美術監督・海野よしみ ロングインタビュー!(アニメ・ゲームの“中の人” 第36回)

2019年10月26日 12:000

ロケハン重視の「喰霊-零-」、「Wake Up, Girls! 新章」、「ゆるキャン△」


─お仕事へのこだわりをうかがいたいのですが、まずロケハンに対するお考えをお聞きします。実在する場所は、必ず取材に行かれるのでしょうか?


海野 昔は、ロケハンに積極的に参加するわけじゃなかったんですけれども、やっぱり時代が変化していまして、監督やアニメーション制作会社からロケハンに誘われることが多くなりました。その昔、「プラハ行かないか?」とか、「フランス行かないか?」とか誘われたこともありましたが、お断りして、今となればちょっと惜しいことをしたなと思っています(苦笑)。


─あおきえい監督の「喰霊-零-」(2008)では、リアルな東京の街並みが描かれていました。


海野 あおきさんが画作りにロケハンをかなり重要視されていました。一番最初の長い街の俯瞰(ふかん)カットは、3日間かけて描いたものです。神楽や黄泉の部屋は、なるべくシンプルに、あんまりゴテゴテしないようにとのお話がありました。


─共同溝のシーンも、不気味な雰囲気がよく出ていました。


海野 うちで描いたところに撮影さんがうまく効果を入れてくれたので、ものすごくキレイに見えているんだと思います。


─「Wake Up, Girls! 新章」(2017~18)はロケハンに?


海野 はい。初めて仙台に行きました。


─「新章」では、WUGが共同生活をする寮が出てきます。


海野 ロケハンで実際にあるモデルの家の間取りを見せていただいて、お風呂場の給湯器とか細かいところも教えていただきました。ただ、庭の設定はちょっと変えています。実際は家庭菜園になっていて、いろんな作物ができていたんですけれども、それは演技のじゃまになるかなと思って、芝生にしています。


─寮の階段周りは独特のデザインですね。


海野 寮はやや古めな感じで、ある年代で流行っていたデザインだと思います。


─丹下と松田の行きつけの居酒屋にも行かれましたか? この居酒屋は前作も出ていました。


海野 居酒屋には行けなかったんですけど、スーパーのオカザキには行きました。寮からも近くて、中の写真も撮らせていただきました。歩、音芽、いつかの3人がおしゃべりしていた公園は雪が積もっていましたね。作中は春ですけど、ロケハンは冬なので移動中、白鳥が見えたりしました。底冷えしていたのを覚えています。


─グリーンリーヴスの事務所の壁なども、ところどころ塗装が剥げていたりして、事務所の置かれている状況がうかがえるすばらしい仕上がりでした。


海野 「弱小の会社で、小ぢんまりと地味に仕事をしている」という舞台設定だったので、それを壁でも表現しています。板垣さんからも、「PCを使った画の感じは出してほしくない」とのお話がありました。


─「ゆるキャン△」はいかがでしょうか?


海野 「ゆるキャン△」もロケが主体になる作品だったので、アニメーションプロデューサーでC-Station(シーステイション)代表の、丸亮二さんにいろいろと段取りをつけていただいて、そこに乗っからせていただきました。


─野クルの部室もモデルとなる場所があるのでしょうか?


海野 学校のモデルはありますが、部室は完全に原作準拠です。京極さんからは「とにかく狭くしてほしい」というお話がありました。


─「へうげもの」は安土桃山時代の日本が舞台で、多くの城や茶室が登場します。


海野 「へうげもの」は特にロケハンというのはなかったんですが、自分で名古屋城に行ってみて、昔から残っている櫓の中に入ったり、石垣を間近に見たりしました。ちょうど名古屋市の博物館で桃山時代の展示もあったので、鎧とか工芸品とかを見てきました。


─監督やプロデューサーからロケハンのお話がなくても、ご自身の判断で現地に行かれたのですね。


海野 桃山時代の工芸品が好きなので、ちょうどよかったんです(笑)。


─「Phantom ~Requiem for the Phantom~」(2009)の舞台には、アメリカ西海岸がありました。


海野 ロケハンはありませんでしたが、真下耕一監督に「こういうところを作ってほしい」と資料をいただいて、設定を起こしてボードを描きました。


─第15話ではインフェルノのビルが狙撃され、その直後、カメラが狙撃手を特定するため窓の弾痕をくぐり、途中ビル群を抜けながら、狙撃手のいるビルまで移動していくシーンがありました。あの映像も3Dで表現されていましたね。


海野 あのシーンのために細かく設定を起こしたと思います。


─「ベン・トー」にはさまざまなスーパーが登場しますが、ロケハンは?


