色彩設定・松山愛子 ロングインタビュー!(アニメ・ゲームの“中の人”第9回)

2017年01月23日 18:000

 

「原作絵をアニメでも忠実に」という流れが顕著に

 

─アニメの彩色において、流行の変化を感じることは?


松山 「目」が一番わかりやすく出ていると思いますが、最近は「原作の絵を、アニメでも忠実に再現したい」というのが顕著になってきたのかなと思います。昔は技術的な問題もあって、「絵で描いてあるけど、これはアニメではできないよね」と、省略されることがいっぱいあったのですが、最近は技術も進歩したので「これできるよね。やろう」みたいな感じになって。その流れで「目などの塗り分け」が増えているのだと思います。

アニメと原作の表現の違いも考えないといけません。原作絵だとビジュアルできれいに見せる、たとえば髪の毛だったら上のほうが明るく、下のほうはグラデーションを使用していることがあります。アニメでもそれを忠実に再現しましょうと企画もありましたが、最近は「グラデーションを使用しなくても、きれいに表現できる方法があるなら別のアプローチもあり」と考える監督の方もいらっしゃいますよ。


─原作絵に忠実となると、現場の負担も増えてきているのでは?


松山 「ここは省略してもよくない?」とか思いながら、やっているところもないわけでありません(笑)。でもアニメになる前にオリジナルである原作の絵が世に出ているので、できることなら忠実に再現したほうが、原作ファンの方も喜ぶのかなと想い描いて妥協せずにチャレンジしています。


─そのほかに何か変化はございますか?


松山 入社したころはセルに絵具で塗っていたので、製造されている色数が多くなかったんですよ。発色の関係で、白い色は避けてました。今はデジタルになり無限な色数でいっぱい作れるし、きれいな白色も作れるようになりました。


─作品参加を決める基準はありますか? 過去の作品を見ますと、ライトノベル原作や美少女系アニメが多いように見受けられますが。


松山 特にはないですよ。声をかけていただいたら、まず即、お断りはしないようにしています。作品内容を拝見し、そして多分思うところがあり、私に声をかけてくださっていると思いますので検討してからお返事します。自分が読んでいる作品は、いち視聴者として楽しみたいので、極力自分の知らないところで制作してほしいという気持ちもあります(笑)。

 

人材不足ではないが、仕上げの基礎を学ぶ場は少なくなっている

 

─彩色のお仕事に必要な資質能力とは何でしょうか? 公的資格なども取っておいたほうがよいのでしょうか?


松山 色を作り配色するだけであれば、誰でもできると思うんですよ。資格も取っておけば役に立つと思います。ただ、色彩設定という役職に就くと全体を見て、何をすべきか考える必要があります。

フレームに入った時の配色バランスとか、自分の思った通りの色を表現するには、どのように色指定の方へお願いしたらいいのかとか、またスケジュールの管理も重要です。色彩設定が色指定表を出さないと、以降の作業が全部止まってしまいますから、「いつ色を作って、いつまでに指示を出す」ということも自分で管理できないといけません。
言うまでもなく基礎が大切です。仕上げのことは大体できていないと色彩設定は務まらないと思います。スケジュールや色指定の方の都合で手伝いに入ったり、仕上げとして塗りをすることも多々あります。


─昨今ではアニメーター不足のお話がありますが、彩色関係も人材不足でしょうか?


松山 足りるか足りないかで言えば、足りていると思います。厳しい言い方になりますけど、「仕事ができるから就いている」という方は多くはないと思います。「まだ経験を積んでいないのにその役職なの?」という感じを受けることもあります。

仕上げだけで言うと多分、基礎を学ぶ場が少なくなっているんだと思います。スケジュールの都合上、仕上げ作業を海外の方にお任せすることが多くなり、国内では海外で作業された直しをする業務のほうが多くなっているんです。仕上げ作業から入ってキャリアを積むということもなかなか難しくなってきていますね。

海外への発注が悪いと言っているわけではありません。海外の方とも提携ができて、海外の方が育ってくるのであれば、やり方を変えていくのもいいかなと思っています。


─3DCGアニメについては、どのようにお考えですか?


松山 3Dアニメを実際作る時にどういう作業をするのかがわからないので、何とも言い難いのですが、やっぱり色をデザインする人が1人くらいいたほうがいいのではと思っています。作業が細かく分かれると、テレビで使えない色を全員知っているというのは難しいでしょうし、色のことは色の専門家にと考える人もいるんじゃないでしょうか。

 

 

「こういう作品だから」ではなく、「こんな作品できますか?」と言われたい

 

─今後はどんなことに挑戦されたいですか?


松山 色彩設定としてまだまだなので、ほかのことは考えていません。まだやれることがいっぱいあるはずだから、できないことができるようになればいいなと思っています。そのためにいろんな部署がどんなことをしているのか、常に興味があります。

名前を言われて「ああ、あの色を作る人ね」と思われたくないので、テイストの違う作品をやっていきたいなとは思います。「こういう作品だから頼みましょう」と言われるよりは、「こんな作品できますか?」と言われたほうがワクワクします(笑)。新しいスタジオへ行って知らない人とお仕事すると「このような見方もできるんだな」と発見も多いので、楽しいんです。


─2017年1月スタートの「セイレン」にも、色彩設定として参加されていますね。


松山 「『アマガミSS』をやっていた人を極力使いたいので」ということで、声をかけていただきました。がんばって作っていますので、ぜひ観てくださいね(笑)。


─アニメファンの皆さんにメッセージをお願いいたします!


松山 仕上げって現場の裏方なので、何かしらのメッセージを発信する機会はあまりないんですが、観てくれるファンの方がいないと成り立たないと思っています。視聴者の方たちを置いてけぼりにしたり、ないがしろにしたりすることは決してありません。アニメを観ている時には、仕上げのことなんか気にせず、ただ楽しんでいただければと思います。

 

 


●松山愛子 プロフィール
色彩設定。代々木アニメーション学院を卒業後、初のデジタル彩色スタッフとしてAICに入社。現在は、颱風グラフィックス所属。「ああっ女神さまっ」(2005~07)、「S・A~スペシャル・エー~」(2008)、「アマガミSS」(2010、2012)、「僕は友達が少ないNEXT」(2013)、「学戦都市アスタリスク」(2015~16)など、色彩設定として数々のヒット作の制作に携わる。現在は、2017年1月に始まった「セイレン」の色彩設定として活躍している。

※TVアニメ「ああっ女神さまっ」 公式サイト
http://www.tbs.co.jp/megamisama/megami1/

※TVアニメ「アマガミSS」 公式サイト
http://www.tbs.co.jp/anime/amagami/1st/

※TVアニメ「僕は友達が少ないNEXT」 公式サイト
http://www.tbs.co.jp/anime/haganai/

※TVアニメ「学戦都市アスタリスク」 公式サイト
http://asterisk-war.com/

※クラウドファンディングアニメ「Under The Dog」 公式サイト
http://under-the-dog.com/ja/

※TVアニメ「セイレン」 公式サイト
http://www.tbs.co.jp/anime/seiren/

※颱風グラフィックス 公式HP
http://www.typhoon-g.com/


(取材・文:crepuscular)

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