プロデューサー・小川正和 ロングインタビュー!(アニメ・ゲームの“中の人” 第56回)

2022年06月19日 10:000

東京大学出身の制作進行として、サンライズに入社


─キャリアについて簡単にうかがいます。小川さんは佐賀県のご出身で、東京大学法学部をご卒業されています。東大法学部といえば、キャリア官僚の養成機関として知られていますが、なぜ、アニメの道を選ばれたのでしょうか?


小川 東大入学は、世間一般が考えるほどの志望動機があったわけじゃないんですよ。両親は自分を医者にしたかったみたいですけど、中学の採血検査で血を見た時にフラッときて、「自分に医者なんて無理だ!」と思いました(苦笑)。それで、両親が自分を医者にするのをあきらめさせるために、東京大学の文系を第一志望にしたんです。その後、無事東大に合格して、就職活動の時にはOB訪問でキャリア官僚の先輩方にもお会いしたんですけど、お話をうかがっていると、「官僚も自分には向いてないな……」と思いました。


それで、いろんな業界を調べた時に、大学の友人から「ガンダム」をたくさん観させられたことを思い出し、「アニメ業界だったら、サンライズだけ受けてみるか」と思って、サンライズにエントリーシートを送ったんです。そうしたら運よく、最終面接まで残ることができたんですけど、その最終面接では役員の方から、「本当に、うちに来るのか?」とひたすら聞かれました(笑)。


─師匠的な方はおられますか? 


小川 ガムシャラにやってきたので、師匠と呼べる方は特にいないですね。ただ、自分をひたすら大変な最前線に送り込んでくれた富岡秀行さん(編注:
「新機動戦記ガンダムW」(1995~96)や「犬夜叉」(2000~04)のプロデューサー、現バンダイナムコフィルムワークス顧問)には、お世話になりました。感謝もしていますし、「この……!」とも思いましたけど(笑)。でも、結果的に最前線ばかりに送っていただいたことが、今の自分の人脈や立ち位置を作ってくれたので、そこは本当によかったなと思っています。

 

「ビルドファイターズ」が一番の転機


─キャリア上、転機になったお仕事は? 「ゼーガペイン」(2006)や「ガンダム00」で制作デスクをされ、「ガンダムAGE」でプロデューサーデビューを果たされました。


小川 プロデューサーとしての一番の転機は、「ビルドファイターズ」かな。デビュー作は「ガンダムAGE」なんですけど、この作品は、レベルファイブの日野晃博さんからの持ち込み企画でして、自分が担当する頃にはすでにいろいろなことが決まっていました。自分が企画の立ち上げから関わり、「監督やライターは、これでやらせてほしい!」とスタッフィングまでやったのは、「ビルドファイターズ」からになります。あと強く印象に残っているのは、やっぱり「鉄血のオルフェンズ」ですね。理由は先ほどお話した通り、「ガンプラアニメ」と「ガンダムアニメ」の違いを強く意識して作っていたからです。


─2019年3月1日にSUNRISE BEYOND代表になられたことも、転機のひとつと言えるのではないでしょうか?


小川 もともと自分がSUNRISE BEYONDの社長になる予定はなかったので、サプライズ的な転機になりましたね。当時のサンライズ社長だった宮河恭夫さんから、「制作現場をよくわかってるんだから、いっそのこと、社長をやってみないか?」と言われて、お引き受けしました。「やるだけやってみるか」という気持ちで引き受けちゃったんですけど、やってみたらすごく大変です(苦笑)。


─「SUNRISE BEYOND」という社名は、ご自身で決められたのですか?


小川 そうです。立ち上げ時に宮河さんから「会社名も考えといて」と言われましたので、自分で決めました。自分のアニメ制作のルーツとして「サンライズ」という名前を継承したいという気持ちと、新たな出立として「サンライズ」を超えたいという気持ちを込めて、「SUNRISE BEYOND」としました。


─「境界戦機」も佳境に入ってきました。振り返ってみていかがですか?


小川 初めてのことばかりでしたけど、SURISE BEYOND初のオリジナル作品でしたし、挑戦してよかったなと思います。正直な話、「もっとできたんじゃないか?」とか「もう少し言うべきだったんじゃないか?」とか、消化不良というか、悔いが残るところもありますけど、そういった反省点は、次の作品制作に生かしていきたいと思っています。


─サンライズとXEBEC、異なる2つのスタジオ出身者を束ねるというのは、相当大変なことだったと思います。


小川 旧XEBEC出身の人たちは、アニメ制作会社として映像を作ることに特化しているので、商品のことより映像への考えが強いんですよね。とはいえ、すでにお話したように今の時代は、映像だけではオリジナルのビジネスが成立しえない。その意味で「境界戦機」は、サンライズとXEBEC、お互いのよしあしを見極めながら座組を作っていく、最初の試みにもなりました。

 

SURISE BEYONDは、「覚悟」を持って、オリジナルアニメを作り続ける


─アニメプロデューサーに必要な資質能力とは何でしょうか?