海野 この作品もロケハンはしていません。板垣監督から「ここのスーパーはこんな感じ」というイメージをいただいて、それをもとに設定を起こしています。「ベン・トー」は原作が小説なので、マンガのような細かい描写はありませんでした。


─「ベン・トー」は戦いの舞台であるスーパーの印象が強烈ですが、4話の公園や、7話の「むっちゃハワイやんパーク」も記憶に残っています。


海野 あの公園は、自分が見た武蔵関の公園のイメージがありまして、「ここを使ってみたいな」と思い、板垣監督に提案させていただきました。むっちゃハワイやんパークは、板垣さんのイメージをもとに設定を起こしています。


─「宇宙の騎士テッカマンブレード」(1992~93)や「ゼーガペインADP」(2016)など、舞台に宇宙がある場合は、どのように設定を作られるのでしょうか?


海野 映画や画集を参考に使ったりします。このイメージをいつか使いたいな、と思っているものは何点かあります。

 

描き手が気持ちよく仕事できる現場


─そのほかにお仕事へのこだわりは?


海野 今は完全に現場にいるわけではなくて、現場から少し離れたところにいたりするんですけども、とにかく描き手が気持ちよく仕事ができる状態にしたい、と考えています。

─制作会社によっては、机の下に寝袋を敷いて泊り込みで、という現場もあるそうですが……。


海野 うちは違います。「アイプロさんは朝早くからスタッフがいて、きちんと生活されているんですね」と言われたりします。定時終業はちょっと難しいですけれども、多分、ほかの会社とは違った働き方をしていると思います。マネージメントは私ひとりでやっているわけではなくて、役員皆で話し合って決めています。


─プロダクション・アイは、デジタルにもいち早く対応したスタジオとうかがっております。


海野 最先端を目指すとかそういう意識はなくて、時代の流れで少しずつ変わっていった感じじゃないかとおもいます。


─「SHUFFLE!」(2005~07)第20話の楓がひとりで稟の帰宅を待つシーンには、孤独を強調するために誰もいない部屋が数カット挿入されていました。こうした背景だけのカットは、キャラがいるカットとは違う配慮が必要になりますか?


海野 BGオンリーは背景だけで画面を持たせなくちゃいけない、というところがあると思うので、ふつうのカット以上に気を遣っています。陰影や色の具合とか演出さんから求められるところに合わせて雰囲気を考えないといけないなと思います。


─「ゆるキャン△」第4話の霧ケ峰のカフェも、大変ていねいに描き込まれていましたね。しまりん視点のBGオンリーもあって、雰囲気や情感がしっかり伝わってきました。


海野 背景マンが一生懸命描いてくれました。昔ある作品で写真と並べられて、「本当はこうだ!」と指摘されたこともあったので、ロケ地がある場合は、ものすごく気をつかいます。

 

バラでほっとひと息


─作品参加の基準はありますか?


海野 スケジュール次第ですけれども、大体何でもウェルカムです。


─「Phantom」や「へうげもの」の真下耕一監督とはお付き合いが長いようですが、直接オファーがあったのでしょうか?


海野 真下さんは、アイプロ創業者の新井寅雄との竜の子プロダクション(現:タツノコプロ)つながりなんだと思います。それに私が乗っかって、作業させていただいた感じです。


─息抜きでしていることは?


海野 会社の庭に鉢植えを置かせてもらって、バラを作っています。時間を忘れるぐらい手入れをしているときがあって、中から呼び出しを食う時もあります(苦笑)。


─「聖闘士星矢 黄金魂 -soul of gold-」(2015)には、バラを操るアフロディーテという黄金聖闘士がいました。


海野 「soul of gold」のアフロディーテのバラは、私が描きました!

