アニメーション監督/JAniCA代表理事・入江泰浩 ロングインタビュー!(アニメ・ゲームの“中の人”第6回)

2016年10月10日 09:000

「天空のエスカフローネ」以降、オリジナルアニメを意識


─尊敬する方はいらっしゃいますか?やはり宮崎駿監督でしょうか?


入江 宮崎駿監督は業界に入る前から尊敬しておりましたし、今もすごい人物だと感じております。ただ20代前半から、一緒に仕事をしたいというのとは違う気持ちにシフトしていきました。「魔女の宅急便」以降も、宮崎監督の作品は観に行ってはいるのですが、業界に入ってからは「宮崎監督と一緒に何かをする」というより、「自分で何かをする」ということを考えるようになりました。「風立ちぬ」(2013)は素晴らしい作品ですが、参加したかったと思うことは、今に至るまでないですね。

 

─それではお仕事上、強く影響を受けた人物はいらっしゃいますか?


入江 人というよりは、中学のころに読んでいたマンガのキャラクターのセリフを、ふと思い出したのが大きいと思います。「ドカベン」の中に谷津吾朗というキャラがいて、周りからは「山田二世」と呼ばれるのですが、彼はそれを否定して「谷津吾朗一世だ」と言うのです。ずっと忘れていたのですが、宮崎駿監督と一緒に仕事したいという気持ちがなくなってきた20代前半のころに、彼のセリフがぱっと浮かんできて、「そうだ、入江泰浩一世になればいいんだ」と思うようになりました。それ以来、これが自分の活動指針になっております。

 

─そのように意識が変わったのは、作品的にはどのあたりからでしょうか?


入江 「天空のエスカフローネ」(1996)からですね。それ以前はマンガ原作の作品に関わることが多かったのですが、「エスカフローネ」ではオリジナルでアニメ作品を作るという現場に立ち会えました。「エスカフローネ」の前には、庵野秀明監督の「新世紀エヴァンゲリオン」(1995~96)も発表されていましたので、オリジナルの光が見えてからは、自分もオリジナルを作りたいと思うようになりました。

 

―「エスカフローネ」の第21話では、作画監督デビューもされていますね。


入江 「エスカフローネ」の作画監督は、自分の力が足りないのに「やる」と言ってしまった、申し訳ない仕事ですね。うまい原画さんに助けられましたし、都留稔幸さんにもすごく助けていただきました。21話の中でいい絵があるとしたら、原画マンや都留さんの絵で、「ここちょっとよくないんじゃないの」というのがあれば、間違いなく私の絵だと思います。当時のサンライズ第二スタジオの中にいる人たちがとてもいい仕事をされていたので、自分も頑張りたいという気持ちがありましたし、スケジュール的にも作監のローテーションが足りなくなっておりましたので、手をあげたというのが経緯ですね。この時も動画や二原の時と同様に、「思ったように描けない」という気持ちを味わいました。

 

―絵コンテのほうは、「カウボーイビバップ 天国の扉」(2001)が最初でしょうか?


入江 厳密に言うと、絵コンテではないんです。このお仕事には前段階があります。TVシリーズ(1998~99)の第20話「道化師の鎮魂歌」の制作では、まだシナリオがない段階で、渡辺信一郎監督から「遊園地の中だけで戦う話数を作りたい」というお話があり、「遊園地を使って、どういうビジュアルが展開できるのかアイデアを出してほしい」という要望があったので、ボールペンとサインペンを使ってA4用紙にL/Oやワンシーンのようなものを、60枚ぐらい提出しました。その後、同話数の原画にも参加させていただきましたが、その時の仕事を渡辺監督が好ましく見ていてくださったようで、劇場版でも同様のお話をいただきました。この時もシナリオがない段階で、監督からヒントをいただきながら、イメージのたたき台を出していきました。完成した映像を観ると、私の描いた絵も使われてはいるのですが、あくまで初期のイメージソースを提出した感じです。監督の希望に100%応えられたかと言えば、2%ぐらいしか応えられていないと思うのですが、それでも「絵コンテ協力」というテロップをいただけたのは、とてもありがたいことだなと思います。





「エイリアン9」で監督デビュー


―絵コンテをゼロから描かれた作品は、何になりますか?


