☆ハイ!」 公式サイト
https://yuruyuri.com/3hai/

※TVアニメ「夢王国と眠れる100人の王子様」 公式サイト
https://yume-100-anime.com/

※株式会社スタジオシャムロック 公式HP
http://st-shamrock.com/


(取材・文:crepuscular)

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(C) 2014 なもり/一迅社・七森中ごらく部

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