Aqours、Roselia、イヤホンズ──今月は人気声優ユニットの新譜が一斉リリース!旬な女性声優アーティストの新譜を徹底レビュー【月刊声優アーティスト速報 2020年7月号】

2020年07月25日 14:000

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声優アーティストによる、当月リリースの注目作品をレビューする本連載。2020年7月は、キャリアを重ねた声優ユニットによる記念碑的な作品が充実する月となった。

Aqoursは、7月22日に新シングル「Fantastic Departure!」を発売。彼女たちは6月30日にユニット結成5周年を迎えており、同作は年内開催を予定している「ラブライブ!」シリーズ初ドームツアーのテーマソングCDとなっている。TVアニメの物語終盤には「0から1へ、1からその先へ!」と、未熟だったユニットの成長を示す合言葉を掲げていたが、今回のシングル表題曲の歌詞も、そんなメッセージを強く実感させるものに。今、この瞬間までのユニットの軌跡を踏まえながら、もっと先にある未来に向けて、また新たなスタート地点から旅に出る意志が綴られている。

 

また、カップリング曲「Aqours Pirates Desire」はサウンド面から深掘りしていこう。同曲は、これまでに「少女以上の恋がしたい」を手がけたTAKAROTさんとイワツボコーダイさんによるもので、マーチングバンドとK-POP調のフロアユースなサウンドを融合させたトラックに。「Fantastic Departure!」と同じダンスナンバーながら、それぞれ毛色の異なる雰囲気を帯びており、Aqoursの5周年を幕開けるにふさわしい、堂々とした風格のシングルにまとまっている。

 

Roseliaは、7月15日に2ndアルバム「Wahl」を発売。ドイツ語で“選択”の意を掲げた同作には新曲3曲をはじめ、「R」や「BRAVE JEWEL」などのライブ定番曲も収録。あまりにも強すぎる楽曲ラインアップに、誤解を恐れずに言えば、聞く前から“勝利が約束されている感”がひしひしと伝わってくる。むしろ今作の収録楽曲を見て、「この曲もまだアルバムに入ってなかったのか」と改めて気付かされるなど、彼女たちの驚くほどの躍進ぶりを再確認し、思わずあっけにとられてしまった。

 

 

ここでは、新曲のみを簡単に紹介しよう。6曲目「Avant-garde HISTORY」は、どっしりとしたミドルテンポで得意のコーラスワークを披露するナンバー。そこから、勇ましいシャウトで7曲目「Break your desire」が始まると、Bメロでは“メロコア”のようなメロディアスなサウンドも展開される。そして12曲目「Song I am.」は、あえてA・Bメロのテンションを抑えることで、サビ以降の開放感を一気に引き上げるなど、たとえるならばどの楽曲も“青い炎”を想起させるような、冷静沈着さと誇り高い力強さを兼ね備えたオーラを放っている。

 

サンドリオンは、7月4日にアニメイトとゲーマーズ限定で、初のベストアルバム「SOUND OF BEST」を発売。彼女たちは、スターダストプロモーション声優部所属の新人声優5名で構成されており、今年でデビュー3周年を迎えている。

 

 

そんな記念すべき1枚で特に聴いてほしいのが、渡辺翔さんと田中秀和さん(MONACA)の強力タッグが初共演した「Familiar base」。同曲では、春風が吹き込むようにやさしくも、そのやさしさのせいで、同時に胸がキュンとしてしまう切なさすら感じるメロディラインや、雨粒のように煌めきを放つピアノの繊細な旋律など、渡辺さんと田中さんらしい作風が見事にマリアージュしている。そこに重なるメンバーそれぞれの歌声も、凛とした質感を保ちながら、それ以上に等身大の温かみを帯びており、この5名だからこそ生みだせるやさしいハーモニーは、聞き手をやわらかな空気に包み込んでくれるかのようだ。

 

