アニメ業界ウォッチング 第2回:クールジャパンでアニメを稼げる産業へ!「経済産業省」

2014年01月27日 11:300

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各省庁目指すところはみんな一緒「日本を盛り上げていきたい!」


―――各種コンテンツのローカライズ(現地化)状況はどんな感じでしょうか?

仲さん:こちら側から具体的アドバイスを出せるような下地はまだないので、国はあくまでも側面的な支援に徹しています。各分野のプロの方々が蓄積させてきた知識やノウハウを有効に活用する。これから成功の事例を数多く積んでいくことが大切ですね。

横倉さん:「こういうことをしたい」という事業者の方々に対して補助金を出しているので、政府としてコンサル的に何かをしている状況ではないんです。補助金があることで、海外展開する際にリスク回避もできるので、当然成功する確率も増えると思います。

―――これまでの成功例というと?


巨人の星

仲さん:やはり「巨人の星(※)ですかね。

※「巨人の星」を原案とした日印合作のリメイクアニメ「スーラジ ザ・ライジングスター」。舞台をインドに移し、野球ではなく現地で人気のクリケットに設定を変更している

(C) 梶原一騎・川崎のぼる/講談社・TMS


横倉さん:「J-LOP」(ジャパン・コンテンツ ローカライズ&プロモーション支援助成金)の支援実績としては、アニメ「ちびまる子ちゃん」(発信国:中国)、電子コミック「ドラえもん」(発信国:全世界英語圏)、テレビ番組「きゃりーぱみゅぱみゅテレビ JOHN!」(発信国:フランス)などがありますが、成果が出てくるのはこれからなので何とも言えないところもあります。個人的には「J-LOP」の支援を受けた訳ではありませんが、広島の「桃太郎ジーンズ」は良い成功例だと思います。広島の地方局が海外で「Nolife」というフランスのケーブルテレビの中に番組をもっていて、そこでずっと「桃太郎ジーンズ」の広告を出したり、現地マーケティングをした結果、フランスにおける売上が何倍にもなったんです。まずは地元・広島の魅力を広めることから始め、現地で関連するものが売れ、最終的には広島に多数のフランス人観光客を呼び込むところまで成功しています。「J-LOP」でもそのようなクールジャパンを代表する事例を出したいですね。

キャプテンハーロック
―――先日たまたまパリを訪れたのですが、映画館には「キャプテン・ハーロック」や「そして父になる」など、日本映画も何本か興行していました。改めてジャパン・コンテンツの強さを実感しました。


(C) LEIJIMATSUMOTO/CAPTAINHARLOCK FILM PARTNERS



仲さん:欧米では特に人気が高いですよね。日本のアニメかどうかは知らずに、日本のアニメを見て育ってきた方が高齢になって、今も熱狂的なファンとしていらっしゃる。

横倉さん:フランスでは70~80年代に日本のアニメを紹介する番組(※)がゴールデンで放送されていて、それらを見ていた方々がそれくらいの年齢になられているんですよね。当時「UFOロボ グレンダイザー」などは子どもの間で視聴率100%とまで言われていたくらい人気でした。

※出典:JETRO「フランスにおける日本アニメを中心とするコンテンツの浸透状況(2005年3月)」


仲さん:だからこそ、そこは盛り返していかないといけないんです。東南アジアなどはまだまだ未開拓なので、それら地域にも日本のアニメを広げていかなければならないですよね。

横倉さん:また、一回見ただけではダメなので、恒常的に見続けられる環境を整えていかないといけない。「ジャパン・チャンネル」というものが世界各地でき始めているので、そのような視聴環境を整備していくことも大事です。

仲さん:まずは、そのコンテンツを知ってもらうことが大切です。日本のファンになってもらえば、ファンが増え、グッズの収益も上がり、日本に観光や留学で訪れる人も増えてくれるのではないかと期待しています。観光庁であれば「VISIT JAPAN」など、これまでは各省庁がバラバラに取り組んでいたことを、政府間で連携をとってまとまってきたのが最近です。

―――外務省の「アニメ文化大使」もクールジャパンに含まれるのですか?

横倉さん:はい。外務省だと“情報の発信”、文化庁だと伝統芸能など“文化・芸術”、経産省は“産業”としてプロジェクトに取り組んでいます。

仲さん:目指すところはみんな一緒なんです。「日本を盛り上げていきたい!」ということです。

―――大局的に見ると、白物家電などで韓国勢に迫られ、一部の分野では抜かれてしまっているという現状もあるかと思います。国としては、文化・コンテンツ産業にはまだまだ伸びしろを感じられているということでしょうか?