 

海野さんが育てているバラ

関連作品

ゆるキャン△

ゆるキャン△

放送日: 2018年1月4日~2018年3月22日   制作会社: C-Station
キャスト: 花守ゆみり、東山奈央、原紗友里、豊崎愛生、高橋李依、井上麻里奈、大塚明夫
(C) あfろ・芳文社/野外活動サークル

Wake Up, Girls! 新章

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放送日: 2017年10月9日~2018年1月7日   制作会社: ミルパンセ
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(C) Green Leaves/Wake Up,Girls!3製作委員会

へうげもの

へうげもの

放送日: 2011年4月7日~2012年1月26日   制作会社: ビィートレイン
キャスト: 大倉孝二、小山力也、江原正士、田中信夫、田中秀幸、鶴見辰吾
(C) 山田芳裕・講談社/NHK・総合ビジョン

ゼーガペインADP

ゼーガペインADP

上映開始日: 2016年10月15日   制作会社: サンライズ
キャスト: 浅沼晋太郎、花澤香菜、川澄綾子、朴璐美、牧野由依、渡辺明乃、坪井智浩、柿原徹也、戸松遥、甲斐田裕子、久野美咲
(C) サンライズ・プロジェクトゼーガADP

喰霊-零-

喰霊-零-

放送日: 2008年10月5日~2008年12月21日   制作会社: AIC/アスリード
キャスト: 水原薫、茅原実里、高橋伸也、相沢舞、土谷麻貴、白石稔、稲田徹、若本規夫、平松広和、松元惠、小村哲生、麦人、石森達幸、田中涼子、城山堅、升望、堀川千華
(C) 2008瀬川はじめ/[喰霊-零-]製作委員会

ベン・トー

ベン・トー

放送日: 2011年10月9日~2011年12月25日   制作会社: david production
キャスト: 下野紘、伊瀬茉莉也、加藤英美里、悠木碧、茅野愛衣、宮野真守、竹達彩奈
(C) アサウラ・柴乃櫂人/集英社・HP同好会

聖闘士星矢 - 黄金魂 soul of gold-

聖闘士星矢 - 黄金魂 soul of gold-

配信日: 2015年4月11日   制作会社: ブリッジ/東映アニメーション
キャスト: 田中秀幸、屋良有作、山崎たくみ、関俊彦、玄田哲章、神奈延年、三ツ矢雄二、草尾毅、田中亮一、難波圭一、堀内賢雄、置鮎龍太郎
(C) 車田正美/「聖闘士星矢 黄金魂」製作委員会

Phantom ~Requiem for the Phantom~

Phantom ~Requiem for the Phantom~

放送日: 2009年4月2日~2009年9月24日   制作会社: ビィートレイン
キャスト: 高垣彩陽、入野自由、沢城みゆき、久川綾、千葉一伸、渡辺明乃、千葉進歩、志村知幸、保志総一朗
(C) 2009 Nitroplus/Project Phantom

.hack//SIGN

.hack//SIGN

放送日: 2002年4月3日~2002年9月25日   制作会社: ビィートレイン
キャスト: 斎賀みつき、豊口めぐみ、中田和宏、平松晶子、名塚佳織
(C) Project .hack

宇宙の騎士テッカマンブレード

宇宙の騎士テッカマンブレード

放送日: 1992年2月18日~1993年2月2日   制作会社: タツノコプロ
キャスト: 森川智之、松本保典、林原めぐみ、横山智佐、鈴置洋孝、飯塚昭三、中原茂、子安武人、水谷優子、堀内賢雄
(C) 創通・タツノコプロ

BLUE SEED

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放送日: 1994年10月5日~1995年3月29日   制作会社: プロダクションI.G/葦プロダクション
キャスト: 林原めぐみ、井上和彦、弥生みつき、大塚明夫、榊原良子、折笠愛、三石琴乃、うえだゆうじ、玉川砂記子、中田譲治、難波圭一
(C) 高田裕三/竹書房・BS Project・テレビ東京・NAS

SHUFFLE!

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放送日: 2005年7月7日~2006年1月5日   制作会社: アスリード
キャスト: 杉田智和、あおきさやか、永見はるか、後藤邑子、伊藤美紀、ひと美、井上美紀、荻原秀樹、日向裕羅、YURIA、竹間千ノ美、小杉十郎太、森川智之
(C) 2007 Omegavision.inc/SHUFFLE! Media Partners

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