石原夏織、井口裕香、楠木ともり、Saint Snow──暑い夏も涼やかに! 爽やかな歌声とサウンドが耳に心地いい女性声優ソングをご紹介!【月刊声優アーティスト速報 2020年8月号】

2020年08月23日 14:000

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声優アーティストによる、当月リリースの注目作品をレビューする本連載。2020年8月号では、夏らしくみずみずしさが光る作品をピックアップしていきたい。

石原夏織「Water Drop」

2018年3月にソロアーティストデビューを果たし、今年でアーティスト活動3年目を迎えた石原夏織さん。彼女が8月5日に発売した2ndアルバム「Water Drop」は、作品を一滴の水の“しずく”になぞらえ、その収録曲がこれまで以上に多くのリスナーへと、まるで水紋のように広がっていくことを願ったものだ。それを意図して、今作ではディスコテイストなど新たなジャンルにも挑戦をしている。

【インタビュー】夏らしく、爽やかに! 石原夏織が2ndアルバム「Water Drop」をリリース!

 

 

なかでも、これまでの楽曲とがらりとイメージを変えたのが、4曲目「夜とワンダーランド」。石原さんの歌声といえば、金管楽器のようにハツラツとした存在感のイメージを抱くことが多いだけに、この楽曲の夜のドライブを思わせるダークな雰囲気はまた意外だった。そんな同曲の作編曲を務めたのは、2ndシングル収録曲「半透明の世界で」でも面識があるクボナオキさん。今年春にTikTokでも話題となったSILENT SIREN「milk boy」を手がけるなど、アイドルらしさとロックを巧みに両立させられる彼だからこそ、「夜とワンダーランド」でも歌声とトラックがミスマッチになることなく、疾走感ある仕上がりにできたのだろう。

 

対して、kzさん(livetune)提供曲「リトルシング」や、MVも制作された「SUMMER DROP」は、どちらも石原さんの健康的でフレッシュな持ち味を存分に生かし、夏っぽさをまとったポップチューン。ほかにも、アルバム全体として幅広いサウンドを試してはいるが、そこではファンの喜びや悩みを一手に受け止めたいという石原さんらしい歌詞が、各楽曲の歯車としてうまく噛み合うことで、作品としての確かな統一感が保たれている印象を覚える。

井口裕香「clearly」

奇しくも、石原さんと同じく“水”をテーマにしたのが、井口裕香さんが8月12日に発売した3rdアルバム「clearly」。そのタイトル通り、水の澄み渡る“透明感”に焦点を当てた同作は、井口さんが今年で音楽活動7周年を迎えるにあたり、これまでの歩みを一度“クリア”にしたいという想いから着想を得たとのこと。実際に、過去4年間で発表したシングル7曲を収録するベスト盤的な側面を備えながら、いい意味でシンガーとしての“慣れ”を感じる、彼女の自然体を切り取った1枚といえる。

 


ここでも登場するのが、1曲目「アクアステップ」を手がけたkzさん(livetune)。同曲では、トロピカルテイストのマリンバに始まるイントロから心地よい清涼感を届けてくれる。楽曲中盤からはデジポップ調が強まるものの、井口さんのボーカルの質感もあってか、前述した石原さんの「リトルシング」と比べると落ち着いたテンションだ。

 


その穏やかさは、新曲「Niramekko」「よしとしようよ」などを中心に、作品を通して一貫しており、彼女の歌声もまた、以前にも増して肩の力が抜けて、まるで天然のエコーがふわりとかけられたようだ。アルバムのテーマである“透明感”とは、まさにこのことだろう。それは、終盤の収録曲「終わらない歌」にも共通するところ。同楽曲こそ、2019年2月発売のシングル曲だが、アルバム曲ではない“外向き”のタイアップ機会でも、持ち前の天真爛漫さを控えめに、ストリングスと溶け合うやわらかな歌声を選んでいることは、彼女が本格的なポップスシンガーへの階段を昇っている様子を同時に示しているのではないだろうか。

 


水の波紋が生む“動き”を題材にした「Water Drop」と、水の透明感という“性質”を切り取った「clearly」。偶然にも、作品のテーマとして共通する部分があるからこそ、お互いのアーティストとして秀でている表現も、より明確に聴き比べられるかと思われる。もちろん、その双方に優劣は一切ないほか、歌唱する本人の年齢やポジション、音楽活動の年次などが、作品で描かれる内容そのものに直結するわけではない。そのうえで所感を述べるとすれば、2人のアーティストとしての現在地がどちらの作品にもうまく落とし込まれていたと言ったところだ。