また、6曲目「キラーチューン」は、2019年末にライブ会場限定で発売したシングル収録曲のリミックス音源。このたびリミックスを担当したパソコン音楽クラブは、大阪出身のDTMユニットで、今回の楽曲も90年代のレトロ機材を使ってノスタルジックな雰囲気を操る、彼ららしいアシッドハウス調の楽曲に仕上がっている。

 

余談だが、バンダイナムコエンターテインメントが6月28日、小宮有紗さんや澁谷梓希さんといった人気声優も参加する新プロジェクト「電音部」を発表。同作の楽曲制作には、パソコン音楽クラブをはじめ、tofubeatsさんやYunomiさんといった気鋭のクリエイターが迎えられている。彼らが楽曲発表を行なってきたインターネットレーベルは、アニメ音楽カルチャーとは切っても切れない関係にあり、両者が今後、どのような相互作用を与えあうのかが今から楽しみで仕方がない。

 

イヤホンズは、7月22日に3rdアルバム「Theory of evolution」を発売。同作は、彼女たちのユニット結成5周年を記念したもので、そのタイトルに掲げられたのは“音楽の進化論”。正直なところ、テーマとしてかなり大きく出たと感じる一作だが、収録曲のひとつ「記憶」を聴くだけで、決して名前負けしていない内容だと信じてもらえるはずだ。

 

そんな「記憶」は、前作アルバム収録曲「あたしのなかのものがたり」を手がけた三浦康嗣さん(□□□(クチロロ))が制作を担当。彼は自身のTwitterにて「約10年前の□□□のアルバム「everyday is a symphony」を1曲に凝縮しました」と語っていたが、日常の環境音をフィールドレコーディングという手法を用いて音楽に再構築した同アルバムのように、今回の「記憶」でも、祭囃子や風鈴、花火、信号機や街の雑踏、ガスコンロの着火音など、日常にある何気ない音が1曲に落とし込まれている(参考:三浦康嗣さん 公式Twitter)。

 

また、その歌詞では、幼少期から大人になるまでの3つの異なる時間を描写。自身の内側にある過去の記憶に関連して、前述したような当時の記憶に紐づく音たちが、あるタイミングで一気にその輪郭を決壊させ、シンフォニーのように心地よい音の雪崩を生み出していく。

 

そもそもJ-POP楽曲は、ある程度決まったリズムをフォーマット的に刻むことで、音楽として聴き心地のよいサイクルを生み出すものがほとんどだ。これは決して、今回の「記憶」におけるリズムが崩れていると言うのではない。ただ、楽曲中盤までの3名によるソロ歌唱部では、一度鳴った音がそのパート内で再登場する回数が少ない、思わぬタイミングで歌詞や音が飛び込んでくる、L-Rがダイナミックに振り分けられている、歌唱テンポも要所ごとにやや外されるなど、聞き手の不意を突くようなトラック構成であるのはうなずけるはずだ。

 

つまりは、三浦さん自身も指摘していた通り、これほど劇的なまでに動きのある楽曲を歌うのは極めて至難の業といえる。イヤホンズは、それをただゆるめなラップでこなすのみならず、楽曲の主人公を語るように演じながら、同時にどこか遠くから響いてくるようで、我々を記憶の旅の瞑想に導くような声色の再現も両立させるなど、そう簡単には真似できない表現をやってのけているのだ。ほかにも、収録曲「忘却」と「再生」の2曲をステレオの左右に振り分け、「循環謳歌」として1曲を作り上げるなど、意欲作という言葉には収まりきらない「Theory of evolution」。本当に、イヤホンズはどれほど進化するのだろうか……。

 

本稿で紹介した4組はあくまでごく一部だが、彼女たちやその活動を支えるスタッフ、クリエイターたちの献身的な営みの積み重ねがあって初めて、今のアニメ/声優音楽シーンが存在している。声優楽曲を楽しむ際には、そんな彼らへの敬意も忘れずにいたいものだ。

 

(文/一条皓太)

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