ロケハン重視の「喰霊-零-」、「Wake Up, Girls! 新章」、「ゆるキャン△」
─お仕事へのこだわりをうかがいたいのですが、まずロケハンに対するお考えをお聞きします。実在する場所は、必ず取材に行かれるのでしょうか?
海野 昔は、ロケハンに積極的に参加するわけじゃなかったんですけれども、やっぱり時代が変化していまして、監督やアニメーション制作会社からロケハンに誘われることが多くなりました。その昔、「プラハ行かないか?」とか、「フランス行かないか?」とか誘われたこともありましたが、お断りして、今となればちょっと惜しいことをしたなと思っています(苦笑)。
─あおきえい監督の「喰霊-零-」(2008)では、リアルな東京の街並みが描かれていました。
海野 あおきさんが画作りにロケハンをかなり重要視されていました。一番最初の長い街の俯瞰(ふかん)カットは、3日間かけて描いたものです。神楽や黄泉の部屋は、なるべくシンプルに、あんまりゴテゴテしないようにとのお話がありました。
─共同溝のシーンも、不気味な雰囲気がよく出ていました。
海野 うちで描いたところに撮影さんがうまく効果を入れてくれたので、ものすごくキレイに見えているんだと思います。
─「Wake Up, Girls! 新章」(2017~18)はロケハンに?
海野 はい。初めて仙台に行きました。
─「新章」では、WUGが共同生活をする寮が出てきます。
海野 ロケハンで実際にあるモデルの家の間取りを見せていただいて、お風呂場の給湯器とか細かいところも教えていただきました。ただ、庭の設定はちょっと変えています。実際は家庭菜園になっていて、いろんな作物ができていたんですけれども、それは演技のじゃまになるかなと思って、芝生にしています。
─寮の階段周りは独特のデザインですね。
海野 寮はやや古めな感じで、ある年代で流行っていたデザインだと思います。
─丹下と松田の行きつけの居酒屋にも行かれましたか? この居酒屋は前作も出ていました。
海野 居酒屋には行けなかったんですけど、スーパーのオカザキには行きました。寮からも近くて、中の写真も撮らせていただきました。歩、音芽、いつかの3人がおしゃべりしていた公園は雪が積もっていましたね。作中は春ですけど、ロケハンは冬なので移動中、白鳥が見えたりしました。底冷えしていたのを覚えています。
─グリーンリーヴスの事務所の壁なども、ところどころ塗装が剥げていたりして、事務所の置かれている状況がうかがえるすばらしい仕上がりでした。
海野 「弱小の会社で、小ぢんまりと地味に仕事をしている」という舞台設定だったので、それを壁でも表現しています。板垣さんからも、「PCを使った画の感じは出してほしくない」とのお話がありました。
─「ゆるキャン△」はいかがでしょうか?
海野 「ゆるキャン△」もロケが主体になる作品だったので、アニメーションプロデューサーでC-Station(シーステイション)代表の、丸亮二さんにいろいろと段取りをつけていただいて、そこに乗っからせていただきました。
─野クルの部室もモデルとなる場所があるのでしょうか?
海野 学校のモデルはありますが、部室は完全に原作準拠です。京極さんからは「とにかく狭くしてほしい」というお話がありました。
─「へうげもの」は安土桃山時代の日本が舞台で、多くの城や茶室が登場します。
海野 「へうげもの」は特にロケハンというのはなかったんですが、自分で名古屋城に行ってみて、昔から残っている櫓の中に入ったり、石垣を間近に見たりしました。ちょうど名古屋市の博物館で桃山時代の展示もあったので、鎧とか工芸品とかを見てきました。
─監督やプロデューサーからロケハンのお話がなくても、ご自身の判断で現地に行かれたのですね。
海野 桃山時代の工芸品が好きなので、ちょうどよかったんです(笑)。
─「Phantom ~Requiem for the Phantom~」(2009)の舞台には、アメリカ西海岸がありました。
海野 ロケハンはありませんでしたが、真下耕一監督に「こういうところを作ってほしい」と資料をいただいて、設定を起こしてボードを描きました。
─第15話ではインフェルノのビルが狙撃され、その直後、カメラが狙撃手を特定するため窓の弾痕をくぐり、途中ビル群を抜けながら、狙撃手のいるビルまで移動していくシーンがありました。あの映像も3Dで表現されていましたね。
海野 あのシーンのために細かく設定を起こしたと思います。
─「ベン・トー」にはさまざまなスーパーが登場しますが、ロケハンは?