 

楠木ともり「ハミダシモノ」

楠木ともりさんは、8月19日にメジャー1st EP「ハミダシモノ」を発売。2018年より自身のイベントにてインディーズ作品を発表し、現在もラジオ番組「楠木ともり The Music Reverie」にて“マジな音楽好き”ぶりを発揮している彼女。今作においては全4曲の作詞と、うち3曲の作曲さえこなしているが、3歳でピアノを習い始め、高校時代の軽音楽部まで、変わらず音楽関係の部活動に所属していたという経歴を聞くに、もはや納得するほかない。

【サイン入りチェキをプレゼント!】「自分の声を楽器として使えたら」楠木ともり 1st EP「ハミダシモノ」(「魔王学院の不適合者」EDテーマ)リリース記念インタビュー

 

 

表題曲「ハミダシモノ」は、TVアニメ「魔王学院の不適合者〜史上最強の魔王の始祖、転生して子孫たちの学校へ通う〜」エンディングテーマに起用されたシリアスなロックチューン。吐息を交えたローテンションな歌い出しから徐々に鋭さを研ぎ澄まし、豊富な声量に比例して、ボーカルとしての筋力や芯の強さをむき出していくことで、聞き手を楽曲の内側へぐぐっと引き込んでくる。

 

また、カップリング3曲はすべて、前述したインディーズ時代の音源をリアレンジしたもの。そのうち「眺めの空」「僕の見る世界、君の見る世界」は、どちらも爽やかで時にセンチメンタルなギターロックなのだが、ここではそのサウンドのほか、「眺めの空」に登場する〈冷たくない無味のスイカ〉など、ミステリアスな言語感覚の歌詞が心に引っかかった。

 

彼女は作詞の際、実際に何かを口にするなど五感を刺激しながら楽曲に向き合うそうだが、ここで気になったのはその奥にあるバックボーン。いくつかのインタビューを確認したところ、彼女もやはり、いわゆる“ボカロ世代”に生まれたリスナーのひとりとして、同ジャンルの音楽を愛聴してきたそうだ(今回のカップリング曲はすべて、イラストベースのリリックビデオも公開されているが、これもまた同ジャンルの象徴たる音楽表現のひとつである)。

 

その雰囲気は「ロマンロン」から特に感じられるところ。同楽曲は、焦燥感をあおり立てるようなギターカッティングが特徴的で、「ずっと真夜中でいいのに。」などとも似た作風だ。彼女のファンもそれを理解してか、前述したラジオ番組内の企画にて、同バンドやYOASOBIのカバーを求めた例もある。その際に楠木さん自身は、「私の歌い方って、ガッと声量を出して、真っ直ぐめに歌うことが多くて」「(この両バンドは)さらっと、でも高音をきれいに伸びやかに出すので」と、自身の表現と異なるポイントを分析していた。こういった造詣の深さもまた、彼女の経験や努力に裏打ちされた財産なのだろう。

 

余談だが、おそらく本人のチョイスではないものの、同番組のジングルに田我流「Changes」が使用されていたり、最近では楠木さん自身もkiki vivi lilyを選曲するなど、どこかヒップホップ畑から流れる風を感じる。楠木さんの次回作では、ヒップホップが混じると期待してもいいですか。

 

Saint Snow「Dazzling White Town」

最後に、楠木さんも出演する「ラブライブ!」シリーズより、Saint Snowが1stシングル「Dazzling White Town」を発売。


表題曲は、彼女たちの強みである、ラップを交えたパワフルさを押し出すEDMナンバーとなっている。もともとは、Aqoursのライバルユニットとして「ラブライブ!サンシャイン!!」に登場しながらも、彼女たちとのコラボ曲を発表するなど、今日まで堅実に歩みを進めてきた彼女たち。今回のシングル発売のほかにも、初単独ライブ開催が決定しているなど、作品史に残る活動をぜひ注目して追ってみてほしい。

 

ありがたいことに、今回で本連載も6記事目を迎えた。次号では、業界内でも一風変わったコンセプトのアーティスト陣を取り上げたいと考えているが、これまでに紹介した作品も選りすぐりの1枚ばかり。この機会にぜひとも振り返ってみていただきたい。

(文/一条皓太)

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