入江 「エイリアン9」(2001~02)の第4話です。

 

―「エイリアン9」では絵コンテ以外にも、キャラクターデザインと監督にも挑戦されていますね。


入江 最初はキャラデザと作監という形でスタートしたのですが、第2話から監督もすることになりました。第1話では絵コンテの一部、第2~3話では絵コンテの修正や作監も行っていますが、ゼロから演出を担当したのは第4話からになります。演出をやる前に監督をやっていたという意味では、イレギュラーな展開でしたね。

 

―監督デビューされた時のご感想は?


入江 「エイリアン9」に関しては、これまでの作画、シート付け、撮影指示、美術のイメージ提供といったアニメーターの延長でやっていた感じですね。シナリオ会議には参加しておりませんので、完全に映像を作ることのみに専念しておりました。音響とアフレコでは映像とどれだけマッチしているか、映像が間に合っていない部分はどうなっているのか、といったことを説明したり、音楽を付ける段階になって音響監督の岩浪美和さんから質問が来た時には、自分の中のイメージを提示したりしておりました。ただ、岩浪さんが蓜島邦明さんの音楽をいい感じではめてくださったので、監督業としては「積極的にイメージを伝える」というより、「問われたらそれに答える」というポジションでやっておりました。

 



「KURAU」に込められた思い



「KURAU Phantom Memory」(2004)では、入江監督は企画の段階から関わっておられたそうですね。


入江 「主人公のクラウとクリスマスのWヒロインによる、未来を舞台にした活劇もの」という企画を、最初にボンズさんに提出しました。企画を出す段階で、自分の中で6話くらいまでの簡単なプロットとシナリオ、それに1話のシナリオを基にした絵コンテは描いておりまして、それらを企画書にまとめて出したという感じですね。完成作品では内容は大きく変わってはいますが。それがしばらくしてから、南雅彦さんから「あれやるよ」とお話をいただいて、本格的に動き始めました。

 

―企画に対する南さんからのコメントは?


入江 これを出した時、「これは女囚ものなの?」とか、「SF部分が弱いよね」とかいうお話がありました。「女囚」というのは女性が主人公で、いろいろな困難に遭遇しつつ、物語が展開していくという意味で言われたのだと思います。ただ、当時「女性が戦う」というのが、アニメ作品として今ほどメジャーではなく、「KURAU」という作品が「なぜ男性のヒーローではなく、女性のヒーローになるのか」、「クリスマスとペアになるのが男性ではなく女性で、しかもバトルする」というのが、なじみのないことだったようで、それをどういうふうに作品として成立させるのかと考えられたようです。吉永亜矢さんの女性の視点やSF関係のアイデアを提示してくれる方たちの協力で成立させよう、というのが南さんの中にあったのだと思います。その段階で南さんのほうから、「売りとして弱いので、ロボットを出すとか、パンチのきいたものって何かないのかなぁ」と言われたのですが、その当時の自分の中で「この作品にロボットを出すのは、『シティーハンター』で冴羽獠がロボットに乗るようなものだ」という思いがあったものですから、それは反対して、南さんも困った顔をされていました(笑)。作品を成立させるためのアイデアはいろいろと出していただいたのですが、最終的には自分のイメージに合わせて作品制作を進める形になりました。

 

―アニメのクレジットタイトルを見ますと、入江監督は吉永さんと第23~24話の脚本を書かれていますね。


入江 ラストは共同でした。シリーズ全体も、お話の骨子になる部分はこちらで考えたのですが、「アニメの脚本を、いきなり入江に書かせるのか」という、プロデューサー判断があったのだと思います。そこで、どういった方がいるのかという話になり、南さんから吉永さんをご提案いただきました。玉井☆豪さん、鈴木やすゆきさん、吉田伸さんについては、吉永さん経由で紹介していただいた形になります。

 

―「KURAU Phantom Memory」のタイトルも、入江監督のご発案ですか?


