「僕は友達が少ないNEXT」は前作と雰囲気を変えて
─「僕は友達が少ない」は、2期の「僕は友達が少ないNEXT」(2013)から参加されています。これはどういう理由によるものでしょうか?
松山 2期の企画意図として「初めに作ったものとは、雰囲気を変えて作りたい」というお話がありました。パッと見て雰囲気が違うイメージを表現しないといけないので、前作の色とは違うことを意識しました。
─具体的にはどういったところを?
松山 全体的に明るくしています。瞳の色使いもきれいな水色とか、よりアニメっぽい色を使うようにしました。あとは影の落とし方を変えると印象が違って見えるので、そこもちょっと変えていて、星奈は並べてみるとはっきり差が出ていると思いますよ。日向とか2期初登場のキャラはすべていちから色を作りました。
─AICと言えば、松山さんが現在所属されている颱風グラフィックスの代表で、本連載でもインタビューさせていただいた櫻井崇さん(編注:https://akiba-souken.com/article/26939/)も、AICのご出身ですね。お2人の出会いはいつごろになるのでしょうか?
松山 「らぶドル~Lovely Idol~」(2006)の時ですね。私が色彩設定で、櫻井さんは編集として作品に参加していました。AICの時は、櫻井さんとはあまり仕事を一緒にしてないんですよ(笑)。櫻井さんとは別班にいたので、あまり接点がなかったんです。「らぶドル」は班を横断して制作した珍しい作品です。
「学戦都市アスタリスク」以降、社外作業も経験
─キャリア上、転機になったお仕事は何でしょうか?
松山 いくつかありまして、一番初めに大きな仕事として関わらせてもらった「ソルビアンカ」当時は経験があまりなかったので、本当に勉強になりました。
2つ目は「ああっ女神さまっ」(2005~07)のテレビシリーズですね。自分のキャリア的には、まだそんな大きな仕事に関われるとは思っていなかったのに、やることが決まったので周りの方に助けていただきながらなんとかやらせてもらいました。「ああっ女神さまっ」でいろんなことができるようになったので「アマガミSS」ではそれを生かすことができました。
3つ目は「学戦都市アスタリスク」(2015~16)かな。AICを辞めて最初の作品で、初めて社外の人たちとご一緒させてもらい、いい経験になりました。以前の環境は、色指定の方も仕上げの人たちも大体社内にいらして、こっちから「こうしてほしい」、向こうから「これはどうなの?」といったやり取りがすぐにできていたんですけど、外の会社だと口頭で言うよりはデータにして伝えないと相手の人のキャリア違いだったり作業状況の関係だったりで、伝わらないことがあると気づきました。
クラウドファンディングアニメの「Under The Dog」(2016)も印象的でした。AICで作品を何本かやっていたころ「よりリアルな芝居をするアニメにも関わりたいな」と思う時期もあったので、メインスタッフとして関わらせていただいたのは嬉しかったですね。
─松山さんのお仕事のこだわりをお聞かせください。
松山 実際に色を表現する時に、自分のカラーを出すというよりは、監督、キャラクターデザイン、原案などの中にあるカラーをどれだけ忠実に再現できるか、ということをメインにしています。
─松山さんから自由にご提案されたケースはないのでしょうか?
松山 「らぶドル」はキャラによってイメージの色があるんですが、それぞれのキャラの私服の色などはイメージ色から外れなければということで、オリジナルの色を提案させていただきました。「R-15」(2011)でも、自由に作っていたりします。
─キャラクターの肌の色はどのように決めていかれるのでしょうか?
松山 メインになるキャラを一番初めに決めています。その時、この子は肌色をちょっと色白に、この子は普通な感じと配色していき、そのバランスを見て、後の子たちを決めていきます。マンガや小説のイラストでは、みんな同じ肌色が使われていることもあるので、違和感が出ないよう気を付けながら、加色減色しています。
─登場シーンをすべて事前に把握したうえで、色使いは決められるのでしょうか?
松山 経験に基づいて対応する部分もあります。アニメではある程度、決まったキャラの配置やシーンというのがあって、たとえば告白シーンなら夕景でとか、泣くシーンなら雨でといった、アニメのテンプレート的な表現があるんです。なので、そういうシーンが出て来ても困らないように色を作っていきます。その後、美術ボードにキャラを乗せて、違和感が出ないように確認します。
─同じキャラでも、時間帯や場所によって色合いが違ってきますね。
松山 各シーンでの光の当たり具合は、監督や演出に確認します。たとえば、キャラが逆光を浴びているシーンでは、その人の顔や表情を見せたいのか、見せたくないのか、演出の方針を確認してから色を作っています。
─エフェクトとの関係でも配慮されますか?
松山 たとえば撮影処理が加わって、白いブラウスが白くなくなるようなことが想定されるなら、処理が加わっても白く見えるような色合いにします。
─媒体の違いを意識して色を作られることはありますか?
松山 ゲームのお仕事もしたことがあるのですが、ゲームはパソコンのモニター画面で観るのを想定して色を作っているので、発色の違いがあったり、アニメでは使いにくい感じの色を使っていることがあります。テレビアニメには輝度、彩度、発色といった点で、制限がいくつかあります。テレビアニメはテレビがあれば誰でも観られるので、パソコンのソフト上使えない色以外にも、差別を助長するような色などは使わないんです。
─「色彩設定」というご役職は「色彩設計」や「カラーコーディネイト」など、制作会社によって呼称が違うみたいですが、AICさんや颱風グラフィックスさんの場合はいかがでしょうか?
松山 会社というより、作品でカッコいいつけ方をという流れがあると思います。一番最初に携わった「ソルビアンカ」では、中山さんから「『補佐』と入れるのはちょっとカッコ悪いけど、何て入れようね?」みたいな話をされて、「好きなように入れてください(笑)」みたいな返事をした覚えがあります(編注:エンドロールには「カラーオペレーター」とクレジット)。ほかの作品でも「『色彩設定』ですか『色彩設計』ですか?」と聞かれることがありますが、それも「どちらでも構いませんよ」とお答えしています。仕上げ、色指定、色彩設定と仕事内容がきっちり3つに分かれているので、呼称にはあまりこだわっていません。