キャプテン翼 横倉さん:確かにそうですね。日本特有の“ものづくり”の分野で天井が見えてきてしまっているとなると、やはり“文化”という分野でも稼いでいかなければならない。アメリカのハリウッドの映画を見て、コーラを飲みたくなる。海外のサッカー選手でも、「キャプテン翼」 を見てサッカー選手にあこがれたという方も多くいます。実際、「映画を1フィート輸出すると1ドル稼げる」という言葉もあるくらいです。つまり日本を好き になってくれる人は、あらゆる意味で日本にとっての“資産”になる。そういう方々を増やしていきたいし、それは外交の面でもプラスになると思います。

(C)高橋陽一/集英社・エイベックス・テレビ東京



アニメコンテンツを他の産業へとつなげる“呼び水”にしたい


―――海賊版やファンサブ(ファンが日本製アニメに英語等の字幕を付けたもの)など、いわゆる違法コンテンツが世に出回っていることは問題ではありますが、それによってより多くの人にアニメコンテンツが知れ渡ったという事実もありますよね。

仲さん:海賊版などは違法なのでもちろん容認することはできないのですが、こちらが正規のルートで視聴できる環境を整えてこなかったという事実も、海賊版流行の要因としてあると思います。なのでこちらとしては、正規の場をきちんと整備していくというほうに舵を切っていこうと思っています。

横倉さん:どこで種をまいて、どこで果実をとるかですよね。音楽業界だとライブで大きく回収できますが、アニメ業界だとそれが難しい。今はアニメ初のミュージカルなどもあるので、そういった市場が増えていけば状況も変わっていくと思います。たとえば「ポケット・モンスター」は本当にうまいですよね。ポケモンという“IP”(知的財産)のグローバル価値を、いかに高めていくか。IP自体のグローバル価値を高めることで、さまざまな波及効果が見込まれるためビジネスチャンスが生まれやすくなります。


―――たとえば日本の大作映画は、特に国内マーケット限定の産業となりつつありますよね。

仲さん:実は映画業界だけでなく、出版業界もそうなんですよね。映画・アニメ・ゲーム・書籍等のコンテンツ産業の国内市場規模は約12兆円で、それ自体は米国に次いで世界第2位なんです。国内市場で産業が潤っていたため、あまり海外に目が向いていなかったんです。だけど近年は少子・高齢化で、国内市場が頭打ちになってしまった。だから、事業者もこれからは新たな市場を海外に求めざるを得なくなっている状況です。勝負はこれからかなと。

横倉さん:12兆円といっても、他の国内産業に比べたらとても少ないんですね。なので他の産業へとつなげる“呼び水”としてもアニメコンテンツには期待していますし、アニメを武器にいかに日本のGDPを上げていくかが課題です。

―――「クールジャパン」は国主導の政策なので、一部の方からは「押しつけだ」として反感の声もあがっているかと思います。そういった批判的な意見には、どのようにお考えでしょうか。

横倉さん:Twitterなどでも辛辣な意見は目にしますし、そういったマイナスイメージを定着させてしまっていること自体も申し訳なく思います。この分野に限らずあらゆる分野で言われていることなので、もちろん認識はしております。しかしマイナス意見だけでなくプラスな意見もいただいているので、産業の将来・国益の観点で施策を考え、今は努力していくしかないのかなと思っています。政府間交渉など国でしかできないこと、または民間でしかできないこと、それぞれを考慮しながらうまく進めていきたいですね。

仲さん:もちろん、現時点でこれが最善策だと信じて私たちは取り組んでいます。10~20年後にどんな結果になっているのか今はまだわかりませんが、ご批判なども真摯に受け止めたうえで、それらを政策に取り入れながら前向きに進めていこうと思っている所存です。


【参考】
経済産業省「コンテンツ産業の現状と今後の発展の方向性
国際交流基金「2012年度 日本語教育機関調査 結果概要(抜粋)
公正取引委員会「アニメーション産業に関する実態調査報告書(平成21年1月)
JETRO「フランスにおける日本アニメを中心とするコンテンツの浸透状況(2005年3月)
内閣官房「クールジャパン推進に関するアクションプラン(平成23年5月)
国立国会図書館「クールジャパン戦略の概要と論点


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