海野 この作品もロケハンはしていません。板垣監督から「ここのスーパーはこんな感じ」というイメージをいただいて、それをもとに設定を起こしています。「ベン・トー」は原作が小説なので、マンガのような細かい描写はありませんでした。
─「ベン・トー」は戦いの舞台であるスーパーの印象が強烈ですが、4話の公園や、7話の「むっちゃハワイやんパーク」も記憶に残っています。
海野 あの公園は、自分が見た武蔵関の公園のイメージがありまして、「ここを使ってみたいな」と思い、板垣監督に提案させていただきました。むっちゃハワイやんパークは、板垣さんのイメージをもとに設定を起こしています。
─「宇宙の騎士テッカマンブレード」(1992~93)や「ゼーガペインADP」(2016)など、舞台に宇宙がある場合は、どのように設定を作られるのでしょうか?
海野 映画や画集を参考に使ったりします。このイメージをいつか使いたいな、と思っているものは何点かあります。
描き手が気持ちよく仕事できる現場
─そのほかにお仕事へのこだわりは?
海野 今は完全に現場にいるわけではなくて、現場から少し離れたところにいたりするんですけども、とにかく描き手が気持ちよく仕事ができる状態にしたい、と考えています。
─制作会社によっては、机の下に寝袋を敷いて泊り込みで、という現場もあるそうですが……。
海野 うちは違います。「アイプロさんは朝早くからスタッフがいて、きちんと生活されているんですね」と言われたりします。定時終業はちょっと難しいですけれども、多分、ほかの会社とは違った働き方をしていると思います。マネージメントは私ひとりでやっているわけではなくて、役員皆で話し合って決めています。
─プロダクション・アイは、デジタルにもいち早く対応したスタジオとうかがっております。
海野 最先端を目指すとかそういう意識はなくて、時代の流れで少しずつ変わっていった感じじゃないかとおもいます。
─「SHUFFLE!」(2005~07)第20話の楓がひとりで稟の帰宅を待つシーンには、孤独を強調するために誰もいない部屋が数カット挿入されていました。こうした背景だけのカットは、キャラがいるカットとは違う配慮が必要になりますか?
海野 BGオンリーは背景だけで画面を持たせなくちゃいけない、というところがあると思うので、ふつうのカット以上に気を遣っています。陰影や色の具合とか演出さんから求められるところに合わせて雰囲気を考えないといけないなと思います。
─「ゆるキャン△」第4話の霧ケ峰のカフェも、大変ていねいに描き込まれていましたね。しまりん視点のBGオンリーもあって、雰囲気や情感がしっかり伝わってきました。
海野 背景マンが一生懸命描いてくれました。昔ある作品で写真と並べられて、「本当はこうだ!」と指摘されたこともあったので、ロケ地がある場合は、ものすごく気をつかいます。
バラでほっとひと息
─作品参加の基準はありますか?
海野 スケジュール次第ですけれども、大体何でもウェルカムです。
─「Phantom」や「へうげもの」の真下耕一監督とはお付き合いが長いようですが、直接オファーがあったのでしょうか?
海野 真下さんは、アイプロ創業者の新井寅雄との竜の子プロダクション(現:タツノコプロ)つながりなんだと思います。それに私が乗っかって、作業させていただいた感じです。
─息抜きでしていることは?
海野 会社の庭に鉢植えを置かせてもらって、バラを作っています。時間を忘れるぐらい手入れをしているときがあって、中から呼び出しを食う時もあります(苦笑)。
─「聖闘士星矢 黄金魂 -soul of gold-」(2015)には、バラを操るアフロディーテという黄金聖闘士がいました。
海野 「soul of gold」のアフロディーテのバラは、私が描きました!
海野さんが育てているバラ