入江 「KURAU」という名前自体は自分の中にありましたが、「KURAU」だけではタイトルや商標が取りにくいため、いくつか案を出して考えました。こちらから「Phantom Memory」というのを提示した時に、皆さんから「いいんじゃない」となりましたので、「KURAU Phantom Memory」に決まりました。

 

──「KURAU」はアニメ作品ですが、実写寄りの人物描写も多くあるように感じました。


入江 「アニメでも人間の表情であるとか、お芝居であるとか、立ち振る舞いというのを丁寧に描くことはできる」という考えがあり、当時は「キャラクターの感情をデフォルメではないところで表現したい」という欲求も強くありましたので、そのような演出をしました。今思うと、TVアニメとしてはかなり無茶なものを、現場に求めていたとは思います。

 

―入江監督の作画・演出は「浮遊感」があるとの指摘がありますが、いかがでしょうか?


入江 正直「浮遊感」というのを、あえて積極的に出そうと思ったことはないんですよ。ただ、今は見なくなったのですが、自分が小さい時から「頭を下に逆さまになって、空を飛んでいる夢」をよく見ていたので、自分の中に「不自由な形で空を飛ぶ」ことへの欲求みたいなもの、深層心理があるのかもしれません。そのあたりがたまたま大きく画面が動くことなどに表れているのかもしれません。「KURAU」でもクラウの頭を割と下めにして、斜めになって浮いている絵を作りました。この時は動きというより、カットとしてそういう絵を盛り込んだ最初の作品になります。


関連作品

天空のエスカフローネ

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放送日: 1996年4月2日~1996年9月24日   制作会社: サンライズ
キャスト: 坂本真綾、関智一、三木眞一郎、高山みなみ、中田譲治、大谷育江、飯塚雅弓、小杉十郎太、山内雅人
(C) サンライズ

COWBOY BEBOP(カウボーイビバップ) 天国の扉

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上映開始日: 2001年9月1日   制作会社: サンライズ/ボンズ
キャスト: 山寺宏一、石塚運昇、林原めぐみ、多田葵、磯部勉、小林愛
(C) 2001 SUNRISE, BONES, BANDAI VISUAL

鉄コン筋クリート

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上映開始日: 2006年   制作会社: STUDIO4℃
キャスト: 二宮和也、蒼井優、伊勢谷友介、宮藤官九郎、田中泯、大森南朋、岡田義徳、森三中、本木雅弘
(C) 2006松本大洋/小学館、アニプレックス、アスミック・エース、Beyond C、電通、TOKYO MIX

ソウルイーター

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放送日: 2008年4月7日~2009年3月30日   制作会社: ボンズ
キャスト: 小見川千明、内山昂輝、小林由美子、名塚佳織、宮野真守、渡辺明乃、高平成美、小山力也、加藤英美里、大川透、内田夕夜、木村雅史、桑島法子、坂本真綾、子安武人
(C) 大久保篤/スクウェアエニックス・テレビ東京・メディアファクトリー・ボンズ・電通2008

エイリアン9

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発売日: 2001年6月25日   制作会社: ジェンコ/J.C.STAFF
キャスト: 井端珠里、清水香里、下屋則子、久川綾、中尾隆聖、中山真奈美、深井真美、加藤有生子
(C) 富沢ひとし・秋田書店/エイリアン9製作委員会

KURAU Phantom Memory

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放送日: 2004年6月24日~2004年12月15日   制作会社: ボンズ
キャスト: 川澄綾子、小芭美、志村知幸、甲斐田裕子、小形満、古澤徹
(C) BONES/KURAU PROJECT

鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST

鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST

放送日: 2009年4月4日~2010年7月4日   制作会社: ボンズ
キャスト: 朴璐美、釘宮理恵、高本めぐみ、三木眞一郎、折笠富美子、内海賢二、藤原啓治、うえだゆうじ、佐藤美一、柿原徹也、浜田賢二、名塚佳織、柴田秀勝、三宅健太、井上喜久子、白鳥哲、高山みなみ、吉野裕行、沢海陽子、中井和哉、大友龍三郎
(C) 荒川弘/鋼の錬金術師製作委員会・MBS

灼熱の卓球娘

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放送日: 2016年10月3日~2016年12月19日   制作会社: キネマシトラス
キャスト: 花守ゆみり、田中美海、高野麻里佳、桑原由気、今村彩夏、東城日沙子
(C) 朝野やぐら/集英社・灼熱の卓球製作委員会

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