小川 プロデューサーに限ったことじゃないんですけど、自分はアニメ関係者に必要なのは、「覚悟」だと思っています。なぜかというと、プロデューサーというのは何かを人にやってもらうことが多い業種なので、プロデューサーが覚悟を持って話をしないと、お願いする相手にも真剣さや誠意が伝わらないからです。それに、クリエイターにも覚悟のある人たちが集まってくれた時が、作品も一番うまくいくんですよ。特に監督、シリーズ構成、プロデューサーといったメインスタッフ3人には、プライベートを犠牲にしてでもやるくらいの覚悟がないと、いいものって作れないと思います。プロデューサーを目指す人は、「アニメが好きなんです」とか「『〇〇』が好きでよく観ていました」ではなくて、「おれはアニメで、こういうことがやりたいんだ!」という熱い信念を持って、業界に入ってきてほしいですね。そうじゃないと、「アニメだからこそ観たい」と思うような作品は生まれてこないと思います。


─現在のアニメ業界について、何か思うことはございますか? 


小川 最近は、自分たちがやってきた「この制作だから、このクリエイターがいる」というのが、なくなってきている気がします。ほかのスタジオの制作状況を見ていると、クリエイター主導で動いているところもあるので、「昔ながらの制作とクリエイターの結びつきが少なくなってきているな……」と感じます。自分たちの頃のように、若手の制作とクリエイターが一緒に育ち、それに先輩世代も協力してくれる、という関係値がもう一度、築けたらいいなと思っています。


─今後挑戦したいことは? 


小川 ひとつだけですね。「いいオリジナルアニメを作り続けること」です。


─最後に、ファンのみなさんにメッセージをお願いいたします!


小川 今は原作もののアニメが多い時代ですけど、ぜひ、オリジナルアニメも楽しんでもらえればうれしいなと思います。自分たちも、「アニメでしか提供できないオリジナル作品」をお届けできるよう精一杯がんばりますので、これからもSURISE BEYONDをよろしくお願いいたします!

 


●小川正和 プロフィール
プロデューサー。株式会社SURISE BEYOND代表取締役社長。佐賀県神埼郡出身。東京大学法学部を卒業後、株式会社サンライズ(現:バンダイナムコフィルムワークス)入社。「ゼーガペイン」(2006)や「機動戦士ガンダム00」(2007~09)で制作デスクを務めた後、「機動戦士ガンダムAGE」(2011~12)でプロデューサーデビュー。「ガンダムアニメ」と「ガンプラアニメ」に携わり、「ガンダムビルドファイターズ」(2013~14)、「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」(2015~17)、「ガンダムビルドダイバーズ」(2018~20)といった作品を手掛けた。商品化を前提としたオリジナルロボットアニメの制作を得意としており、クリエイターやグループ企業の担当者からも信頼を寄せられている。オリジナルアニメ制作のための“覚悟”を持った、気骨のプロデューサーである。


●株式会社SUNRISE BEYOND(サンライズビヨンド) プロフィール
アニメーションを中心とした映像コンテンツの企画・制作会社。株式会社サンライズの子会社として2019年3月1日に設立、2019年4月に株式会社ジーベック(XEBEC)の映像制作部門を譲り受けたことで、2つのスタジオのDNAが見事に融合した、オンリーワン・プロダクション「SUNRISE BEYOND」が誕生した(企業としてのジーベックは、2019年6月1日付で株式会社プロダクション・アイジーが吸収合併)。制作作品は「ガンダムビルドダイバーズRe:RISE」(2019~20)、「キングスレイド 意志を継ぐものたち」(2020~21、ただしOLMと共同)、「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ ウルズハント」(2022)など。同社初のオリジナル作品は「境界戦機」(2021~22)で、その斬新かつ意欲的な内容に業界内外からは、新しい時代を牽引するロボットアニメとして大いに注目を集めている。


※株式会社SUNRISE BEYOND 公式HP
https://sunrisebeyond.co.jp/

※Webアニメ「ガンダムビルドダイバーズRe:RISE」 公式サイト
http://gundam-bd.net/

※「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ ウルズハント」 公式サイト
https://g-tekketsu.ggame.jp/

※TVアニメ「境界戦機」 公式サイト
https://www.kyoukai-senki.net/

※小川正和 Twitter
https://twitter.com/mkaz0310


(取材・文:crepuscular)

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(C) サンライズ・プロジェクトゼーガ

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(C) 2021 SUNRISE BEYOND INC.

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